知財判例データベース デザイン権を侵害する物品の生産にのみ使用する金型を製作して納品した者に対し、間接侵害の責任を認めた事例
基本情報
- 区分
- 意匠
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(被控訴人) vs 被告(控訴人)
- 事件番号
- 2024ナ11051判決
- 言い渡し日
- 2025年05月22日
- 事件の経過
- 確定
概要
デザイン権の侵害に対する損害賠償を請求した事件において、デザイン権を侵害する物品の生産にのみ使用する金型を製作して納品した者に間接侵害を認め、損害賠償金の一部である30,000,000ウォンの共同支払い義務があると判断した。
事実関係
原告Aは、医薬品、医療機器の製造、販売業を目的とする株式会社の代表理事で、2010年5月17日付で包装用アンプル容器に関するデザイン登録を受けた(以下「本件登録デザイン」)。被告Bは、健康食品販売業等を営む者で、本件登録デザインに類似する容器(以下「本件容器」)に健康機能食品を入れた製品を製造して納品した。本件容器は、被告Cが製作して納品した金型(以下「本件金型」)で生産されたものであり、Cは、被告Dから本件金型の製作依頼を受けてBに納品した。一方、Dは、2018年6日8日にはAの製品に用いる金型の製作をCに依頼し、約3ヶ月後の2018年9月13日にBが用いる本件金型の製作をCに依頼した。
原審は、B、C及びDに共同で損害賠償責任があると判決をして、BとDに対する判決は確定し、Cのみが控訴を提起した。
本件登録デザイン | 本件容器(内容物が含まれている) |
![]() |
![]() |
判決内容
特許法院は、Cが本件金型を製作してBに納品したことは、本件登録デザインに類似するデザインに係る物品である本件容器の生産にのみ使用する物品を業として生産したものであるとして、デザイン保護法第114条により、原告の本件登録デザイン権を侵害する行為に該当するとみなすのが妥当であると判断した。
①本件登録デザインと本件容器のデザインを全体的に対比して観察すると、本体部と上段の掴み部の立体的な形状において基本的な形態等の支配的な特徴が類似しており、これにより、看者に同一の審美感を感じさせる。また、本件登録デザインの対象物品は「包装用アンプル容器」であり、本件容器では「健康機能食品包装用容器」で、その用途と機能が類似する。特許審判院(関連事件)も、本件登録デザインの権利範囲に本件容器のデザインが属すると判断し、原告の積極的権利範囲確認審判請求を認容してその審決はそのまま確定した。したがって、本件容器は、本件登録デザインの類似デザインに係る物品に該当するとみるのが妥当である。
②Bは、本件金型を用いて本件容器を製造した。本件金型は、Bの要請に従ってCによって注文製作されたもので、本件容器の生産に用いられること以外に他の経済的、商業的用途はないとみられる。したがって、本件金型は本件容器の生産にのみ使用する物品に該当すると認めるのが妥当である。
③Cは、金型の製作及び射出生産業を営む者として、Bに本件金型を納品して代金を受け取った。
一方、Cが本件金型のみを製作して納品した者であり、登録デザインの存在を知らず、本件容器を生産して譲渡する行為が登録デザイン権を侵害するという事情を予測できなかったため、故意又は過失が認められないという被告Cの抗弁に対し、特許法院は次のような理由でこれを排斥した。
①デザイン保護法第116条第1項第1文は、「他人のデザイン権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害行為に対し過失があると推定する。」と規定している。デザイン保護法第114条による間接侵害が認められる場合にも、デザイン保護法第116条第1項第1文により、侵害行為に対する過失が推定される。間接侵害をした者が上記のような過失の推定を覆すためには、デザイン権の存在を知らなかったという点を正当化できる事情や、自身が生産する物品により生産される物品のデザインが登録デザインの権利範囲に属さないと信じていたという点を正当化できる事情等を主張・証明しなければならない。
②本件では、1)訴えを提起する前に原告に送ったCの内容証明に対する回答において、BとCとの間における本件金型の納品過程で既に本件容器との類似性について言及している点、2)本件金型を製作して納品する時まで本件登録デザイン権の存在を知らなかったとしても、これを正当化するような事情が認められない限り、過失の推定が覆されると認めることはできない点、3) Cがインターネットに掲示した広報の文言に「容器にデザインの変化を与えることができる」、「容量に合わせてデザインができる」等と記載した点に照らしてみると、Cは使い捨て充填密閉容器の生産のための金型射出業者であり、かつデザインを行う事業者であって、当該物品分野のデザイン権侵害に対する注意義務を負うといえるが、Cが本件登録デザイン権の存在を把握するとか、そうした権利範囲に属しない容器を製作するための金型を生産する努力をしたと認めるに足る何らの事情も見当たらない。
専門家からのアドバイス
韓国のデザイン保護法第114条は、いわゆる間接侵害について「登録デザイン若しくはこれと類似したデザインに関する物品の生産にのみ使用する物品を業として生産・譲渡・貸与・輸出又は輸入し、又は業としてその物品の譲渡又は貸与の請約をする行為は、そのデザイン権又は専用実施権を侵害したものとみなす。」と規定している。
韓国の間接侵害に関する事例については、特許権の事例に比べると、デザイン権の間接侵害を認めて損害賠償の責任を認めた事例は多くないが(ソウル中央地方法院2016年12月16日言渡2015ガ合530213判決では、登録デザイン「メガネ」に対し「メガネ部分品」の間接侵害を認めている)、本件で特許法院は、デザイン侵害における間接侵害の適用要件を示した上で、侵害物品の生産にのみ使用する金型を製作して納品した被告に対して間接侵害を認めた。加えて、本件で被告は、金型のみを製作して納品したことについて故意又は過失が否定されるべきであると主張しているが、これに対して特許法院は、間接侵害者の過失の推定を覆すための要件を判示しており、この点も参考になる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195