知財判例データベース 菓子商品の特定の立体的形状が商標としての使用に該当せず、商標権者の立体商標とも類似しないと判断された事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 vs 被告(商標権者)
事件番号
2024ホ12388権利範囲確認(商)
言い渡し日
2025年05月29日
事件の経過
大法院審理不続行棄却(2025年7月3日)

概要

くまをモチーフにしたゼリー(グミ)菓子の形状は、使用による識別力を取得して登録されたくま形状の立体商標の権利範囲に属しないと判断した(当該菓子の形状は商標としての使用に該当せず、両標章は非類似)。

事実関係

被告は、菓子を指定商品として「菓子を指定商品としたくまをモチーフにしたゼリー(グミ)菓子形状の立体商標」形状の立体商標を2015年6月に出願した。審査過程では、出願商標は一般需要者が商品の出所表示ではなく指定商品の装飾的形状ないしデザイン程度と認識すると認められるため、何人かの業務に関連する商品を表示する商標であることを識別できないという理由で、商標法6条1項7号(現商標法33条1項7号)に該当する旨の拒絶理由が通知されたが、これに対し被告は、使用による識別力を取得した旨の主張とともに使用資料を提出し、2016年6月に立体商標として商標登録を受けた(以下「本件立体商標」という)。

原告は、ゼリーやチョコレート等を消費者が多様な好みに応じて望む分量だけ購入できる形態の店舗を運営し、店舗の商号をWと掲示して、くま、コーラ瓶、ミミズ、果物、アルファベット、ハート等の様々な形のゼリーを原告の標章Wが表示された包装紙に包装して販売した。その販売過程でゼリーの形別にこれを表現する文句を表示し、多様なくまの形のゼリーについては「有機農くま形グミ」、「ビッグベア形ゼリー」、「テディベア形グミ」、「トリプルカラーくま形グミ」のように表記して販売した。

被告の本件立体商標の登録日以前にも、様々な企業が「赤ちゃんくま」、「クラシックベア」、「グミベア」、「くまグミ」、「ベア」、「コアラベア」等の商品名で多様なくま形ゼリーを韓国国内で販売していた。一方被告は、Hという商標についてドイツで1920年代から使用を開始し、世界で最初にくま形ゼリーを発売した。1978年に今の形に決まったくま形のゼリーの形状を現在まで変えずに維持しており、韓国では2016年に正式に輸入されて以降、チューイングスナック市場でシェア1位を維持している。
被告は、原告がゼリーに使用する「原告がゼリーに使用するくま形状の確認対象標章」のようなくま形形状(以下「確認対象標章」という)に対して警告状を発送し、これに対し原告は確認対象標章が本件立体商標の権利範囲に属しない旨の権利範囲確認審判を請求した。

特許審判院は、①確認対象標章が商標として使用され、②細かな部分においては互いに異なっているが、離隔的・全体的に観察したとき標章を構成するモチーフや標章から感じられる支配的な印象が互いに類似し、③本件立体商標は使用による識別力を取得した商標として商標権の効力が制限されないとして、確認対象標章は本件立体商標の権利範囲に属すると審決した。

判決内容

特許法院は、次の理由により審決を取り消した。

第一に、確認対象標章が商標として使用されたかについては、「商標権の権利範囲確認審判事件において登録商標の権利範囲に属するというためには商標として使用することが前提になるべきである」という大法院判例(大法院2008年7月10日言渡し2006フ2295判決)、及び「他人の登録商標と同一又は類似の標章を利用した場合であっても、それが商標の本質的機能といえる出所表示のためのものでなく、純粋にデザイン的にのみ使われるなど商標の使用と認識されることができない場合には登録商標の商標権を侵害した行為とはいえず、それが商標として使用されているかを判断するためには、商品との関係、当該標章の使用態様、登録商標の周知著名性、そして使用者の意図と使用経緯等を総合し、実際に取引界で表示された標章が商品の識別標識として使用されているかを判断しなければならない」という大法院判例(大法院2004年10月15日言渡し2004ド5034判決、大法院2013年1月24日言渡し2011ダ18802判決など参照)を引用した上で、原告がW店舗でくま形だけでなく多様な形態のゼリーをW標章が付された包装紙に包装して販売している点、ゼリーの“形”を直接表記する方法で販売するゼリーを区分しており、くま形ゼリーも同じである点、本件立体商標の出願前にもすでに多様なくま形ゼリーが韓国国内で発売されており、これらには別途の文字商標が表示されていた点、被告のくま形ゼリー商品は一般需要者にある程度知られているようではあるものの、H商標が付された商品はくま形だけでなく多様な形態のゼリーであること等から、一般需要者がくま形ゼリー全般を被告の出所表示と認識するものとは認めがたい点によって、確認対象標章は商標として使用されなかったと判断した。

第二に、両標章の類否については、両標章はいずれもくまを形象化した点でモチーフは同じであるが、本件立体商標の権利範囲は「くま形ゼリー」というモチーフ全般にまで拡張されるとはいえず立体商標の具体的表現方式に限定されると前提した上で、両標章は1)正面を向いたくまを形象化した点、2)頭の上に2つの耳がある点、3)鼻部分が前方に突き出している点、4)短くて丸い前後の脚が体から飛び出ている点、5)両前脚が胴体中間地点の横側から前に出ている点では共通するが、①耳、鼻、前後の脚がやや尖っている vs 丸みを帯びた形で表現、②笑顔 vs 表情なし、③人のように真っすぐ立っている姿 vs 座った姿勢、④くま形状の外側を囲む輪郭の有無、⑤くまの内側腹部の凹凸した点模様の有無等、外観が異なるため誤認・混同を回避できることから全体的に類似しないと判断した。

専門家からのアドバイス

本件における原告の商品はゼリー菓子であった。これについて特許法院は、当該商品自体の形状が商標としての使用に該当するかの判断において既存の大法院判例を引用している。
具体的に一般的な商標としては商品や広告に文字や図形等が表示される商標が典型的であるが、本件のゼリー菓子のようなデザイン的な要素が強い形状の場合には、それが商標としての出所表示機能を発揮しているかを検討する必要があるといえる。すなわち商標として使用されているかを判断するためには、大法院判例は形状自体の役割だけでなく、商品との関係、当該標章の使用態様、登録商標の周知著名性、及び使用者の意図と使用経緯等を総合して判断すべきであるとしているところ、こうした判断は(特許審判院と特許法院の判断が異なった点からもわかるように)少なくない困難を伴うであろう。
一方で、本件判決では立体商標に関する類否判断もなされている。具体的には、両形状間の類似点と差異点を比較して全体的な類否を判断しており、これはデザインの類否判断方式と共通しているという点で立体商標の類否について法院の判断方式を窺い知ることができ、この点でも本件判決は参考になる。

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