知財判例データベース 韓国国外の電子商取引プラットフォームを通じた商品の広告行為を韓国特許権に対する侵害行為と認めることができると判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告・控訴人(特許権者) VS 被告・被控訴人(侵害被疑者)
- 事件番号
- 2023ナ10693特許権侵害差止(特)
- 言い渡し日
- 2025年05月22日
- 事件の経過
- 被告が上告せず控訴審判決が確定
概要
被告が原告の許諾なしに原告の韓国特許の発明の構成を全て含む機械を中国のオンラインプラットフォームに販売目的で掲載した行為に対して、法院は、その掲載行為の具体的な様態を総合して、韓国特許権に対する侵害行為の一類型である「譲渡の申出」に該当すると判断した。
事実関係
原告(特許権者)はイタリア法人で、被告(侵害被疑者)は中国法人である。原告は、靴下編み機に関して物の発明の韓国特許権と方法の発明の韓国特許権を各々保有している。被告は、原告の許諾なしに原告の各韓国特許の発明の構成を全て含む靴下編み機を生産し、これを中国の電子商取引プラットフォームであるアリババ及び自身のホームページで広告、販売している。
被告が生産、販売する当該靴下編み機が原告の各韓国特許の権利範囲に属する点については争いがなかったため、特許発明の内容及び権利範囲属否の判断に対する判決内容の紹介は省略する。
一方、被告が当該靴下編み機を韓国で実際に販売した事実があるという点は立証されなかった。このような状況で本件の争点は、被告が中国の電子商取引プラットフォームに当該機械を販売する目的で商品を掲載した行為が、属地主義の原則を考慮したときに原告の各韓国特許権に対する侵害行為であるといえるかという点にあった。
判決内容
(1)譲渡の申出の成否に対する判断
イ.問題の所在特許権の属地主義の原則上、物の発明に係る特許権者が物に対して有する独占的な生産、使用、譲渡、貸渡し、輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む、以下同じ)等の特許の実施に係る権利は、特許権が登録された国の領域内でのみその効力が及ぶのが原則である。方法の発明に係る特許権者がその方法に対して有する独占的な使用又は使用の申出等の特許の実施に係る権利も同様である。
韓国国内で電子商取引プラットフォーム又はホームページに販売目的で商品を掲載した場合、その商品が物の発明の対象となる物や、方法の発明の対象となる方法を使用する物に該当するならば、その掲載行為は物の発明又は方法の発明に対する「譲渡の申出」であって特許発明の実施に該当することは明らかである。
これに関連し、本件のように商品の掲載行為が国外の電子商取引プラットフォーム又は国外のホームページで行われた場合にも「譲渡の申出」として韓国国内における特許発明に係る実施ということができるかが問題となる。
ロ.具体的判断
本件の各証拠に加えて甲第18、23、25、27、28、31、32、33、35号証の各記載ないし映像及び弁論全体の趣旨を総合して認められる下記の事実ないし事情、すなわち、ウェブサイトにおいて韓国語で商品の情報を提供する点、韓国国内で商品の注文と受取りが可能な点、韓国の通貨(ウォン)で決済できる点、その他韓国の消費者に対して商品の購入に関する問い合わせ、相談窓口等のサービスを提供する点等を総合的にみると、被告がアリババプラットフォーム及び自身のホームページに本件の各機械を掲載した行為は、韓国国内において各機械に対する実質的な販売誘導の機能を果たすことにより韓国国内の消費者を直接的な対象としているといえ、これは特許発明の物又は方法に係る実施行為の一類型である「譲渡の申出」に該当する。
①言語、通貨及びホームページアドレス等
アリババウェブサイトに接続すると、言語(16の言語をサポート)や取引通貨を設定することができる。言語を韓国語に変更した場合、URLが自動で韓国語サイトのアドレスに転送される。被告は販売ウェブページ内の言語を多国語に設定しており、韓国からのウェブページへの接続を制限してもいない。
被告はアリババプラットフォームにおいて本件各機械を「全自動インテリジェント靴下編み機自動リンキング」という名前で販売している。同ウェブページでは、本件各機械に関する製品仕様等の各種の詳細情報が韓国語で提供され、製品価格は韓国ウォンで表示されている。
②配送及び問い合わせ、相談等のサービス
被告はアリババウェブサイト内の「サプライヤーにメッセージ送信」、「今すぐチャット」等を通じて、韓国の消費者が本件各機械について販売者に手軽に問い合わせできるようサービスを提供している(ウェブページには「応答時間18時間以内」と記載されている)。
また、被告は「定時配送率100%」と表示して消費者に韓国国内の配送が可能であることを知らせており、「マイナーなカスタマイズ」「デザインベースのカスタマイズ」等のサービスも提供可能であることを積極的に広告している。したがって消費者は、韓国国内でアリババウェブサイトを通じて手軽に本件各機械を購入し、購入した製品を韓国国内の住所で受け取ることができる。
③被告の意思
被告は、アリババウェブサイトで韓国語等に翻訳された販売ウェブページを提供するために言語を多国語に設定しており、韓国からのアクセスを容易に制限できるにもかかわらず遮断等の措置を取っていない。つまり被告は、韓国語をサポートしないように設定したり、韓国から接続できないように設定することもできたにもかかわらずこのような措置を取らず、むしろ韓国への定時配送が可能であることをアピールし、製品に関する問い合わせや相談を手軽にできるようにしている点等に鑑みて、被告は本件各機械に係る譲渡の申出の効力が韓国国内に及ぶようにする意思があったと評価することができる。
(2)特許権侵害の成否
上述のとおり、被告が本件各特許発明の権利範囲に属する本件各機械に対する譲渡の申出をした事実は認められ、本件各機械を譲渡した事実は認められない。一方、特許発明の実施が方法の発明における方法の使用を申し出る行為である場合、特許権の効力は、その方法の使用が特許権又は専用実施権を侵害するということを知りながらその方法の使用を申し出る行為にのみ及ぶ(特許法第94条第2項、第2条第3号ロ目参照)。被告が本件各機械の使用が方法の発明である本件第1特許発明の請求項1に係る特許権を侵害するということを知っていたかについては、甲第6、7、8、15、16、17、24、30、34、35号証の各記載及び弁論全体の趣旨を総合して把握できる下記の事実ないし事情から、被告が本件各機械の使用が上記特許権を侵害するということを知っていたと認めることができる。
①原告は60余りの国に靴下編み機を輸出する等、靴下編み機分野で広く知られている企業であって、本件各特許発明の核心的技術である「ステッチ・リンキングシステム(stitch linking system)、エスバイエス(S by S)」の権利が原告にあるという点は関連業界の従事者に広く知られている。
②被告は自身のホームページに広告として顧客のレビューを掲載しているが、その中には被告製品と原告製品とを比較する内容が含まれている。このことから、被告が本件第1特許発明の請求項1の存在を認知していたと考えるのが妥当である。
③原告は2020年6月22日、被告等が本件各特許発明と同一の技術である原告の米国特許権を侵害するとの理由で、米国カリフォルニア中部連邦地方法院に被告等を相手取って特許侵害訴訟を提起した。被告は訴状の送達を受けても答弁書を提出せず、同法院は2022年6月9日に被告に対して侵害差止等を命じる判決を言い渡した。
したがって、被告の本件各機械に対する譲渡の申出の行為は、本件各特許発明の特許権に対する侵害を構成する。
(3)差止請求に対する判断
上述したように、被告は本件各機械に対する譲渡の申出をすることにより原告の本件各特許権を侵害した。これに加え、先に認めた事実や先に挙げた証拠及び弁論全体の趣旨を総合して把握できる事情、すなわち、①本件紛争の経過、②被告が本件各機械を生産しており、これを販売する目的でアリババプラットフォームと自身のホームページに掲載した点、③譲渡の申出は譲渡の前段階であっていつでも譲渡行為につながり得る点、④被告が本件訴状副本の受領を明示的に拒否している点、⑤被告が直接、本件各機械をK氏等に譲渡したと判断する証拠は不十分であるものの、被告が生産した本件各機械が韓国国内で流通している点等の種々の事情を考慮すると、今後被告が本件各機械に対する譲渡や貸渡しの行為をすることによって原告の特許権を侵害するおそれがあると判断するのが妥当である。したがって、原告は、特許法第126条に基づいて被告に対して本件各機械の譲渡、貸渡し及び譲渡や貸渡しの申出等の侵害行為の差止を求めることができる。専門家からのアドバイス
本件は、韓国国外の電子商取引プラットフォームを通じた被疑侵害品の広告行為が韓国特許権に対する侵害行為と認められると判断された事例であって、被告が上告しなかったことで特許法院判決は確定している。
本件では特許権の属地主義の原則が重要な争点となったところ、特許法院は、被告の国外電子商取引プラットフォームを通じた商品の広告行為において、①当該ウェブサイトでの言語、決済通貨及び接続制限の実施の有無、②被告が当該ウェブサイトへの商品掲載に伴い韓国の消費者に提供した配送や問い合わせ対応等のサービス内容、及び、③これらの行為から推断される被告の意思等を総合的に考慮して、韓国特許権に対する侵害行為の一類型である「譲渡の申出」に該当すると判断した。さらに特許法院は、単に被告の「譲渡の申出」を差し止めたことに加え、「譲渡の申出は譲渡の前段階であっていつでも譲渡行為につながり得る点」を考慮して「譲渡」まで差し止めたことは注目に値する。
本件事例のように、韓国国外のオンラインプラットフォームを通じて韓国国内向けの広告がされて韓国国内で模倣品等が出回るようになることは、韓国ビジネスを展開する日本企業にとっては他人ごとでない。そうした日本企業にとって今回のケースは参考になると思われる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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