知財判例データベース 特許発明に係る物の専用品かつ消耗品の製造及び販売行為について、間接侵害を認定した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A株式会社 vs 被告 B株式会社
- 事件番号
- 2023ナ10204特許権侵害差止等請求
- 言い渡し日
- 2023年12月20日
- 事件の経過
- 確定
概要
原告の特許発明は、半導体生産のための特定エッチング装備製品群に使用されるカム固定クランプに関するものである。被告は、特許発明のカム固定クランプにおける一部の構成であるスタッド/ソケットアセンブリを製造して販売し、特許発明に係る物に使用される旨を明示していた。特許法院は、被告のスタッド/ソケットアセンブリが特許発明の本質的な構成要素に該当し、それ自体により汎用性がある物であるとは認め難く、被告は被告製品が他の用途に使用され得る可能性について合理的な主張をせず、原告がエッチング装備のうちスタッド/ソケットアセンブリのみを別途に製造、販売している点を理由として、被告製品は特許発明に係る物の生産にのみ使用する物に該当し、被告の被告製品の製造及び販売行為は特許権の間接侵害行為であると判断した。
事実関係
原告は、「カム固定電極クランプ」を発明の名称とする発明について2009年3月13日付で国際出願し、2017年2月13日付で特許登録を受けた。原告は、半導体生産のためのC製品群のエッチング装備を製造する会社であって、当該装備を半導体生産企業に販売している。被告は、スタッドソケットアセンブリ(Stud Socket Assembly)を製造し、2017年2月頃から上記半導体生産企業に販売し、自社ウェブサイトにおいて被告製品が原告のC製品群に使用する製品である旨を明示していた。原告は被告に対して特許権侵害差止を請求し、1審法院は原告の請求を棄却した。原告は、1審法院の判決を不服として特許法院に控訴した。
特許発明の請求項1は、下記のとおりである。
[請求項1]
1つ以上のディスクスプリングを含むディスクスプリングスタック(「構成要素1」という) 、
ボディ部、第1末端部及び第2末端部を有するスタッドであって、上記第1末端部は上記ボディ部の断面寸法よりも大きい第1直径を有するヘッド領域を含み、上記第2末端部は上記ボディ部の断面寸法よりも大きい第2直径を有し、上記スタッドに対し同心的に上記ディスクスプリングスタックを支持するように配列され、上記スタッドは回転不可にプラズマプロセッシング環境において消耗可能な電極に固定されるように構成された、上記スタッド(「構成要素2」という)、
ソケットの最上部上に露出した上記スタッドのヘッド領域と上記支持されたディスクスプリングスタック及び上記スタッド周辺とを同心的に機械的カップリングさせるように配列され、上記プラズマプロセッシング環境において上記消耗可能な電極に固く付着されるように構成され、上記ディスクスプリングスタックは、上記スタッドの縦軸に対して垂直な方向に上記スタッドの制限された側面移動を許容するように上記ソケット内において整列され、上記ディスクスプリングスタック及び上記スタッドは、上記ソケットのベース部において上記ソケットと固く接触するように配列される、上記ソケット(「構成要素3」という)、及び
上記ヘッド領域の上記第1直径より大きい直径を有する円筒状のボディを有し、バッキングプレートのボア(bore)内に搭載されるように構成され、上記円筒状のカムシャフトボディの中心部に位置した異心的なカットアウト領域をさらに含み、上記消耗可能な電極及び上記バッキングプレートが互いに近接する場合、上記スタッドのヘッド領域と回転するようにエンゲージし、そのヘッド領域を固定させるようにさらに構成されるカムシャフト(「構成要素4」という)を含み、
上記スタッドに回転するようにエンゲージされるとき、上記スタッドの上記縦軸は上記カムシャフトの縦軸に対して垂直である(「構成要素5」という)、カム固定クランプ。
<特許発明の図面>

特許法院において原告は、被告製品は特許発明の技術構成のうち、構成要素4のカムシャフトが欠如したものではあるものの、残りの技術構成をそのまま含むものであって、上記特許発明に係る物であるカム固定クランプの生産にのみ使用する物に該当することから、被告が被告製品を製造(生産)、販売(譲渡)した行為は特許発明に係る特許権を侵害したものとみなすべきで、被告の上記行為は、上記特許権に対する、いわゆる間接侵害行為に該当すると主張した。
これに対して被告は、半導体生産企業が原告から特許発明が具現されたC製品群のエッチング装備を購入した後、その装備のための単純な部品を交換する行為は特許権消尽の法理により特許発明に係る特許権に対して直接侵害が成立しないため、被告が上記のような単純な部品に該当する被告製品を製造し上記半導体生産企業に販売した行為は、特許権に対する間接侵害行為に該当するとはいえないと主張した。
判決内容
特許法院は、まず関連法理として下記を提示した。
(1)特許法第127条第1号は、特許が物の発明である場合、業としてその物の生産にのみ使用する物を生産・譲渡・貸渡し若しくは輸入し、又はその物の譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為をする場合には、特許権を侵害したものとみなすと規定している。これは発明のすべての構成要素を有する物を実施したものではなく、その前段階にある行為をしたとしても、発明のすべての構成要素を有する物を実施するようになる蓋然性が大きい場合には、将来の特許権侵害に対する権利救済の実効性を高めるために一定の要件下においてこれを特許権の侵害とみなす趣旨である(大法院2015年7月23日言渡2014ダ42110判決等参照)。
(2)特許法第127条第1号の文言とその趣旨に鑑みるとき、ここでいう「生産」とは、発明の構成要素の一部が欠如している物を使用して発明のすべての構成要素を有する物を新たに作り出すすべての行為を意味するため、工業的生産に限らず、加工、組立等の行為も含まれるといえる(大法院2015年7月23日言渡2014ダ42110判決等参照)。また、特許物の生産「にのみ」使用する物に該当するためには、社会通念上、通常的に用いられて承認され得るような経済的、商業的ないし実用的な他の用途があってはならず、そうでなくとも、単に特許物以外の物に使用される理論的、実験的又は一時的な使用の可能性がある程度に過ぎない場合には、間接侵害の成立を否定するだけの他の用途があるとはいえない(大法院2009年9月10日言渡2007フ3356判決等参照)。特許発明の対象やそれに関連する物を使用することで摩耗や消尽して頻繁に交換しなければならない消耗部品であっても、それが特許発明の本質的な構成要素に該当して他の用途には用いられず、一般に広く容易には入手できない物品であって、当該発明に係る物の購入時に既にそのような交換が予定されており、特許権者側によりそのような部品が別途に製造、販売されている場合には、そのような物は特許権に対する、いわゆる間接侵害で言うところの「特許物の生産にのみ使用する物」に該当する(大法院2002年11月8日言渡2000ダ27602判決等参照)。
(3)「特許物の生産にのみ使用する物」に該当するという点は、特許権者が主張・証明しなければならない(大法院2002年11月8日言渡2000ダ27602判決等参照)。ただし、上記のように特許物の生産「にのみ」使用する物に該当するという要件は、社会通念上、通常的に用いられて承認され得るような経済的、商業的ないし実用的な他の用途があってはならないという消極的事実に関するものであるという点から判断すると、特許権侵害訴訟の相手方が製造する製品(以下「侵害被疑製品」という)がそれ自体により汎用性がある物であることが明白でない限り、特許権者の間接侵害主張に対して侵害者が、自身の供給した侵害被疑製品が客観的に特許発明の実施以外に使用され得る可能性について何らかの合理的な主張をした場合には、特許権者はその使用が経済的、商業的ないし実用的なものではないことを証明する方式によるものとすることが合理的である(特許法院2017年5月25日言渡2016ホ7305判決参照)。
続いて特許法院は、被告製品は特許発明に係る物であるカム固定クランプの生産にのみ使用される物であって間接侵害製品に該当するというべきであると判断した。具体的な判断根拠は、下記のとおりである。
(1)特許発明に係る物であるカム固定クランプのうち、スタッド/ソケットアセンブリ、すなわちスタッド(205)とディスクスプリングスタック(215)及びソケット(213)からなるアセンブリは、バッキングプレートのボア内に搭載されるカムシャフトにスタッドのヘッド領域が固定されるように構成されたものであって、特許発明のスタッド、ソケット及びディスクスプリングスタックの各構成要素間の相対的な大きさ及び形状や有機的結合関係等は、カムシャフトと結合されスタッドの側面移動が可能に構成されるにおいて重要な要素となる。したがって、特許発明に係る物であるカム固定クランプのうち、スタッド/ソケットアセンブリは特許発明を構成する核心的かつ本質的な構成要素といえる。
(2)先に詳察したように、スタッド/ソケットアセンブリの製品である被告製品は、特許発明の構成要素4を除いたすべての構成要素を含むものであって、特許発明のスタッド/ソケットアセンブリとその技術構成が実質的に同一である。また、原告が半導体生産企業に製造、販売するC製品群は特許発明を実施したものであって、半導体ウェハ上に回路パターンを形成するためのエッチング装備であり、被告が被告製品を製造、販売して被告製品が原告のC製品群に使用される製品である旨を明示している点に鑑みるとき、被告製品が特許発明に係る物であるカム固定クランプの生産に使用される物であることは自明である。
(3)被告製品はそれ自体により汎用性がある物であるとはいい難く、このような事情にもかかわらず、被告は被告製品が客観的に特許発明の実施以外に使用され得る可能性についていかなる合理的な主張もしておらず、単に、被告製品は通常の技術者が先行技術により容易に実施できる、いわゆる自由実施技術に該当するとのみ主張している。その他に特に被告製品が社会通念上、通常的に用いられて承認され得るような経済的、商業的ないし実用的な他の用途を有すると認めるだけの資料もない。
(4)被告製品は、特許発明の対象であるカム固定クランプを使用することにより摩耗又は消尽して頻繁に交換しなければならない消耗部品であるとはいえるが、特許発明のカム固定クランプのうち、スタッド/ソケットアセンブリは特許発明の本質的な構成要素に該当し、他の用途には用いられず、一般に広く容易に入手できない物品であって、特許発明のカム固定クランプの購入時に既にそのような交換が予定されており、実際に原告は、原告のC製品群を購入して使用している顧客の便宜上、スタッド/ソケットアセンブリのみを別途に製造、販売していた。
以上の理由により特許法院は、被告製品は特許発明に係る物であるカム固定クランプの生産にのみ使用される物であって間接侵害製品に属し、よって被告は被告製品を製造(生産)、販売(譲渡)することにより特許発明に係る特許権に対する間接侵害行為をしたというべきであると判断した。
専門家からのアドバイス
韓国では特許権の間接侵害に関する規定として、特許発明に係る物の生産にのみ使用する「専用品」を間接侵害行為とみなす規定を置いている(特許法第127条第1号)。これに関連し、本件において被告が製造及び販売していた製品は、当該規定上の専用品であるだけでなく消耗部品でもあった。
過去に大法院は、消耗部品が間接侵害に該当するかの判断方法について、消耗部品が特許発明の本質的な構成要素に該当し、他の用途には用いられず、一般に広く容易に入手できない物品であって、当該発明に係る物の購入時に既にそのような交換が予定されており、特許権者側によりそのような部品が別途に製造、販売されている場合には、そのような物は、特許権に対する、いわゆる間接侵害で言うところの「特許物の生産にのみ使用する物」に該当すると判示している(大法院2002年11月8日言渡2000ダ27602判決等参照)。
本件の被告製品も消耗部品であったところ、上記大法院判例に基づいて間接侵害の成否が判断され、特許権侵害が認められた。韓国での間接侵害の具体的判断を示した事例として、実務上参考になる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195