知財判例データベース 無償でダウンロード可能なスマートフォン用アプリケーションの名称について商標的使用であると判断された事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A社(請求人) vs 被告 B社(被請求人、商標権者)
- 事件番号
- 2022ホ13346登録取消(商)
- 言い渡し日
- 2024年04月25日
- 事件の経過
- 請求棄却
概要
アプリマーケットで無償でのダウンロードが可能なアプリケーションの名称として登録商標を使用していた場合は、指定商品「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」についての正当な使用に該当するため、商標法119条1項3号の不使用取消理由には該当しないと判示した。
事実関係
被告の登録商標は「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」等を指定商品とし、被告が自ら開発して普及させたスマートフォン用アプリケーションの名称を使用するものであった。当該アプリケーションは、使用者が無償でダウンロードして使用できるものであるところ、その使用過程で被告が金銭的収益を得ることができるようにプリペイド携帯チャージ機能を具備していた。これにより被告が得る収益の方式は、通常のアプリケーションが有しているアプリ内決済(In-App Purchase)の方式によるものではなく、アプリケーション使用者が別途に用意された被告口座に送金する方式によるものであった[1]。原告は、当該アプリケーションは独立した商取引の目的物とは認められず、また、被告が営むプリペイド携帯チャージサービス業の提供のための手段に過ぎないため登録商標が指定商品に使用されたとはいえないと主張した。
判決内容
特許法院は、アプリケーションをダウンロードできるアプリマーケットのウェブページに指定商品「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」が表示されている点で、ウェブページがアプリケーションに関する情報を提供する機能をし、不特定多数人に公開された点で広告に該当すると認めた。また、アプリケーションのダウンロード自体においてはいかなる代価も要求しないとしても、ダウンロードした使用者がアプリケーションの機能を実質的に享有するためには送金が必須で、被告はこれを通じて一定の収益を得ていることから、このような一連の過程は使用者がアプリケーションに対する代価を支払ったものと評価することができ、当該アプリケーションはプリペイド携帯チャージサービスの提供を可能にするという点で、それ自体により一定の価値を持つ独立した物品として取引に供されるものであると判示した。
また、特許法院は、被告が営む業務が「データ通信仲介業、電話仲介サービス業」であるため「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」に使用されたものではないという原告の主張については、1)被告は、アプリマーケットにアプリケーションを登録した後、数回にわたってアップデート等を行った点からアプリケーションの生産及び品質管理等の主体として商品の出所と認めることができ、2)需要者もアプリケーション自体を取引の目的物と認識するはずであるといえ、3) (被告の内部的な収益方式とは別個に)需要者としてはプリペイド携帯チャージ機能をアプリケーション自体の機能又は効用と認識するはずであるという点で、たとえ「データ通信仲介業」等の役務に関連した使用とみなされる余地があるとしても、そのような事情だけで「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」に対する使用が否定されるものではないと判示した。
専門家からのアドバイス
スマートフォン用のアプリケーションは、今日の多様な商取引において必須といえるほどに各産業分野で開発及び利用がされており、かかるアプリケーション提供に関連して商標権紛争も発生している。
本件では、無償でダウンロード可能なアプリケーション自体が「移動電話機用コンピュータ応用ソフトウェア」という商品に該当すると判断したのだが、同じ当事者同士で争そわれた別件の特許法院事件では、無償でダウンロード可能なアプリケーションが「電子金融取引業」の使用時に供されるものとして役務に使用されたものと判断されている。この別件事件では、本件とはアプリケーションの収益構造は異なっており、無償でダウンロードできるアプリケーションを通じてモバイル商品券等の購入や先払い電子支払い取引等のサービスを使用者に提供した事案であった。当該アプリケーションは「電子金融取引業」という役務に関する広告に商標を表示した行為、又は電子金融取引サービスの提供時に需要者の利用に供されるものに商標を表示したものを利用してサービスを提供する行為に該当し「電子金融取引業」に使用したものと判断された [2]。
スマートフォン用のアプリケーションは過去にはなかった新しい商品といえるとともに、それにより提供されるサービスや収益構造等から商標法上の役務に供されるものとして解釈されることもありうる。この点は、今後の判例の蓄積により権利としての性格や法的地位が確立されていくものとみられる。韓国特許庁の審査基準も変更[3]がなされつつある点を考慮し、現状、自社ビジネスを守る保守的な見地から商標権確保等に備えることが望ましいといえよう。
注記
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被告の当該アプリケーションは、プリペイド携帯チャージサービスを顧客に提供する販売者らが使用者となるものであって、1)販売者らは被告に一定金額を預けて置いた後、販売者にチャージを申し込んだ顧客から金額の支払いを受けて当該アプリケーションを利用してチャージサービスを顧客に提供し、2)この過程で販売者は、被告への預け置き金から送金金額を差し引く方式で支払い金額からの収益を得る一方、3)被告は、販売者らの預け置き金から差し引いた金額のうち一部を通信会社に支払った上で自らの収益を得る収益構造を取るものであった。
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特許法院2024年2月1日言渡し2023ホ12862判決
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たとえば2021年1月1日には、ソフトウェアに対する商品名称細目化及び包括名称の不認定、類似判断時の用途一致の有無の考慮等に関する商標審査基準の改訂があった。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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