知財判例データベース 不正競争防止法により保護される商品標識は共同保有者の持分の過半数による決定により使用権設定が可能であることを示した大法院判決

基本情報

区分
不正競争
判断主体
大法院
当事者
A, B, C, D (原告、上告人) vs E (被告、被上告人)
事件番号
2023ダ216302不正競争行為中止等
言い渡し日
2024年07月11日
事件の経過
破棄差戻し

概要

組合体を構成しない数人が、商標権設定登録が行われていない周知標識を共同で保有する場合において、その共同保有者が他人に周知標識に関する使用権限を付与する行為は周知標識の管理行為に該当するので、共同保有者間で特別な約定がない限り共同保有者の持分の過半数でこれを決定することができると判示した。

事実関係

「図形+X家具」標識(以下「本件標章」)は、株式会社X家具(以下「旧X家具」)が設立された1973年頃から商品標識として使用されはじめ、1978年頃には一般取引者や需要者の間に広く認識された商標となった。旧X家具は1986年に本件標章を商標権登録をし、その後登録商標権の持分は2002年に各28.5%、26.5%、22.5%、22.5%%ずつ4人に移転登録されたあと、幾度かの商標権持分移転登録を経て、2016年には各28.5%、26.5%、11.25%、6.25%、5%、6.25%、5%、11.25%ずつ8人が共有する状態で存続期間の満了により消滅した。
被告は「X家具」標章を使用してオンラインショッピングモールで家具を販売し、原告らは被告の標章使用行為が不正競争防止法2条1号(イ)目の不正競争行為に該当することを理由として使用行為差止等を求める訴えを提起した。原審は商標法93条3項[1]を準用又は類推適用した上で、原告らは本件標章の共同保有者全員による使用許諾を受けることができなかったため、原告らに対して使用権が認められず不正競争防止法上の差止請求権を行使できる者に該当しないとした。

判決内容

大法院は、「不正競争防止法上保護される商品標識に対する行為禁止又は予防を請求できる者には、標識の保有者だけでなく使用者等その標識の使用に関して固有かつ正当な利益を有している者も含まれる」(大法院1997年2月5日付96マ364決定、大法院2023年12月28日付2022マ5373決定等参照)という既存の大法院判決を引用した上で、組合体を構成しない数人が商標権設定登録が行われていない周知標識を共同で保有する場合、その共同保有者が他人に周知標識に関する使用権限を付与する行為は周知標識の管理行為に該当するので、共同保有者の間に特別な約定がない限り民法第265条本文[2]を類推適用して共同保有者の持分の過半数でこれを決定することができ、一時商標権が発生していた周知標識であるとしてもその商標権が消滅した以上、その標識の使用許諾に商標法第93条第3項で規定する共有者全員の同意が必要であると認めることはできないと判示した。
これに加え、商標権が存続期間満了により消滅したとしても本件標章の保有持分まで変更されるとはいえず、商標権消滅後にもその持分により共同で保有されるということができ、本件標章に関する持分の取得経緯と共同保有者の間の関係等を考慮すれば組合体として保有しているとも認め難いとした。

専門家からのアドバイス

本件は、商標権消滅後の周知標識が共有に係る場合、その共同保有者全員によるものではなかったとしても他人にその使用権限を付与することが可能か否かが問題となった。
これに関連し、韓国において以前は、商標権が共有に係る場合、商標権存続期間の更新登録申請は共有者全員により申請すべきものとして規定されていたため、一部の共有者が所在不明等の理由で連絡が取れなかったために存続期間更新登録申請ができなかったり、一部の共有者が存続期間更新登録申請を拒否したりしたときに商標権が存続期間満了で消滅する事例もあった。このため2019年10月24日から施行されている商標法では、共有者全員による存続期間更新登録申請の要件を削除し、一部の共有者による商標権の存続期間更新が可能となっている。
本件は、改正商標法施行前に共有に係る商標権が消滅した周知商標に関する事案であった。このような場合、特許法や商標法には共有に関する特則はあるものの、従来より大法院は特許法や商標法を適用できない事案への拡大適用は認めていなかった。したがって本件でも商標権が消滅した後の持分の保有者間の関係では、商標法に規定された特則が適用されるのではなく、民法に規定された共有の原則が適用されると判断している。商標登録がされていない周知標識の管理方法において、特に参考になる判決といえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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