知財判例データベース 謝恩品又は販促物での無償提供における商標権違反が問題となった事件において、「商品」及び「商標の使用」の意味を判示した大法院判決

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
被告人1外1名(被告人) vs 検事(上告人)
事件番号
2021ド2180商標法違反 [注1]
言い渡し日
2022年03月17日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

物品のうち一部が謝恩品又は販促物として無償で提供されたとしても、当該物品の外観・品質及び取引現況等に照らして商標法上の「商品」に該当するか否かを判断した上で、商品に商標を表示し又は商標が表示された物を譲渡する行為として商標法上の「商標の使用」に該当し、商標権違反に該当すると判示した。

事実関係

被告人は、高価な水着に対する宣伝広告又は販売促進の目的で「Speedo Holdings B.V.」の登録商標が印刷されたタオル1,000点を1点あたり8,500ウォンで注文して仕入れ、取引先Aに200点、その他の取引先に390点引き渡した。取引先Aは当該タオルが適法に製作されたと理解して1点あたり45,000ウォンをタオル製作業者に直接支払い、受け取ったタオルは消費者に再販売した。被告人がその他の取引先に引き渡した390点は無償で支給されたものであった。
第1審の法院は、取引先Aに引き渡したタオル200点については商標権侵害を認めた一方、その他の取引先に引き渡された390点については商標法上の商品ではなく無償交付された「広告媒体」ないし「販促物」であって商標権侵害の前提としての「商標の使用」ではないとみなし商標権侵害を認めなかった。これに対し検事が控訴し、第2審(原審)の法院は第1審の判断の趣旨を維持した。

判決内容

大法院は、既存の大法院判例における「商標法上の“商標の使用”とは、商品又は商品の包装に商標を表示する行為、商品又は商品の包装に商標を表示したものを譲渡若しくは引き渡し、又はその目的で展示・輸出若しくは輸入する行為等を意味し、ここで言う“商品”はそれ自体が交換価値を持って独立した商取引の目的になる物品を意味する」という判示内容(大法院1999年6月25日言渡し98フ58判決、大法院2013年12月26日言渡し2012フ1415判決等)を引用した上で、被告人が注文・製作して販売・提供したタオルはそれ自体が交換価値を持って独立した商取引の目的物になる物品に該当し、当該タオルのうち一部が謝恩品又は販促物として無償で提供されたとしても、無償で提供された部分だけを分離してその商品性を否定することはできないため商標法上の商標の使用に該当し商標権侵害に該当すると判示した。

専門家からのアドバイス

韓国商標法は日本商標法と同様に「商品」の概念に対して定義しておらず、大法院判決によって概念が具体化されてきた。過去に「広告媒体となる物品」である謝恩品又は販促物は商標法上の商品とはいえないとした代表的な判決としては、芸能情報月刊誌『ROADSHOW』の付録として有名映画俳優の写真集に「WINK」を表示して読者に提供した事案において、商標法上の「商品」について説明した上で「広告媒体となる物品」に商標を表示したことは商標の使用といえないと判示したケース(大法院1999年6月25日言渡し98フ58判決)がある。そのほかにも特許法院の判決として、ウイスキー「ウイスキーのロゴ商標 」の販売促進のために通常使用権者が財布を製作・配布したケース(特許法院2004年5月28日言渡し2003ホ5408判決)、登録商標が付された履物を一定額以上購入すると同一商標が付されたTシャツを贈呈するとして広告したケース(特許法院2010年11月5日言渡し2010ホ4601判決)、将来販売する化粧品の販売促進のために登録商標が付された石鹸500個を発注し、一部を化粧品販売会社に無償供給したケース(特許法院2004年3月11日言渡し2003ホ4887判決)等においても、商標の使用と認められないと判断している。
そのほかに商標法上の商標的使用に該当するか否かが問題になる使用の態様としては、非商業的使用、比較広告における使用、批判や引用等のための使用、報道のための使用等があるが、これらは、商標権侵害を構成するためには解釈上「業としての使用」が要求されるという点において商標法違反とは認められにくい面があった。
一方、本件のような「広告媒体となる商品」についての使用の態様は、「業としての使用」又は「取引上の使用」と密接な関連性があって商標の使用のボーダーライン上にあるといえることから、綿密な事前検討に基づく判断が必要とされる領域であった。このような「広告媒体となる商品」が商標法上の商品であるといえるかについて、及び商標の使用に該当するのかについては、これまで主に登録商標の不使用取消事件の中で判断されてきたものである。
これに対し本件は、同じ法理が商標権違反の事案において判断された事件であって、商標法上の「商品」に該当するか否かの基準を大法院が改めて明確にしたという点で意義がある。本判決に伴い、韓国での販促品を通じた宣伝広告や販促活動における商標の使用については、これまで以上に慎重に再点検する必要性が生じたといえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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