知財判例データベース 既許可の薬物をPEG化した薬物については医薬品許可による特許権存続期間延長登録が許容されないとした大法院の判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A株式会社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2021フ11070拒絶決定(特)
言い渡し日
2024年07月25日
事件の経過
原審破棄差戻し

概要

新物質を有効成分として最初に品目許可を受けた医薬品に対しては医薬品許可に基づく特許権存続期間延長登録が可能なところ、この場合に延長登録の対象となる新物質は特許法施行令で「薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質」と定義されている。本件では既に許可されたインターフェロンベータ-1aにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合してPEG化(PEGylation)したペグインターフェロンベータ-1aが新物質に該当するかが問題になった。大法院は、ペグインターフェロンベータ-1aにおいて「薬効を示す活性部分」はインターフェロンベータ-1aであるため、ペグインターフェロンベータ-1aを上記施行令でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできないとし、ペグインターフェロンベータ-1aは新物質ではないため延長登録が許容されないと判断した。

事実関係

原告は、「生物学的活性化合物とコンジュゲートされる残基を有するポリアルキレングリコール」を発明の名称とする発明について特許登録を受けた。訴外会社は2016年7月11日に食品医薬品安全処長から、特許発明と関連した医薬品である「Plegridy Pen Inj. 125µg」に対して医薬品輸入品目許可を受けた。原告は2016年10月11日に延長期間を85日とする存続期間延長登録出願をしたが、特許庁は2018年2月5日に許可医薬品と既許可医薬品はいずれも再発性多発性硬化症治療剤としてその適応症が同一であり、これに対する治療効果を奏する活性部分がインターフェロンベータ-1aで同一であって新物質に該当しないため、特許法施行令第7条の延長登録出願の対象ではないという趣旨により延長登録出願に対して拒絶決定をした。

既許可医薬品は、2009年4月22日に輸入品目許可がなされ有効成分をインターフェロンベータ-1aとする「アボネックス筋注ペン」であるのに対し、許可医薬品は、インターフェロンベータ-1aにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合してPEG化(PEGylation)したペグインターフェロンベータ-1aを有効成分とする。特許法施行令第7条第1号は、許可等による延長登録出願対象発明のうちの一つとして「特許発明を実施するために薬事法第31条第2項・第3項又は第42条第1項により品目許可を受けた医薬品[新物質(薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質をいう)を有効成分として製造した医薬品として最初に品目許可を受けた医薬品に限定する]の発明」を規定している。

上記拒絶決定認容審決に対して、原告は不服を申し立てて特許法院に審決取消訴訟を提起した。特許法院は、上記施行令の条項のうち「薬効を示す活性部分」の解釈において、許可医薬品で薬効を示す活性部分はペグインターフェロンベータ-1aであって、これは活性部分をインターフェロンベータ-1aとする既許可医薬品を考慮したとしても薬効を示す活性部分の化学構造が新たな新物質に該当するため、上記施行令条項で定めた新物質を有効成分として製造した医薬品に該当すると判断して審決を取り消した。具体的な原審の判決理由は、次のとおりである。

①上記施行令条項の「薬効を示す活性部分」において、「薬効」は適応症に限定されず、「医薬品の成分中に内在する薬理作用によって特定疾病を診断・治療・軽減・処置若しくは予防する効果」を意味する。この時、特定疾病を診断・治療・軽減・処置若しくは予防する効果の大小及び持続時間の程度、効果に付随して発生する副作用の有無に差がある場合には、「薬効」が同一であると認めることはできない

②ペグインターフェロンベータ-1aがインターフェロンベータ-1aに対して有する生物学的活性及び薬動学的特性の差は、結果的に許可医薬品の再発性多発性硬化症に対する治療効果の増大をもたらし、上記のような生物学的活性の差異、薬動学的特性の改善、治療効果の増大は、いずれもインターフェロンベータ-1aにポリエチレングリコールが結合されることによって示される効果である。したがって、許可医薬品の成分中に内在する薬理作用により再発性多発性硬化症を治療する効果を奏する部分はペグインターフェロンベータ-1aであり、インターフェロンベータ-1a部分に限定されると認めることはできない。

被告人である特許庁は、上記判決に不服を申し立てて大法院に上告を提起した。

判決内容

大法院は、まず既許可医薬品と許可医薬品の事実関係を下記のように整理した。

①既許可医薬品の有効成分であるインターフェロンベータ-1aは、蛋白質医薬物質で体内で活性を有し、異常な免疫作用を調節することにより再発性多発性硬化症の治療効果を奏する。

②ポリエチレングリコールは、血液中の短い半減期、免疫原性及び抗原性誘発のような蛋白質医薬物質の短所を補完するために蛋白質医薬物質に結合されるもので、それ自体では体内で活性を有さないことが知られている。

③ペグインターフェロンベータ-1aは、インターフェロンベータ-1aと対比すると抗ウィルス活性、抗増殖活性、抗血管形成活性など生物学的活性に差異があって、血液中の平均滞留時間及び半減期が増加した。その結果、許可医薬品は既許可医薬品に比べて注射投与回数が減少した投与用法の差異がある。

続いて大法院は、上記施行令の条項で「薬効を示す活性部分」は「医薬品の有効成分中、活性を有しながら内在する薬理作用により医薬品品目許可上の効能・効果を奏する部分」を意味すると判断した。また、大法院はそれ自体では活性を有しない部分が従来の品目許可がされた医薬品の「薬効を示す活性部分」に結合されて医薬品の効能・効果の程度に影響を及ぼしたとしても、これは医薬品の効能・効果としての「薬効」を示す部分ではないので、このような部分が「薬効を示す活性部分」に結合されているという事情だけでその結合物全体を上記施行令条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできないと判断した。具体的な判断の根拠は下記のとおりである。

①特許法及び旧特許法施行令は、上記施行令条項のうち「薬効を示す活性部分」の定義や包摂の具体的な範囲に関しては規定していない。

②薬事法第2条第4号は、「医薬品」について「人若しくは動物の疾病の診断・治療・軽減・処置若しくは予防する目的で使用する物品のうち、器具・機械若しくは装置ではないこと、人若しくは動物の構造と機能に薬理学的影響を与える目的で使用する物品のうち、器具・機械若しくは装置ではないこと」等と定義している。「医薬品の品目許可・申告・審査規程」第9条第6号は、医薬品の効能・効果を品目許可の対象として検討・管理する項目として明示しており、第15条第1号は「有効性が明確に実証され得る疾患名又は症状名等を医薬学的に認められる範囲で具体的に表示」することで「効能・効果」を記載するように規定する一方、第29条第1号は、食品医薬品安全処長は品目により審査書類及び提出資料等を根拠に「効能・効果」等の適否を確認しなければならないと規定している。上記のような薬事法令の内容を総合すれば、医薬品が示す効果としての「薬効」は医薬品が特定疾病を診断・治療・軽減・処置若しくは予防する効果」と理解することができ、このような効果の有効性は医薬品の品目許可対象である「効能・効果」で検討・管理されているので、結局、薬事法上、品目許可を受けた医薬品に対して適用される上記施行令の条項でいう「薬効」は特定疾患名又は症状名を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能・効果」を意味すると認めることができる。

③上記施行令の条項は、薬事法上、品目許可を受けた医薬品の「有効成分」が新物質であることを要求し、その新物質を「薬効を示す活性部分」の化学構造が新たな物質と定義した上で、文言上において「薬効を示す活性部分」と「有効成分」とを区分する規定の形式をとり、化学構造が新たな物質であることを要求する対象を「有効成分」ではなく「薬効を示す活性部分」と明示している。ところが、薬理学的に「活性」は薬物が人体内の細胞等に作用して生体機能に変化を引き起こす性質をいい、先で詳察したように、上記施行令条項でいう「薬効」は、特定疾患名又は症状名を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能・効果」を意味するため、「薬効を示す活性部分」は「人体内の細胞等に作用して医薬品品目許可上の効能・効果を発現する部分」と解釈することが合理的である。上記施行令の条項はこのような部分の化学構造が新たな物質を有効成分とする医薬品の発明を有効性・安全性等の試験により長期間が要される発明として、特許権の存続期間延長の対象となる発明と規定したものである。

④一方、「医薬品の品目許可・申告・審査規程」第2条第1号は、「有効成分」を「内在する薬理作用によって、その医薬品の効能・効果を直接又は間接的に発現すると期待される物質又は物質群であり、主成分をいう」と規定しているところ、「有効成分」は分子単位で把握されるので、「薬効を示す活性部分」に該当しない部分が「薬効を示す活性部分」に結合されて医薬品の効能・効果の程度に影響を及ぼす場合も、その結合物全体が有効成分の概念に含まれることはあり得る。しかし、上記施行令条項の規定形式と内容が「有効成分」と「薬効を示す活性部分」を峻別している以上、それ自体では活性を有しない部分が「薬効を示す活性部分」に結合されて医薬品の効能・効果の程度に影響を及ぼしたとしても、その結合物全体を上記施行令条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできない。

⑤医薬品品目許可等のために必要な有効性・安全性等の試験によって長期間が要される発明に限ってこれを救済するように定めている特許権存続期間延長制度の趣旨及び目的に照らしてみても、既存の品目許可がされた医薬品において公知の活性部分が発現する効能・効果の程度に影響を及ぼすためにそれ自体では活性を有しない部分を付加した医薬品発明は、特許権存続期間延長の対象になる発明とは認め難い。

続いて大法院は、許可医薬品は、上記施行令条項でいう「薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質である新物質を有効成分として製造した医薬品」ではないため、その医薬品の発明である請求項は許可等による特許権の存続期間の延長対象発明に該当しないと判断した。その具体的な判断根拠は、下記のとおりである。

①許可医薬品は、既許可医薬品の有効成分であり薬効を示す活性部分であるインターフェロンベータ-1aにポリエチレングリコールを結合してPEG化することによって既許可医薬品と同一の効能・効果である再発性多発性硬化症の治療効果を奏しながらもインターフェロンベータ-1aの血液中の平均滞留時間及び半減期を増加させた医薬品として、その有効成分はペグインターフェロンベータ-1aである。

②許可医薬品の有効成分のうち、体内活性を有し内在する薬理作用によって再発性多発性硬化症の治療効果を奏する部分はインターフェロンベータ-1aであり、インターフェロンベータ-1aに結合されたポリエチレングリコール部分は体内活性や上記のような治療効果を奏しないながらも、インターフェロンベータ-1a部分が血液中に長く留まるようにしたり、インターフェロンベータ-1aの蛋白質受容体に対する結合力を低くしたりするなどによって、インターフェロンベータ-1aの活性程度に影響を及ぼす部分に過ぎない。したがって、許可医薬品の有効成分のうち「薬効を示す活性部分」はインターフェロンベータ-1aであり、ポリエチレングリコール部分が「薬効を示す活性部分」であるインターフェロンベータ-1aに結合されてペグインターフェロンベータ-1aを構成しているとしても、その結合物全体であるペグインターフェロンベータ-1aを上記施行令の条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできない。

③インターフェロンベータ-1aを許可医薬品のペグインターフェロンベータ-1aでPEG化する過程で、インターフェロンベータ-1aの立体的化学構造に変化が誘発されたことが直接的に確認されず、また、再発性多発性硬化症の治療に関連する活性差異がインターフェロンベータ-1aの立体的化学構造の変化を伴わずには示されることがない程度に達するものとは認められないので、許可医薬品で「薬効を示す活性部分」であるインターフェロンベータ-1a部分は既許可医薬品で「薬効を示す活性部分」であるインターフェロンベータ-1aと立体的化学構造が同一である。

専門家からのアドバイス

本件は特許法院と大法院とで、医薬品許可に基づく特許権存続期間延長登録の対象となる新物質の解釈が異なった事案である。特許法院は、施行令の新物質の定義である「薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質」のうち、「薬効」の意味を(大法院の判決に比べると)総体的に広く解釈し、治療効果の大小及び持続時間の程度、効果に付随して発生する副作用の有無に差異がある場合にも薬効が異なるものと解している。これによりPEG化薬物については、適応症に対する治療効果が同一であっても生物学的活性及び薬動学的活性に差異があるとして、蛋白質部分には変形のないPEG化薬物において「薬効を示す活性部分」はPEG化薬物それ全体であるためPEG化薬物は新物質であると判断した。
これに対し大法院は、「薬効」は特定疾患名又は症状名を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能・効果」を意味するとして、「薬効を示す活性部分」は「医薬品の有効成分のうち活性を有しつつ内在する薬理作用によって医薬品品目許可上の効能・効果を奏する部分」と判示した。大法院はこうした判示内容を本事案に適用することにより、ペグインターフェロンベータ-1aにおけるポリエチレングリコール部分は体内活性や治療効果を奏さずにインターフェロンベータ-1aの活性の程度に影響を及ぼす部分に過ぎず、ㅁペグインターフェロンベータ-1aの有効成分のうち「薬効を示す活性部分」はインターフェロンベータ-1aであり、これについては既許可医薬品が存在するので、ペグインターフェロンベータ-1aは新物質に関する医薬品ではないため延長登録対象ではないと判断した。
本件は、特許権存続期間延長登録の対象となる新物質の定義について、特に「薬効を示す活性部分」の意味に対する大法院の見解を明らかにした判例としての意味が大きい。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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