知財判例データベース 共同発明者間において特許権譲渡代金の分配を争う民事事件の控訴審は、特許法院の専属管轄である
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告(共同発明者) vs 被告(共同発明者)
- 事件番号
- 2023タ309549保管金返還
- 言い渡し日
- 2024年03月28日
- 事件の経過
- 原審破棄及び特許法院に移送
概要
同じ大学の教授である原告及び被告は、共同研究を通じて創出した発明を、当該大学の産学協力団の名義により特許登録を受けた。産学協力団はその特許をある会社に譲渡し、被告は産学協力団からその譲渡代金のうち発明者の貢献度70%に該当する金額を受領した。原告は、その金額のうち共同発明者の50%の持分を主張し、被告を相手取って被告が産学協力団から受領した金額の半分(1,400万ウォン)の支払いを求める訴えを提起した。1審及び2審(ソウル中央地方法院)のいずれも原告の請求を認容する判決を下した。大法院は、本件の2審は特許法院の専属管轄に属することを理由として2審判決を破棄し、事件を特許法院に移送した。
事実関係
原告と被告は、同じ大学に勤務する教授である。原告と被告は、当該大学の産学協力団の名義により計3件(2件の韓国特許及び1件の米国特許。以下「本件共同特許」)の特許登録を受け、産学協力団に原告と被告の発明者持分を各50%として申告した。被告は、産学協力団を介して株式会社Sに本件共同特許を含め計5件の特許を譲渡するようにした後、その譲渡代金5,000万ウォンのうち発明者の貢献度70%を考慮した3,500万ウォンを産学協力団から補償金として受領した。原告は、譲渡代金5,000万ウォンのうち本件共同特許に関する代金は4,000万ウォンであり、そのうち発明者の貢献度70%を考慮した補償金は2,800万ウォンであるため、原告は本件共同特許について50%の発明者持分を有していると主張し、被告が受領して保管中の補償金のうち1,400万ウォンを原告に返還することを求める訴えを提起した。1審(ソウル中央地方法院2022年11月24日言渡2022カソ1531054判決)及び2審(ソウル中央地方法院2023年11月15日言渡2022ナ74555判決)のいずれも原告の請求をそのまま認容する判決を下した。
判決内容
特許権、実用新案権、デザイン権、商標権、品種保護権(以下「特許権等」)に関する民事事件の控訴事件は特許法院の専属管轄である(2015年12月1日付法律第13522号で改正された法院組織法第28条、第28条の4第2号、第32条第2項)。このように特許権等に関する訴えの管轄について別途の規定を置いた理由は、通常その審理・判断に専門的な知識や技術等に対する理解が必要であるため、審理に適した体系と熟練した経験を備えた専門裁判部に事件を集中させることにより、充実した審理と迅速な裁判のみならず、特許権等の適正な保護に貢献することができるためである(大法院2019年4月10日付2017マ6337決定)。
本件の請求原因の当否を判断するためには、原告が本件特許発明の共同発明者に該当するか否かと原告の寄与率等を審理・判断する必要があり、このためにはまず本件特許発明の技術内容を確定し、原告がその発明の技術的課題を解決するための具体的な着想を新たに提示・付加・補完したか、実験等を通じて新たな着想を具体化したか、又は発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法の提供若しくは具体的な助言・指導を通じて発明を可能にしたか等を総合的に詳察すべきである。
このように、本件の審理・判断には特許権等に関する専門的な知識や技術に対する理解が必要であるため、本件訴えの控訴事件は特許法院の専属管轄に属する。それにもかかわらず、原審は、本件第1審判決に対する控訴事件を実体に踏み入って判断した。このような原審判決には、専属管轄に関する法理を誤解した誤りがある。
専門家からのアドバイス
韓国は、法院組織法の改正により特許法院の管轄集中制度を導入することにより、2016年1月1日から(1)特許権等に関する審決取消訴訟に加えて、(2)特許権等に関する民事事件の控訴事件まで特許法院の専属管轄とすることとなった(法院組織法第28条の4)。このうち(1)に属する事件は、法令上その範囲が明確である(法院組織法第28条の4第1号)が、(2)に属する事件、すなわち「特許権等に関する民事事件」の範囲をどこまでとするかについては若干の解釈の余地があり得る。現在の実務上では、一般に特許侵害訴訟等と呼ばれる特許・実用新案・デザイン・商標に関する権利の侵害差止請求訴訟、損害賠償請求訴訟、信用回復措置請求訴訟等の民事訴訟控訴審(仮処分に関する抗告訴訟は除く)を特許法院で審理している。また、職務発明に関する補償金請求訴訟の控訴審も特許法院で審理している。
これに対して本件は、共同発明者が両当事者であり、かつ受領した補償金の総額は既に定められている状態において、共同発明者間でこれをいかに分配すべきかについてのみ争いがある事件であったことから、これを特許法院のような専門法院ではなく一般民事訴訟を担当する裁判部において審理・判断することは、特に問題がないとされる余地もあり得た。
しかし大法院は、本件控訴審が特許法院の専属管轄に属するという判断を示した。本大法院判決を通じ、特定の金銭の支払いを求める民事訴訟において、その請求原因が特許発明についての共同発明者としての持分に基づくものであれば、その民事訴訟の控訴審も特許法院の専属管轄である点が明確にされたといえる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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