知財判例データベース 訂正により追加した構成が新規事項の追加に該当して訂正が認められなかった事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(特許権者) vs 被告(特許庁長)及び被告補助参加人
- 事件番号
- 2022ホ6099登録訂正(特)
- 言い渡し日
- 2023年06月08日
- 事件の経過
- 請求棄却(確定)
概要
訂正により追加した構成は、明細書又は図面に明示的に記載されておらず、出願時の技術常識に照らしてみても明細書又は図面にそのような記載があるのと等しいものとして明確に理解できる事項に該当するとは認められないという理由で訂正が許可されなかった。
事実関係
原告の本件特許(韓国特許第1115288号)はモールデッド・リードレス・パッケージに関し、ダイパッド(230)、半導体チップ(210)、リード(245)等を構成要素とする。原告は、訂正審判を請求して本件特許の請求項1に「前記リードは前記ダイパッドの両側に対応するように配置され、前記ダイパッドの一側に配置されたリードは前記ダイパッドと一定の間隔で離隔するように配置され、前記ダイパッドの他側のリード[1]は前記ダイパッドとはんだによって連結されている」を追加する訂正をした。
被告は、ダイパッドと他側のリードが「はんだによって連結」されていることは明細書又は図面に記載されておらず、出願時の技術常識によっても推定できないので、上記の訂正は新規事項の追加に該当すると主張した。

これに対して原告は、半導体パッケージに関する多数の技術文献を証拠として提出し、「出願時の技術常識に照らしてみたとき、ダイパッドと他側(上記図で左側)のリードがはんだによって連結されることは自明であるので新規事項の追加に該当しない」と主張した。
判決内容
関連法理
特許発明の明細書又は図面の訂正は、その明細書又は図面に記載された事項の範囲で行うことができる(特許法第136条第3項)。ここで「明細書又は図面に記載された事項」とは、そこに明示的に記載されているものだけでなく、記載されてはいないものの出願時の技術常識に照らして通常の技術者であれば明示的に記載された内容から記載があるのと等しいものとして明確に理解できる事項を含むが、そのような事項の範囲を超える新規事項を追加して特許発明の明細書又は図面を訂正することは許容されない(大法院2014年2月27日言渡2012フ3404判決等参照).具体的な判断
(1) まず、本件訂正が本件特許発明の明細書及び図面に明示的に記載されているかについて検討する。本件特許発明の明細書には、ダイパッド(230)の一側がリード(245)の一側と連結している構成を第3の実施例で記載しており、「ダイパッド(230)の一側はリード(245)の一側と連結し、ダイパッドの他側はリード(245)と一定の間隔で離隔している」と記載され、ダイパッドの一側に配置されたリードがダイパッドと連結している特徴が示されているが、その連結手段や連結方法に関しては記載されていない。また、本件特許発明の図面([図6])にも、モールデッド・リードレス・パッケージのダイパッドの一側に配置されたリードがダイパッドと一体に形成されてダイパッドと連結する構成だけが示されているだけで、ダイパッドとは別の分離した構成であるリードがはんだによってダイパッドと連結されることは示されていない。従って、本件訂正は明細書又は図面に明示的に記載されていない。(2) 次に、本件特許発明出願当時の技術常識に照らしてみたとき、通常の技術者であれば本件特許発明の明細書及び図面から本件訂正のような記載があるのと等しいものとして理解することができるかどうかについて検討する。
本件特許発明はダイパッド(230)の一側がリード(245)の一側と連結しているモールデッド・リードレス・パッケージに関する図面として[図6a]~[図6e]を提示しているが、一般に図面において斜線が続いている構成は一体に形成された構成を示す方法として用いるものに他ならず、別個に形成された構成が連結していることを示すための手段として用いるものではないので、通常の技術者がこのような図面から「別個に形成されたダイパッドとリードがはんだによって連結されている」と推定することはない。

また、本件特許発明の明細書及び図面には、はんだによってダイパッドとリードを連結する旨の記載は見出せないのに対し、はんだによって(a)半導体チップ(210)をダイパッド(230)の上部表面(230a)上に付着する(段落番号[0028]、[0040]、[図5]、[図6d]、[図6e])こと、(b)パッケージをシステムボーダーに実装する(段落番号[0046]、[0048])こと、(c)クリップ(255)と半導体チップ(210)、クリップ(255)とリード(240)を連結する(段落番号[0051]、[0058]、[図6d]、[図6e])ことが記載されており、図面においては、符号[はんだ(265)]を用いてはんだによって連結することを示している。したがって本件特許発明の明細書及び図面には別個に形成された構成をはんだによって電気的に連結する技術的特徴を開示しているので、通常の技術者が、本件特許発明の明細書及び図面の内容からはんだによってダイパッドとリードを連結すると理解することは難しい。
また、[図6e]に示されたモールデッド・リードレス・パッケージのダイパッドとリードのように一体に形成された構成ははんだによって接合する必要性がなく、甲第9~13号証[2]に示された半導体パッケージの図面によっても、半導体パッケージ分野において一体に形成できない構成をはんだによって接合するということがわかる。したがって、通常の技術者が甲第9~13号証を参酌したとしても、本件特許発明の明細書又は図面から半導体パッケージ内でダイパッドとリードがいかなる手段で連結しているのか、あるいはいかなる方法で連結しているのか等を把握又は推定することもできない。原告の主張は、理由がない。
(3) したがって、本件訂正は、本件特許発明の明細書又は図面に明示的に記載されている事項でないだけでなく、通常の技術者が本件特許発明出願当時の技術常識に照らして甲第9~13号証を参酌したとしても、本件特許発明の明細書又は図面に記載されているのと等しいものとして理解することができる事項であると認めることもできない。本件訂正は、ダイパッドとリードをはんだによって連結するという特徴を導入したものであることから新規事項の追加に該当する。
専門家からのアドバイス
新規事項の追加禁止は、特許出願後の補正及び登録後の訂正に適用される要件であり、この要件に関する判断基準は本判決において引用された大法院判例を通じて確立している。具体的には、「明細書又は図面に明示的に記載されているものだけでなく、記載されてはいないものの出願時の技術常識に照らして通常の技術者であれば明示的に記載されている内容からそれと同じ記載があるのと等しいものとして明確に理解できる事項」に該当するかが、新規事項であるか否か判断する基準となる。
したがって、訂正によって追加した構成が明細書又は図面に明示的に記載されていない場合には、当該追加構成が出願時の技術常識であるという主張だけではその訂正が認められるのに不十分であって、当該追加構成が、明細書又は図面に記載されている他の内容や技術常識までを総合したときに明細書又は図面に記載されているのと等しいものとして明確に理解できるという点を立証する必要がある。このような新規事項の追加に相当し得る補正や訂正を行う際に、本判決は実務上参考になる。
注記
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図6eにおいてダイパッド(230)の左側に連結され同一の斜線でハッチングされている部分を意味する(図中にはその部分を「リード」とする表示は付されていない)。
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原告が技術常識を立証するために提示した文献である。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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