知財判例データベース 本件登録商標は、コーヒーの昔の名称と認識されるとか又はコーヒーに関するものと直感されるという証明がないので性質表示には該当しないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告・被上告人 個人A vs 被告・上告人 B社
事件番号
2023フ11074
言い渡し日
2024年01月11日
事件の経過
確定(上告棄却)

概要

特許法院は、本件登録商標を構成する「ヤンタングク(注1)」という用語はその登録決定日である2015年6月9日当時を基準として一般需要者においてコーヒーの昔の名称と認識されるという点、又は指定役務の性質をコーヒーに関連するものと直感させる程度に認識されるという点が証明されたとは認められず、そのような証明がない以上、公益上特定人にその表示を独占させることが不当であるともいえないため、本件登録商標は旧商標法第6条第1項第3号、第7号に該当しないと判断した。
大法院は、原審の法院である特許法院の判断に誤謬がないとして上告を棄却した。

事実関係

被告は、原告を相手取り本件登録商標の無効審判を請求した。特許審判院は、本件登録商標はその指定役務である「コーヒー専門店業、カフェ業」等で取扱う商品(コーヒー)又は「簡易食堂業、韓国料理店業」等で提供するデザートメニュー(コーヒー)等に関連して、指定役務の性質等を普通に用いられる方法により表示した性質表示標章に該当し、一般需要者又は取引者等が役務の広告、広報又はサービス提供の過程でありふれて使用する標章又は必要な表示であって誰もがこれを使用する必要があるので、公益上特定人にこれを独占使用させることは適当でないと判断し、被告の請求を認容した。
本件登録商標は、下表のとおりである。

出願日/登録日 権利者 標章 指定商品
2014年9月12日
2015年6月15日
原告 ヤンタングクのハングル標章
(ヤンタングクのハングル)
第43類
コーヒー専門店業、カフェ業、簡易食堂業、韓国料理店業、喫茶店業、レストラン業等

判決内容

関連法理

ある商標が旧商標法第6条第1項第3号又は同項第7号で規定する商標登録を受けることができない商標に該当するか否かは、その商標が有する観念、指定商品との関係及び取引社会の実情などを勘案し一般需要者の認識を基準として客観的に判断しなければならない。
ある商標が指定商品の品質・原材料・効能・用途等を暗示又は強調するように見えるとしても、全体的な商標の構成から見るとき一般需要者が指定商品の単純な品質・原材料・効能・用途等を表示するものと認識することができないものは、旧商標法第6条第1項第3号の記述的商標に該当しない。
社会通念上、自他商品の識別力を認められ、公益上特定人にその商標を独占させることが不当でないと認められる場合、その商標は識別力のない商標に該当しない。
商標の識別力は、商標が有する観念、商品との関係、当該商品が取引きされる市場の性質、取引実態と取引方法、商品の属性、需要者の構成及び商標使用の程度などにより変わり得る相対的・流動的なもので、商標が旧商標法第6条第1項各号の識別力要件を備えているか否かに関する判断の基準時点は、原則的に商標に対し登録可否を決定する決定時である。したがって、商標が過去に一時使用されたことがある商品の名称等からなるという事情だけで、直ちに一般需要者が登録決定日当時を基準としてその商標を商品の性質を表示するものと認識するとか、公益上特定人にその商標を独占させることが不当であると断定するのではなく、商標登録無効審判を請求する当事者が、旧商標法第6条第1項第3号又は同項第7号の理由に該当する具体的事実を主張・証明する責任を負う。

判断

原審は、その判示のとおりの理由により、本件登録商標は標章を「ヤンタングクのハングル標章」とし指定役務を役務類区分第43類の「簡易食堂業、喫茶店業」等とするところ、原審において提出された証拠だけでは本件登録商標を構成する「ヤンタングク」という用語が本件登録商標の登録決定日である2015年6月9日当時を基準として一般需要者にサービスに供される物品等であるコーヒーの昔の名称と認識されるという点、又は指定役務の性質をコーヒーに関連するものと直感させる程度に認識されるという点が証明されたとは認められず、そのような証明がない以上、公益上特定人にその表示を独占させることが不当であるとも認められないため、本件登録商標は旧商標法第6条第1項第3号、第7号に該当しないと判断した。
原審の判決理由を上記の法理と記録に照らしてみると、原審の判断に上告理由の主張のように旧商標法第6条第1項第3号、第7号の商標登録要件に関する法理を誤解したり、必要な審理を尽くさずに論理と経験の法則に反して自由心証主義の限界を逸脱する等により判決に影響を及ぼした誤謬はない。したがって上告を棄却する。

専門家からのアドバイス

かつて使用されていた、商品の昔の名称は、その当時を知る者が見れば確かにその商品の名称と認識するであろう。しかし、商品の昔の名称は、その年月の経過に従い一般需要者や取引者にとってその商品の名称を想起し得るか否かの程度に変化が生じることがあり、その結果、その名称が商品の性質を直感させるのか、それともその商品の性質を暗示・強調する程度に留まるかの判断は分かれる場合がある。このため、商品の昔の名称であるという理由だけをもってしては、一律的にその商品の性質を直感させると認定することはできず、また、商品取引上何人も必要な表示であるため特定人に独占使用させることが公益上妥当でないと断定することも必ずしも妥当でない。
このような観点において大法院は、商標が昔の一時に使用されていた商品の名称等である事情だけをもって、直ちに一般需要者がその商標を商品の性質表示であると認識するものとは認定せず(商標登録決定日基準)、また、公益上特定人がその商標を独占することが不当であると断定せずに、これらについては商標登録無効審判を請求する者が、旧商標法第6条第1項第3号又は同項第7号の理由に該当する具体的事実を主張・証明する責任があると判示した。
すなわち本件は、商標が昔の商品の名称等からなる場合に、それを単に記述的標章やその他識別力がない標章とみなすべきが争点とされたもので、大法院がこうした争点について具体的に検討し商標登録を認めた事例として意味がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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