知財判例データベース 積極的権利範囲確認審判において、確認対象発明の説明書及び図面を総合的に考慮して、確認対象発明が特定されているものと判断した大法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A vs 被告 B株式会社
事件番号
2021フ10725権利範囲確認(特)
言い渡し日
2023年12月28日
事件の経過
破棄差戻し

概要

被告が実施する発明を確認対象発明として、確認対象発明が原告の特許発明の権利範囲に属する旨の確認を求める積極的権利範囲確認審判において、特許審判院は、確認対象発明が被告の実施発明と相違するため確認の利益がないことを理由として審判請求を却下した。これに対して原告は審決取消訴訟を提起したが、特許法院は、確認対象発明が具体的に特定されているとはいえないことを理由とし、被告が確認対象発明を実施しているか否かを判断する必要なしに不適法な審判であるとして原告の請求を棄却した。原告は不服を申し立てて上告し、これに対して大法院は、特許法院が審決で判断していない事項であるとしても確認対象発明が特定されているか否かを職権により審理・判断できるとした上で、確認対象発明は社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に具体的に特定されているとし、原審判決を破棄・差戻しした。

事実関係

原告は「広告提供システム及びその方法」を発明の名称とする発明について、2008年7月16日付で特許登録を受けた。原告は、2019年8月21日付で被告を相手取り、被告の実施する確認対象発明が特許発明の権利範囲に属するとして積極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院は、原告の審判請求は被告が実施しているとはいえない発明を対象としたものとして確認の利益がなく不適法であるとし、原告の審判請求を却下する審決をした。原告はこれを不服として、特許法院に審決取消訴訟を提起した。特許法院は、確認対象発明が社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に具体的に特定されていないことから、審判請求に確認の利益があるか否かに関してはさらに判断する必要なしに審判請求が不適法であることを理由とした上で、審判請求を却下した審決は結論的に正当であると判断した。原告は、特許法院の判決に対して大法院に上告した。

原告の特許発明の請求項1は、下記の通りである。

請求項1

使用者端末に広告を提供するシステムにおいて、
上記使用者端末にウェブページ及び基本広告コンテンツを提供し、上記使用者端末により付加広告コンテンツを活性化するための上記基本広告コンテンツに対する使用者アクションに反応して、上記付加広告コンテンツを上記使用者端末に提供し、上記使用者アクションに対するアクション情報-上記アクション情報は上記基本広告コンテンツの露出/クリック回数及び上記付加広告コンテンツの露出/クリック回数を含む-を収集するコンテンツ提供装置と、
上記基本広告コンテンツと上記付加広告コンテンツを上記コンテンツ提供装置に提供し、上記アクション情報に基づいて上記基本広告コンテンツ及び上記付加広告コンテンツの広告提供者に対するそれぞれの課金を行う広告提供装置と、を含む広告提供システム。

確認対象発明の技術構成に関する主要内容は、確認対象発明の説明書中における「確認対象発明の構成」という項目として、①図1(確認対象発明である広告提供システムの構成図)を参照して確認対象発明の構成要素を説明する部分、②確認対象発明を構成する基本広告コンテンツ、マウスオーバー、付加広告コンテンツ、マウスオーバーに関連したPC使用者の行為情報、課金部の課金遂行等に対して定義又は説明する部分、及び③図2~図9を参照して確認対象発明のコンテンツ提供装置がPCに提供するウェブメインページ、基本広告コンテンツ及び付加広告コンテンツの例に関して説明する部分からなっている。

特許法院は、下記の根拠を挙げて、確認対象発明が具体的に特定されていないと判断した。

  1. 特許権に関する積極的権利範囲確認審判請求は、被審判請求人が実施している形態を確認対象発明として特許発明の権利範囲に属するかの判断を求めるものでなければならず、被審判請求人の実施形態を具体的に特定しないまま、あたかも特許願書の請求の範囲のようにその説明書を記載した確認対象発明でもって、上記判断を求めるものであってはならない。確認対象発明の構成要素を説明する部分である構成図の記載は、請求項1の発明の請求の範囲の記載方式と記載程度に従って作成されたものと認められるところ、構成図の記載において使用された用語、すなわち付加広告コンテンツ、基本広告コンテンツ、使用者の行為情報及び課金遂行等の用語は、具体的な実施形態としてのコンテンツ・情報の形態や基本・付加の関係及び課金遂行の方式等を示すものになるとはいい難いものであり、このような構成図の記載のみによっては他のものと区別され得る程度に確認対象発明の技術構成を客観的・一意的に把握することは難しい。
  2. 確認対象発明の説明書は、基本広告コンテンツ、付加広告コンテンツ等の技術的意味が一意的に把握され難い用語を使用した上で、タブ連係広告コンテンツを「タブブラウジング」する「タブ領域」は基本広告コンテンツに、及び、当該タブ連係広告コンテンツは付加広告コンテンツに、それぞれ該当するものとして記載しているといえる。ところが、上記の「タブ領域」は、一般にタブ連係広告コンテンツを変更するための補助手段に過ぎず、それ自体が広告コンテンツに該当するとはいい難いものである。仮に上記のような「タブ領域」が基本広告コンテンツに含まれるとしても、「タブ領域」の露出回数はどのように測定されるか、「タブ領域」と「タブ連係広告コンテンツ」の各広告主に対する課金遂行が個別にどのように行われるか等に関する具体的な技術構成を特定しておらず、結局、技術構成全体との有機的関係において基本広告コンテンツがいかなる技術的意味を有するかも客観的・一意的に把握し難い。
  3. 定義・説明の記載において、付加広告コンテンツとは「PCに提供された基本広告コンテンツとマッチングされてポップアップ(Pop-up)形式により提供される広告コンテンツ」と定義していながらも、ここで使用されている「ポップアップ形式」という用語に関する定義や説明が特にない。確認対象発明において「ポップアップ形式」という用語が客観的にいかなる技術的意味を有するものとして使用されているかが明確に把握し難く、それにより、確認対象発明において付加広告コンテンツがいかなる技術的意味を有するものとして使用されているのか、及び、基本広告コンテンツと付加広告コンテンツとの間の基本・付加関係が具体的にいかなる技術的意味を有するのかについても、客観的・一意的に把握し難い。
  4. 定義・説明の記載において、マウスオーバーに関連したPC使用者の行為情報とは「課金部が各広告コンテンツの広告主に対して課金を行うために収集される情報」と定義し、課金部は「マウスオーバーに関連したPC使用者の行為情報に基づいて課金を行う」と説明しているところ、これは上記行為情報及び課金遂行の技術的意味とその有機的関係に関して同語反覆に近い表現をしているのに過ぎない。また、課金遂行の基礎となる行為情報には「各広告コンテンツの露出回数が必須で含まれる」とし、又は課金遂行において生成される課金情報には「各広告コンテンツの露出回数、露出回数当たりの広告費用(広告単価)、広告主の形態が含まれる」と記載されている。したがって、確認対象発明の説明書に明示的に記載された上記露出回数等は、それ以外のものが含まれた行為情報ないし課金情報までもその技術構成とするとはいえないため、行為情報ないし課金情報に関する技術構成を客観的・一意的に把握できない。

判決内容

大法院は、まず特許法院が審決で判断していない事項であるにもかかわらず確認対象発明が特定されているかを職権により審理・判断したことについて、審決取消訴訟の審理範囲に関する法理を誤解するかとか、又は判断が欠落する等といった誤りはないと判断し、下記法理を提示した。
『審判は特許審判院における行政手続であり、審決は行政処分に該当し、それに対する不服の訴訟である審決取消訴訟は抗告訴訟に該当し、その訴訟物は審決の実体的・手続的違法性の有無であることから、審決取消訴訟の当事者は審決で判断されていないものであってもその審決の結論を正当又は違法とする事由を審決取消訴訟の段階において主張・証明することができ、審決取消訴訟の法院は、それと判断を異にするだけの特別な事情がない限り、制限なしにこれを審理・判断して判決の基礎とすることができる(大法院2009年5月28日付言渡2007フ4410判決等参照)。特に、確認対象発明が適法に特定されているか否かは、特許審判の適法要件であるため、当事者の明確な主張がなくてもその疑いがあるときには、特許審判院や法院がこれを職権により調査して明らかにしなければならない事項である(大法院2013年4月25日付言渡2012フ85判決等参照)』

上記に続いて、大法院は、確認対象発明が具体的に特定されていないとした特許法院の判断には誤りがあると判断した。

具体的に大法院は、確認対象発明の特定に関し下記の法理を提示した。
『特許権の権利範囲確認審判を請求する場合、審判請求の対象となる確認対象発明は、当該特許発明と互いに対比することができる程度に具体的に特定されているのみならず、それに先立ち社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に具体的に特定されていなければならない(大法院2011年9月8日付言渡2010フ3356判決等参照)。確認対象発明が特定されているかは、確認対象発明の説明書と図面とを一体として把握し、これを総合的に考慮して判断すべきであるため、確認対象発明の説明書に不明確な部分があるか、又は説明書の記載と一致しない一部の図面があるとしても、確認対象発明の説明書に記載された残りの内容と図面とを総合的に考慮し、確認対象発明が特許発明の権利範囲に属するか否かを判断することができる場合には、確認対象発明は社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に特定されているというべきである(大法院2020年5月28日付言渡2017フ2291判決等参照)』

続いて大法院は、下記の判断に基づき、確認対象発明は社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に具体的に特定されていると認めるのが妥当であると判断した。

  1. 確認対象発明中の基本広告コンテンツについては、その説明書にウェブメインページの特定位置に固定的に存在し広告関連内容を含んでいるものとして記載されており、図面においてもウェブメインページの特定位置に固定された広告タブ部分を示すものとして特定されており、説明書と図面を総合的に考慮すれば、いかなる技術構成と意味を示すか把握するのに特に困難はない。
  2. 付加広告コンテンツについても、その説明書には基本広告コンテンツ上にマウスポインターを置くことによって(以下「マウスオーバー」という)基本広告コンテンツに関連して付加的に示される広告を意味するものとして記載されており、説明書に記載された用語が不明確であるということもできず、図面によっても基本広告コンテンツに関連してマウスオーバーによって既存の画面にはなかった内容が新たな画面として提供されるものとして、相互に矛盾する又は一致しない内容であるとは認め難いため、説明書と図面を総合的に考慮すれば、社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別されることに支障はないといえる。
  3. 課金部については、図面に課金部の構成がシステム全体の構成図中の一部として含まれており、その説明書には具体的な構成全部が記載されてはいないが、マウスオーバーに関連した使用者の行為情報を収集して最終広告費用を精算し、課金を行う内容があり、たとえ細部的な技術構成全部は分からないとしても、説明書の内容と図面を総合的に考慮すれば、社会通念上、他のものと区別され得る程度の具体性自体は否定し難い。

上記に基づき、大法院は、確認対象発明が社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別され得る程度に具体的に特定されているといえるとした上で、原審において確認対象発明が特定されておらず審判請求は不適法であり却下されるべきであると判断したことは、確認対象発明の特定に関する法理を誤解し、必要な審理を尽していないことによって判決に影響を及ぼした誤りがあると判断した。

専門家からのアドバイス

韓国で特許権者が請求する積極的権利範囲確認審判は、被請求人の実施する確認対象発明が特許発明の権利範囲に属する旨の確認を求める審判である。積極的権利範囲確認審判においては、①確認対象発明が特定されていること、及び②確認対象発明が被請求人の実施主張発明と同一であることが審判請求要件とされており、これらの要件を満足しない場合には、本案審理をせずに却下審決がなされる。一方、これらの審判請求要件を満たしている場合には、本案審理として確認対象発明が特許発明の権利範囲に属するかを判断し、権利範囲に属さないと判断された場合には棄却審決がなされる。
本件において特許法院は、特許審判院が判断しなかった確認対象発明の特定について判断を行ったところ、大法院は、かかる判断は審判請求要件に関するものであることから、特許法院での職権判断が可能であるとした。
しかし、特許法院における確認対象発明の特定に係る判断は、確認対象発明の説明書と図面に記載された用語等の技術的意味が客観的かつ一意的には把握し難いとして確認対象発明が特定されているとは認めなかったところ、これについて大法院は、確認対象発明の説明書と図面を総合的に考慮すれば、社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別されることに支障がないとして、確認対象発明が特定されているものと認めた。
権利範囲確認審判は、現在、日本にはない制度であるが、韓国ではよく利用されており、本件のような事例はその実務を理解するのに役に立つ。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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