知財判例データベース 本件デザインは無断盗用による無権利者のデザイン出願に該当するので、その登録が無効とされるべきであると判断された事例

基本情報

区分
意匠
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2022ホ6259
言い渡し日
2023年09月14日
事件の経過
確定(2023年10月7日)

概要

特許法院は、原告代表理事Cは、被告側で創作した模倣対象デザインを模倣して本件登録デザインを出願しただけで本件登録デザインの創作者であるとは認め難く、他に原告が本件登録デザインについて創作者である被告社員Dからデザイン登録を受ける権利を継承したと認めるだけの資料もないところ、本件登録デザインは無権利者によるデザイン出願に該当するので、その登録が無効とされるべきであると判断して原告の請求を棄却した。

事実関係

被告は、「本件登録デザインは原告がその出願前に模倣対象デザインを被告からE-Mailを通じて伝達され、これを無断で盗用して出願し登録を受けたので、その登録が無効とされるべきである」と主張して特許審判院に無効審判を請求し、特許審判院は被告の請求を認容した。

本件登録デザインと被告社員Dが原告代表理事Cに送ったE-Mailに添付の模倣対象デザイン(「電力用半導体パッケージ」に関するデザイン)は、下表のとおりである。

本件登録デザイン

斜視図 正面図 背面図
本件登録デザイン(斜視図) 本件登録デザイン(正面図) 本件登録デザイン(背面図)
左側面図 右側面図 平面図 底面図
本件登録デザイン(左側面図) 本件登録デザイン(右側面図) 本件登録デザイン(平面図) 本件登録デザイン(底面図)

模倣対象デザイン

図1 図2
模倣対象デザイン図1 模倣対象デザイン図2

判決内容

関連法理

デザイン保護法第3条第1項本文は、デザインを創作した者又はその承継人は、デザイン保護法で定めるところにより、デザイン登録を受けることができる権利を有すると規定し、第121条第1項第1号は、第3条第1項本文の規定によるデザイン登録を受けることができる権利を有さない者が出願してデザイン登録を受けた場合を、デザイン登録無効事由の1つとして規定している。一方、デザイン保護法第2条第1号は、「デザイン」とは、物品の形状・模様・色彩又はこれらを結合したものであって、視覚を通して美感を起こさせるものをいうと規定している。このため、デザイン保護法第3条第1項で定めている「デザインを創作した者」は、デザインの全体的な審美感に影響を及ぼす要部乃至支配的な特徴部分を着想するか、その着想を具体化した者を意味し、たとえデザインの創作過程でアイデアを提供して助言をするなど一部に寄与していたとしても、デザインの審美感に影響を及ぼす要部乃至支配的な特徴部分を着想し具体化してデザインを完成するのに実質的な寄与をしなかったのであれば、創作者と認めることができない。

判断

  1. 認定事実
    1. Eは車両の「モータ駆動強力運転操向装置」(以下、MDPSという)用電子式リレーモジュール製品を開発するために、2016年3月4日頃、電子式リレーモジュールの基本的なデザインの外観、寸法、電気的仕様等が記載された標準設計要求仕様書を被告に提供した。
    2. 被告は、上記設計要求仕様書に基づいて電子式リレーモジュールの外観及び内部回路構成を設計した3D図面を作成し、2016年4月15日に上記図面を含んだMDPS用リレーモジュール提案書及び設計問題点の対策等の資料をEに送付した。
    3. 被告は、2016年4月19日頃、電子式リレーモジュールのサンプル製作及び構造解析等を原告に依頼し、被告社員Dは、下記のような電子式リレーモジュールの2D図面を原告代表理事Cに送付した。
    4. 乙第5号証の2(最初図面) 乙第6号証の2(修正図面)
      乙第5号証の2(最初図面) 乙第6号証の2(修正図面)
    5. 原告代表理事Cは、2016年4月25日及び2016年5月3日に被告にそれぞれメールを送り、同メールに添付の構造解析結果報告書には下記のような図面が含まれていた。
    6. 甲第5号証 乙第9号証
      甲第5号証 乙第9号証1 乙第9号証2
    7. 被告社員Dは、原告代表理事Cに対し、模倣対象デザイン図面を添付して「修正した3Dデータを共有する」旨のメールを送った。
    8. 原告は、2016年5月23日、模倣対象デザインと実質的に同一のデザインである本件登録デザインを出願した。

  2. 原告代表理事Cは模倣対象デザインの創作者であるか否か
    1. 被告社員Dは、Eから電子式リレーモジュール開発の依頼を受けたため、提供されたデザインに基づいて、物品の左右の側面に円形の位置固定用リブ(rib)を形成したデザインを創作するとともに、上記デザインにおいて左側と右側の側面にアルファベットU字状に窪んでいる「U字形スロット」部分を、被告社員Dは、Eから電子式リレーモジュール開発の依頼を受けたため、提供されたデザインに基づいて、物品の左右の側面に円形の位置固定用リブ(rib)を形成したデザインを創作するとともに、上記デザインにおいて左側と右側の側面にアルファベットU字状に窪んでいる「U字形スロット」部分を、左側と右側の側面の一部を外側に突出させ、その内側に「円形組立孔」を形成するものに変更して、模倣対象デザインの全体的な審美感に影響を及ぼす支配的な特徴部分の着想を具体化した。のように左側と右側の側面の一部を外側に突出させ、その内側に「円形組立孔」を形成するものに変更して、模倣対象デザインの全体的な審美感に影響を及ぼす支配的な特徴部分の着想を具体化した。
    2. 原告代表理事Cは、被告側が提供した電子式リレーモジュールの図面により構造解析作業を進め、ボルトトルクを加えるときに受けるセラミック基板のストレスを減らすために基板とボルティング部分(U字形スロット部分)の間隔を広げた方が良いというアイデアを被告側に提供した。ただし、上記のようなアイデアが、ただちに模倣対象デザインの「円形組立孔」のような形態のデザインに対する着想の提示に該当すると認めることは困難である。基板とボルティング部分(U字形スロット部分)の間隔を広げるデザインは、多様な形態を想定することができるためである。
    3. 被告は、電子式リレーモジュール開発の依頼をHから受けて具体的なデザイン仕様をE側と持続的に協議して決定していく地位にあった一方、原告は、上記電子式リレーモジュールの開発過程において被告から構造解析等、一部の過程の依頼を受けて行う者の地位にあったに過ぎず、Eや被告側の意志決定なしにはデザインの細部的な内容を任意に決定できなかったものと認められる。実際に、Eが提示した最初のデザインから模倣対象デザインに至るまで、デザイン変更過程の全ての図面は被告側で作成したもので、原告は被告から送付されたデザインに対して構造解析結果に応じた意見を提示する役割をしただけで、デザインの具体化に実質的に寄与したとは認められない。
    4. 原告は、原告代表理事Cが模倣対象デザインを創作したと主張しながらも、円形組立孔が含まれた電子式リレーモジュールデザインの創作過程を裏付けることができる図面やスケッチ、メモ等を全く提出できずにいる。

  3. 検討結果の総合
  4. 原告代表理事Cは、被告社員D等、被告側で創作した模倣対象デザインを模倣して本件登録デザインを出願しただけで本件登録デザインの創作者であるとは認め難く、他に原告が本件登録デザインに関して創作者である被告社員Dからデザイン登録を受ける権利を継承したと認めるだけの資料もない。したがって、本件登録デザインは無権利者によるデザイン出願に該当する。

結論

本件登録デザインは、無権利者の出願によるものであるため、デザイン保護法第3条第1項本文、第121条第1項の規定によって無効とされるべきである。

専門家からのアドバイス

本件は、いわゆる冒認出願に関するケースである。すなわち正当な権利を有さない者による冒認出願は登録が認められないとされるが、特許庁の審査過程でこれを判別するのは事実上困難である。このため冒認出願に対して権利が付与された場合、その後に真の権利者が出願をしたとしても、先願規定や公報発刊による新規性喪失を理由として権利を取得できない可能性がある。本件の場合は、真の権利者である被告が創作したデザインを、上述の図面のとおり原告がそのまま模倣したものと認められたため、原告のデザイン登録出願は無効とすることができた。

冒認出願の場合に備えて、韓国のデザイン保護法では真の権利者の保護のために下記のような規定を置いている。以下に関連条文を日本の意匠法ともに比較対比するので、実務において参考にされたい。

韓国デザイン保護法(一部抜粋) 日本意匠法(一部抜粋)
第62条(デザイン登録の拒絶決定) 審査官は、デザイン審査登録出願がデザイン登録を受ける権利を有さない者による場合は、デザイン登録拒絶決定をしなければならない。 第十七条 審査官は、その意匠登録出願人がその意匠について意匠登録を受ける権利を有していないときは、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
第44条(無権利者のデザイン登録出願及び正当な権利者の保護) デザイン創作者ではない者であって、デザイン登録を受けることができる権利の承継人ではない者(以下「無権利者」という)がしたデザイン登録出願がデザイン登録拒絶決定又は拒絶すべき旨の審決が確定した場合には、その無権利者のデザイン登録出願後にした正当な権利者のデザイン登録出願は、無権利者がデザイン登録出願した時にデザイン登録出願したものとみなす。ただし、デザイン登録の拒絶決定又は拒絶すべき旨の審決が確定した日から30日が過ぎた後に正当な権利者がデザイン登録出願をした場合には、この限りでない。
第45条(無権利者のデザイン登録及び正当な権利者の保護) ※第44条と同一の趣旨。即ち、登録デザインを無効とする審決(取消決定審決を含む)が確定した場合、正当な権利者のデザイン登録出願について、第44条と同様に適用される。
第二十六条の二 (中略) 第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当するときは、当該意匠登録に係る意匠について意匠登録を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その意匠権者に対し、当該意匠権の移転を請求することができる。
第121条(デザイン登録の無効審判) ①利害関係人又は審査官は、デザイン登録がデザイン登録を受けることができる権利を有さない者による場合、無効審判を請求することができる。 第四十八条 意匠登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その意匠登録を無効にすることについて意匠登録無効審判を請求することができる。(1~2、4号は省略)
三 その意匠登録がその意匠について意匠登録を受ける権利を有しない者の意匠登録出願に対してされたとき。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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