知財判例データベース 確認対象標章は本件登録商標と非類似であるため本件登録商標の権利範囲に属しないとされた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2023ホ81
言い渡し日
2023年09月08日
事件の経過
確定(2023年9月26日)

概要

特許法院は、本件登録サービスマークと確認対象標章は外観・称呼・観念がいずれも異なりその標章が互いに類似しないので、確認対象標章は本件登録サービスマークの権利範囲に属しないと判断した。

事実関係

被告は、確認対象標章は原告の本件登録サービスマークの権利範囲に属しない旨の消極的権利範囲確認審判を請求した。
特許審判院は、確認対象標章は本件登録サービスマークと類似しないため本件登録サービスマークの効力が確認対象標章に及ばないという理由で被告の上記審判請求を認容する本件審決をした。
本件登録サービスマークと確認対象標章は、下表のとおりである。

区分 本件登録サービスマーク 確認対象標章
標章 本件登録サービスマーク 確認対象標章
指定商品/
使用商品
商品区分第35類 加工した穀物卸売小売業、加工した食肉卸売小売業、清涼飲料卸売小売業等 食品卸売小売業、
大型割引スーパー業

判決内容

関連法理

商標の類否は、その外観、称呼及び観念を客観的、全体的、離隔的に観察し、その指定商品の取引において一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準とし、その商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがあるかにより判断しなければならないので、対比される商標間に類似の部分があるとしても、その部分だけでは分離認識される可能性が希薄であるか、又は全体的に観察するとき出所の混同を明確に回避することができる場合には類似商標であるとはいえない。

確認対象標章が本件登録サービスマークの権利範囲に属するか

  1. 認定事実
    被告は商号である「ホームプラス(Homeplus)」を営業標識として全国に大型割引スーパーを運営しているところ、2022年3月の1ヶ月間で、一日平均65万人の顧客が全国のホームプラス及びホームプラスエクスプレス(小型店)を訪れている。被告は2022年2月頃からホームプラス内部の食料品売り場を大規模にリニューアルした。被告は食料品売り場に乳製品コーナー、野菜コーナー、海産物コーナー、ワインコーナー等を設け、通称して「ホームプラス メガフードマーケット」と呼び、確認対象標章を内部/外部の垂れ幕やちらし等に使用している。

  2. 判断
    被告の確認対象標章については、上記の認定事実等によって把握される以下の事情を総合すれば、確認対象標章は一般需要者や取引先にとって「MEGA FOOD MARKET」と認識されるよりかは「Homeplus MEGA FOOD MARKET」全体として認識されていると認めるのが相当である。
    1. ①確認対象標章の「MEGA FOOD MARKET」部分は、それぞれ「非常に大きい(MEGA)」、「食品(FOOD)」、「市場(MARKET)」という意の英語単語が結びついたもので、全体的に「非常に大きい食品市場」という観念を形成し、これは「大型割引スーパー業、食品卸売小売業」に関連してその役務の性質を直感させる。

    2. 被告は大型割引スーパーの店内に乳製品コーナー、野菜コーナー、海産物コーナー、ワインコーナー等からなる大規模な食料品売り場を設け、確認対象標章を上記のように構成された大規模食料品売り場を通称する標章として使用している。

    3. 被告は、確認対象標章とその音訳である「ホームプラス メガフードマーケット」をその全体のまま使用しており、「MEGA FOOD MARKET」だけを分離して使用してはいない。さらに被告は、垂れ幕やちらし等に確認対象標章を使用する際、「世界のすべての味が全部ある」という表現等を併記している。このため、「大型割引スーパー業、食品卸売小売業」の一般需要者や取引先は、確認対象標章の「MEGA FOOD MARKET」部分を「非常に大きな食品市場」という売り場の性質を表現したものであると、より容易に直感することができる。

    4. 確認対象標章のうち「MEGA FOOD MARKET」部分は、特別な図案化なしに平凡な書体でのみ表記されている。

    5. 確認対象標章を構成している「Homeplus」部分は、大型割引スーパー業と関連し、一般需要者や取引先に広く知られた周知の商標であって非常に強い識別力を有する。これに照らしてみると、商標を簡略な称呼や観念で記憶しようとする一般需要者の取引慣行を勘案しても、一般需要者が識別力が強い「Homeplus」部分を省略し、あえて識別力が微弱な「MEGA FOOD MARKET」部分だけで確認対象標章を略称または観念するとは認められない。

    6. 結局、一般需要者は、確認対象標章をその全体として「ホームプラスが運営する非常に大きな食品市場」と認識すると認めるのが相当である。

  3. 本件登録サービスマークと確認対象標章の対比
    本件登録サービスマークと確認対象標章は以下でみるように外観、称呼、観念がすべて相違することから、本件登録サービスマークは確認対象標章に対してその標章が互いに類似しない。
    1. 本件登録サービスマークと確認対象標章は、結合された英語単語数、アルファベット数、分かち書き、英文字大文字と小文字の混合使用等において異なるため、外観が類似しない。

    2. 本件登録サービスマークは「メガマーケット」と呼称される反面、確認対象標章は「ホームプラス メガフードマーケット」と呼称されるので、呼称が類似しない。

    3. 本件登録サービスマークは「非常に大きな(mega)市場(market)」と観念され、確認対象標章は「ホームプラスが運営する非常に大きな食品売り場」という意味に観念されるので、観念もまた類似しない。

  4. 結論
    確認対象標章と本件登録サービスマークは互いに類似しないため、確認対象標章は本件登録サービスマークの権利範囲に属しない。

専門家からのアドバイス

本件で争われた確認対象標章は、韓国でよく知られた大型マートの店名ブランドであって、本件は韓国では非常に日常的な事案であったといえる。
具体的に本件では確認対象標章が登録サービスマークの権利範囲に属するか否かについて、上述したように主に標章の類否について判断がなされており、こうした法院の判断方法は実務に参考になる。また、本件に関連して韓国の権利範囲確認審判制度と日本の判定制度の違いを理解しておくことも有意味であると思われる。
日本では1959年の判定制度の導入により権利範囲確認審判制度がかなり古くに廃止されているが、韓国ではこの審判制度が現在も利用されており、本件のように第三者自らが実施又は使用する標章について登録権利の権利範囲に属しない旨の確認を求める消極的権利範囲確認審判と、逆に権利者が第三者に対して権利範囲に属する旨の確認を求める積極的権利範囲確認審判制度が運営されている。
こうした韓国での権利範囲確認審判制度は、速やかかつ安価に紛争解決が図れることや、紛争の未然防止又は早期終結に貢献するという点でその役割が果たすところが大きいと評価されている。一方で、日本の判定制度の判定結果が日本特許庁の公的な見解として法的拘束力を持たないのと同じように、韓国の権利範囲確認審判の審決は法院の判断を拘束するものではない点で共通する。
特筆すべきこととして、日本の判定制度では裁判所に不服を申し立てる手続きは存在しない反面、韓国の権利範囲確認審判の審決に対しては法院に不服申立が可能で、本件も特許法院の判決であって、法院での争いに発展する可能性がある点は韓国の実務として事前に把握しておく必要がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195