知財判例データベース 本件登録商標は取消審判請求日前3年以内に国内において指定商品について正当に使用された事実が証明されないため、その登録が取り消された事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 個人B
事件番号
2022ホ6464
言い渡し日
2023年05月11日
事件の経過
確定(2023年8月21日)

概要

被告は、本件登録商標は、審判請求日前3年以内に使用されなかったため商標法第119条第1項第3号に該当するとともに、原告が故意に本件登録商標の指定商品について、本件登録商標を対象商標に類似するように変形させた標章を表示して使用し、需要者をして商品出所の誤認・混同を生じさせるおそれがあるものであるため商標法第119条第1項第2号にも該当すると主張した。
特許法院は、商標法第119条第1項第3号の取消事由に関連して、原告が提出した証拠は広告の文言がない又は審判請求日前3年以内の使用当否とは関係がない証拠であるか、使用主体と使用日等を確認することができないもので、これらの証拠だけでは本件登録商標が審判請求日前3年以内に国内において正当に使用されたと認めるには足りないため、同項第3号に該当してその登録が取り消されるべきであると判断し、商標法第119条第1項第2号の取消事由に関しては判断しなかった。

事実関係

被告は原告を相手取り、特許審判院に被告の本件登録商標は商標法第119条第1項第2号及び第3号に該当すると主張して本件登録商標に対する登録取消審判を請求し、特許審判院は本件登録商標は商標法第119条第1項第3号に該当するので他の理由を詳察するまでもなくその登録が取り消されるべきであると判断した。本件登録商標及び対象商標は、下表のとおりである。

区分 本件登録商標(40-702743号) 対象商標(40-1019049号)
標章 本件登録商標の標章 対象商標の標章
指定商品 第28類 釣り竿等 第28類 釣り竿等
商標権者 原告 株式会社C(以下「日本C」という)

判決内容

関連法理

商標法第119条第1項第3号は「商標権者・専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品について取消審判の請求日前に継続して3年以上国内において使用していない場合」、その商標登録を取り消すことができるように規定しており、同条第4項本文は上記規定に該当することを理由として取消審判が請求された場合、被請求人が当該登録商標を取消審判請求に係る指定商品のうち1以上について、その審判請求日前3年以内に国内において正当に使用したことを証明しない限り商標登録の取り消しを免れることができないと規定しているところ、ここで言う商標の「使用」とは、商標法第2条で規定している①商品又は商品の包装に商標を表示する行為、②商品又は商品の包装に商標を表示したものを譲与し、若しくは引き渡し、又は電気通信回線を通じて提供する行為、又はこれらの目的で展示・輸出若しくは輸入する行為、③商品に関する広告・定価表・取引書類、その他の手段に商標を表示し、展示し、又は広く知らせる行為をいう。
登録商標が商標法第119条第1項第2号の規定に該当するためには、①商標権者が登録商標の指定商品に、その登録商標と同一の商標ではない類似の商標を使用し、又はその指定商品と同一の商品ではない類似の商品に登録商標若しくはそれと類似の商標を使用しなければならず、②その結果、需要者をして商品の品質に対する誤認又は他人の業務に関連した商品との混同を生じさせるおそれがなければならず、③上記のような登録商標の不正使用が商標権者の故意によるものであることが認められなければならない。

本件登録商標が商標法第119条第1項第3号に該当するかについての判断

次のような理由により、本件登録商標は審判請求日(2020年12月31日)前3年以内に国内において正当に使用されたと認めるには足りず、その他にこれを認める証拠がない。

  1. 甲第14号証は、原告がカカオトークのメッセンジャーを利用して、「D」というIDを使用する対話相手に大会広報ポスターを送ったと主張する証拠である。しかし、当該証拠だけでは実際に当該広報ポスターが対外的に掲示されたとは認めるに足りず、当該メッセージをいつ送ったかについても明確でない。たとえ原告が大会広報ポスターを掲示していたとしても、当該ポスターには指定商品の写真が含まれているだけで指定商品を知らせる広告文言がないので、当該ポスターを掲示した行為が、指定商品に関する広告に商標を表示して展示し又は広く知らせる行為に該当するとは認められない。
  2. 原告が提出したその他の証拠は、原告による審判請求日前3年以内の本件登録商標の使用有無とは関係がない証拠であるか、撮影又は作成日や商標の表示有無自体を確認することができない証拠である。
  3. 乙第3号証によれば、原告が実質的に運営していたとみられるEという業者のホームページに、本件登録商標の指定商品に属し、本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」を利用した標章が表示された商品が掲示されている事実と、当該ホームページの下段バナーに原告が2020年頃FG区庁長に通信販売業申告をしたことを意味する「通信販売業申告番号:第2020-FG-00410号」という表示が記載されている事実は認められる。
    しかし、当該ホームページには下記のように本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」と対象商標とを結合した標章が表示された商品が多数掲示されているが、原告は2015年以降はこのような標章を使用しなかったと自認している。
  4. 乙第3号証
    本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」と対象商標とを結合した標章1 本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」と対象商標とを結合した標章2 本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」と対象商標とを結合した標章3

    さらに、日本Cは原告との関連訴訟(商標権侵害差止等請求訴訟)において、本件で提出された映像と同じものとみられるEのホームページキャプチャ映像を証拠として提出したところ、これに対し原告は関連訴訟において、当該ホームページ映像は原告の配偶者が内部的に製作中であったホームページを日本C側がキャプチャしたもので、当該ホームページは2020年末までは不特定多数に公開されることを念頭に置いていなかったものである旨を主張している。したがって、当該ホームページが商品の販売や広告等のために外部に公開されたものであるか自体が不明である。

  5. 乙第4, 5号証によれば、本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」を利用した標章が表示された商品がインターネットに掲示され又は販売店に陳列された事実は認められる。しかし、当該実使用標章が本件登録商標と同一性が認められるかは別論として、当該証拠には商品をインターネットに掲示し又は販売店に陳列した主体が誰であるか、及びその掲示された日付又は撮影した日付を確認できる何らの記載もない。さらに、当該証拠に現れた多くの商品には、本件登録商標の英文字部分である「Marufuji」と対象商標とを結合した標章が表示されているが、原告が2015年以降は上記のような標章を使用していないと自認したことがある。

結論

本件登録商標は、被告の取消審判請求日前3年以内に国内においてその指定商品に正当に使用された事実が証明されないことから、商標法第119条第1項第3号によりその登録が取り消されるべきである(商標法第119条第1項第3号により本件登録商標サービスマークの登録を取り消す以上、商標法第119条第1項第2号の取消事由に関しては判断しない)。

専門家からのアドバイス

韓国の商標法第119条第1項第3号は、日本の商標法第50条第1項と類似する規定であり、日本の当該条文では「継続して三年以上(日本国内において)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる」と規定している。本件は、こうした登録商標の不使用による取消しを争った事例であり、結果として、登録商標の正当な使用の事実が証明されなかったことから、当該商標登録は取り消されることとなった。
韓国での登録商標不使用による取消審判の実務にあたっては、日本の実務との違いを押さえておくことが必要である。
まず韓国では、不使用取消審判請求後における商標権者の再度の商標登録に時期的制限が設けられており、韓国の商標法第34条(商標登録を受けることができない商標)第3項は「商標権者又はその商標権者の商標を使用する者は、第119条第1項第3号の規定に該当するという理由により商標登録の取消審判が請求され、その請求日以後に①存続期間が満了し商標権が消滅した場合、②商標権者が商標権又は指定商品の一部を放棄した場合、③商標登録の取消しの審決が確定した場合のいずれかに該当するに至った場合、その商標と同一・類似の商標(同一・類似の商品を指定商品として再び登録を受けようとする場合に限る)については、その該当するに至った日から3年が過ぎた後に出願することによってのみ商標登録を受けることができる。」と規定している。
一方、日本の商標法第50条第3項は、商標権者等の「駆け込み使用」を禁止する規定であり、「第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする」と規定しているが、韓国の商標法にはこのような規定はない。
こうした日本の商標法との実務上の違いを確認しておくと、本事例の理解に役立つものと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195