知財判例データベース 先行発明の明細書に記載された従来技術の構成を参酌して発明の進歩性を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者)vs 被告(審判請求人)
事件番号
2022ホ3588登録無効(特)
言い渡し日
2023年03月10日
事件の経過
請求棄却(審決確定)

概要

特許法院は、特許発明と進歩性の判断対象になる主先行発明との相違点に該当する構成の一部が主先行発明の明細書に従来技術として紹介されている事情と、上記相違点に該当する構成が同一技術分野の副先行発明にも開示されているという点を考慮して、主先行発明と副先行発明の結合によって該特許発明を容易に導き出すことができると判断した。

事実関係

原告の対象特許は、山の傾斜面の崩壊の予防及び緑化工事に使用されるコンクリートブロックに関するものである。従来のコンクリートブロックは、ブロック間の接合部が90度に近い角度に形成されており運搬及び施工時に接合部分が衝突によって破損する場合が多かった点、及び、傾斜面に沿って流れる雨水の流速を遅らせる対策が不十分であった点等を解決しようとする問題として、請求項1は以下の構成からなっている。

対象特許の請求項1

護岸(shore protection)等に使用するキャストストーン(cast stone)を配置したコンクリートブロックにおいて、
上記コンクリートブロックの単位ブロックは、面部(2)及び基盤(3)で構成され、外型を同一の形状にして上下左右に連続付着施工を可能にした直線からなる多角形状で、
それぞれのブロック(1)の基盤(3)の接合部はジグザグ状として雨水通路を形成し、それぞれのコーナーの部分を45度に面取りすると同時に、上記単位ブロックの外周部と上記キャストストーンの間には堤防部を設け、上記堤防部の頂上部をジグザグ状に、側面部を波形にし、(中略)コンクリートブロック。

護岸(shore protection)等に使用するキャストストーン(cast stone)を配置したコンクリートブロックにおいて、上記コンクリートブロックの単位ブロックは、面部(2)及び基盤(3)で構成され、外型を同一の形状にして上下左右に連続付着施工を可能にした直線からなる多角形状で、それぞれのブロック(1)の基盤(3)の接合部はジグザグ状として雨水通路を形成し、それぞれのコーナーの部分を45度に面取りすると同時に、上記単位ブロックの外周部と上記キャストストーンの間には堤防部を設け、上記堤防部の頂上部をジグザグ状に、側面部を波形にし、(中略)コンクリートブロック。

これと対比される主先行発明である先行発明1は、同一の技術分野のコンクリートブロックに関するもので、ブロックの一部のコーナー(1411)が45度に面取りされているが、残りは90度に近い角度に形成されており、雨水通路に該当する構成が明示されていない。一方、副先行発明である先行発明6には、個別のコンクリートブロックとしてコーナーが45度に面取りされた構成が開示されている。

これと対比される主先行発明である先行発明1は、同一の技術分野のコンクリートブロックに関するもので、ブロックの一部のコーナー(1411)が45度に面取りされているが、残りは90度に近い角度に形成されており、雨水通路に該当する構成が明示されていない。一方、副先行発明である先行発明6には、個別のコンクリートブロックとしてコーナーが45度に面取りされた構成が開示されている。

特許審判院は、先行発明1、6により対象特許の請求項1の進歩性を否定し、これに対して特許権者(原告)が審決取消訴訟を提起した。

判決内容

  1. 原告は、本件特許発明の基盤接合部に形成されたジグザグ状の雨水通路が先行発明1に示されていないと主張する。
    しかし、本件特許発明の明細書の請求項の記載及び[図1、3、4、5、10、11]に示された内容によると、本件請求項1の特許発明において雨水通路は基盤と基盤の間の接合部に形成されるところ、先行発明1にはブロックをなす基盤の断面がほぼ梯状という記載があって、同一の多角形単位のブロックを上下左右に結合させているところ、先行発明でも連続する単位ブロックの対面する基盤の接合部にジグザグ状の通路が形成されることが自明で本件特許と同一になるため、原告の主張は理由がない。
  2. 本件特許発明と先行発明1の対応構成要素は、ブロックをなす基盤のコーナーの部分を45度に面取りした点で同一でありながらも、本件特許発明はそれぞれのコーナーを45度に面取りしているのに対し、先行発明1の[図4]では右側挿入孔(6)の上面が面取りされており、先行発明1の対応構成要素はコーナーの一部のみ45度に面取りしている点で差がある(以下「差異」とする)。
    これについて検討したところ、①先行発明1の「従来技術」において、覆土ブロックの隅のそれぞれに面取部を形成してフックを設けていることから、ブロック分野において面取りは具体的な目的に応じて容易に採択される設計要素であることを示唆しており、②先行発明1と同一の技術分野に該当する先行発明6において、ブロックの全てのコーナーに折角面(a)を形成している点を考慮すると、上記差異は当業者が具体的な設計環境に応じて容易に設計変更できる事項に過ぎないもので、先行発明1に先行発明6を結合して容易に克服できるといえる。

専門家からのアドバイス

本判決は韓国における最近の進歩性の判断実務に沿ったものといえ、その判断では特許発明と主先行発明との共通点及び相違点を把握した上で、相違点に該当する構成が当該技術分野の技術常識や他の先行発明の開示内容から容易に導き出されるか否かを判断しており、特に新たな法理の提示したものではない。ただし進歩性判断において注目すべき点として、本判決は、特許発明と主先行発明との相違点に該当する構成が主先行発明の明細書に従来技術として言及されている場合における進歩性判断の方法について判示しており、この点につき参考にする価値があると思われる。
具体的には、本件において対象特許はコンクリートブロックの全てのコーナーを45度に面取りして運搬及び施工時の破損を防止していたのに対し、主先行発明である先行発明1は、一部のコーナーのみ45度に面取りし残りのほとんどのコーナーは面取りされていなかったが、先行発明1の明細書の従来技術として他の目的(フックの設置)のためにすべてのコーナーを面取りする構成が紹介されていた。加えて、同一技術分野の先行発明6に、すべてのコーナーが面取りされたブロックが開示されており、これらの点を総合的に参酌して、対象特許の発明の進歩性が否定されることとなった。
本判決は、特許発明と先行発明を対比して進歩性を判断する際において、当該先行発明に従来技術として言及された内容についても十分な検討が必要であることを示した事例だといえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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