知財判例データベース 本件登録デザインは、先行デザインと当該デザイン分野の公知形態とを結合することにより容易に創作できるものとして登録が無効とされた事例

基本情報

区分
意匠
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2022ホ5102
言い渡し日
2023年05月11日
事件の経過
確定(2023年6月6日)

概要

原告は、被告の本件登録デザインは先行デザイン1ないし4に類似して新規性がなく、また、先行デザイン4に先行デザイン1から3の構成のうち装飾バンドを結合して容易に創作できるデザインに該当するという理由で特許審判院に無効審判を請求したが、特許審判院は原告の請求を棄却した。
原告は審判段階では提出しなかった先行デザイン5ないし14を追加して特許法院に審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は、本件登録デザインは先行デザイン4に先行デザイン1、2、3、5と当該デザイン分野の公知形態とを結合することにより容易に創作することができるものであるため、その登録が無効とされるべきであると判断した。

事実関係

被告の本件登録デザインと原告が提出した先行デザインは、下表のとおりである。

区分 出願日等 斜視図 側面図
本件登録デザイン 2023.3.9 本件登録デザインの斜視図 本件登録デザインの側面図
先行デザイン1 2010.3.30 先行デザイン1の斜視図 先行デザイン1の側面図
先行デザイン2 2010.3.2 先行デザイン2の斜視図 先行デザイン2の側面図
先行デザイン3 2011.9.20 先行デザイン3の斜視図 先行デザイン3の側面図
先行デザイン4 2010.3.2 先行デザイン4の斜視図 先行デザイン4の側面図
先行デザイン5 1978.1.31 先行デザイン5の斜視図 先行デザイン5の側面図

判決内容

関連法理

旧デザイン保護法第5条第2項は、通常のデザイナーが第1項第1号若しくは第2号に該当するデザイン(以下「公知デザイン」という)の結合により、又は国内で広く知られた形状・模様・色彩若しくはこれらの結合により容易に創作できるデザインは登録を受けることができないと規定している。この規定の趣旨は、公知デザインの形状・模様・色彩若しくはこれらの結合(以下「公知形態」という)や、国内で広く知られた形状・模様・色彩若しくはこれらの結合(以下「周知形態」という)をほぼそのまま模倣若しくは転用し、又はこれらを部分的に変形したとしても全体的に見るときその他の美感的価値が認められない商業的・機能的変形に過ぎず、又はそのデザイン分野でありふれた創作手法や表現方法により変更・組み合わせ若しくは転用したものに過ぎないデザイン等のように、創作水準が低いデザインは、通常のデザイナーが容易に創作することができるものであることからデザイン登録を受けることができないということにある。
さらに、公知形態や周知形態を互いに結合し、又はその結合された形態を上記のように変形・変更若しくは転用した場合も、創作水準が低いデザインに該当し得るが、その創作水準を判断する際には、公知デザインの対象物品や周知形態の知られた分野、公知デザインや周知形態の外観的特徴の関連性、当該デザイン分野の一般的傾向等に照らして通常のデザイナーが容易にそうした結合に達し得るかを併せて検討しなければならない。

判断

  1. 本件登録デザインと先行デザイン4の図面対比
    本件登録デザインと先行デザイン4は、①全体的な形状において靴の後ろ部分を開放し、靴の前側に足の甲と指を一体に覆うアッパーを設け、踵にかけることができるバンド型リングをアッパー部の左右側面に結合して前後に回転できるようにした点、②アッパー部に13個の円形通気孔を同一の配置で形成した点、③靴のミッドソールにその高さの1/5程の太さの線模様を施した点、④バンド型リングの幅の中央に凸状の線形状がある点等で共通する。
    しかし、(a)本件登録デザインは靴のミッドソールの前部から側面1/3程度の地点まで装飾バンドがある一方、先行デザイン4にはそのような装飾バンドがない点、(b)本件登録デザインは靴のミッドソールを横切る線模様がミッドソールの高さの上から1/5~2/5程度の地点に配置されている一方、先行デザイン4ではミッドソールの真ん中に配置されている点、(c)本件登録デザインはバンド型リングの幅が、踵にかかる中央部において残りの部分より多少広く形成されている一方、先行デザイン4では幅が一定である点等で相違する。
  2. 相違点の検討
    相違点(a)は、次の事情に照らしてみると、通常のデザイナーが先行デザイン4に先行デザイン1、2、5の構成のうちの装飾バンド部分と当該デザイン分野の公知形態とを結合して容易に創作することができる。
    先行デザイン1、2、5には、以下のように装飾バンドが現れている。

    本件登録デザイン 先行デザイン1 先行デザイン2 先行デザイン5
    本件登録デザイン 先行デザイン1 先行デザイン2 先行デザイン5

    本件登録デザインと先行デザイン1、2、5の装飾バンドには、次のような違いがある。ⓐ本件登録デザインは装飾バンドの端部分を角だけ緩やかに丸みを帯びた斜線で処理した反面、先行デザイン1、2は装飾バンドの端部分が全体的に曲線又は弧を成すように処理され、先行デザイン5は装飾バンド端部分を斜線で処理している。ⓑ本件登録デザインは装飾バンドがミッドソールの一部を覆うが、高さがミッドソールよりわずかに低いため、ミッドソールの上部分が若干現れ、アウトソール(注1)は覆われないため全体が現れる。一方、先行デザイン1、2は装飾バンドとミッドソールの高さが同じであるためミッドソールが完全に覆われるがアウトソールは全体が現れ、先行デザイン5はミッドソールの一部が現れるがミッドソールと区別されるアウトソールは現れない。
    上記ⓐについて、本件登録デザインのように装飾バンドの端部分を角が緩やかに丸みを帯びた曲線で処理することは、本件登録デザインの優先権主張日前に公知となった下表の先行デザイン6、7、9、12に照らしてみるとき、靴デザインの分野で公知の形態又はありふれた創作手法と認められる。ⓑについても、装飾バンドの上側にミッドソールの一部が現れた形状は先行デザイン5や先行デザイン12で公知となっており、アウトソールの全体が現れる形状は先行デザイン1、2で公知となっている。通常のデザイナーがこれらの要素を結合するのに特別な困難があるとも認められない。

    先行デザイン6 先行デザイン7 先行デザイン9 先行デザイン12
    先行デザイン6 先行デザイン7 先行デザイン9 先行デザイン9

    相違点(b)に関連し、「靴のミッドソールを横切る線模様がミッドソールの上部分に配置されている形態」は、前述した先行デザイン6、7、9、12等にも表れているところ、ミッドソールの線模様を上下に移動させて配置することは靴デザインの分野で公知の形態又はありふれた創作手法と認められる。したがって、相違点(b)は通常のデザイナーが先行デザイン4にそのデザイン分野の公知形態を結合して容易に創作することができる。
    相違点(c)は、次の事情に照らしてみると、通常のデザイナーが先行デザイン4に先行デザイン1、2、3のうちいずれかを結合して容易に創作することができる。
    すなわち先行デザイン1、2、3には、バンド型リングの踵にかかる部分の幅がより広く形成された形態が表れている。本件登録デザインの場合、各先行デザインとは異なりバンド型リングが上辺側に向かってより広く開放されるような曲線からなり、このような変形は踵部分の摩擦を軽減させる効果をもたらすと予想される。しかしそのような部分的相違は、全体的にみるとき従来のデザインとは異なる美感的価値が認められるものではなく、特に需要者の注意を引くものでもない機能的変形に過ぎない。本件でも両当事者はその相違による美感上の違いに関して主張したものがない。

    結論

    本件登録デザインは、先行デザイン4に先行デザイン1、2、3、5と当該デザイン分野の公知形態とを結合することにより容易に創作することができるものであるため、旧デザイン保護法第5条第2項に違反し、同法第68条第1項第1号によりその登録が無効とされるべきである。

専門家からのアドバイス

当該デザイン分野で従来よりありふれて使用され様々なデザインが数多く考案されている物品等は、そのデザインの類似範囲を比較的狭く解釈しなければならないものとされている。ただし、これにより新規性が認められる場合であっても、そのデザインが属する分野で通常の知識を有する者が公知又は公用となっているデザインに基づいて容易に創作することができたデザインについては登録を受けることができないというのが、日韓両国の共通した判断方法である。
本件はそのような創作水準を判断する場合において、複数の公知デザインの外観的特徴の関連性や当該デザイン分野の一般的傾向等を考慮し、それらの公知デザインを容易に組み合わせて本件登録デザインに達し得るかを具体的に判断している点で、実務上の参考となる事例である。
なお、本件は関連する侵害訴訟も争われている。本件デザイン権者である本件被告のB社は、「A社が本件登録デザインに関するデザイン権を侵害した」という理由でA社を相手取りソウル中央地方法院に当該製品の使用差止と損害賠償等を請求する訴えも提起している。これについてソウル中央地方法院は「本件登録デザインは通常のデザイナーが先行デザインを結合して容易に創作することができるものであるため、それに基づく請求は権利濫用に該当する」という理由でB社の請求を棄却する判決を下し、当該判決に対してB社は控訴したが、特許法院は本件判決言渡し後の2023年8月にB社の控訴を棄却した(特許法院2022ナ1814判決。B社が上告を提起せず判決確定)。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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