知財判例データベース 訂正審判の結果が出るまで差戻無効審判の手続中止をする要請が認められなかったことが違法ではないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2022ホ2752登録無効(特)
言い渡し日
2023年03月17日
事件の経過
請求棄却(審決確定)

概要

特許審判院において特許有効審決が出た後、審決取消訴訟において審決が取り消され確定することにより差し戻された無効審判の手続において、特許権者は無効審判とは別途に請求した訂正審判の結果が出るまで無効審判の手続中止を要請したが、特許審判院はこれを認めず特許無効審決をした。特許権者は審決取消訴訟を提起して特許審判院の手続の違法性を指摘したが、特許法院はこれを棄却した。

事実関係

原告(特許権者)は、発明の名称を「脂肪吸込移植用注射器のピストン」とする本件特許に基づき、被告を相手取って2019年2月28日付で積極的権利範囲確認審判を請求した。被告はこれに対抗して2019年6月3日付で無効審判を請求し、その後、原告も訂正審判を請求して2つの事件が併行するようになった。2つの事件の流れを時系列的に整理すると、次の通りである。

無効事件 訂正事件
2019年06月03日 被告無効審判請求
2020年06月22日 請求棄却(特許有効、原告勝)
2020年07月23日 被告審決取消訴訟請求
2021年07月02日 審決取消(特許無効、原告敗)

2021年07月28日 原告上告提起
2021年11月11日 上告棄却(審決取消確定)
2021年12月07日 審判院の差戻審開始
2022年03月18日 請求認容(特許無効、原告敗)
2022年04月18日 審決取消訴訟(本件)




2021年07月16日 原告訂正審判請求





2022年09月27日 請求棄却(原告敗)
2022年10月27日 原告審決取消訴訟請求

原告は、訂正審判で訂正しようとした請求の範囲は進歩性が否定されないため、訂正審判の審決が確定するまでは特許審判院の無効事件(差戻審)の審理を中止したうえで、訂正事件の結果を考慮して審理判断すべきだったとし、それにもかかわらず、特許審判院が差戻審の手続を中止せず、直ちに特許無効の審決を下したことは、原告の権利を顕著に損なわせたもので違法であると主張した。加えて原告は、特許審判院の差戻審の手続において訂正事件の審決が確定するまで手続中止を求める旨の新たな主張及び証拠を提出したにもかかわらず、特許審判院が本件において新たな主張及び証拠が提出されていないとしたことは、手続的に審決の結論に影響を及ぼした違法があると主張した。

判決内容

関連法理

法院は、審決取消の訴えが提起された場合において、その請求が理由があると認めるときは判決をもって当該審決を取り消さなければならず、審判官は、審決の取消判決が確定したときは再び審理をして審決をしなければならず、上記取消確定判決において取消の基本となった理由は、その事件について特許審判院を羈束する(特許法第189条)。
一方、審決を取り消す判決が確定した場合の羈束力は、取消の理由となった審決の事実上及び法律上の判断が正当でない点において発生するものであるため、取消後の審理過程において新たな証拠が提出されて羈束的判断の基礎となる証拠関係に変動が生じる等の特段の事情がない限り、特許審判院は、上記確定した取消判決において違法であると判断された理由と同一の理由により従前の審決と同一の結論の審決をすることはできず、ここで新たな証拠とは、少なくとも取り消された審決が行われた審判手続ないしはその審決の取消訴訟において採択、調査されていないものであり、審決取消判決の結論を覆すに足りる証明力を有する証拠というべきである(大法院2002年12月26日付言渡2001フ96判決、大法院2008年6月12日付言渡2006フ3007判決など参照)。

判断

本件審決に手続的違法があったかを検討する。特許審判院が無効審判を審理している際に当該特許発明について訂正審判が請求されている場合に、訂正審判の結果が出るまで必ず当該手続を中止しなければならないとする何らの規定もない。加えて、本件の具体的経過を詳察しても、本件特許発明に関する進歩性を否定する旨の取消確定判決が出された後、原告が本件審決手続において新たな先行発明を提出する等により発明の進歩性について新たな主張を繰り広げた事実がなく、さらに原告の訂正審判は、その要件が満たされていないと判断されて結局棄却されている。このような点を総合してみると、特許審判院が本件審決を審理する過程において、訂正審判請求を理由とした原告の審判手続の中止要請にもかかわらず手続を中止せずに取消確定判決の趣旨に従って審決をしたことは、手続的に違法であるとはいえない。
また、原告が本件審決の手続において提出したと主張する証拠は、上記訂正審判が提起されて審理中にある旨の書面に過ぎず、先行判決の羈束的判断の基礎となる証拠関係に変動をもたらす「新たな証拠」とはいえないため、本件審決に原告の主張のようないかなる違法もあるとはいえない。
原告は、このような特許審判院の本件審決の手続が民事訴訟法第1条第1項の公正な手続保障の趣旨に反している旨も主張しているが、上記規定は、訴訟手続の「公正」のみならず「迅速」も強調しているところ、本件訂正発明を無効とした本件取消確定判決以降に、原告は本件審決の手続において特に新たな証拠を提出した事実もなく、速やかに手続を進めたことが民事訴訟法第1条に反するということもできない。
加えて、先行審決を取り消した特許法院の判決に対する上告が大法院において棄却されることによって上記取消判決はそのまま確定し、これによる差戻後の審判手続においては新たな主張や証拠が提出された事実がなく、特許審判院は取消確定判決において取消の基本となった理由に符合するように本件審決をしたところ、本件審決にはいかなる実体的違法もない。

専門家からのアドバイス

日本と同様に韓国でも特許無効審判が特許審判院に係属中の場合には、無効審判手続内での訂正請求のみ可能とされ、別途の訂正審判は請求できないが、韓国では特許無効審判の審決がされた後は別途の訂正審判請求が可能なものとされている。この場合、本件のように審決取消訴訟で無効審判の審決が取り消されて特許審判院に差し戻されると、無効審判と訂正審判が同時に係属中となり得るところ、無効審判の手続は中止となり得るであろうか。
これについて韓国の特許法では「審判長は、審判において必要があるときは、職権又は当事者の申立てにより、その審判事件に関連する特許取消の申立てについての決定又は他の審判の審決が確定し、又は訴訟手続が完結するまでその手続を中止することができる」(特許法第164条第1項)と規定されているだけで、本件判決でも判示されている通り、必ずしも手続を中止しなければならないわけではない。
この点に関連して、本件特許権者の立場を考えてみれば、特許権者は審判院で有効審決を受けたことから、別途の訂正審判は考えずにいたところ、審決取消訴訟で結論が覆されたため訂正審判を請求したのである。しかし、当該訂正審判の審理は行われないまま無効審判(差戻審)のみ進められたことには、特許権者は不満を有したであろう。しかし、法律の規定上、これは本件判決が判示した通り、手続的違法性があったとは認めがたい。
こうした本件判決を考慮すると、特許権者は、仮に特許審判院において有効審決を受けた場合でも、訂正が必要なときには、特許法院の審決取消訴訟中に迅速に訂正審判を申請することも検討する必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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