知財判例データベース 先行発明に対して構成の格別な相違点なしに用途や設置位置の違いだけでは、進歩性を認めることができないとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2022ホ3830登録無効(特)
言い渡し日
2023年03月10日
事件の経過
請求棄却(審決確定)

概要

特許発明は先行発明と比較して用途および設置位置に相違点があり、その相互間での転用が難しいため進歩性があると特許権者が主張した事案において、法院は、そのような相違点が特許請求の範囲の記載により限定されていなければ相違点として認めることは困難であり、仮に用途および設置位置の相違点があるとしても、それが発明の構成に影響を及ぼして先行発明と構成の相違点があるものとして認められない場合には、発明の進歩性が認められないと判断した。

事実関係

原告の対象特許は、火災時に建物の制煙区域に外気を送風して圧力を高めることによって、火災が発生した室内の煙が制煙区域に漏れ出すことがないようにする制煙設備において、外気を送風する送風機の風量を制御する「複合ダンパ」に関するもので、従来は風量を自動的にのみまたは手動的にのみ調整していた方式の問題を解決するために、自動作動開閉翼と手動作動開閉翼をいずれも備えるようにしたことを特徴とする。ただし、対象特許の請求項1には当該複合ダンパの用途や設置位置については何ら限定せずに、四角フレーム(11)の内側にそれぞれリンク機構により作動するように連結された自動作動開閉翼(12-1)と手動作動開閉翼(12-2)が備えられ、それぞれ自動開閉および手動開閉が行われるものと記載されている(従属項である請求項2では当該複合ダンパが「送風機の前に設けられる」と限定している)。

これに対して先行発明1は、建物の付属室に設置されて火災時に付属室での適正な差圧維持を行うための差圧ダンパに関するもので、対象特許の自動作動開閉翼に対応する防煙風速部(②)および差圧部開口調整ネジ(④)により手動で調節される差圧部(③)を備えた差圧ダンパの構成を開示している。

原告の対象特許は、火災時に建物の制煙区域に外気を送風して圧力を高めることによって、火災が発生した室内の煙が制煙区域に漏れ出すことがないようにする制煙設備において、外気を送風する送風機の風量を制御する「複合ダンパ」に関するもので、従来は風量を自動的にのみまたは手動的にのみ調整していた方式の問題を解決するために、自動作動開閉翼と手動作動開閉翼をいずれも備えるようにしたことを特徴とする。ただし、対象特許の請求項1には当該複合ダンパの用途や設置位置については何ら限定せずに、四角フレーム(11)の内側にそれぞれリンク機構により作動するように連結された自動作動開閉翼(12-1)と手動作動開閉翼(12-2)が備えられ、それぞれ自動開閉および手動開閉が行われるものと記載されている(従属項である請求項2では当該複合ダンパが「送風機の前に設けられる」と限定している)。これに対して先行発明1は、建物の付属室に設置されて火災時に付属室での適正な差圧維持を行うための差圧ダンパに関するもので、対象特許の自動作動開閉翼に対応する防煙風速部(②)および差圧部開口調整ネジ(④)により手動で調節される差圧部(③)を備えた差圧ダンパの構成を開示している。

被告は、対象特許の請求項1は先行発明1によって進歩性が否定されるという事由で無効審判を請求し、特許審判院はこれを認容した(特許無効)。これに対し、原告は特許法院に審決取消訴訟を提起し、複合ダンパ(風量調節用ダンパ)である本件請求項1の特許発明と自動差圧ダンパ(給気ダンパ)である先行発明1は、その設置場所、用途および形状、構成が全く異なり、適用される消防法規上の規定も相違し、両者の用途を入れ替えて設置することは該当分野の技術常識に反するので、先行発明1から本件請求項1の特許発明を容易に導き出すことができないと主張した。

判決内容

  1. 本件特許発明の請求項の「複合ダンパ」の解釈

    関連法理

    特許発明の保護範囲は、特許請求の範囲に記載されている事項によって定められる。特許請求の範囲は、特許出願人が特許発明として保護を受けようとする事項を記載したものであるため、新規性・進歩性を判断する対象である発明の確定は特許請求の範囲に記載されている事項によらなければならない。ただし、特許請求の範囲に記載されている事項は発明の説明や図面等を参酌しなければその技術的な意味を正確に理解できないことから、特許請求の範囲に記載されている事項はその文言の一般的な意味に基づいた上で、発明の説明と図面等を参酌しその文言で表そうとする技術的意義を考察した後、客観的・合理的に解釈しなければならない。しかし、発明の説明と図面等を参酌するとしても、発明の説明や図面等他の記載によって特許請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許容されない(大法院2012年12月27日言渡2011フ3230判決、大法院2019年10月17日言渡2019ダ222782、222799判決等参照)。

    判断

    本件特許発明の明細書に、本件特許発明は送風機の前に設置されて送風量を制御する複合ダンパに関する発明である旨の記載があるのは事実であるが、本件請求項1の特許発明の請求項にはそうした限定がない。
    本件特許発明の明細書には「複合ダンパ」に関する別途の定義がないところ、「ダンパ」の辞書的意味は「空気の方向・速度・量を調節するために導管(ダクト)内に設けられた手動あるいは自動式装置」を意味し、「複合」とは、「2つ以上を1つに合わせる」ことを意味する。
    一方、旧火災安全基準には「送風機の排出側には風量調節ダンパ等を設けて風量の調節をできるようにすること」と規定されており(甲第6号証、第19条第2号)、「風量調節ダンパ」という標準名称が活用されているが、本件特許発明の「複合ダンパ」が送風機の2次側に近い風道の部分に設けられる風量調節ダンパと同一であると限定して理解することはできない。
    このような点を総合してみれば、本件特許発明において「複合ダンパ」は自動と手動方式が複合して風量を調節するダンパとして、その設置場所や位置に限定がなく、多様な場所に設置可能であると解釈すべきである。
  2. 本件請求項1の特許発明の進歩性が否定されるか否か
    先に詳述したとおり、本件請求項1には「複合ダンパ」の設置場所や位置に関してこれを限定する何らの記載もなく、これを原告の主張のように送風機の出口側に設けられる風量調節ダンパとのみ解釈することはできず、多様な場所に設置可能な物品と判断するのが妥当である。仮に本件請求項1の特許発明が主に送風機の前に設けられる風量調節ダンパを前提としたものであったとしても、本件請求項1の特許発明と本件先行発明1は、制煙区域(60)[付属室]の差圧と防煙風速の維持のためにその制御対象を本件請求項1の特許発明のように建物全体とするか、あるいは先行発明1のように付属室とするかのように制御対象や規模において違いがあるだけである。両発明はいずれも、その出入口が閉鎖されている場合には手動作動開閉翼(12-2)[差圧部(③)]を用いて制煙区域(60)[付属室]の差圧を一定に維持し、その出入口が開かれている場合には自動作動開閉翼(12-1)[防煙風速部(②)]を作動させて一定水準の防煙風速を維持するためのもので、その技術分野と目的、各対応構成要素の機能および作用効果において違いがない点を考慮すると、両発明間で転用が可能であると認めることが妥当である。したがって、原告の上記主張は受け入れられず、本件請求項1の発明の進歩性は認められない。
  3. 本件請求項2の特許発明の進歩性が否定されるか否か
    物の発明である「複合ダンパ」について、本件請求項2には「送風機の前に設けられること」に限定している。物の発明に関する特許請求の範囲は原則的に発明の対象である物自体の構成(構造、性質等)を特定する方式で記載されなければならず(大法院2021年1月28日言渡2020フ11059判決参照)、「用途発明」に該当するためには物の知られていない用途を発見しなければならないところ、従来の自動または手動式ダンパが風量調節ダンパとして活用されており、本件請求項2に係る特許発明が複合ダンパを送風機の前に設けると限定したことは新たな用途を発見したものとは認めらない。また、物に対する用途の限定が発明の内容となるためには、その用途の限定が発明の内容に影響を与えられるものでなければならないが、本件請求項2に記載された「送風機の前に設けられる」限定は複合ダンパの構成に影響を与える事項ではないことから、発明の内容になるとも認められない。よって本件請求項2の発明の進歩性は認められない。

専門家からのアドバイス

特許請求の範囲を解釈するときには発明の説明と図面等を参酌することができるが、その場合であっても発明の説明や図面等の記載によって特許請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許されないというのが確立した判例の立場である。
これに関連し本事案では、請求項1には複合ダンパの用途や設置位置が限定されていなかったが、特許権者は明細書の記載に基づいて複合ダンパの用途および設置位置を先行発明との相違点として主張したところ、法院はこれを受け入れなかった。一方、従属項には複合ダンパの設置位置の限定があったが、これについては、かかる設置位置や用途の相違点が発明の内容(すなわち構成)に影響を与える事項ではないとして進歩性の判断に考慮されないと判断した。
本事案のように、機械装置や機構に係る物の発明は、先行発明に対して用途や設置位置の相違だけでは進歩性が否定される可能性が高く、当該用途や設置位置に適した構成上の特徴があることが要求されることになろう。したがって、そうした用途や設置位置に関する事項が特許請求の範囲に構成上の特徴として反映されるよう特許請求の範囲を作成する必要があるといえる。本事案はこの点を再認識させてくれる具体的な事例として参考になる。

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