知財判例データベース 本件出願商標「THE SHEPHERD UNDERCOVER」はSHEPHERD部分が要部でなく、先登録商標「図形+SHEPHERD」とは非類似とされた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 日本国、A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2022ホ3199
言い渡し日
2023年03月10日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、本件国際登録出願商標「THE SHEPHERD UNDERCOVER」は「SHEPHERD」部分が要部であると認めるに足りないので、全体観察によって先登録商標「図形+SHEPHERD」と類否を対比すべきであるが、両商標は外観、呼称、観念いずれも非類似なので、全体的に非類似であると認めるのが妥当であると判断して、原告の請求を認容した。

事実関係

本件国際登録出願商標に対して、特許庁の審査官は、先登録商標との関係で商標法第34条第1項第7号に該当するという理由により拒絶決定をした。

原告は特許審判院に上記拒絶決定の取消しを求める審判を提起したが、特許審判院は上記拒絶決定と同じ理由により原告の審判請求を棄却する審決をした。

本件国際登録出願商標と先登録商標の標章は、下表のとおりである。

本件国際登録出願商標 先登録商標
本件登録商標
(指定商品:衣類、履物等)
先登録商標
(指定商品:帽子、履物等)

判決内容

関連法理

商標の類否は、その外観、呼称、観念を客観的、全体的、離隔的に観察し、その指定商品の取引において一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準として、その商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるか否かによって判断しなければならない。
一方、2以上の文字または図形の組合せからなる結合商標は、その構成部分全体の外観、呼称、観念を基準として商標の類否を判断することが原則であるが、商標の中に、一般需要者に対しその商標に関する印象を生ぜしめたり記憶・連想させたりすることによりその部分だけで独立して商品の出所表示機能を行う部分、すなわち要部がある場合は、適切な全体観察の結論を誘導するためには要部をもって商標の類否を対比・判断する必要がある。また、商標の構成部分が要部であるか否かは、その部分が周知・著名かまたは一般需要者に強い印象を与える部分であるか、全体商標において高い比率を占める部分であるか等の要素を判断することに加え、他の構成部分と比較しての相対的な識別力水準や、それとの結合状態と程度、指定商品との関係、取引実情等までを総合的に考慮して判断しなければならない。

具体的判断

  1. 本件国際登録出願商標の要部に対する判断

    本件国際登録出願商標は、英字で構成された標章であり、特定部分が特異な書体・大きさ等で表されておらず、いずれも同じ書体で平易に表示されている。

    本件国際登録出願商標のうち「UNDERCOVER」の部分は、「(警察・政府等のために)秘密裏に行う、諜報活動の」等のような意味を有しており、上記の意味以外にも、国内で「下着」乃至「車のミッション、エンジン等主要機能品を保護するために機能品の下の部分に装着されるカバー」等の意味を有すると認められる。ところで、ネイバー、ダウム、グーグル等で「UNDERCOVER」を検索すると、国内で「UNDERCOVER」が下着等の意味として使用されているとは認められず、むしろ自動車部品の意味または「(警察・政府等のために)秘密裏に行う、諜報活動の」等の意味として使用されることが大多数であると認められる。また、インターネットポータルサイトでの検索結果と原告の国内販売内訳等を詳察すると、本件国際登録出願商標のうち「UNDERCOVER」の部分は、国内である程度認知度を取得したものと認められる。そうであれば、本件国際登録出願商標のうち「UNDERCOVER」の部分は、その指定商品に関連し、残りの部分と対比して相対的識別力が低いとは認め難い。
    本件国際登録出願商標のうち「SHEPHERD」の部分は、「羊飼い」を意味する英単語であり、韓国で「ドイツ原産の犬」を指す単語としても広く使用されており、衣類等の商標乃至製品名としても使用されている。そうであれば、本件国際登録出願商標の指定商品に関連し、「SHEPHERD」部分が残りの部分より特に識別力が高いとも認め難い。

    このような事情を総合すれば、本件国際登録出願商標の一部分が要部であると認めるのに十分とはいえず、他にこれを認めるだけの証拠がない。したがって、本件国際登録出願商標は全体観察により先登録商標と対比すべきである。

  2. 本件国際登録出願商標と先登録商標の類否

    次のような事情を総合すれば、本件国際登録出願商標と先登録商標は、外観・呼称・観念がいずれも異なり、商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるとはいえず、互いに非類似であると見るのが妥当である。

    • 本件国際登録出願商標は英文で構成された標章であり、先登録商標は羊形状の図形と英文「SHEPHERD」が上下に結合した形態であるところ、両標章は全体的に図形の有無、英文「THE」、「UNDERCOVER」の有無等によって外観が非類似である。
    • 本件国際登録出願商標は「ザ・シェパード・アンダーカバー」と呼称されると認められ、先登録商標は「シェパード」と呼称されると認められるところ、音節数が8音節と3音節で異なり、「ザ」及び「アンダーカバー」の有無等によって呼称も非類似である。
    • 本件国際登録出願商標は「秘密裏に働く羊飼い」乃至「秘密裏に働くドイツ原産の犬」を観念させるものと認められるが、先登録商標は図形と結合して単に「羊飼い」のみを観念させるものと認められ、観念も非類似である。

  3. 被告の主張に対する判断
    被告は、原告が取引界で「SHEPHERD」部分のみを使用したり、先登録商標の図形に類似した図形を共に使用したりしているので、本件国際登録出願商標の要部は「SHEPHERD」であると主張する。
    詳察したところ、原告が本件国際登録出願商標を「THE SHEPHERD」部分を大きく、「UNDUNDER」部分を小さく表示して使用したり、羊形状の図形を使用した事例も一部あることが認められる。しかし、そのような使用態様が、先登録商標との関係で商標法第119条第1項第1号の不正使用取消事由に該当する可能性は別として、上記のような事情だけでは、本件国際登録出願商標の要部が「SHEPHERD」部分であるとは認め難い。

結論

本件国際登録出願商標は、先登録商標との関係で商標法第34条第1項第7号に該当しない。

専門家からのアドバイス

本件は、結合商標「THE SHEPHERD UNDERCOVER」の類比判断が問題となった。 韓国大法院判例の見解によれば、商標の類否判断は全体観察を行うことを原則とするものの、当該商標に要部が存在する場合には、その部分が分離観察され得るか否かを問う必要なしに、要部のみを対比することで商標の類否を判断することができるものとしている。その理由は、商標の要部には、他の構成部分と関係なしにその部分だけで一般の需要者に際立って認識される独自的な識別力があるからという理由による。このため、商標の類否判断の際には要部が存在するか否かの判断が重要となる。
本件で特許法院は、本件出願商標を構成する「SHEPHERD」及び「UNDERCOVER」に関する取引界での使用態様、原告の実使用態様等に照らして、本件出願商標には要部に該当する部分がないと判断し、これにより商標の類否判断の原則である全体観察を通じて両商標の類否を判断した。本件は、全体観察と要部観察の関係や商標の類否判断時における要部の存否に関して具体的な判断事例を示したものとして、実務への参考となろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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