知財判例データベース 物の発明の請求項と対比する確認対象発明の説明書に記載されたその物の製造方法は、確認対象発明の理解を促進するに追加した敷衍に過ぎない
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告(審判被請求人、確認対象発明の実施者) vs 被告(特許権者)
- 事件番号
- 2019フ11541権利範囲確認(特)
- 言い渡し日
- 2022年01月14日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
特許権者は、物の発明の請求項に係る権利範囲の属否の確認を求める確認対象発明の説明書に物の構成とともにその物の製造方法も記載したのに対して、確認対象発明の実施者は、自身の実施する発明は当該説明書に記載されている製造方法とは相違する製造方法により製造されると主張した事案において、原審は「事実的観点」から確認対象発明と実際に実施する発明は相違するため確認の利益がないと判断したが、大法院は原審の判断を破棄した。
事実関係
被告である特許権者の対象特許は、窓のブラインド等に活用され得る「3次元立体型織物とその製造方法」に関するものである。被告は、製造方法の請求項は除外し、物(織物)の請求項1のみに基づいて確認対象発明がその権利範囲に属するという確認を求める審判を請求した。対象特許の請求項1の織物は、表面層、裏面層、及び上記表面層と裏面層とを連結する中間層により形成され、「上記中間層は第1中間層と第2中間層とにより形成」されるとなっている。
被告は、確認対象発明の説明書に確認対象発明の構成として対象特許の請求項1と同一の構成を記載し、2つの連結傾斜(第1連結傾斜及び第2連結傾斜)により2つの中間層を形成して織物を製造する方法も記載した。
これに対して原告(被告が確認対象発明の実施者であると主張している者)は、自身の実施する発明(以下「実施主張発明」)は4つの連結傾斜により4つの中間層を1つの組として製造されるものであり、確認対象発明とは相違するため、被告が請求した権利範囲確認審判は確認の利益がないと主張した。
![]() 310:第1中間層、311:第1連結経糸、 320:第2中間層、321:第2連結経糸 |
![]() C-1~C-4:中間層 |
被告主張の確認対象発明 | 原告主張の実施主張発明 |
特許審判院は、「製造方法が記載されている物の発明」の請求項(いわゆるPBP請求項)の解釈に関して大法院が提示した法理(すなわち、「製造方法が記載されている物の発明の特許要件を判断するにおいて、その技術的構成を製造方法自体により限定して把握するのではなく、製造方法の記載を含め請求の範囲の全ての記載により特定される構造や性質等を有する物として把握すべきである」大法院2015年1月22日付言渡2011フ927判決)を確認対象発明の特定にも類推適用し、中間層の構成単位が2つであれ4つであれ、最終生成物である織物の構造や性質には影響を及ぼさず、確認対象発明と実施主張発明は実質的に同一であると言うことができるため、確認の利益があると判断した。続いて、本件について、確認対象発明は被告の対象特許の請求項1の権利範囲に属すると判断した。
これに対し、原告(被審判請求人)は審決取消訴訟を提起し、特許法院は、確認対象発明と被審判請求人が実施している発明の同一性は、被審判請求人が確認対象発明を実施しているか否かの「事実確定」に関するものであるため、これら発明が事実的観点から同じであると言える場合に限ってその同一性を認めるべきである(大法院2012年10月25日付言渡2011フ2626判決等参照)という法理を示した。
これにより特許法院は、確認対象発明がたとえ「発明」という表現を使用していても、その実は特許発明のような「技術的思想」ではなく、技術的思想の範疇内に含まれる具体的な実施形態を言い、これは審判請求書に添付の説明書及び図面により特定される実施形態そのものを言うと認められる(大法院2002年10月22日付言渡2001フ1549判決参照)とし、したがって、積極的権利範囲確認審判において請求人が特定した確認対象発明の説明書に確認対象発明の構造だけでなく、これを製造する方法に関する具体的な記載がある場合、被請求人が上記説明書及び図面により特定した方法の通りに製造(実施)する物が確認対象発明として確定すると言えるのであり、そのような方法とは異なる方法により製造(実施)された物は、たとえその物性が実質的に確認対象発明に記載されている物と同一であるとしても、審判対象として特定した確認対象発明に含まれないといえると判示し、確認対象発明と実施主張発明は事実的観点から同一であるとは言えないため、確認の利益がないと判断し、審決取消判決を下した。
これに対し、被告(特許権者)は上告を提起した。
判決内容
- 特許法第135条が規定している権利範囲確認審判は、特許権の効力が及ぶ範囲を対象物との関係において具体的に確定するもので、その対象物は審判請求人が審判の対象とした具体的な実施形態である確認対象発明である(大法院1991年3月27日言渡90フ373判決等参照)。特許権者は業として特許発明を実施する権利を独占し(特許法第94条第1項)、特許発明が物の発明である場合には、その物を生産・使用・譲渡・貸渡しもしくは輸入し、またはその物の譲渡もしくは貸渡しの申出をする行為が物の発明の実施であるため[特許法第2条第3号イ目]、物の発明の特許権は、物の発明と同一の構成を有する物が実施された場合、製造方法と関係なくその物に効力が及ぶ。したがって、物の発明の特許権者は、被審判請求人が実施した物をその製造方法と関係なく確認対象発明として特定し、特許権の権利範囲に属するか確認を求めることができ、このとき、確認対象発明の説明書や図面に確認対象発明の理解を促進するための敷衍としてその製造方法を付加的に記載しているとしても、そのような製造方法により製造した物のみが審判の対象である確認対象発明になるとは限らない。
- 上記法理と記録に照らして詳察する。
本件請求項1の発明の請求の範囲には「織造」、「製織」、「剪毛」等、製織工程に関連した記載があるが、これは物の発明である3次元立体形状織物の構造や形状、状態を具体的に表現したものに過ぎず、その物を製造するための一連の過程や段階を示していると言えず、これを製造方法の記載とは言い難い。仮に製造方法の記載であるとしても、その方法が本件請求項1の発明において請求する3次元立体形状織物の構造や性質に影響を及ぼすとは言えず、本件請求項1の発明の権利範囲は3次元立体形状織物という物自体に関すると言うべきである。被告らは原告を相手取り、「確認対象発明の説明書と図面に記載した3次元立体形状織物」を審判の対象である確認対象発明とし、確認対象発明が本件請求項1の発明の権利範囲に属するという確認を求める積極的権利範囲確認審判を請求した。被告らは、その説明書と図面において確認対象発明のうち本件請求項1の発明の構成要素に対応する部分の具体的な構成を記載して説明しており、これを通じて本件請求項1の発明の特許権の効力が確認対象発明に及ぶか否かを確認することができる。
一方、被告らは、図面3を参照して確認対象発明の3次元立体形状織物を製織する方法を説明する内容も確認対象発明の説明書に付加的に記載したところ、この部分は、本件請求項1の発明の構成要素に対応する部分ではなく、確認対象発明の理解を促進するために追加した敷衍に過ぎず、確認対象発明がそのような敷衍による製造方法により製造した物かによって物の発明である本件請求項1の発明の特許権の効力が及ぶか否かが変わることもない。したがって、上記のように付加的に記載した製造方法により製造した物のみが審判の対象である確認対象発明になるとは言えない。
- それにもかかわらず、原審は、上記のように付加的に記載した製造方法により製造した物のみを審判の対象である確認対象発明と限定して把握した後、原告が生産した製品(甲第4号証の写真の実物製品)がそのような製造方法により製造した製品である点を認める証拠がない等の理由により、原告は確認対象発明を実施していないと判断した。
このような原審の判断には、確認対象発明の把握に関する法理を誤解し、必要な審理を尽しておらず、判決に影響を及ぼした誤りがある。
専門家からのアドバイス
特許権者が、審判請求人として、審判請求の対象となる確認対象発明は特許発明の権利範囲に属する旨の積極的権利範囲確認審判を請求した場合、審判請求人が特定した確認対象発明と被審判請求人が実施している実施主張発明との間に同一性が認められない場合が想定される。この場合、確認対象発明が特許発明の権利範囲に属する旨の審決が確定するとしても、その審決は審判請求人が特定した確認対象発明に対してのみ効力が及ぶだけで、実際に被審判請求人が実施している実施主張発明に対しては何ら効力が及ばない。したがって、被審判請求人が実施していない発明を対象とした積極的権利範囲確認審判請求は確認の利益がなく、不適法で却下すべきであるというのが、韓国大法院の判例の確立した立場である(大法院2012年10月25日付言渡2011フ2626判決)。
一方、本件のように物の発明に対する確認対象発明を物の製造方法によって説明する場合があるところ、PBP(プロダクト・バイ・プロセス)発明に関連する大法院の判例の立場は、「製造方法が記載されている物の発明の特許要件を判断するにおいて、その技術的構成を製造方法自体に限定して把握するのではなく、製造方法の記載を含めて請求の範囲のすべての記載により特定される構造や性質等を有する物として把握すべきである」という物同一説の立場を取っている(大法院2015.1.22言渡2011フ927判決)。
上記の点に対する原審の特許法院の判断は、PBP発明に関する大法院の判例の立場を考慮しながらも、積極的権利範囲確認審判請求における確認の利益は認め難いと判断したものだったと言える。具体的には、特許法院は、特許権者が特定した確認対象発明(中間層が2つ1組により製造される)と実施者が主張する実施主張発明(中間層が4つ1組により製造される)との間において製造方法の差が物の構造や性質に影響を及ぼさないとしても、「事実的観点」から両発明は相違するため同一性が認められず、確認の利益がないと判断した。これに対し、大法院は、確認対象発明の説明書に特許発明の物の請求項と対比し得る物の構成が具体的に記載されている一方、その物の製造方法は敷衍の説明に過ぎないと言うことができ、製造方法により物の発明の特許権の効力が及ぶか否かが変わることもない事案であるとして、本件は、特許権者が特定した確認対象発明により権利範囲の属否を判断する確認の利益があると判断した。
今回の大法院の判決は、物の発明と対比する確認対象発明の説明書において、物の構成に加えてその物の製造方法も記載した場合の判断方法を示した点に意味があり、その製造方法は物の構造や性質に影響を及ぼさないと判断された事案であった点が注目に値するといえる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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