知財判例データベース 外国で先使用商標を商品に表示して第三者が韓国国内で流通させたとすれば、これを輸入して流通させた第三者との関係で先使用商標は「他人が使用した商標」に該当し得る

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告 上告人 A社 vs 被告 被上告人 B社
事件番号
2022フ10289
言い渡し日
2023年03月09日
事件の経過
上告棄却

概要

商標法第34条第1項第20号は、「共同経営・雇用等契約関係もしくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用し、または使用を準備中である商標(以下、「先使用商標」という)であることを知ってその商標と同一・類似の商標を同一・類似の商品に登録出願した商標」は商標登録を受けることができないと規定している。
大法院は、同規定を適用するのにおいて、先使用商標は原則的に国内で使用または使用を準備中である商標でなければならないところ、先使用商標に関する権利者が外国で先使用商標を商品に表示しただけで、国内で直接または代理人を通じて商標法で定めた商標の使用行為をしたことがなかったとしても、国内で流通されることを前提に商品を輸出し、その商品を先使用商標を表示したそのままで、国内の正常な取引において譲渡、展示される等の方法により流通されるようにしたとすれば、これを輸入して流通させた第三者との関係において先使用商標は「他人が使用した商標」に該当するという法理を示した上で、本件商標は商標法第34条第1項第20号に該当するのでその登録が無効とされるべきであると判決した。

事実関係

原告は、本件登録商標を出願する前に被告から先使用商標が包装紙に表記された使用商品を輸入して国内で販売し、被告は製品を生産して原告のために原産地証明書、送り状および代金請求書を発行した。
原告は2017年9月に本件登録商標を出願し、これに対して被告は特許庁審査官に「原告の出願商標は先使用商標との関係で商標法第34条第1項第20号、第21号に該当する」旨の情報提出書を提出した。
特許庁審査官は「本件登録商標は被告の先使用商標との関係で商標法第34条第1項第13号、第20号の拒絶理由がある」旨の意見提出通知書を発送し、原告は意見書および補正書を提出したものの、特許庁審査官は上記の拒絶理由を解消できなかったという理由で拒絶決定をした。
原告は特許審判院に上記の拒絶決定に対する不服審判を請求し、特許審判院は、本件登録商標は先使用商標との関係で商標法第34条第1項第13号、第20号の拒絶理由がないという理由で上記拒絶決定を取り消し、再審査するために特許庁審査局に差し戻す旨の審決をし、これにより本件登録商標は登録された。
これに対し被告は、原告を相手取り、特許審判院に本件登録商標は先使用商標との関係で商標法第34条第1項第20号、第21号に該当すると主張して登録無効審判を請求した。
特許審判院は上記事件を審理し、「本件無効審判請求は拒絶決定に対する不服審判の差戻し審決との関係で一事不再理の原則に違反しない。本件登録商標は商標法第34条第1項第20号に該当して登録が無効とされるべきである」という理由で被告の審判請求を認容する審決をした。
原告は特許法院に審決取消訴訟を提起したが、特許法院は「本件差戻し審決と本件無効審判請求とはその請求の趣旨および審判の種類が異なる。請求の趣旨および審判の種類が異なる差戻し審審決が確定したとしても、その一事不再理の効力は本件無効審判手続きまでには及ばないため、本件無効審判請求は一事不再理に違反しない。本件登録商標は商標法第34条第1項第20号の理由があるため登録が無効とされるべきであることから、このような前提に立った本件審決は適法である」と判決した。
本件登録商標と先使用商標は下表のとおりである。

区分 本件登録商標 先使用商標
標章 本件登録商標 先使用商標
指定(使用)商品 商品類区分第5類
生理用ナプキン等
生理用ナプキン等

判決内容

一事不再理の原則違反の有無

  1. 関連法理
    商標法第150条 にて定めた一事不再理の効力は、確定審決と同一事実および同一証拠によって再び審判請求をする場合に及ぶので、審判の種類や請求の趣旨が異なる場合には一事不再理の効力が及ばない。
  2. 判断
    原審は、本件登録無効審判請求前に原告の本件登録商標出願に対する拒絶決定不服審判請求が認容され、上記拒絶決定を取り消して特許庁審査局に差し戻す旨の審決が確定していたとしても、上記の審決は審判の種類や請求の趣旨が異なるためその一事不再理の効力が本件登録無効審判請求までには及ばないため、本件登録無効審判請求は一事不再理原則に違反しないと判断した。かかる原審の判断には、上告理由での主張のように必要な審理を尽くさず一事不再理の適用対象に関する法理を誤解した等の誤りはない。
    1. 本件登録商標が商標法第34条第1項第20号に該当するか

      1. 関連法理
        商標法第34条第1項第20号は、共同経営・雇用等契約関係もしくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用し、または使用を準備中である商標であることを知ってその商標と同一・類似の商標を同一・類似の商品に登録出願した商標は商標登録を受けられないと規定している。上記規定の趣旨は、他人との契約関係等を通じて他人が使用し、または使用を準備中である商標(「先使用商標」という)を知ったに過ぎずその商標登録を受けることができる権利者ではない者が、他人との関係において信義誠実の原則に違反して先使用商標と同一・類似の商標を同一・類似の商品に登録出願した場合、その商標登録を認めないということにある。
        このとき、先使用商標は原則的に国内で使用し、または使用を準備中である商標でなければならないところ、先使用商標に関する権利者が外国で先使用商標を商品に表示しただけで、国内で直接または代理人を通じて商標法第2条第1項第11号で定めた商標の使用行為をしたことがなかったとしても、国内で流通されることを前提に商品を輸出し、その商品を先使用商標を表示したそのままで、国内の正常な取引において譲渡、展示される等の方法により流通されるようにしたとすれば、これを輸入して流通させた第三者との関係において先使用商標は商標法第34条第1項第20号の「他人が使用した商標」に該当する。
      2. 判断
        本件登録商標の出願人である原告は、その出願前に被告から原審判示の先使用商標が包装紙に表記された商品を輸入して国内で販売してきた等、被告と業務上の取引関係にあった。
        被告が国内で直接、または代理人を通じて先使用商標を表示した商品を展示・譲渡する等の行為を行ったことはなかったものの、被告は国内で流通されることを前提に外国で先使用商標を表示した使用商品を輸出し、先使用商標を表示したそのままで、輸入業者である原告を通じて国内の正常な取引において譲渡・展示される等の方法により上記使用商品を流通させた。
        このような点を総合してみれば、原告は業務上の取引関係等を通して先使用商標が被告によって国内で使用される商標であることを知りながらも、信義誠実の原則に違反してそれと同一・類似の商標を同一・類似の商品に出願して登録を受けたものであると認めるのが相当である。したがって、本件登録商標は、商標法第34条第1項第20号に該当するので登録が無効とされるべきである。
        1. 結論

          上告を棄却し、上告費用は敗訴者の負担とし、関与大法官の一致した意見により主文のとおり判決する。

専門家からのアドバイス

韓国大法院は、商標法第34条第1項第20号における「他人」とは、出願人との関係において特定の信義関係が形成されている者であって、国内外の自然人、法人はもちろん、法人格のない団体または外国人も含まれ、「使用し、または使用を準備中である商標」とは国内で使用しまたは使用を準備中の商標を指すという立場を明らかにしてきた。一方、商標として使用し、または使用を準備中であるのであれば、その認識度にかかわらず本号の適用はあるのであって、必ずしも特定人の出所として信用が形成されている必要はなく、本号の適用のためには他人に損害を及ぼす不正の目的や他人の信用に便乗しようする不正競争の目的までもなければならない趣旨ではない。したがって、周知度が低く、かつ立証が容易でない他人の未登録先使用商標に対しても、その保護が必要な場合には本規定が適用される可能性がある。
本件において大法院は、被告が外国で先使用商標を商品に表示しただけで、国内で直接または代理人を通じて商標の使用行為をしたことがなかったとしても、国内で流通させることを前提に商品を輸出し、その商品を先使用商標を表示したそのままで国内の正常な取引において譲渡、展示される等の方法により流通されるようにしたとすれば、これを輸入して流通させた原告との関係において先使用商標は商標法第34条第1項第20号の「他人が使用した商標」に該当すると判断した。
本件における大法院の判断は、商標法第34条第1項第20号の趣旨を考慮して、「商標の使用」についての判断を商標権者の直接的な行為ではなく商標の機能発揮に焦点を合わせて解釈したものと思料される。韓国に商品を輸出する外国の事業者にとって、未登録先使用商標を保護したケースとして参考になろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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