知財判例データベース 新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザインに基づく自由実施デザインの抗弁の主張は認められない

基本情報

区分
意匠
判断主体
大法院
当事者
原告 上告人 個人A vs 被告 被上告人 個人B
事件番号
2021フ10473
言い渡し日
2023年02月23日
事件の経過
原審破棄差戻し

概要

大法院は、本件登録デザインは「新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザイン」(以下、「先行デザイン」という)を根拠としてデザイン保護法第36条第2項が定めた手続き要件を遵守して新規性喪失の例外主張を行い、これに伴いその登録が維持されたものであるため、確認対象デザインが本件登録デザインの出願前に公知となった先行デザインから容易に創作することができる自由実施デザインであるため権利範囲に属しない旨の主張は認められないとし、原審の判断には新規性喪失の例外規定と自由実施デザインに関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがあると判断した。

事実関係

原告のベッド用ヘッド製品に関する原審判示先行デザインは、2018年10月23日にその製品写真がオンライン販売業者にEメールで送付されることにより公知となったが、原告はそれから12か月以内である2018年10月24日に先行デザインと同じデザインを登録出願し、2019年5月21日に本件登録デザインとして登録された。
被告は、原告の本件登録デザインについて原審判示先行デザインを含む先行デザインにより新規性が否定されると主張して登録無効審判を請求した。原告は、先行デザインに関してデザイン保護法第36条第1項の新規性喪失の例外規定が適用される旨の答弁書とこれを証明することができる書類を提出し、原告の主張が受け入れられることにより上記審判請求が棄却されそのまま確定した。
原告は、被告を相手取り確認対象デザインが本件登録デザインの権利範囲に属すると主張して本件権利範囲確認審判を請求したところ、特許審判院は被告の確認対象デザインは本件登録デザインの出願日前に公知となった先行デザインと類似の自由実施デザインに該当するので本件登録デザインの権利範囲に属しないと判断し、本件原審も同じく判断し審決を維持した。
本件登録デザイン、確認対象デザイン、先行デザインは下表のとおりである。

区分 本件登録デザイン 確認対象デザイン 先行デザイン
出願日/公知日 2018年10月24日 2018年10月23日
図面/写真 本件登録デザインの図面 確認対象デザインの図面 先行デザインの写真

判決内容

関連法理

デザイン保護法における新規性喪失の例外規定等の関連規定の文言と内容、その立法趣旨、自由実施デザイン法理の本質および機能等を総合してみれば、確認対象デザインが登録デザインの権利範囲に属するかを判断するとき、新規性喪失の例外規定の適用根拠になった公知デザインまたはこれらの結合により容易に実施できるデザインが誰もが利用できる公共の領域にあることを前提とした自由実施デザインの主張は認められず、確認対象デザインと登録デザインを対比する方法によらなければならない。
デザイン保護法は、出願前に公知・公用となったデザインまたはこれと類似のデザイン、公知・公用となったデザインから容易に創作できるデザインは原則的にデザイン登録を受けることができないと規定している。しかし、このような新規性および創作非容易性に関する原則をあまりに厳格に適用すると、デザイン登録を受ける権利を有する者にとって過度に苛酷で公平性が失われることになり、または産業の発展を図るデザイン保護法の趣旨に合わないケースが発生することがあるため、例外的にデザイン登録を受ける権利を有する者が一定の要件と手続きを備える場合には、デザインが出願前に公開されたとしてもそのデザインは新規性および創作非容易性を喪失しないものとして扱うように新規性喪失の例外規定を設けている。
新規性喪失の例外を認めることにより、その根拠となった公知デザインに基づいて登録デザインと同一または類似のデザインを実施した第三者が予期せぬ不利益をこうむる場合がありえるが、デザイン保護法は上記のような立法的決断を前提として、第三者とデザイン登録を受ける権利を有する者との間の利益均衡を図るため、第36条第2項で新規性喪失の例外規定の適用を受けてデザイン登録を受ける権利を有する者が遵守しなければならない時期的・手続き的要件を定めており、新規性喪失の例外規定の適用を受けても出願日自体は遡及しないこととしている。
一方、登録デザインと対比される確認対象デザインは、登録デザインの出願前にそのデザインが属する分野において通常の知識を有する人が公知デザインまたはこれらの結合により容易に実施することができるものであったときは、登録デザインと対比するまでもなくその登録デザインの権利範囲に属しないということができるところ、これは登録デザインが公知デザインから容易に創作可能で無効に該当するか否かを直接判断することなしに、確認対象デザインを公知デザインと対比する方法により確認対象デザインが登録デザインの権利範囲に属するかを決定することで、迅速かつ合理的な紛争解決を図るためである。このような自由実施デザインの法理は、基本的に登録デザインの出願前にそのデザインが属する分野において通常の知識を有する人が公知デザインまたはこれらの結合により容易に実施できるデザインは、公共の領域にあるものとして誰もが利用できなければならないという考えに基づいている。しかしデザイン登録出願前に公共の領域にあったデザインであっても、新規性喪失の例外規定の適用を受けて登録されたデザインと同一または類似のデザインであれば、登録デザインの独占・排他権の範囲に含まれることになる。とすれば、このように新規性喪失の例外規定の適用根拠になった公知デザインまたはこれらの結合により容易に実施できるデザインが、誰もが利用できる公共の領域にあるとは断定できないので、新規性喪失の例外規定の適用根拠になった公知デザインに基づく自由実施デザイン主張は認められない。
第三者の保護の観点からみても、デザイン保護法が定める時期的・手続き的要件を遵守して新規性喪失の例外規定を受けて登録された以上、立法者の決断による第三者との利益均衡は成立したということができる。また、新規性喪失の例外規定の適用根拠になった公知デザインに基づく自由実施デザイン主張を認めることは、デザイン保護法がデザイン権者と第三者との間の公平を図るために先使用による通常実施権等の制度を設けているにもかかわらず、公知デザインに対し特段の創作的寄与をしなかった第三者に法定通常実施権を超える無償の実施権限を付与することにより、第三者に対する保護を、法で定められた登録デザイン権者の権利より優先する結果になるという点でも、上記のような自由実施デザイン主張は認められることができない。

判断

上記の法理と記録に照らしてみると、本件登録デザインは先行デザインを根拠としてデザイン保護法第36条第2項が定める手続き要件を遵守して新規性喪失の例外主張をし、それにより当該登録が維持されたので、確認対象デザインが本件登録デザインの出願前に公知となった先行デザインから容易に創作することのできる自由実施デザインであるので権利範囲に属しないという主張は認められない。
にもかかわらず、原審は、確認対象デザインが本件登録デザインに新規性喪失の例外規定適用の根拠になった先行デザインから容易に創作することもできる自由実施デザインであるため本件登録デザインの権利範囲に属しないと判断した。このような原審の判断には、新規性喪失の例外規定と自由実施デザインに関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがある。

結論

したがって、残りの上告理由に対し判断するまでもなく原審判決を破棄し、事件を再び審理・判断するために原審法院に差戻し、関与大法官の一致した意見により主文のとおり判決する。

専門家からのアドバイス

本件の争点は、本件登録デザインの権利範囲の属否判断において、新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザインに基づいて自由実施デザインの抗弁を主張することが可能か否かであった。こうした新規性喪失の例外の適用を認める場合、その根拠となった公知の先行デザインに依拠して、登録デザインと同一または類似のデザインを実施した第三者に予期せぬ不利益が生じる可能性があるためである(特許審判院および特許法院が、新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザインに基づいて自由実施デザイン主張をすることができると判断したのは、このような点を考慮したためと思われる)。
しかし大法院は、(本文の太字部分のとおり)立法者の決断を尊重し、デザイン保護法が定めた時期的・手続き的要件を遵守して新規性喪失の例外規定を受けてデザイン権が登録された以上、新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザインに基づいて自由実施デザインの主張をすることができないとしても、第三者との利益均衡は成立したと認めることができるとし、さらに、第三者に法定通常実施権を超える無償の実施権限を付与することはかえって均衡を失わせる等の点を理由として、新規性喪失の例外が認められた登録デザインに対しては、こうした登録デザインの有効性を考慮して先行デザインを万人共有のデザインとはみなさないことで、当該先行デザインを根拠とした自由実施デザインの抗弁は認められないと判断した。
本件大法院判決は、新規性喪失の例外規定適用の根拠となった先行デザインに基づいて自由実施デザインの主張をすることができるかに関する最初の判決とみられる点で、先例としての意味が大きいといえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195