知財判例データベース 本件出願商標「ルビーセル」が鉱物又は宝石の意味に観念される限り、その指定商品である「化粧用パウダ」等の性質を普通に表示したものとは認められないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2021ホ5518
言い渡し日
2022年12月15日
事件の経過
確定(2023年1月5日)

概要

本件出願商標「ルビーセル」は、一般需要者及び取引者が赤い光を帯びた鉱物又は宝石の一種である「ルビー」(Ruby)に関連するものと観念し得るものとして認められるところ、本件出願商標「ルビーセル」が鉱物又は宝石の意味として観念される限り、その指定商品である「化粧用パウダ、化粧用オイル、化粧用クリーム」等に関連して原材料や品質を普通に表示したものとは認められない。また、本件審決日を基準としてインターネット新聞記事、インターネット掲示物等で「ルビーセル」に関連して「ルビーセル(特殊工法で作られた日本のシルクパフ)使用」、「日本産の高価なルビーセルパフ」、「日本から輸入されたルビーセル生地」等のような表現が使用されているところ、「ルビーセル」が化粧品業界に知られるようになったのは特定の日本企業が開発、生産した「RUBYCELL」標章が使用された化粧用スポンジ、パフ製品が韓国に輸入、販売され始めてからであると認められ、本件出願商標の出願当時、少なくとも日本を中心に「化粧用パフ、化粧用スポンジ」等の分野で特定人の商品として認識されている商標であると認められる点に照らしてみれば、「ルビーセル」標章は本件指定商品が属する取引業界や市場で普通名称・慣用標章又は性質表示標章に該当する程度に至ったと認めることは難しいと判断し、本件出願商標の登録を拒絶した特許審判院の審決を取り消した。

事実関係

本件出願商標は、下表のとおりである。

標章 指定商品
ルビーセルのハングル標章
ルビーセルのハングル
第3類の化粧用パウダ、化粧用オイル、化粧用クリーム、化粧用鉛筆等

特許審判院は、本件出願商標は旧商標法第6条第1項第3号[1]及び第7号[2]に該当するためその登録が拒絶されるべきであるという理由により、審判請求を棄却する審決をした。
一方、本件とは別途に、原告は、先登録商標である商標登録第359448号「ルビーセルの英文標章」の商標権者であるB社を相手取って旧商標法第73条第1項第3号(不使用取消)によりその登録が取り消されるべきである旨を主張して登録取消審判を請求し、その登録が取り消されている。

判決内容

関連法理

どのような商標が商品の産地、品質、効能、用途等を普通に使用する方法で表示した標章のみからなる商標に該当するかは、その商標が有する観念、指定商品との関係及び取引社会の実情等に鑑みて客観的に判断すべきものであり、その商標が指定商品の品質、効能、用途を暗示又は強調するものと認められるとしても、全体的な商標の構成から見るとき、需要者が指定商品の単純な品質、効能、用途等を表示するものと認識できないものはこれに該当しない。一方、出願商標が旧商標法第6条第1項各号の識別力要件を備えているか否かに関する判断の基準時点は、原則的に商標に対して登録許否を決定する決定時であり、拒絶決定に対する不服審判によって登録許否が決定される場合には、その審決時であるといえる。

本件出願商標が旧商標法第6条第1項第3号に該当するか

本件出願商標「ルビーセル」は、ネイバー語学辞典に入力すると英単語「Rubicelle」として検索されるが、これは「アルミニウムとマグネシウムの酸化物からなる鉱物であるスピネルのうち黄色を帯びた宝石」という意味を有しており、原告は自ら本件出願商標を「7月の誕生石であるルビー(Ruby)とセルサイエンスのノウハウを意味するセル(Cell)を結合して作った標章であると主張しており、韓国の英語教育水準及び本件出願商標の指定商品に関連した取引実情等を総合してみると、一般需要者及び取引者は、赤い光を帯びた宝石の一種である「ルビー」(Ruby)程度に関連するものとして観念し得ると認められる。ところで、本件出願商標「ルビーセル」がこのような鉱物又は宝石の意味に観念される限り、その指定商品である「化粧用パウダ、化粧用オイル、化粧用クリーム」等に関連して原材料や品質を普通に表示したものと認めることはできない。

被告は、本件出願商標が、その指定商品のうち「化粧用顔パウダ、化粧用タルカムパウダ、化粧用パウダ」に関連して一般需要者及び取引者に原材料である化粧用パフ又は化粧用スポンジの材質の一種である「ルビーセルパフ」を直感させるため、いわゆる性質表示標章に該当する旨を主張する。しかし、次のような事実及び事情を考慮すると、本件審決日を基準として、化粧品に関連した一般需要者及び取引者は「ルビーセル」を化粧用スポンジ又はパフの原材料の名称として認識して性質表示標章に該当するものと認めることは難しい。
  1. B社は、1970年に日本の大阪に設立された日本国法人として1988年から日本を中心に同社が独自に開発した「ミクロポリス多孔体(ポリウレタンフォーム)」を使用した「化粧用パフ、化粧用スポンジ」等の使用商品に先使用商標を表示して製品を生産、販売してきており、1997年4月に「ルビーセルの英文標章」について韓国で商標登録を終えたことをはじめ、その頃関連商標について日本、フランス等で商標登録を終えている。
    B社は、日本で生産した「化粧用パフ、化粧用スポンジ」を日本の貿易会社を通じて韓国のC社とD社に供給してきており、C社とは上記商標に関する通常使用権設定契約を締結したことがあり、C社及びD社はB社から輸入した化粧用スポンジを複数の韓国国内の化粧品会社に納品したり加工して販売したりし、韓国国内の上記化粧品会社はインターネットショッピングモール(新世界モール、Gマーケット等)を通じて販売した。

  2. 本件審決日を基準として、インターネット新聞記事、インターネット掲示物等で「ルビーセル」に関連して「ルビーセル(特殊工法で作られた日本のシルクパフ)使用」、「日本産の高価なルビーセルパフ」、「日本輸入品ルビーセルパフ」、「日本でのみ生産される生地」、「最高級ルビーセル」、「高級ルビーセル生地」、「日本から輸入されたルビーセル生地」等のような表現が使用されていた。「ルビーセル」が化粧品業界に知られるようになったのは、B社が開発、生産した「ルビーセルの英文標章」標章が使用された化粧用スポンジ、パフ製品が韓国に輸入、販売され始めてからであると認められる。

  3. たとえB社が関連する登録取消事件で敗訴し、上記「ルビーセルの英文標章」商標の登録が取り消されていたとしても、これはB社が一定期間先使用商標を国内で商標として使用した証拠がないという意味に過ぎず、「ルビーセル」標章が本件指定商品が属する取引業界や市場で普通名称・慣用標章又は性質表示標章に該当する程度に至ったと認めることは難しい。
  4. 本件出願商標が旧商標法第6条第1項第7号に該当するか否か

    先に見たとおり、本件出願商標がその指定商品に関連して一般需要者や取引者に原材料等を直感させると認めることは難しいうえ、それ以外に本件出願商標が公益上特定人に独占させることが適当ではないと認めるだけの資料がない点等の事情を加えて見れば、本件出願商標は旧商標法第6条第1項第7号に該当すると認めることも難しい。

    結論

    本件出願商標は、旧商標法第6条第1項第3項及び第7号に該当しない。

専門家からのアドバイス

旧商標法第6条第1項第3号で規定された、いわゆる記述的標章の該当性については、指定商品(又は指定役務。以下同じ)と分離して考えることはできず、指定商品に関連して相対的に判断されるものであるため、ある商品においては記述的標章に該当するとしても、それとは異なる商品では記述的標章に当たらないことも多いといえる。即ち、記述的標章に該当するか否かはその各指定商品との関係で相対的に決定されるといえ、たとえば当該指定商品についての記述的又は説明的な表示であったとしても、それが直接的な記述的又は説明的表示であるとは認められない場合には記述的標章に該当しないものとなる。本件は、こうした観点に基づいて、標章と指定商品との関係について具体的に検討し、記述的標章には該当しないと判断した事例として意義がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195