知財判例データベース 原告バケットバッグの商品形態は、同種の商品の構成形態を組み合わせたものであっても過去に存在しなかった新しい形態として保護されると判断した事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル高等法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2021ド2032690
言い渡し日
2022年04月28日
事件の経過
大法院審理不続行棄却、確定(2022年9月29日)

概要

原告は、被告が原告製品の形態を模倣して被告製品を製造・販売する行為は不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(以下「不正競争防止法」)第2条第1号(リ)目の不正競争行為に該当すると主張して損害賠償請求の訴えを提起した。
第一審であるソウル中央地方法院は、被告製品の形態が原告製品の形態と実質的に同一であるとは認められず、被告製品が原告製品を模倣した商品とはいえないと判断して、原告の請求を棄却した。
これに対し控訴審であるソウル高等法院は、原告製品の「バケットバッグ」形態のバッグは、同種の製品の構成形態を組み合わせたものであるといえども、過去に存在しなかった新しい形態により作られたものであることから他人の模倣から保護する価値があるものとして被告に損害賠償責任があると判断し、大法院も被告の上告を棄却した。

事実関係

  1. 原告は「Louis Vuitton」というブランドにより高級バッグ、財布、衣類等、様々な製品を生産し世界各国で販売しているフランス企業であり、2017年3月頃、下表左図のような女性用バッグ(以下「原告製品」)を「ネオノエ」という名前として発売を開始した。
  2. 被告は2017年9月頃、下表右図のような形態の女性用バッグ(以下「被告製品」)を製作し、2017年9月30日から、被告が運営するインターネットショッピングモール、およびロッテ百貨店本店、龍山アイパークモール店等のオフライン店舗において「マルヘンジェイ」という商標により販売した。それ以降、多様なカラーのバッグを順次発売した。
    原告製品 被告製品
    M44020(ノワール) / M44021(コクリコ) / M44022(ローズプードル)
    M44020(ノワール) / M44021(コクリコ) / M44022(ローズプードル)
    ピンク色の女性用バッグ
  3. 原告製品と被告製品は、いずれも女性用バッグのうち「バケットバッグ」に分類される形態のバッグである。バケットバッグはその形がバケット(バケツ)型であることに由来して付けられた名前で、韓国では「巾着バッグ」とも呼ばれ、上部の開口部にバッグを閉じるための革紐と通し穴があるのが特徴である。

判決内容

関連法理

不正競争防止法第2条第1号(リ)目は、不正競争行為の一類型として、他人が製作した商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸渡しもしくはこのための展示をし、または輸入・輸出する行為を規定しているが、ここで「模倣」とは他人の商品の形態に基づいてこれと実質的に同じ形態の商品を製作することをいい、形態に変更がある場合に実質的に同じ形態の商品に該当するか否かは当該変更の内容・程度、その着想の難易度、変更による形態的効果等を総合的に考慮して判断しなければならない。
一方、不正競争防止法第2条第1号(リ)目は、その但し書きにおいて、他人が製作した商品と同種の商品(同種の商品がない場合にはその商品と機能および効用が同一または類似の商品をいう)が通常有する形態を模倣した商品を譲渡・貸渡しする等の行為を不正競争行為から除外しているところ、ここで「同種の商品が通常有する形態」とは同種の商品分野において一般的に採択される形態であって、商品の機能・効用を達成するかその商品分野で競争するために採用が不可避な形態、または同種の商品であればありふれて有する個性がない形態等を意味する。

具体的判断

  1. 損害賠償の責任の発生
    1. 被告製品が原告製品の形態を模倣したか否か
      原告製品と被告製品は、バケットバッグの形状を構成する具体的な個別構成要素として、両製品のバッグ全体の大きさをはじめ、革紐をバッグに通す穴の数、位置、形および大きさ、革紐と革製アジャスターの形と大きさ、バッグ本体とショルダーストラップを連結させるためのバッグ側面の根革の位置・形および大きさ、前記根革に取り付けられている金具の形と大きさ、バッグ本体と連結させるためにショルダーストラップ終端に取り付けられている金具の形と大きさがすべて同一または類似し、それによって革紐を締めたとき・締めなかったときのバッグ本体が持つ前面、側面、上面の形状もまたほぼ同じである。
      これに対し、原告製品と被告製品に存在する差異点として原告製品に存在する内部収納空間を省略することは誰もが容易に選択できる変形であるのに加え、その内部収納空間が革紐の下に位置するため、これを省略しても全体的な商品形態に違いが生じるとはいえず、バッグの素材とカラーは生産者がいつでも多様な方式で選択・変更できるもので、実際に原告と被告も同じ形状を有するバッグを様々な素材やカラーを利用して多様に発売してきたところ、原告製品と被告製品が有する素材やカラーの違いが商品全体の形態を異ならせるといえる程度に影響を及ぼすとは認められず、その他に革紐、ショルダーストラップ、型崩れ防止の底板や底面を保護する底鋲、ロゴ装飾ないしファーボール装飾の追加等はその変更の程度がわずかで容易に脱着が可能で(ロゴ装飾とファーボール装飾はどちらも脱着が可能で、被告は原告製品と幅が同じショルダーストラップを別途に販売した)、商品全体の形態を特に異ならせる効果をもたらすとは認められない。
      したがって原告製品と被告製品の差異点は、実質的な同一性を失わせない程度の些細な改変であって、原告製品と被告製品は商品形態が実質的に同一と認めるのが妥当であり、被告が原告製品に基づいて被告製品をデザインした事実が把握されるので、被告製品は原告製品の形態に依拠したものとして主観的模倣の意志が認められる。
    2. 同種の商品が通常有する形態に該当するか否か
      不正競争防止法第2条第1号(リ)目によって保護される商品形態は、商品全体の形態であってデザインとは異なり新規性や創作非容易性を要求しないため、各構成部分を分解すればありふれた形態であるのだとしても、その結合により過去に存在しなかった新しい形態が作られたのだとすれば、その構成形態が非常に単純でその結合もありふれた程度のもので全体的に見て特別な形態的特徴があるとは認めにくい場合でないかぎり、同種の商品が通常有する形態であるとはいえない。
      したがって、原告製品と同じ個別構成要素の選択と結合により形成された、原告製品の形態を有する先行商品が発売または流通されたものと認めるべき証拠がなく、かつバッグのようにありふれて使用されて様々な形態が多様に創作されてきた物品は、様々な多くの公知の構成形態をどのように組み合わせるかということも商品の形態を左右する重要な要素になり得る。さらに被告は自ら、上記のような選択と結合により形成された被告製品の形態が従来の先行製品とは異なる形態を備えていることを前提として、第三者を相手取って被告製品の商品形態保護を主張したことがあり、原告製品と被告製品はいずれも商業的に成功したところ、これは上述のような個別構成要素の選択と結合の方式により形成された製品形態に対する消費者選好度が高かったためとみられる。
      このような事実および事情を総合してみれば、原告製品の形態はたとえ同種の製品の構成形態を組み合わせたものであるとしても、これを商品の機能・効用を達成するかその商品分野で競争するために採用が不可避な形態、または同種の商品であればありふれて有する個性のない形態であるとは認めることができず、他人の模倣による不正競争行為から保護される価値がある程度の資金および労力の投入により原告が構築したものであると認めるのが妥当である。
    3. 小括
      被告が被告製品を生産・販売した行為は原告製品の製品形態を模倣した不正競争防止法第2条第1号(リ)目の不正競争行為に該当するため、被告にはそれによって原告が受けた損害を賠償する責任がある。
  2. 損害賠償の範囲
    被告製品の販売において、原告製品形態の模倣が利益額全体を発生させた要因であるとは認めることができず、原告製品形態の模倣と被告の利益額との間の具体的な牽連の程度を特定してこれを主張・立証することは極めて困難と認められる点に照らし、本件は被告の不正競争行為によって原告に損害が発生した事実は認められるが、その損害額を証明するために必要な事実を証明することが当該事実の性質上極めて困難な場合に該当する。したがって、不正競争防止法第14条の2第5項により弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認めるものとし、原告の損害額を7,000万ウォンと定める。

結論

原告の請求は上記認定の範囲内で理由があるため認容し、残りの請求は理由がないため棄却する。

専門家からのアドバイス

商品形態を保護するための各法令は、その規定と立法の趣旨により権利発生要件および保護範囲等を異にする。たとえばデザイン保護法ではデザインとして保護され得ない場合であっても、著作権法上の著作物の要件を備えている場合には、それにより保護を受けることができる。これに対し本件は、不正競争防止法第2条第1号(リ)目に基づく商品形態模倣による不正競争行為からの商品形態の保護を主張した事件であって、被告はデザイン保護法の自由実施デザインの抗弁を類推適用し、原告製品と被告製品の商品形態を対比する必要がないと主張したが、ソウル高等法院は被告のこうした主張を受け入れず、不正競争防止法第2条第1号(リ)目固有の法理に基づいて事案の当否を判断した。
これに加えてソウル高等法院は、当該条項において「同種の商品が通常有する形態」は保護対象から除外されている点に関連して、商品形態において多様で数多くの公知の構成形態をどのように組み合わせるかということも商品形態を左右する重要な要素になり得るとして、個別構成要素の選択と結合により形成された商品形態の場合であっても、このような形態の先行商品が発売・流通されていたという証拠がないのであれば、不正競争防止法第2条第1号(リ)目による保護を受けることができるという法理を判示している。これにより本判決は第一審判決とは異なり、原告製品と被告製品が有する商品形態の共通点は「同種の商品が通常有する形態」には該当しないことから、原告製品は不正競争行為から保護される価値があると判断した。
以上のようなソウル高等法院が判示した本件の法理と事実関係に対する判断は、韓国の模倣品対策の実務に大きく寄与するものと思われる。

商品形態模倣に関する韓日両国の不競法規定
韓国不正競争防止法 日本不正競争防止法
不正競争防止法第2条第1号リ目
他人が製作した商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸渡し若しくはこのための展示をし、又は輸入・輸出する行為。ただし、次のいずれかに該当する行為は除く。
(1) 商品の試作品製作等商品の形態が備えられた日から3年を過ぎた商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸渡し若しくはこのための展示をし、又は輸入・輸出する行為
(2) 他人が製作した商品と同種の商品(同種の商品がない場合には、その商品と機能及び効用が同一又は類似の商品をいう)が通常有する形態を模倣した商品を譲渡・貸渡し若しくはこのための展示をし、又は輸入・輸出する行為
不正競争防止法2条1項3号
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
(適用除外等)
不正競争防止法19条1項5号
イ.日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
ロ.他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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