知財判例データベース 特許出願前に製品装置の納品先でなされた試運転が公然実施には該当せず、新規性が否定されないと判断された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(審判請求人)および原告補助参加人 vs 被告(引継参加人、特許権者)
事件番号
2021フ10732登録無効(特)
言い渡し日
2022年01月13日
事件の経過
破棄差戻し

概要

納品先において製品装置の試運転をした後に特許出願をし、その後、最終完成品を納品した事案において、その当事者間の製品納品等に関する契約内容とその具体的な履行過程等を総合してみると、最終納品がなされた時に初めて契約の履行が完了したということができ、試運転に参加していた当事者らには契約履行の完了という目的のもとに漏洩禁止義務があったと認めることができるため、公然実施に該当しないと判断した。

事実関係

被告である引継参加人の本件特許は「テスタ機が可変されるチップ検査装置」に関するものである。原告は「本件特許発明は先行発明1、2により進歩性が否定される」ことを理由として特許無効審判を請求したが、特許審判院はこれを棄却した。
これに対して原告は審決取消訴訟を提起し、特許審判院においてした進歩性の欠如の主張と共に、「本件特許発明は原告補助参加人が本件特許の出願前にL社に納品した先行発明4(被告製作製品)によって新規性が喪失している」との無効主張を追加した。

特許法院は、「本法院のL社に対する事実照会の返信結果、被告に対する本人尋問結果、および弁論全体の趣旨を総合すると、原告補助参加人は2016年1月22日に、L社との間でTester Handler(YM6401) 1台を納品および設置する設備購買契約を締結し、上記契約によって2016年1月29日にL社に先行発明4を納品した事実と、何日か後に被告、原告補助参加人の社員らがL社に赴いて先行発明4の試運転をした事実を認めることができ、先行発明4の写真からその構成要素と相互結合関係を困難なく把握できる。また、原告補助参加人とL社との間に先行発明4に関する秘密保持に関する約定を締結していたとか、L社に信義則上、秘密保持義務が存在していたといえるような事情はない。したがって、先行発明4は、本件特許発明の出願前にL社に納品され、その事業所に設置・試運転されることによって公然と実施された」と判断した(新規性否定による無効)。

これに対し、被告引継参加人は上告を提起した。

判決内容

  1. 特許法第29条第1項第1号は、産業上利用することができる発明であるとしても、その発明が特許出願前に国内または国外において公知となったか、または公然と実施された発明に該当する場合には、特許を受けることができない旨を規定している。ここにおいて「公知となった」とは、必ずしも不特定多数の者に認識されている必要はないとしても、少なくとも不特定多数の者が認識できる状態に置かれていることを意味し(大法院2002年6月14日付言渡2000フ1238判決等参照)、「公然と実施された」とは、発明の内容が秘密保持約定等の制限がない状態において譲渡等の方法により使用されて不特定多数の者が認識できる状態に置かれていることを意味する(大法院2012年4月26日付言渡2011フ4011判決参照)。
  2. 原審判決の理由と記録によると、次のような事情が把握できる。
    原告補助参加人は、2016年1月22日に、半導体チップ検査機器を装着して移動・回転等を容易にする装置であるTester Handler(YM6401) 1台を納品・設置する設備購買契約(以下「本件契約」と言う)をL社との間で締結し、これにより、2016年1月29日に、L社に先行発明4を納品した。先行発明4は、被告が事実上運営するK社が原告補助参加人の依頼によって製作した製品である。
    何日か後に原告補助参加人の社員、被告らはL社に集まり、L社の関係者らの立会いのもとに先行発明4の試運転(以下「本件試運転」と言う)をし、原告補助参加人は試運転当時にL社と協議した通り、製品を改良した後、2017年6月頃、最終完成品を納品した。本件試運転には、原告補助参加人と被告をはじめとしてL社の許諾を受けた者のみが出席したものと見られる。
    一方、先行発明4に関連する、発明の名称を「テスタ機が可変されるチップ検査装置」とする本件特許発明は、2016年3月24日に出願されて2017年12月15日に特許として登録され、2020年2月27日に被告に特許権の全部移転登録がなされた。
    本件契約は、「製品の設置完了時」を、L社が指定した場所に目的物を設置してL社の立会いのもとに試運転をしL社が試運転の合格確認をする時点として定めており(第1条第3項)、L社から合格を受けることができない場合には、原告補助参加人の責任と費用により製品を再度製作または交換し、再検査を受けて合格しなければならず、これによる納品および設置完了の遅延は原告補助参加人の責任としている(第2条)。また、「L社と原告補助参加人は、事前の書面の同意なしに本契約の締結およびその履行に関する事項を第三者に漏洩してはならない」と規定している(第13条第1項)。
  3. このような本件契約の内容とその具体的履行過程、当事者間の関係等を総合してみると、原告補助参加人がL社に最初に納品した先行発明4は試作品の意味しか持たず、その後、協議による製品改良を経て最終納品がなされた時に初めて本件契約の履行が完了したということができる。また、L社と原告補助参加人は、このような契約履行の完了という共同目的のもとに互いに協力する関係において第三者に対する契約履行事項の漏洩禁止義務を負い、さらに本件試運転当時、L社により制限された者のみ参加していた等、実際に秘密保持のための措置がなされていたといえる状況も窺える。したがって、先行発明4は、本件特許発明の出願前に国内または国外において公然と実施されたものではないといえる余地がある。
  4. それにもかかわらず、原審は、原告補助参加人とL社との間に先行発明4に関する秘密保持に関する約定を締結していたとか、L社に信義則上、秘密保持義務が存在していたといえるような事情がないことから、先行発明4は、本件特許発明の出願前にL社に納品され、その事業所に設置・試運転されることによって公然と実施されたということを理由として、本件特許発明の請求項1~4は先行発明4により新規性が否定され、その特許登録は無効とされるべきであると判断した。こうした原審判決には、公知または公然実施された発明に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがあり、これを指摘する上告理由の主張には理由がある。

専門家からのアドバイス

本件において大法院は、公然実施発明の判断基準としての法理を説示しており、それによれば『公然と実施された』とは、その発明の内容が秘密保持約定等の制限がない状態において譲渡等の方法により使用され、不特定多数の者が認識できる状態に置かれていることを意味するとしている。この法理は韓国でかなり以前より確立しているものであるが、本件ではこの法理を適用するにおいて原審と大法院は判断を異にする結果となった。原審は製品装置の試運転によりその発明が公然実施されたと判断したのに対し、大法院は、原審判示の事情だけでは試運転により公然実施されたとはいえないと見るべき余地があると判断した。
大法院が本件でこうした判断をした理由は、当事者間での製品製作および納品に関する契約において製品試運転の合格確認を終えた時点を「製品の設置完了時」と定め、かつ、その契約の締結および履行に関する事項を第三者に漏洩してはならない旨を規定していたことに基づき、その契約の具体的な履行過程および当事者間の関係を総合的に考慮したものであると思われる。したがって、今回の大法院判決を拡大解釈または一般化して、「特許出願前に納品先においてなされた試運転は公然実施には該当しない」という解釈はできないものと考えられる。
発明の内容が含まれる製品等について納品先で試運転をする場合を含め、発明者や出願人企業の特許出願前の行為が公然実施に該当することで、特許法により権利保護を受けられないことが発生しないよう、発明者や出願人は関連契約の作成や契約履行過程に十分な注意を払うべきであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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