知財判例データベース デザイン登録無効審判の審決取消訴訟の手続で新規性喪失の例外主張をしても、その適用を受けることができないとされた事例

基本情報

区分
意匠
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2021ホ4614
言い渡し日
2022年04月07日
事件の経過
確定(2022年4月22日)

概要

特許法院は、新規性喪失の例外規定の文言と立法趣旨に照らし、デザイン登録を受ける権利を有する者が公開行為をした後、旧デザイン保護法第36条第1項(注1)の6月以内にデザイン登録出願をしたとしても、旧デザイン保護法第36条第2項各号のいずれかに該当するときその旨を記載した書面とこれを証明することができる書類を特許庁長または特許審判院長に提出した場合にのみ新規性喪失の例外規定の適用を受けることができ、かつ旧デザイン保護法第36条第2項第4号がデザイン登録無効審判に対する答弁書を提出するときに新規性喪失の例外主張をすることができると定めている以上、デザイン登録無効審判の審決に対する訴訟手続で新規性喪失の例外主張をしたとしても新規性喪失の例外規定の適用を受けることができないとし、本件登録デザインは出願前に公知となったデザインに該当するのでデザイン保護法第33条第1項に該当してその登録が無効とされるべきであると判断した。

事実関係

原告(審判請求人)は、比較対象デザイン1と2を証拠として提出しながら、本件登録デザインが新規性を喪失し、その登録が無効とされるべきであるという理由で特許審判院に登録無効審判を請求した。被告は、比較対象デザイン1と2はその公知日を特定できないので、本件登録デザインの無効証拠になり得ないと答弁した。特許審判院は、原告が提出した比較対象デザイン1と2だけでは本件登録デザインがその出願前に公知となったことを確認することができないと判断して審尋書を発送し、これを立証できる具体的な資料を提出するよう要求した。原告は、比較対象デザイン1に対しては具体的な答弁をせず、比較対象デザイン2に対しては追加で証拠を提出したが、特許審判院は追加で提出した証拠によっても比較対象デザイン2が公知となったことを確認することができないと判断して審判請求を棄却した。
これに対し原告は、特許法院の審決取消訴訟の手続で新たに先行デザインを提出した。本件登録デザインと先行デザインは下表の通りである。

区分 本件登録デザイン 先行デザイン(甲第4号証) 先行デザイン(甲第5号証)
公知日 出願日:2015年12月9日 2015年11月21日 2015年11月23日
デザイン 二等身テントウムシの形二等身テントウムシの形
(正面図)(背面図)
女の子がテントウムシの服を着ている写真 先行デザインの写真1と同じ写真だが、光がやや反射されている。

判決内容

(1)関連法理

デザイン保護法は、出願前に公知・公用となったデザインやこれと類似のデザイン、公知・公用となったデザインから容易に創作できるデザインは原則的にデザイン登録を受けることができない旨を規定している(旧デザイン保護法第33条第1項の規定参照)。しかし、この新規性に関する原則をあまりに厳格に適用すると、デザイン登録を受ける権利を有する者にとって過度に苛酷で公平性を逸し、または産業の発展を図るデザイン保護法の趣旨に合致しない場合が生じることがあるので、第三者の権益を損なわない範囲内で例外的にデザイン登録を受ける権利を有する者が一定の要件と手続を備えた場合、デザインが出願前に公開されたとしてもそのデザインは新規性を喪失しないものとして取り扱うための新規性喪失の例外規定を設けている。

(2)判断

  1. 本件登録デザインと先行デザインの同否
    本件登録デザインと先行デザインの対象物品は幼児が後ろに倒れたときに頭、肩、背中のような身体部位を保護するために着用する「幼児用ヘッドガード」で、用途と機能は互いに同一である。 本件登録デザインと先行デザインを対比してみると、①全体的にてんとう虫の形状をモチーフとし、中央に孔があるドーナツ形状の頭部と、円形の胴体部とからなる点、②頭部の上端には左右対称にやや離れた一対の触角が形成されており、その端部は球状に形成されている点、③胴体部には左右対称に一対の羽が形成されており、各羽には3つの水玉模様が形成されている点、④胴体部の下部には下端方向に尾が形成されている点等が共通する。
    したがって、本件登録デザインと先行デザインはその形状、模様、色彩またはこれらの結合が同一、もしくは極めて微細な違いのみがあるため、全体的審美感が同一のデザインである。
  2. 新規性喪失の例外規定の適用可否
    被告は本件登録デザインの出願前から本件登録デザインと同一のデザインの物品を販売していたという事実、被告から上記製品を購入した消費者がNAVERブログに上記製品について評価した内容の文章を掲示した事実を認めることができ、被告が本件審決取消訴訟に関する答弁書の中で新規性喪失の例外主張をした事実は、記録上明白である。しかし、新規性喪失の例外規定の文言と立法趣旨に照らしてみると、デザイン登録を受ける権利を有する者が公開行為をした後に旧デザイン保護法第36条第1項の6月以内にデザイン登録出願をしていたとしても、旧デザイン保護法第36条第2項各号のいずれかに該当するときその旨を記載した書面とこれを証明できる書類を特許庁長または特許審判院長に提出した場合にのみ新規性喪失の例外規定の適用を受けることができ、かつ旧デザイン保護法第36条第2項第4号がデザイン登録無効審判に対する答弁書を提出するときに新規性喪失の例外主張をすることができると定めている以上、デザイン登録無効審判の審決に対する訴訟手続で新規性喪失の例外主張をしたとしても新規性喪失の例外規定の適用を受けることはできない。したがって、本件登録デザインに対して先行デザインは、旧デザイン保護法第36条で定める新規性喪失の例外の要件と手続を備えることができない。

(3)結論

本件登録デザインは出願前に公知となったデザインに該当するのでデザイン保護法第33条第1項に該当する。従って、本件登録デザインはデザイン保護法第121条第1項第2号によってそのデザイン登録が無効とされるべきである。

専門家からのアドバイス

韓国でも日本と同様、新規性喪失の例外規定は原則に関する例外を規定するものであるため、その要件と手続を遵守する場合にのみその適用を受けることができる。本件はこの点を確認した事例という点で意義がある。
ところで日本の意匠法でも新規性喪失の例外規定が設けられているが、韓国のデザイン保護法では、その適用要件として本人の意思に反するか否かを区分していない点と、その主張時期も日本の意匠法より幅広い例外を認めている点等で異なっている。これらの相違点は実務において参考にされたい(下記参照)。

新規性喪失の例外に関する日韓両国の法規定

韓国のデザイン保護法

第36条(新規性喪失の例外)①デザイン登録を受けることができる権利を有する者のデザインが第33条第1項第1号又は第2号に該当するに至った場合、そのデザインは、その日から12月以内にその者がデザイン登録出願したデザインについて同条第1項及び第2項を適用するときは、同条第1項第1号又は第2号に該当しないものとみなす。ただし、そのデザインが条約又は法律により国内又は国外で出願公開又は登録公告となった場合には、この限りでない。
②第1項本文の適用を受けようとする者は、次の各号のいずれかの時期に該当するときに、その趣旨を記載した書面及びこれを証明することができる書類を特許庁長又は特許審判院長に提出しなければならない。
1.デザイン登録出願書を提出するとき。この場合において、証明することができる書類は、デザイン登録出願日から30日以内に提出しなければならない。
2.デザイン登録拒絶決定またはデザイン登録決定の通知書が発送されるまで。この場合、証明することができる書類は、趣旨を記載した書面を提出した日から30日以内に提出するものの、デザイン登録可否の決定前に提出しなければならない。
3.デザイン一部審査登録異議の申立てに対する答弁書を提出するとき
4.審判の請求(デザイン登録無効審判の場合に限る)に対する答弁書を提出するとき

日本の意匠法

(意匠の新規性の喪失の例外)
第四条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項及び第六十条の七において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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