知財判例データベース 原出願時にしなかった公知例外主張を分割出願時に行った場合、その効果は認められる

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A vs 被告 特許庁長
事件番号
2020フ11479拒絶決定(特)
言い渡し日
2022年08月31日
事件の経過
破棄差戻し

概要

原告は、原出願で公知例外主張をせずに出願した後、原出願の審査過程で自己公知文献が先行文献として引用され、分割出願をして公知例外主張をした。特許庁、特許審判院、特許法院はいずれも分割出願に対して公知例外の効果が認められないと認め、分割出願は新規性および進歩性の欠如により拒絶決定されると判断した。しかし、大法院は、原出願で公知例外主張をしなかったとしても、分割出願で適法な手順を遵守して公知例外主張をしたのであれば、原出願が自己公知日から12カ月以内になされた以上、公知例外の効果が認められると判断した。

事実関係

原告は、2014年12月23日にB発明を特許法第30条第1項で定めた公知例外主張をせずに出願した(以下「原出願」とする)。原出願の審査過程において、特許庁の審査官から2014年8月頃に公開された原告本人の修士学位論文(先行発明3)により新規性および進歩性が否定される旨の意見提出通知を受け、2016年8月30日に分割出願をする際に公知例外主張をし、原出願は2016年8月31日に取り下げた。
特許庁の審査官は、原告の分割出願に対する公知例外主張を排斥し、2017年3月15日に拒絶決定をした。原告は拒絶決定不服審判を請求したが、特許審判院も2020年3月3日に、原出願で公知例外主張をしなかった以上、分割出願で公知例外主張をしても原出願日を基準とした公知例外の効果が認められないという前提で原告の公知例外主張を排斥し、出願発明は先行発明3によって出願発明の新規性および進歩性が否定される等の理由で審判請求棄却審決をした。原告はこれを不服として審決取消の訴えを提起したが、特許法院は審決と同一の趣旨で原告の請求を棄却した。原告は請求棄却判決に対して上告した。

判決内容

大法院は、公知例外および分割出願関連規定の文言と内容、各制度の趣旨等に照らして、原出願で公知例外主張をしなかったとしても分割出願で適法な手順を遵守して公知例外主張をしたのであれば、原出願が自己公知日から12カ月以内になされた以上、公知例外の効果が認められるとするのが妥当であると判断した。大法院はその判断根拠として以下を挙げた。

  1. 特許法第30条第1項第1号は、特許を受ける権利を有する者によってその発明が特許出願前に国内または国外で公知となったか公然と実施される等により特許法第29条第1項各号のいずれか1つに該当するようになった場合(以下「自己公知」とする)、その日から12カ月以内に特許出願をすればその特許出願された発明に対して特許発明の新規性または進歩性の規定を適用する際にその発明は第29条第1項各号の公知となった発明に該当しないものとみなすものとして、公知例外の規定を置いている。また、同条第2項は、同条第1項第1号の適用を受けようとする者は、特許出願書にその旨を記載して出願しなければならず、これを証明できる書類を特許出願日から30日以内に特許庁長に提出しなければならないとして、公知例外の適用のための主張の提出時期、証明書類の提出期限等、手続に関する規定を置いている。
    一方、特許法第52条第2項は、適法な分割出願があった場合、原出願日に出願したものとみなすという原則と、その例外として特許法第30条第2項の公知例外主張の提出時期、証明書類の提出期間については分割出願日を基準とすると定めているだけであって(これは公知例外主張の時期および証明書類の提出期限を原出願日に遡及して算定すると分割出願時に既にその期限が過ぎている場合が多いためである)、原出願において公知例外主張をせずに分割出願でのみ公知例外主張をした場合に、分割出願日を基準として公知例外主張の要件充足を判断すべきであるとか、原出願での公知例外主張を、分割出願での公知例外主張を通じた原出願日を基準とした公知例外の効果の認定要件として定めたものでない。結局、上記規定の文言上では、原出願時に公知例外主張をしなかったとしても分割出願が適法になされれば、特許法第52条第2項本文によって原出願日に出願したものとみなすようになるので、自己公知日から12カ月以内に原出願がなされて、分割出願日を基準に公知例外主張の手続要件を満たしたのであれば、分割出願が自己公知日から12カ月を徒過してなされたとしても公知例外の効果が発生するものと解釈することが妥当である。
  2. 分割出願は、特許法第45条第1項が定める一発明一出願主義を満たせない場合だけでなく、原出願当時に特許請求の範囲には記載されていなかったが、原出願の最初の添付明細書および図面に記載されている発明に対して後日権利化する必要性が生じた場合、これらの発明に対しても、この新たな特許出願が適法なものであれば原出願と同時に出願したものと同じ効果を認めることも許容し、特許制度によって保護され得るようにしている。したがって、原出願当時は特許請求の範囲が自己公知した内容と関係がなく公知例外主張をしなかったが、分割出願時に特許請求の範囲が自己公知した内容に含まれている場合があり得、このような場合、原出願時に公知例外主張をしなかったとしても分割出願で公知例外主張をして出願日遡及の効力を認める実質的必要性がある。
  3. 分割出願は、特許に関する手続において補正の対象になる何らかの手続に関連して記載事項の欠陥、具備書類の補完等を目的になされる補正とは別の制度であり、補正可能かどうかと無関係に特許法第52条の要件を満たせば許容される独立した出願である。したがって、特許出願書に公知例外主張の旨を記載するようにした特許法第30条第2項を形骸化させるおそれがあるという点で、出願時に欠落した公知例外主張を補正の形式で補完することは許容されないが(大法院2011年6月9日言渡2010フ2353判決等参照)、この点が、原出願時に公知例外主張をしなかった場合において分割出願での公知例外主張を許容しない根拠になるとはいい難い。
  4. 上記2010フ2353判決以降、出願人の権利保護を強化するために特許法第30条第3項を新設し(2015年1月28日法律第13096号で改正されたもの)、出願人の単純なミスにより出願時に公知例外主張をしなかったとしても、一定期間、公知例外主張の旨を記載した書類やこれを証明できる書類を提出できる公知例外主張補完制度を導入した。ところが、特許手続における補正と分割出願はその要件と趣旨を異にする別の制度であるという点で、原出願で公知例外主張をしなかった場合、分割出願における公知例外主張により原出願日を基準とした公知例外の効果を認められ得るかの問題は、特許法第30条第3項の新設前後を問わず一貫して解釈することが妥当である。
  5. さらに公知例外規定は、特許法制定以降、現在に至るまでその例外認定事由が拡大されて、新規性だけでなく進歩性に関してもこれを適用し、その期間が6カ月から1年へ拡大される等の改正を通じて、特許制度に未熟な発明者を保護するための制度を超え、出願人の発明者としての権利を実効的に保護するための制度として定着しているという点まで加えて見れば、分割出願で公知例外主張を通じて原出願日を基準とした公知例外の効果が認められるのを制限する合理的理由を探すのは困難である。
加えて大法院は、本件について、原告は出願発明と同一の発明である先行発明3の公開後12カ月以内の2014年12月23日に原出願をし、当時は公知例外主張をしなかったが、分割出願可能期間内に分割出願をし手続を遵守して公知例外主張をしたので、原告が自己公知した先行発明3は出願発明の新規性および進歩性の否定の根拠になり得ないといえると判断した。これにより、原審判決には分割出願および公知例外主張に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがあると判断した。

専門家からのアドバイス

韓国では新規性喪失の例外を公知例外とも言うが、この公知例外主張の制度については、その適用を受けることのできる要件が持続的に緩和されてきた。2006年には出願公開と登録公告を除いた全ての国内外の公知行為に公知例外主張が認められるものとして公知態様に対する制限が緩和され、2012年には公知例外の適用期間が公開後6カ月以内の出願から公開後12カ月以内の出願へ延長された。さらに2015年には、出願時に公知例外主張をしなかったとしても補正期間、および特許決定後の設定登録前にも公知例外主張が可能なように手続的要件が緩和された。
本件では原出願で公知例外主張をしなかった場合において、分割出願で行った公知例外主張の効果が認定されるかが争点になった。大法院は、そうした公知例外主張の効果を排除する明示的な規定がない点、2015年に公知例外主張の補正が可能になった特許法の改正前にそのような補正が不可であると判断した大法院判決があるにもかかわらず、補正と分割出願は別のものとして見なければならない点、発明者の権利保護の実効性確保の面で公知例外の認定要件が緩和されてきている点等に照らして、分割出願でのみ行った公知例外主張の効果が認められると判断した。公知例外の認定要件を分割出願において緩和した判例であり、実務上活用できよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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