知財判例データベース 特許発明の課題解決原理が侵害製品に具現されているとしてもそれが公知である場合、均等かが争点となる構成の個別の機能や役割を比較して均等侵害を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(特許権者) vs 被告、被上告人(侵害被疑者)
事件番号
2021ダ280835特許侵害差止(特)
言い渡し日
2022年09月07日
事件の経過
上告棄却(原審確定)

概要

均等侵害の要件の1つである作用効果の同一性を判断するにおいて、特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想が既に公知となっている場合には、特許発明と侵害製品との間に差がある構成要素の個別の機能や役割等を比較して均等であるかを判断すべきである。本件においては、対応構成要素の作用効果に差があり、侵害製品の構成への変更も容易ではないことを理由として均等侵害を否定した。

事実関係

原告の特許発明は「角質除去器」に関するもので、その明細書によると「従来の角質除去器のように角質除去時にそれほど力を入れることなく、かみそりのように皮膚を痛めるおそれがなく、薬品使用の副作用を心配する必要をなくす」ことを解決課題とし、角質除去器の外側面(21)から微細に突出した突出板(23)の両側に微細な切削刃(25)が形成されたマイクロカッター(20)を多数配列した角質除去板(24)を備えることを特徴とする(下記図面参照)。

角質除去器の構成に対する全体図である。マイクロカッターと角質除去板などが描かれている。 マイクロカッターの構成に対する拡大図である。マイクロカッターの外側面、平面突出板、切削刃、通過ホール、連結部などが描かれている。
図4:角質除去器の全体図
20:マイクロカッター、24:角質除去板
図2:マイクロカッターの拡大図
21:外側面、23:平面突出板、25:切削刃、26:通過ホール、27:連結部

侵害判断の争点になった対象特許の請求項1の構成は、「(前略)上記マイクロカッター(20)は外側面(21)から一定の大きさの円形または多角形の平面からなる突出板(23)が0.5㎜以下の高さに突出形成されること」(「構成要素2」)である。上記構成に対して、被告の侵害製品は外側面から2つの円を一部重ねたような一定の大きさのひょうたん形状の突出板が0.2㎜程度の高さに突出形成された構成を備えている。

外側面から一定の大きさの円形または多角形の平面からなる突出板が0.5㎜以下の高さに突出形成されている。 突出板の形状は「円形または多角形の平面からなる」ものではないため文言侵害に該当せず、作用効果が相違して均等侵害にも該当しないと主張している形。
対象特許の突出板 侵害製品の突出板

被告は、侵害製品の突出板の形状は「円形または多角形の平面からなる」ものではないため文言侵害に該当せず、作用効果が相違して均等侵害にも該当しないと主張した。これに対して原告は、「円形」は物理的に完璧な1つの「円」のみならず、円形が有する機能と効果をそのまま維持する「円の一部からなる形態」も含むものと解釈されるべきであるため文言侵害に該当し、たとえ文言侵害ではなくても均等侵害に該当すると主張した。

原審判決(文言侵害および均等侵害の否定)

(1)文言侵害であるか

本件特許発明の明細書において「円形」の意味について特に定義していないため、一般に使用される単語の意味を詳察すると、「円」とは、「平面の一点から一定の距離の点からなる曲線」を意味するため(ネイバー知識百科参照)、「円形」は上記のように円と定義される形状を有する図形を意味すると言える。 ところが、被告製品の突出板は、2つの円形の一部が重なり中央がくぼんだひょうたん形状であって、突出板上の特定の地点を基準とするとき、外郭までの距離が同一でなく、「円形」に該当するとは言い難い。 したがって、被告製品は構成要素2を備えていないため、本件請求項1の発明を文言侵害すると言うことはできない。

(2)均等侵害であるか

  1. 課題解決原理が同一であるか
    本件特許発明の明細書によると、本件請求項1の発明の場合、微細に突出した小さい板の両側に微細な刃が形成されたマイクロカッターを多数配列して角質を切り取る方式を採択することにより、削り取る方式に比べてそれほど力がかからないようにしつつも、薬品を使用する方式のような副作用をなくし、かみそり刃を用いて角質を切り取る場合に発生し得る安全上の問題を解決することをその技術的特徴としている。 したがって、本件請求項1の発明の課題解決原理の技術思想の核心は、「角質除去板に形成された多数の突出したマイクロカッターを利用して研磨する労力なく角質を安全かつ効率よく切削できる角質除去器を提供すること」にあると言える。 一方、被告製品では、角質除去板に形成された突出板の模様や形状に差があるだけで、本件請求項1の発明と同様に角質除去板に多数のマイクロカッターを配列することによって、より容易かつ安全に角質を切削して除去する機能を具現している。したがって、本件請求項1の発明の課題解決原理は、被告製品にそのまま具現されている。
  2. 被告の侵害製品が実質的に同一の作用効果を奏するか
    ところが、本件特許の出願に先立って公開されている韓国公開特許公報第10-2010-0009371号に掲載された「角質除去具」に関する発明の明細書によると、曲面に形成されたカッター部を複数配列する構成を採択することによって角質を除去する労力と時間を減らすことができる点を開示している。また、先行発明4においては「信頼性があり非常に簡単に使用することができる改善されたスキンケア製品を消費者に提供するために、処理されるべき皮膚を横切って往復運動するときに除去されるべき皮膚に接触するよう、ブランクの面上に一定の長さだけ上側に突出する同一平面上の均一に対向する切削刃を装置に備える構成」について開示しており、先行発明5においても「多数の切削刃が突出して角質を多様な方向に切り取ることができる構成」について開示している。 このような点に照らしてみると、「多数の突出したマイクロカッターを利用して安全かつ効率よく角質を切削できる角質除去器を提供」する本件請求項1の発明の技術思想の核心が特有のものであり、または先行技術において解決されていない技術課題を解決しているものとは言い難い。 したがって、本件において、被告製品と本件請求項1の発明の作用効果が実質的に同一か否かは、本件請求項1の発明の技術思想の核心が被告製品に具現されているかではなく、均等かが問題となる構成要素、すなわち、本件請求項1の発明の「円形または多角形の平面からなる突出板」の構成と被告製品の「ひょうたん形状からなる突出板」の構成の個別の機能や役割等を比較して判断すべきである。
被告製品では、本件請求項1の発明とは異なって突出板に2つの頂点があり、切削を始める地点が2カ所であるため、1回の動きにより角質が広い面積で切削され得る。さらに、2つの頂点の間に形成された側面刃が互いに対向しており、曲線の切削刃を通じて滑らかに切削された角質がそれ以上押し出される所がなくなれば、側面刃の間に集まるようになり、それによって頂点の間において切削効果が追加で発生することにより、角質切削における効率性を向上させることができる。 表の左側説明を参照

また、通常の技術者が本件請求項1の発明において、突出板の形状を円形や多角形の範疇に属さない「ひょうたん形状」に変更することにより切削を始める地点を2カ所とし、2つの頂点の間において曲線の切削刃を通じて滑らかに切削されるようにし、中央のくぼんだ部分の切削刃によっても切削されるようにすることによって1回の動きで広い面積が切削される効果を奏するように変更することが容易であるとは言い難い。

結局、被告製品は、本件請求項1の発明と比較して作用効果が同一でなく、そこから変更が容易であると言うこともできないため、本件請求項1の発明を均等侵害しない。

これに対して原告は上告を提起した。

判決内容

  1. 法理(均等侵害であるかについて)
    1. 特許権侵害訴訟の相手方が製造する製品または使用する方法等(以下「侵害製品等」と言う)が特許権を侵害するというためには、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素とその構成要素の間の有機的結合関係が侵害製品等にそのまま含まれていなければならない。侵害製品等に特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち、変更された部分がある場合にも、特許発明と課題解決原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を奏し、そのように変更することがその発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が誰でも容易に考え出すことができる程度であれば、特別な事情がない限り、侵害製品等は特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものとして依然として特許権を侵害すると言うべきである。
      ここにおいて、侵害製品等と特許発明の課題解決原理が同一か否かを判断するときは、請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書に記載された発明の説明の記載と出願当時の公知技術等を参酌して先行技術と対比してみるとき、特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心が何かを実質的に探求して判断すべきである(大法院2019年1月31日言渡2017フ424判決、大法院2020年4月29日言渡2016フ2546判決等参照)。
    2. 作用効果が実質的に同一か否かは、先行技術において解決されていない技術課題として特許発明が解決している課題を侵害製品等も解決しているかを中心に判断すべきである。したがって、発明の説明の記載と出願当時の公知技術等を参酌して把握される特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心が侵害製品等においても具現されているならば、作用効果が実質的に同一であるというのが原則である。しかし、上記のような技術思想の核心が特許発明の出願当時、既に公知となっているか、またはそれと異ならないものに過ぎない場合には、このような技術思想の核心が特許発明に特有であると言えず、特許発明が先行技術において解決されていない技術課題を解決していると言うこともできない。このようなときは、特許発明の技術思想の核心が侵害製品等において具現されているかをもって作用効果が実質的に同一か否かを判断できず、均等かが問題になる構成要素の個別の機能や役割等を比較して判断すべきである(大法院2019年1月31日言渡2018ダ267252判決、大法院2019年2月14日言渡2015フ2327判決等参照)。
  2. 上記法理と記録に照らして詳察すると、本件請求項1の発明の課題解決原理は「多数の突出マイクロカッターを利用することのみならず、多様な方向における切削を通じて安全かつ効率のよい角質除去をできるようにすること」と把握すべきであるという点において、原審は本件請求項1の特許発明の課題解決原理を多少広く把握している点はある。しかし、上記のような課題解決原理が先行発明に公知となっており、平面突出板の形状の差によって作用効果に差があり、変更が容易ではなく、均等侵害が成立しないとした結論は正当である。したがって、原審判決に上告理由の主張のように、必要な審理を尽くしていないまま論理と経験則に違反して自由心証主義の限界を逸脱するか、または特許発明の均等侵害に関する法理を誤解する等により判決に影響を及ぼした誤りはない。

専門家からのアドバイス

本件大法院判決が説示した均等侵害の判断法理は、従前の法理を変更するものでも新たなものでもない。過去に大法院は、均等侵害の判断法理として2019年1月31日言渡2017フ424判決および2018ダ267252判決を下して以降、下級審においては、この両判決が説示した法理に従って均等侵害の要件である課題解決原理の同一性と作用効果の実質的同一性を判断していると言え、本件の原審判決もそれに従っている。
本件において法院は、特許発明の明細書の記載に基づいて課題解決原理を特定した上で、当該課題解決原理が侵害製品にも具現されており、課題解決原理が同一である点を認めている。しかし、当該課題解決原理が先行技術により公知となっていたものであるため、作用効果の同一性を判断するにおいて特許発明の構成(「円形または多角形の平面からなる突出板」)と侵害製品の置換された構成(「ひょうたん形状からなる突出板」)の個別の機能や役割を具体的に比較し、作用効果が相違すると判断している。
本件のように侵害訴訟において被告は、先行技術によって特許発明の進歩性が否定されるとの無効の抗弁まではしなくとも、先行技術によって特許発明の課題解決原理が公知となっている点を立証できるのであれば、均等の幅が狭くなって均等侵害が否定される可能性が高くなり得る。均等侵害が争点になる事案では、本件での法院の判断事例を参考にする価値がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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