知財判例データベース 出願商標が識別力がないか微弱な標章のみからなる場合において、その全体を基準として、先登録商標の要部または全体と対比して非類似と判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 企業A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2021ホ6665
言い渡し日
2022年04月22日
事件の経過
確定(2022年5月10日)

概要

本件出願商標は、その指定商品に関連して識別力がないか、または微弱な標章のみからなり、そのいずれかの部分だけが独自に一般需要者に本件登録商標に関する印象を与えまたは記憶・連想させることによりその部分だけで独立して商品の出所表示機能を遂行するといえないので、全体を基準として商標の類否を判断しなければならない。本件出願商標は、先登録商標の要部と外観、称呼、観念がいずれも相違し、先登録商標全体と対比しても外観、称呼、観念がいずれも相違するため、両商標は互いに類似しない。

事実関係

本件出願商標と先登録商標は、下表のとおりである。

区分 本件出願商標 先登録商標
標章 「肌トーンを研究する専門家集団カラーラボスホワイトタンニング」というハングル部分と「COLORLABS WHITE TANNING」という英文字でなっている標章。
(ハングル部分:肌トーンを研究する専門家集団カラーラボスホワイトタンニング)
「Color Lab VDL」という英文字でなっている標章。
指定商品 第35類の化粧品小売業等 第35類の化粧品小売業等

原告が出願した本件出願商標について、特許庁審査官は先登録商標と類似して商標法第34条第1項第7号に該当するという理由で拒絶決定をした。これに対し原告は拒絶決定の取消しを求める審判を提起したが、特許審判院もまた、本件出願商標は商標法第34条第1項第7号に該当するという理由で原告の審判請求を棄却する審決をした。

判決内容

関連法理

商標の類否は、その外観・称呼および観念を客観的・全体的・離隔的に観察し、その指定商品の取引において一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準とし、その商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがあるか否かにより判断しなければならない。
2以上の文字または図形の組み合わせからなる結合商標は、その構成部分全体の外観、称呼、観念を基準として商標の類否を判断することが原則であるが、商標の中で一般需要者にその商標に関する印象を植え付け、または記憶・連想させることによりその部分だけで独立して商品の出所表示機能を遂行する部分、すなわち要部がある場合、適切な全体観察の結論を誘導するためには要部をもって商標の類否を対比・判断することが必要である。そして商標の構成部分が要部であるか否かは、その部分が周知・著名であり、または一般需要者に強い印象を与える部分であるか、商標全体において大きな比重を占める部分であるか等の要素と併せて、他の構成部分と比較した相対的な識別力水準やそれとの結合状態と程度、指定商品との関係、取引実情等までを総合的に考慮して判断しなければならない。

具体的検討

先登録商標の要部

  1. 先登録商標である「「Color Lab VDL」という英文字でなっている標章。」は「色彩」を意味する英文字「Color」と「研究所」を意味する英文字「Lab」、造語である英文字「VDL」とが結びついた標章である。
  2. 各種企業、学校等に需要者の要求を満たす色彩を研究する機関である「カラーラボ(Color Lab)」が組織または新設されているという内容のマスコミ記事が多数報道され、化粧品やヘアカラー等、色彩と関連した製品および役務等に「カラーラボ(Color Lab)」が使用された。
  3. 先登録商標権者が生産および販売する化粧品は「Color Lab」の記載なしに「VDL」のみをブランドとして表記し多数のマスコミ記事に報道され、先登録商標権者のホームページの化粧品ブランド紹介部分には「Color Lab」の記載なしに「VDL」だけがブランドとして表記され、他のブランドと並列的に表示されている。
  4. 特許庁審査官は「Color Lab(カラーラボ)」のみからなる商標出願に対して識別力が認められない等の理由でその登録を拒絶してきた。
以上のような事実に照らしてみると、先登録商標のうち「Color Lab」部分はその指定役務と関連して「色彩研究所で製作した化粧品等」と認識され、役務の性質・効能等を普通に用いられる方法により表示した標章に該当し、または上記のような役務を広報もしくは広告する際にありふれて使用される標章で、公益上特定人に独占させるに適しないため、識別力がないか微弱であるといえる。
したがって、先登録商標のうち「Color Lab」部分は独立して商品の出所表示機能を遂行する要部と認め難く、むしろ造語として識別力が強い「「Color Lab VDL」という英文字でなっている標章の「VDL」のところ。」部分が商品の出所表示機能を遂行する要部であると認めるのが相当である。

本件出願商標の識別力

  1. 本件出願商標はハングルと英文字が上下に併記された標章で、「肌の色を研究する専門家集団」部分は「カラーラボスホワイトタンニング」部分を修飾する文言や「カラーラボスホワイトタンニング」の業務や役務を補足説明する文言に過ぎないので識別力がないか微弱である。
  2. 「カラーラボス」と「「COLORLABS WHITE TANNING」という英文字でなっている標章の「COLORLABS」のところ。」部分は、その指定役務である化粧品卸売業および化粧品小売業と関連し「色彩研究所で製作した化粧品」と認識され、その指定役務の性質、効能等を普通に用いられる方法により表示した標章に該当し、または上記のような役務を広報もしくは広告する際にありふれて使用される標章で、公益上特定人に独占させるに適しないため識別力がないか微弱である。
  3. 本件出願商標のうち「ホワイトタンニング」と「WHITE TANNING」部分は、肌を白く焼くという意の「美白タンニング」を意味するものと取引界で認識されるので、その指定商品である化粧品卸売業および化粧品小売業と関連してその商品の性質、効能等を直感させるものとして識別力がないか微弱である。
  4. 結局、本件出願商標はその指定商品と関連して識別力がないか微弱な標章のみからなるため、そのうちいずれかの部分だけが独自に一般需要者に本件登録商標に関する印象を植え付けまたは記憶・連想させることによってその部分だけで独立して商品の出所表示機能を遂行するとはいえないので、全体を基準として商標の類否を判断すべきである。

本件出願商標と先登録商標の対比

本件出願商標は、先登録商標の要部「「Color Lab VDL」という英文字でなっている標章の「VDL」のところ。」部分と外観、称呼、観念がいずれも相違し、先登録商標全体と対比しても外観、称呼、観念がいずれも相違するので、両商標は互いに類似しない。仮に先登録商標のうち化粧品等を除いた他の指定役務と関連し、「「Color Lab VDL」という英文字でなっている標章の「Color Lab」のところ。」部分が独立して商品の出所表示機能を遂行する要部と認められる素地があるとしても、本件出願商標とは外観、称呼、観念が相違し、役務もすべて異なるので、両商標は互いに類似しない。

結論

本件出願商標が識別力がないため無効であるかは別論として、本件出願商標は先登録商標と類似しないので、商標法第34条第1項第7号に該当しない。

専門家からのアドバイス

商標の類否を判断するにあたってはその全体を観察して判断することが原則であるが、2以上の要素が結合した商標の場合、その構成部分のなかに要部と判断され得る部分があるときは、適切な全体観察の結論を誘導するためにはその要部をもって商標の類否を対比・判断することも必要である。このとき商標の構成部分の中に要部と言える部分がなければ、原則的な方法である全体観察の原則に基づいて商標を全体として対比し類否を判断しなければならないというのが大法院判例の立場である。
本件は、こうした大法院の商標類否判断方法に従い、出願商標の構成部分に要部と言える部分がないと認めた上で、その全体をもって、先登録商標の要部および全体とそれぞれ対比し非類似と判断したものであり、本件は全体観察および要部観察に関する参考事例の一つになると思われる。
なお、本件のような審決取消訴訟では、特許審判院で拒絶決定の根拠にならなかった部分を理由に取り上げて特許審判院の審決が適法であるとの判断をすることはできない。このため、今回の特許法院判決は、本件出願商標が識別力がないという理由で無効であるかについては判断せず、単に商標法第34条第1項第7号を根拠に商標登録を拒絶した審決が誤りであるという判断にとどめている。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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