知財判例データベース 大学所有の特許発明の一部の実験に参加した大学院生が共同発明者には該当しないと判断された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A及びB vs 被告 C(特許権者)
事件番号
2021ホ1424登録無効(特)
言い渡し日
2021年12月03日
事件の経過
確定

概要

原告らは、大学所有の特許発明の出願当時、博士課程の大学院生として特許明細書に含まれている一部の実験を行ったことを根拠として、特許発明の共同発明者に該当することを主張した。これに対して特許法院は、原告らが特許発明に関する新たな着想を具体化するとか、または発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段や方法を提供したとは認められないことを理由として、共同発明者に該当しないと判断した。

事実関係

原告らは、被告C産学協力団の指導教授である訴外Eの研究室に2005年頃に合流し、特許発明が出願された2011年を前後して上記研究室において博士課程を履修中であった。被告は、E教授等から特許発明の特許を受ける権利の譲渡を受け、特許登録を受けた。原告らは、2019年に被告を相手取って特許審判院に特許発明に対する登録無効審判を請求し、無効事由は、原告らが発明者から排除されて特許登録されているため、特許発明は共同発明者が共同して特許出願をしなければならない規定等に違背して登録されたことであった。これに対して特許審判院は原告らの審判請求を棄却する審決をし、原告らは特許法院に審決取消訴訟を提起した。

特許発明は、発明の名称を「バイオピン」として出願され、代表請求項である請求項1は下記の通りである。

請求項1

細胞膜タンパク質、及び上記タンパク質の両末端に結合した2以上の細胞浸透ペプチド(cell-penetrating peptide、CPP)を含む融合タンパク質。

判決内容

特許法院は、まず関連法理として下記を提示した。

「2人以上が共同して発明をしたときは特許を受ける権利を共有し、その場合、共有者全員が共同して特許出願をしなければならず、特許を受ける権利が共有の場合には、各共有者は他の共有者すべての同意を受けなければ、その持分を譲渡することができない(特許法第33条第2項、第37条第3項、第44条)。このような規定に反して登録された特許は無効であり、このような登録無効事由の立証責任は、その無効を主張する者にある。」

一方、特許法上、発明者(共同発明者を含む)に該当するためには、単に発明における基本的な課題とアイデアのみを提供した場合、もしくは研究者を一般に管理して研究者の指示によりデータの整理と実験のみをした場合、または資金・設備等を提供して発明の完成を後援・委託した程度等にとどまらず、発明の技術的課題を解決するための具体的な着想を新たに提示・付加・補完するか、実験等を通じて新たな着想を具体化するか、または発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法の提供もしくは具体的な助言・指導を通じて発明を可能にした場合等のように、技術的思想の創作行為に実質的に寄与するに至らなければならない(大法院2012年12月27日言渡2011ダ67705、67712判決、大法院2011年7月28日言渡2009ダ75178判決など参照)』

続いて、特許法院は、下記のような事実を認定した。

  1. E教授は、2008年10月、自身の実験ノートに「膜タンパク質とPTD(Protein Transduction Domain、タンパク質伝達体)またはTAT(trans-activating transcriptional activator; HIV-1に由来したタンパク質)を融合させ、膜タンパク質は細胞死滅を引き起こしてはならない」という、特許発明が基礎としている技術思想に関するメモをし(乙第1号証、ノート63頁)、それ以降、原告Aは、2010年1月からEの指示を受けて米国の外部素材企業からOPRD(opioid receptor delta transmembrane domain; 細胞膜タンパク質として細胞の細胞膜に引っ掛かって細胞膜に固定される特性を有する)の研究に使用するペプチドを購入した。
  2. 原告Aは、2010年12月に細胞膜タンパク質とタンパク質の両末端に結合した2以上の細胞浸透ペプチド(CPP)により構成される融合タンパク質による、赤色に染色された実験用ラットの心臓筋芽細胞と緑色蛍光染料により染色されたラットの間葉系幹細胞における細胞間結合の増加効果に関する実験結果が記載された文書を作成した。
  3. 原告Aは、2011年1月にEから「一次的にOPRDを中心に両側にPTDを位置させること」等、特許発明の融合タンパク質に関するアイデアに言及する内容が含まれた電子メールを受信した。その後、原告Aは、外部企業からペプチドを追加購入した。
  4. 原告らは、Eから2011年2月15日に件名を「Bpin Project」として、特許発明の明細書に示された図面を要請する内容の電子メールを受け取り、2011年2月22日に特許発明に関連した研究内容を要約する内容のパワーポイントを作成するようにとの旨の電子メールを受け取った。
  5. 原告らは、2011年11月から2013年4月までC医科大学イメージングセンターの共焦点顕微鏡の使用承認を申請し、これを使用した。
  6. 特許法院は、下記事情に鑑みた上で、上記認定事実だけでは原告らが特許発明の共同発明者に該当するとは認め難いと判断した。

    1. 特許発明の技術思想は、膜タンパク質と、pinの役割をするPTDないしペプチドとを融合することにより細胞間の固定を引き起こし、実際の臨床において幹細胞の消失率を減少させることであり、このときOPRDというオピオイド受容体がその膜タンパク質として細胞の死滅を引き起こさず、細胞ないし組織の保護に効果的であることである。ところが、このような技術思想は、2008年10月にEにより初めて着想されたもので(これについては原告も自認している)、原告らは、PTDまたはCPPとOPRDが結合した構造は原告らにより案出されたと主張しているものの、上記構造の案出が原告らにより着想ないし提案されたと認める何らの証拠もない。
    2. 原告らは、特許発明関連の研究を進める過程において蛍光波長が重なり実験結果を正しく把握し難い難関があり、これを克服するために共焦点顕微鏡の販売会社に技術諮問を要請して設定を変更したと主張している。しかし、たとえそのような事実が認められるとしても、これは単に先にEが提示した着想を実験により具体化するための過程において発生する実験上の単純な問題を解決したに過ぎず、これをもって原告らがバイオピン融合タンパク質//ペプチドの設計等をして「本件特許発明の技術的課題を解決するための具体的な着想」及び「発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法の提供または具体的な助言・指導」をしたと認めることはできない。
    3. 心臓筋芽細胞にOPRDペプチドを処理した後、共焦点顕微鏡により確認する実験、及びOPRDペプチドを心臓筋芽細胞に処理した後、蛍光顕微鏡により確認する実験結果の写真が特許発明の明細書に含まれている。しかし、各証拠の記載だけでは、上記のような実験がEの指示によるものでなく原告らにより独自に行われたものであって、かつその実験により原告らが特許発明に関する新たな着想を具体化した、または発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法を提供したとは断定することができない。
    4. Eが特許発明に関連した新たなアイデアを着想し、原告らに電子メールを通じてOPRDペプチドを利用した実験方法及びそれによる実験結果の整理を指示したことがあり、特にEは自身が着想したバイオピンペプチドの合成を外部に依頼する過程において原告Aにペプチドの具体的な配列情報まで明確に提示している等、実験全般を計画して具体的な実験方向を指示している。したがって、たとえ上記実験の細部的な事項が原告らにより行われたもので、その過程において原告らが特殊実験機器である共焦点顕微鏡を使用するためにイメージングセンターの実験機器の使用を予約してこれを使用し、その実験結果(raw data)を原告らが保管していたとしても、そのような事実だけでは原告らが特許発明の技術的課題を解決するための具体的な着想をした、または発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法を提供したとは認めることが難しい。
    5. 一方、特許発明の過程において作成された実験ノート(乙第1号証)には、Eが膜タンパク質としてのOPRDの選択からペプチドの合成または組換えタンパク質の製造に必要な配列デザイン等のバイオピンの構造を設計した過程とそれに関する具体的な内容が記載されているだけで、原告らがそのようなバイオピンの構造の設計や関連した着想に関与した、または実験過程において難関に直面しその解決策を提示した、または実験条件を変更する等の方法により積極的に発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法を提供したことを認める何らの記載もない(原告らは、上記ノート以外にも、原告らが特許発明の創作行為に寄与した内容が記載されていた研究ノートが追加で作成されていると主張するが、そのような他の研究ノートの存在や記載内容が分かる資料はない)。

専門家からのアドバイス

本件は、大学でなされた研究成果による特許発明において、その特許発明に関連した新たなアイデアを着想することなしに実験の細部の過程を行った大学院生らが共同発明者に該当するかが争いとなった。

特許法院は、発明に関連した実験ノート、発明者である指導教授と原告ら大学院生との電子メールの通信内容等の具体的な証拠に鑑み、原告らが特許発明の技術的課題を解決するための具体的な着想をしたとか、または発明の目的及び効果を達成するための具体的な手段と方法を提供したとは認め難いため、特許発明の共同発明者には該当しないと判断した。本件は、共同発明者の認定法理を具体的な事案に当てはめて判断した事例として、実務上、参考になろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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