知財判例データベース 結合商標は構成部分全体を一つとみて識別力の有無を判断すべきであり、本件登録商標は記述的標章に該当せず無効理由がないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2022フ10128
言い渡し日
2022年06月30日
事件の経過
原審判決(特許法院)破棄差戻し

概要

本件登録商標は「ROYAL BEEの英文字とハングルとなっている本件登録商標。」(ハングル部分は「ローヤルビー」)からなり、商品類区分第3類の化粧品等を指定商品としている。
大法院は、本件登録商標が「ROYAL」と「BEE」とを結合して作った造語であるとした上で、 本件登録商標が指定商品の原材料に「ローヤルゼリー」や「はちみつ」が使用されていることを暗示しているとはいえても、指定商品にそのような原材料が使用されていることを直感させることにより、商品の原材料を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標であるとは断定できず、これを特定人に独占的に使用させることが公益上妥当でないとも言い難いとして、本件登録商標は旧商標法第6条第1項第3号(注1)に該当しないため無効理由がないと判断した。

事実関係

原告は、特許審判院に、本件登録商標は旧商標法第6条第1項第3号、第7条第1項第11号、第7条第1項第12号にそれぞれ該当するという理由で商標登録無効審判を請求した。これに対し、特許審判院は、本件登録商標は標章全体の構成をみても外観上特に商品の出所表示として識別力がないという理由がなく、指定商品である「化粧品」等に関連して「女王蜂」または「蜂やローヤルゼリーを含有した商品」を意味するものと容易に認識されるとは言い難いので旧商標法第6条第1項第3号に該当しないと判断し、その商品の性質を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標に該当しない以上、需要者が商品の品質を誤認するおそれがあるともいえないため旧商標法第7条第1項第11号に該当せず、先使用商標(英文字ROYAL BEEの真ん中の上に王冠があるシルバー色の商標。,ROYAL BEEとなっている黒色の英文字。)が本件登録商標の出願当時、国内または外国の一般需要者または取引者などに特定人の商標と認識されていたともいえないため旧商標法第7条第1項第12号にも該当しないと判断した。

原告は、上記の特許審判院審決を不服として審決取消訴訟を提起し、特許法院は、本件登録商標はその指定商品である化粧品等に関連して、原材料である「ローヤルゼリー」や「はちみつ」を含有した製品を表示したことを直感させるといえるので、本件登録商標は原材料等を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標に該当して旧商標法第6条第1項第3号に該当し、原告の残りの登録無効理由に関する主張については詳察するまでもなく本件登録商標はその登録が無効にされるべきであると判断した。
なお、原告は特許法院で上記登録無効理由として、本件登録商標が旧商標法第7条第1項第7号にも該当するという主張を追加するとともに、特許審判院に証拠として提出した上記先使用商標に代えて下表記載の先登録商標、先使用商標を証拠として提出している。

区分 先登録商標1 先登録商標2 先使用商標1 先使用商標2 先使用商標3
標章 青い色の英語筆記体でbeeと書いてある。 蜂の絵と共に黒い色でBeeと書いてある。 商品の真ん中の部分の写真。 商品の全体的な写真。 黒い色でROYAL BEEと書いてある。
蜂蜜と蜂の絵を交えたRoyal beeの文字。
指定/使用商品 第3類メイクアップ化粧品等 第3類メイクアップ化粧品等 先使用商標1, 2の使用商品:化粧品等 商品の全体的な写真。 使用商品:はちみつ等

これに対し被告が特許法院判決に対して上告を提起したところ、大法院は特許法院判決を破棄した。

判決内容

関連法理

旧商標法第6条第1項第3号は、「商品の産地・品質・原材料・効能・用途・数量・形状・価格・生産方法・加工方法・使用方法または時期を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができない。」と規定している。前記規定の趣旨は、そのような標章は商品の特性を記述するために表示されている記述的標章であって自他商品を識別する機能を喪失している場合が多いだけでなく、たとえ商品識別の機能がある場合であっても、商品の取引上、何人にも必要な表示であるので、特定人だけに独占的に使用させることは公益上妥当でないということにある。
ある商標が上記規定で定める記述的標章に該当するか否かは、商標が持つ観念、指定商品との関係、取引社会の実情等を勘案し客観的に判断しなければならない。
商標が指定商品の産地・品質・原材料・効能・用途等を暗示し、または強調するとみられるとしても、商標の全体的な構成からみたとき一般需要者や取引者が単に指定商品の産地・品質・原材料・効能・用途等を表示したものと認識できないものは記述的標章に該当しない。
また、2以上の構成部分が結合してなるいわゆる結合商標においては、構成部分全体を一つとみて識別力の有無を判断しなければならない。

上記法理および記録に基づく考察

本件登録商標は「ROYAL BEEの英文字とハングルとなっている本件登録商標。」からなり、商品類区分第3類の化粧品等を指定商品とする。

「ROYAL BEE」は「ROYAL」と「BEE」とを結合して作った造語であり、取引社会で一般的に使用される表現ではない。

「ローヤルゼリー」と「はちみつ」は本件登録商標の指定商品である化粧品等の原料成分としてありふれて使用されており、「ローヤルゼリー」や「はちみつ」を原材料に使用した化粧品製品のなかには「ローヤル」や「ROYAL」を含む標章が使用されたものが多数存在する。しかし「ローヤルゼリー」や「はちみつ」を原材料に使用してはいないものの「ローヤル」や「ROYAL」を含む標章が使われた商品も多数存在する。

以上のような事情と、「ローヤル」や「ROYAL」の辞書的意味または取引上の観念等に照らしてみれば、本件登録商標が指定商品の原材料に「ローヤルゼリー」や「はちみつ」が使用されたことを暗示しているとはいえても、指定商品にそのような原材料が使用されたことを直感させることにより、商品の原材料を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標であると断定することはできない。

また、本件登録商標は固有の意味を内包する二つの単語が結びついた造語として、これにより他人が商品の原材料として「ローヤルゼリー」や「はちみつ」を使用していることを通常の方法により自由に表示することに関していかなる影響も及ぼし得ないだけでなく、本件登録商標が化粧品の流通過程において何人にも必要な表示とみることもできないので、これを特定人に独占的に使用させることが公益上妥当でないとも言い難い。

結論

以上にもかかわらず、原審は、本件登録商標が指定商品の原材料に「ローヤルゼリー」や「はちみつ」を使用していることを直感させ、原材料等を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標であると判断した。このような原審の判断には、旧商標法第6条第1項第3号の「商品の原材料を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標」に関する法理を誤解し判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

商標登録要件に関連し、韓国特許庁の商標審査基準では「性質表示標章は通常商品の流通過程で必要な表示であるから、誰もが自由に使用する必要があり、その使用を望むので、特定人に独占排他的な権利を付与してはならないという公益上の要請と、性質表示の場合には、商品の出所表示と認識されず製品の説明と認識され、他人の同種商品との関係において識別が難しいという点のために、商標登録を受けることができないようにしたものである」旨を説明している。
日本特許庁でも令和2年に発刊された工業所有権法(産業財産権法)逐条解説第21版では、「記述的商標」が商標登録できない理由について「これらは通常、商品又は役務を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人も使用をする必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものだから一私人に独占を認めるのは妥当ではなく、また、多くの場合にすでに一般的に使用がされあるいは将来必ず一般的に使用がされるものであるから、これらのものに自他商品又は自他役務の識別力を認めることはできない。」としており、韓国特許庁の商標審査基準と概ね同旨と理解される。
このように、いわゆる記述的商標に関して規定した韓国旧商標法第6条第1項第3号と日本商標法第3条第1項第3号(注2)は、列挙された内容の一部が異なるだけで趣旨は同じであって、これらの条文で列挙している商品の性質は例示的なものであることから、これらの規定に該当するか否かはその商標が持つ意味内容だけでなく当該指定商品との関係および取引社会の実情等を勘案して客観的に判断しなければならないものとされている。
ただし、具体的な事案において、どのような商標が商品の特性を直接的に表示するものであるか、あるいは商品の特性を間接的・暗示的に表示するものであるかを明確に判断することは容易ではない。実際、今回紹介した事例でも特許審判院、特許法院、大法院段階で判断が二転三転した。終局判断といえる今回の大法院判決は、①当該標章が取引社会で一般的に使われる表現であるか、②該当商品の原材料としては使用されないのに当該標章が使われる事例の有無、③辞書的意味や取引上の観念に照らしてみるとき、当該標章を暗示する程度か、それとも直感させるものであるか、④特定人に独占的に使用させることが公益上妥当であるか等について具体的な判断がなされたもので、本件は記述的商標の判断に際し高い参考価値があると考えられる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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