知財判例データベース 旧種子産業法の規定により、品種保護権に対する通常実施権が認められた特許法院の判決

基本情報

区分
その他
判断主体
特許法院
当事者
原告 A,C vs 被告 E
事件番号
2020ナ2219損害賠償(知)
言い渡し日
2022年02月11日
事件の経過
確定(上告審理不続行棄却)

概要

原告は、「植物新品種保護法」による品種保護権に基づいて、主位的に品種保護権の侵害による損害賠償を、予備的に被告に対し「種子産業法」で規定された保護品種の出願公開日前に国内でその保護品種の実施事業をし、またはその準備をしている者に許容される通常実施権が認められる場合、その通常実施権に対する相当の対価の支払いを請求した。特許法院は、被告の「種子産業法」の規定による通常実施権を認めながら原告の主位的請求を棄却した一方で、被告は原告に上記通常実施権に対する相当の対価を支払う義務があると判断し、原告の予備的請求は認めた。

事実関係

原告Aは、米国の学校法人であり、ブルーベリー品種(3種であり、各品種の名称は「ドレイパー」、「リバティー」、「オーロラ」と略す)を開発して米国特許商標庁に特許登録を終えた後、韓国国内でも「植物新品種保護法」によって2012年1月10日付で品種保護出願を行い、2015年以降、品種保護登録を終えた品種保護権者である。一方、原告Cは2016年頃に上記保護品種に対する専用実施権者となった。
原告Aは、被告が上記各保護品種を無断で増殖させて販売することによって、原告らの品種保護権等を侵害したという理由で損害賠償を請求した。これに対し、被告は、各保護品種の出願公開日である2012年3月15日以前から各保護品種に関する実施事業をし、またはその準備をすることにより、種子産業法(2012年6月1日法律第11458号として全部改正される前のもの。以下「旧種子産業法」とする)第13条の2第4項で定めた各保護品種の品種保護権に対する通常実施権を有しているので、原告らの品種保護権等を侵害したものではないと主張した。これにより、原告Aは上記損害賠償を主位的に請求し、被告に上記条項による通常実施権が認められる場合を前提として、その通常実施権に対する相当の対価の支払い請求を被告への予備的請求として追加した。

判決内容

特許法院は、まず関連法理として以下のとおり提示した。
『「植物新品種保護法」は、品種保護出願人は出願公開日から業としてその出願品種を実施する権利を独占し(同法第38条第1項)、品種保護権者は業としてその保護品種を実施する権利を独占し(同法第56条第1項本文)、専用実施権者はその設定行為に定めた範囲で業として当該保護品種を実施する権利を独占する(同法第56条第1項ただし書、第61条第2項)と規定し、品種保護権者はその品種保護権に対して他人に通常実施権を許諾でき、これにより通常実施権の許諾を受けた通常実施権者は法律で定めるところによって、または設定行為に定めた範囲で業として当該保護品種を実施できる権利を有すると規定している(同法第63条第1項、第2項参照)。
一方、「植物新品種保護法」は2013年8月13日に法律第12062号として改正されて附則(2012年6月1日)第3条の2を新設し、旧種子産業法第13条の2によって品種保護を受けた場合、その品種保護権に対しては旧種子産業法第13条の2に従うように規定したところ、これは知られている品種に対して出願公開日当時その対象であった保護品種の実施事業をし、またはその事業を準備している既存の使用者と品種保護権者との間の公平の観点による利害関係の調整のためのものである。さらに、旧種子産業法第13条の2第4項は、同条第1項によって品種保護を受けた場合、その品種の出願公開日前に国内でその保護品種の実施事業をし、またはその準備をしている者は、その実施または準備をしている事業の目的範囲でその品種保護権に対する通常実施権を有し、この場合、通常実施権を有する者は品種保護権者に相当の対価を支払わなければならないと規定している。ここで旧種子産業法第13条の2第4項で規定している「事業の準備」というのは、その保護品種に対してまだ事業の実施段階に至ってはいないが、直ちに実施する意図があって、そのような即時実施の意図が客観的に認識できる程度に表明されていることをいうと判断することが妥当である(特許法院2019年11月15日言渡2017ナ2615判決等参照)』

続けて特許法院は、本事案の下記の事実関係から、被告は各保護品種の品種保護権に対する通常実施権を有するので、原告らの品種保護権等を侵害したとはいえないと判断した。
  1. 被告はブルーベリー農園を運営していたところ、インターネットカフェを通じて普段から知り合いだったLから、2011年8月頃にドレイパー等各保護品種に対する購入を勧められた。その当時、Lはブルーベリー農場を運営し、各保護品種の出願公開日である2012年3月15日の1年余り前に、既に米国から各保護品種のブルーベリー苗木を挿し穂の形態で持ってきて隔離栽培および隔離栽培の検査にも合格するなど、各保護品種の品種保護権に対する通常実施権者であった。
  2. その後、被告は2011年12月12日に取扱い作物をブルーベリーとして果樹種子業登録を終え、2012年1月13日にドレイパーに対し、2012年2月6日にリバティーおよびオーロラに対して国立種子院に各品種生産・輸入販売申告を終えた。
  3. 一方、被告は2012年1月下旬に、Lと各保護品種の苗木500株を買い取るという内容の売買契約を締結し、2012年2月2日Lに苗木代金として500万ウォンを送金した後、同月中旬にLから上記各苗木を引き取って友人の育苗場に臨時に植栽した後、同年5月頃に自身の農場に移植した。
すなわち、上記のような事実から特許法院は、被告が各保護品種の出願公開日である2012年3月15日以前に既に各保護品種に関する実施事業を行う目的で、旧種子産業法等関連法令で規定している一定の施設を備えて種子業登録および各品種生産・輸入販売申告を終えており、各保護品種の品種保護権に対する通常実施権者であるLから各保護品種の苗木を購入して植栽までしたと認めた。さらに、特許法院は、上記法理に照らしてみると、被告は各保護品種の種子を増殖・生産・譲渡する等の実施段階には至らなかったとしてもその事業を直ちに実施する意図があって、そのような即時実施の意図が客観的に認識できる程度に表明されたと認めることが妥当であると判断した。
一方、特許法院は原告の予備的請求に対して、被告は品種保護権者である原告Aに各保護品種の出願公開日後、各保護品種の実施に関連して旧種子産業法第13条の2第4項による相当の対価として36,000,000ウォン(被告の増殖数量36,000株×実施料1,000ウォン)を認めたが、その根拠は以下のとおりである。
  1. 被告が、原告Aが求めるところによって2013年3月1日頃から2017年7月31日までの4年5カ月の期間に各保護品種を増殖した数量は、被告が2012年1月にLから購入した各保護品種の苗木数が500株であり、年2回程度の挿し木作業をした点、被告が栽培していたブルーベリーの品種数、被告が品種の購入を問い合わせた購入者に案内した販売可能数量、被告が関連刑事事件で陳述した各保護品種の増殖数量、被告が掲示したインターネットブログの記載内容および生産量関連の種々の事情を総合すれば、合計36,000株相当である。
  2. 各保護品種の品種保護権に対する通常実施権者であるLが原告Aに負担した通常実施料が苗木1株当たり1,000ウォン程度であったことを考慮し、原告Aがドレイパー等各保護品種に関連して通常実施権を許諾する場合、苗木1株当たりの実施料は1,000ウォン程度と算定することが妥当である。

専門家からのアドバイス

韓国が2002年に国際植物新品種保護同盟(UPOV)の会員国になったことに伴って、2012年から全ての植物の新品種に対して保護義務が発生し、これにより植物新品種保護に関連した規定は「種子産業法」から分離されて、2012年6月1日付で「植物新品種保護法」が制定されている。本件はこの「植物新品種保護法」によって付与された品種保護権の権利行使に関するもので、その経過措置に基づいて「種子産業法」に規定された保護品種の出願公開日前に国内でその保護品種の実施事業をし、またはその準備をしている者に許容される通常実施権が認められることにより、品種保護権者に対して品種保護権侵害による損害賠償請求が否定され、代わりに通常実施権による相当の対価が認められた事例である。食品新品種保護に関連した特許法院の判例として実務上参考になる。

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