知財判例データベース 出願の審査過程で拒絶理由を克服するために請求の範囲から削除した事項は、権利範囲から意識的に除外したものに該当するという理由で均等侵害が否定された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(被請求人、特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2021ホ3185権利範囲確認(特)
言い渡し日
2021年11月25日
事件の経過
請求棄却/審決確定

概要

出願人が審査過程で特許庁の審査官の拒絶理由を克服するために独立項に従属項の構成を追加し、当該従属項の構成と並列関係にある他の従属項は削除する補正をした事例において、削除された従属項の構成を備えた確認対象発明は、当該特許の請求の範囲から意識的に除外されたものであるため当該特許の均等範囲に属さないと判断された。

事実関係

本件は、被告が特定した確認対象発明が原告の特許である「バイパス運転が可能な熱回収換気装置」の権利範囲に属さないという確認を求めた消極的権利範囲確認審判事件である。
原告の特許は、室外空気と室内空気を熱交換させる全熱交換素子を含む換気装置において、熱交換運転とバイパス運転の2つのモードを備える。争点になった構成は、請求項1の「バイパス運転時には互いに交代で作動する給気送風機と排気送風機」の構成である。被告が特定した確認対象発明では、上記構成に対応して「バイパス運転時には給気送風機は作動し排気送風機は停止状態を維持する構成」からなっている。

原告は、給気送風機と排気送風機が互いに交代で作動する場合に、他の1つは停止せざるを得ないので、確認対象発明の上記構成も対象特許の文言範囲に属し、仮に文言的に異なるとしても、均等範囲に属すると主張した。特許審判院は、原告の主張を排斥して「権利範囲に属さない」という審決をし、これに対して原告が審決取消訴訟を提起した。

判決内容

確認対象発明が対象特許請求項1の文言範囲に属するか否か

請求の範囲に記載されている事項は、その文言の一般的な意味に基づきながらも発明の説明と図面等を参酌してその文言で表そうとする技術的意義を考察した上で、客観的・合理的に解釈すべきであり、発明の説明と図面等を参酌するとしても、発明の説明や図面等他の記載によって特許請求の範囲を制限または拡張して解釈することは許容されない(大法院2012.12.27.言渡2011フ3230判決、大法院2019.10.17.言渡2019ダ222782, 222799判決等参照)。

このような法理に基づいて詳察したところ、①本件請求項1の発明には「バイパス運転時に互いに交代で作動する給気送風機と排気送風機」として明示されている点、②「交代」は文言的に「あることを数人が分けて順番に担当すること」(ネイバー国語辞典参照)を意味する点、および③本件特許発明の明細書の発明の説明には、給気送風機と排気送風機が交代で作動するということの技術的意味について、「本段階(S320)では、給気送風機と排気送風機がそれぞれ設定された作動時間の間、交代で作動しながらバイパス流路を通じて給気と排気が交代でなされるように制御される。‥給気送風機と排気送風機のうちのいずれか1つのみ選択的に作動することも可能であり」と記載([0044]参照)していて、確認対象発明の対応構成のように、「バイパス運転時に給気送風機のみ作動し排気送風機は停止する構成」を構成要素3の「給気送風機と排気送風機が互いに交代で作動するということ」と区分している点等を総合してみれば、本件請求項1の発明の構成要素3の「給気送風機と排気送風機が互いに交代で作動するということ」は「給気送風機と排気送風機が設定された一定時間互いに順番に繰り返されながら作動するということ」を意味するものに限定されるとみるのが妥当である。
これと異なる前提によって、確認対象発明の対応構成、即ち、「バイパス運転時に給気送風機のみ作動し排気送風機は停止する構成」が構成要素3の「給気送風機と排気送風機が互いに交代で作動するということ」に含まれるとする、原告の主張は受け入れられない。

均等か否かに関する検討

  1. 関連法理
    特許発明の出願過程で、ある構成が請求の範囲から意識的に除外されたかは、明細書だけでなく、出願から特許になるまでに特許庁の審査官が提示した見解と、出願人が出願過程で提出した補正書および意見書等に示された出願人の意図、補正理由等を参酌して判断すべきである。したがって、出願過程で請求の範囲の減縮がなされたという事情だけで減縮前の構成と減縮後の構成を比較し、その間に存在する全ての構成が請求の範囲から意識的に除外されたと断定するのではなく、出願過程に示された様々な事情を総合してみるとき、出願人がある構成を権利範囲から除外しようとする意思が存在すると見ることができる場合に、これを認めることができるものである。また、このような法理は、請求の範囲の減縮なしに意見書提出等を通じた意見陳述があったときにも同様に適用される(大法院2017.4.26.言渡2014フ638判決等参照)。
  2. 検討
    次のような事情を上記法理に照らしてみると、確認対象発明の「バイパス運転時に給気送風機のみ作動し排気送風機は停止状態を維持する構成」は、本件特許発明の出願人である原告が、出願の審査過程で特許庁の審査官の拒絶理由を克服するために、本件特許発明の出願当時請求の範囲に記載されていた事項を意図的に削除することによってこれを本件第1項の発明の権利範囲から意識的に除外したものに該当するとみるのが妥当である。したがって、本件第1項の発明の構成要素3と確認対象発明の対応構成は均等関係とは判断されない。
  1. 本件特許発明の出願当時の請求の範囲をみると、請求項1には「バイパス流路を生成するバイパスダンパ」と記載されているだけであり、給気送風機と排気送風機については何らの記載もない一方、請求項2は、請求項1を直接引用して、これに「上記給気出口と排気出口側にそれぞれ設けられ、熱交換運転時には共に作動するものの、バイパス運転時には互いに交代で作動する給気送風機と排気送風機をさらに含む」という限定事項を付加したものであり、請求項5は、請求項1を直接引用して、これに「上記給気出口と排気出口側にそれぞれ設けられ、熱交換運転時には共に作動するものの、バイパス運転時には選択的にいずれか1つのみ作動する給気送風機と排気送風機をさらに含む」という限定事項を付加したものである。
  2. これに対して特許庁の審査官は、2015年2月26日、出願当時の請求項1の「バイパス流路を生成するバイパスダンパ」は、引用発明1の「バイパスダンパ(208a、209a、図面4~6)」または引用発明2の「熱交換換気およびバイパス換気」([27]、[28])から通常の技術者が容易に導き出すことができ、出願当時の請求項2および5の「給気送風機と排気送風機」は通常の技術者が引用発明1の「給気ファン(205)および排気ファン(206)」から容易に導き出すことができる旨の拒絶理由により意見提出通知を行った。
  3. これに対し、本件特許発明の出願人である原告は、出願当時の請求項5等を削除して請求項2に付加された限定事項を請求項1に併合することを含む旨の補正をする一方、「給気送風機と排気送風機の交代作動構成は、バイパス流路を生成するバイパスダンパと有機的な結合関係を通じて導き出された構成として、引用発明1に全く暗示ないし開示されていない本願発明の特徴的な構成であり、引用発明1にはバイパス流路が給気用と排気用に別途形成されるので、給気ファンと排気ファンを交代で作動させなければならない技術的動機が全くないので、通常の技術者が引用発明1から本願発明の上記構成を容易に導き出すことができない」という意見書を提出し、その結果、本件特許発明は特許を受けた。
  4. 上記のような本件特許発明の明細書の記載および出願審査経過に照らしてみると、本件特許発明の出願人である原告は、出願当時の請求項1に記載された「バイパス流路を生成するバイパスダンパ」は特許庁の審査官が進歩性否定に関する拒絶理由で提示した引用発明1や2から容易に導き出すことができるものであると判断し、その拒絶理由を回避するために「バイパス運転時に選択的にいずれか1つのみ作動する給気送風機と排気送風機」という構成が付加された出願当時の請求項5を削除し、出願当時の請求項2に付加された「給気送風機と排気送風機の交代作動構成」を請求項1に併合して、意見書では、出願当時の請求項2に付加された「給気送風機と排気送風機の交代作動構成」が本件特許発明の核心的な技術的特徴であることを強調し、このような主張が特許庁の審査官から認められて本件特許発明に対して特許を受けたものとみられる。

したがって、本件特許発明の出願人である原告が特許庁審査官の意見提出通知による補正を通じて「バイパス運転時に選択的にいずれか1つのみ作動する給気送風機と排気送風機」という構成が付加された出願当時の請求項5をそのまま削除したことは、これを本件特許発明の権利範囲から意識的に除外したものとみるのが妥当である。

以上で見たとおり、本件第1項の発明の構成要素3に対応する確認対象発明の対応構成は構成要素3と文言的に同一でないだけでなく、それと均等関係にあるとみることもできない。

専門家からのアドバイス

本件で法院は、対象特許の請求項1の「バイパス運転時には互いに交代で作動する給気送風機と排気送風機」の技術的範囲に、確認対象発明の「バイパス運転時には給気送風機は作動し排気送風機は停止状態を維持する構成」が属するかについて、文言範囲と均等範囲の両面からそれぞれ判断した。
まず、文言範囲を判断するにおいては、「交代」の一般的(辞典的)意味と共に対象特許の明細書に記載された当該構成の技術的意味を詳察し、確認対象発明の構成が文言範囲に属さないと判断した。
続いて、均等範囲を判断するにおいては、対象特許の審査過程で①出願時には独立項に対して請求項2と請求項5が並列的な従属項であった点、②審査官の拒絶理由を克服するために出願人が請求項2の構成を独立項に付加して請求項5は削除した点、③さらに、請求項2の構成が出願発明の特徴であると主張した点等に基づいて、請求項5の構成は請求の範囲から意識的に除外したものと判断し、請求項5の構成を具現した確認対象発明は対象特許の均等範囲に属さないと判断した。 本件の事例のように、出願時に独立項に対して並列的な関係で複数の従属項を記載した後、審査過程でそのうち1つの従属項を選択して独立項に付加する補正をした場合には、他の従属項の構成は請求の範囲から意識的に除外されたものと判断される可能性を排除できなくなる。最初の出願書の作成時や審査過程での補正時に、本件の事例を参考にしたい。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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