知財判例データベース 確認対象標章はデザインとしてだけでなく商標としても使用されたものであり、本件登録商標と類似するので、本件登録商標の権利範囲に属すると判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 スイス国A社 vs 被告 個人B
事件番号
2021ホ3222
言い渡し日
2021年12月02日
事件の経過
審決取消(確定2021年12月24日)

概要

特許法院は「ネックレスのペンダントトップ等は単にデザインとしてのみ認識されるのではなく、その形状自体が他人の商品と区別される識別標識として認識される場合が多く、このような傾向は高価な宝石製品の場合さらに著しいものと認められると判断し、確認対象標章は、被告製品においてデザインとしてだけでなく商標としても使用され、その標章が本件登録商標と類似し、その使用商品が本件登録商標の指定商品と同一なので、確認対象標章は本件登録商標の権利範囲に属すると判断した。

事実関係

本件登録商標と確認対象標章は下表のとおり。

区分 本件登録商標(原告の立体商標) 確認対象標章(被告製品)
標章 確認対象標章(被告製品)であるペンダントの写真(正面) 確認対象標章(被告製品)であるペンダントの写真(正面)確認対象標章(被告製品)であるペンダントの写真(側面)
指定商品/使用商品 商品類区分第14類のイヤリング(earrings)、ネックレス(necklaces)、時計(watches)、指輪(rings-jewelry)、腕輪(bracelets-jewelry)、ペンダント(pendant-jewelry) ペンダント

被告は、確認対象標章が原告の本件商標登録第1522518号の権利範囲に属さない旨の消極的権利範囲確認審判を請求した。これに対し、特許審判院は、確認対象標章は商標として使用されたとはいえないため、確認対象標章と本件登録商標の類否等についてさらに詳察する必要なく、確認対象標章は使用商品と関連して本件登録商標の権利範囲に属さないという理由で、被告の上記審判請求を認容する本件審決をした。

判決内容

関連法理

商標権の権利範囲確認審判事件において確認を求める標章が登録商標の権利範囲に属するといえるためには、商標として使用されるということが前提とならなければならないところ、その標章が商標の本質的な機能であるといえる自他商品を識別するまたは商品の出所を表示するために使用されるものと見ることができる場合には、商標としての使用と見るべきである。

デザインと商標は排他的・選択的な関係にあるものではないので、デザインになり得る形状や模様であるとしても、それが商標の本質的な機能であるといえる自他商品の出所表示のために使用されるものと見ることができる場合には、上記使用は商標としての使用と見るべきであり、それが商標として使用されているかは商品との関係、当該標章の使用態様(即ち、商品等に表示された位置、大きさ等)、登録商標の周知著名性、そして、使用者の意図と使用経緯等を総合して実際に取引界で表示された標章が商品の識別標識として使用されているかによって判断すべきである。

商標の類否は、対比される商標を外観、呼称、観念の3つの側面で客観的、全体的、離隔的に観察して取引上誤認・混同のおそれがあるかによって判断すべきである。特に、図形商標においては、その外観が与える支配的印象が同一・類似であり、2つの商標を同一・類似の商品についていずれも使用する場合に、一般需要者に商品の出所についての誤認・混同を引き起こすおそれがあれば、2つの商標は類似すると見るべきである。

立体商標は、見る方向によって認識される外観が異なるという特殊性があるので、立体的標章のうちある特定方向から認識される外観が他の方向から認識される部分より相対的に識別力が強い場合にその外観が平面標章や他の立体的標章のそれと類似するならば、両標章は互いに類似すると見る余地が大きい。

確認対象標章が商標として使用されたか否か

  1. 認定事実
    原告は、1906年に設立されたフランスの宝石・時計・香水専門ブランド企業で、1968年頃に四つ葉のクローバーをモチーフとして宝石の原石を削って4つの丸い花びらを作り、小さなゴールドビーズで縁取った本件登録商標の形状が使用された「アルハンブラ」コレクションのネックレスをフランスで初めて発売して以来、現在まで指輪、腕輪、イヤリング、ネックレス、ペンダントおよび時計等に本件登録商標の形状を使用し続け(本件登録商標が適用された製品群を称して「アルハンブラコレクション」という)、アルハンブラコレクションは2002年4月頃から韓国内でも展示、広告、販売がされた。
    原告の2013年から2019年までのアルハンブラコレクションの国内売上高は1,383億ウォンで、2012年から2019年まで(2015年および2018年は除く)のアルハンブラコレクションに対する国内広告費の支出額は125,900万ウォンである。
    アルハンブラコレクションは、フランスの大統領夫人、米国副大統領夫人等の政界の要人はもちろん、多数の世界の有名映画俳優、多数の有名歌手が着用し、原告はアルハンブラコレクションの広報のために多様な韓国のファッション雑誌に持続的に広告を掲載してきた。
    ここ2年以内にブランドジュエリーを購入した経験があるか、今後2年以内にブランドジュエリーを購入する意向がある全国の満25歳~54歳の女性を対象に行われた、本件登録商標に関する需要者認識度調査では、全回答者の92.4%が上記商標を見たことがあると答え、全回答者の74.0%が特定ブランドの製品であると認識しており、全回答者の48.2%が提示されたイメージ製品のブランドを知っていると答えた。そして、提示されたイメージ製品のブランドを知っているという回答者を対象にそのブランド名を選択肢なしに主観式で答えるようにしたところ、当該回答者のうち60.6%(全回答者の約29.2%)はそのブランドが「ヴァン クリーフ(반 클리프)」であると答えた。
    また、本件審決日頃、本件登録商標の形状と非常に類似した形状のペンダントおよびイヤリング、腕輪製品が韓国内で「ヴァンクリーフ(반클리프」または「ヴァンクル(반클)」等と呼称されて販売されていた。確認対象標章が使用された被告製品に関するQ & A欄でも、「ヴァンクリーフデザインのイヤリングはありませんか」という顧客の質問に対して、被告は「クローバーのイヤリングのことですよね」と回答した。
  2. 検討
    本件登録商標の韓国内使用期間(約19年)、韓国売上高(年平均約200億ウォン)、広告費支出額(年平均約2億ウォン)、メディア報道および広報内訳、需要者認識度調査、被告製品も需要者に本件登録商標と同じ形状が使用された原告製品の模倣品として認識される点等を考慮すると、本件登録商標は、本件審決日頃にその指定商品である宝石、宝石製アクセサリ等の国内需要者と取引関係者に特定人の商品の出所表示として広く知られていたと見るのが妥当である。したがって、確認対象標章は出所表示として機能するものなので商標として使用されたものであるといえる。

本件登録商標と確認対象標章の類否

下記のような事情に照らしてみると、本件登録商標と確認対象標章の外観が与える支配的な印象が同一・類似であり、両標章を同一・類似の商品について共に使用する場合、需要者や取引者が商品の出所を誤認・混同するおそれがあると見るのが妥当なので、両標章は類似である。

まず、本件登録商標と確認対象標章のいずれも、平面形状が全体立体的形状で占める割合が大きく、他の部分より両標章を見る者の目によく見えるだけでなく、「単純化させた四つ葉のクローバー」という観念の形成にも寄与する点等を考慮すると、本件登録商標と確認対象標章いずれも平面形状が他の部分より識別力が強いと見るのが妥当である。こうした前提で本件登録商標と確認対象標章の各平面形状を対比してみると、両標章いずれも四つ葉のクローバーをモチーフとしてこれを単純に抽象化した形状で、具体的には①四つ葉の下端部分が互いに分離されないまま結合している点、②四つの葉が半円もしくは円形態に単純に表現されている点、③葉に葉脈が形成されていない点、④図形の縁の部分に複数の小さなビーズ形状がびっしりと囲んでいる点等で共通する。

一方、両標章は①各葉が合わさる頂点に位置した小さなビーズの有無、②1つの葉の縁部を囲んでいるビーズの数が9個と10個であるという点で差がある。しかし、このような差は詳細に見ないと分からない程度の微細な差に過ぎないので、両商標を全体的、客観的、離隔的に観察する場合、このような差はほぼ認識されないと判断される。両標章が使用されるネックレスのペンダントトップやイヤリングおよび腕輪等の装飾部の大きさが1cm程度に過ぎない程度に小さいという点を考慮すると、なおさらである。また、先の認定事実で見たとおり、被告製品の需要者も被告製品を見て原告のアルハンブラコレクションないし本件登録商標を直ちに連想する点に照らしてみても、本件登録商標と確認対象標章は外観面で非常に類似すると見るのが妥当である。

結論

確認対象標章は、被告製品でデザインとしてだけでなく商標としても使用され、その標章が本件登録商標と標章が類似し、その使用商品が本件登録商標の指定商品と同一なので、確認対象標章は、本件登録商標の権利範囲に属する。

専門家からのアドバイス

デザインが商標的使用にも該当するかに対する判断は容易でない場合が多いが、本件は確認対象標章がデザインとしてだけでなく商標としても使用されたと判断したものであって、本判決は、これに関連して日韓両国の判例を比較するよい材料になると思われる。
デザインが商標的にも使用されたものと判断するためには、そのデザイン自体が出所表示機能を獲得するに至ったといえなければならないが、これまで両国の裁判所はデザインが一般需要者に広く知られていて、そのデザインを見て特定の出所と認識され得る場合には、デザインの商標的使用を認めてきた。
日本では、装飾的な効果と商標の機能の両立を認めた裁判例として、大阪地方裁判所が昭和62年に判決したルイ・ヴィトン事件がある。この事件では「商標と意匠とは排他的、択一的な関係にあるものではなくして、意匠となりうる模様等であっても、それが自他識別機能を有する標章として使用されている限り、商標としての使用がなされているものというべき」として、原告および被告は、本件標章(一)ルイ・ヴィトンの標章のイメージ(LVの字)、(二)ルイ・ヴィトンの標章のイメージ(LVの字とパターン)をその商品に自他識別機能を有する標章として使用していることが明らかであるから、被告の本件標章の使用は商標としての使用として商標権の侵害となると判断している。
これに関連し、韓国において大法院がデザインの商標的使用を認めた場合とそうでない場合とを分析してみると、当該デザインを見て特定の出所を連想することができるかの判断で周知著名性があることが、商標的使用を認めるための重要な基準になっているものいえる(大法院2021. 12. 16.言渡2019フ10418判決等を参考)。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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