知財判例データベース 実質的同一性の判断において、先行発明と比較した「新たな効果」が参酌されて、拡大先願の規定に違反しないと判断された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(無効審判請求人) vs 被告(特許権者)
事件番号
2021ホ5143登録無効(特)
言い渡し日
2022年02月17日
事件の経過
請求棄却(審決確定)

概要

特許出願した発明が先行発明によって拡大先願の規定に違反するかどうかは、両発明が実質的に同一か否かによって判断しなければならない。両発明の構成に差があったとしても、その差が課題解決のための具体的手段において周知慣用技術の付加・削除・変更等に過ぎず、かつ新たな効果が発生しない程度の微細な差があるだけであれば両発明は互いに実質的に同一であるといえるが、上記のような程度を超えるならば、仮にその差が、当業者が容易に導き出すことができる範囲内であるとしても両発明が同一であるとはいえない。

事実関係

被告の対象特許(出願日:2001年7月16日)は「換気用給気装置」に関するもので、室外空気を室内に供給するための給気配管(120)を室内床の暖房配管(200)の下面に設置することによって、夏には床の冷気により給気を冷たくして、冬には床の暖房配管の温気により給気を温かくすることを作用効果とする(下記図1参照)。その請求項1は以下のとおりである。

請求項1

建築物室内に給気配管(120)を設置するにおいて(「構成要素1」)、外部給気部(110)と連接される内部給気配管(120)が建築物の床面上に設置される暖房配管(200)の排熱を熱交換用に回収、利用できるように上記暖房配管(200)の下面に配置されていることを特徴とする換気用給気システム(「構成要素2」)。

対象特許の図1

建築物室内に給気配管(120)を設置するにおいて(「構成要素1」)、外部給気部(110)と連接される内部給気配管(120)が建築物の床面上に設置される暖房配管(200)の排熱を熱交換用に回収、利用できるように上記暖房配管(200)の下面に配置されていることを特徴とする換気用給気システム(「構成要素2」)。

一方、先行発明1は対象特許より前の2001年4月24日に特許出願された後、2002年11月1日に公開されたもので、外部の空気を室内床(130)と壁体(150)に設置された空気配管(100)を通じて給気するところ、冬にはエアヒータ(240)を通じて1次予熱し、続いて、床(130)に配設された暖房ホース(170)の暖房熱で加熱して温かい空気を供給し、夏には床(130)と壁体(150)の温度が外気温度より低い点を利用して冷たくなった空気を室内に供給すると記載している。

先行発明1の図2

先行発明1は対象特許より前の2001年4月24日に特許出願された後、2002年11月1日に公開されたもので、外部の空気を室内床(130)と壁体(150)に設置された空気配管(100)を通じて給気するところ、冬にはエアヒータ(240)を通じて1次予熱し、続いて、床(130)に配設された暖房ホース(170)の暖房熱で加熱して温かい空気を供給し、夏には床(130)と壁体(150)の温度が外気温度より低い点を利用して冷たくなった空気を室内に供給すると記載している。

原告は対象特許と先行発明の間には暖房配管と給気配管の設置位置において差があるが、両配管の相対的な位置は単純な設計事項に過ぎず、室内床に蓄熱された熱を給気配管に伝達する作用効果の面で何ら差がないので実質的に同一であり、拡大先願の規定に違反するので登録無効となるべきと主張した。しかし、特許審判院は原告の審判請求を棄却する審決をし、これに対して原告が特許法院に審決取消訴訟を提起した。特許法院は先行発明と対象特許発明が実質的に同一であり、これにより拡大先願の規定の違反と判断したが、大法院は特許法院の判決を破棄差し戻しし、差し戻し後、特許法院が判決を言い渡した。

判決内容

関連法理

特許出願した発明がそれより先に出願された他の発明の特許出願書に最初に添付された明細書に記載された特許請求の範囲や発明の説明または図面の内容と同一性が認められる場合には、先に出願された発明が後に公開された場合にも特許を受けることができない(大法院2013年2月28日言渡2012フ726判決等参照)。旧特許法第29条第3項でいう発明の同一性は、発明の進歩性とは区別されるものとして2つの発明の技術的構成が同一かどうかによるものの発明の効果も参酌して判断しなければならない。両発明の技術的構成に差があってもその差が課題解決のための具体的手段において周知慣用技術の付加・削除・変更等に過ぎず、新たな効果が発生しない程度の微細な差があるだけであれば両発明は互いに実質的に同一であるといえる。しかし、両発明の技術的構成の差が上記のような程度を超えるならば仮にその差が、当業者が容易に導き出すことができる範囲内であるとしても両発明が同一であるとはいえない(大法院2011年4月28日言渡2010フ2179判決等参照)。

先行発明1との構成の対比

本件特許発明の構成要素2と先行発明1の対応構成は、いずれも外部給気部と連接される内部給気配管(室内側空気配管)が建築物の床面上に設置される暖房配管(暖房ホース)の排熱を熱交換用に回収して使用する点では互いに同一である。
しかし、本件特許発明の構成要素2は、給気配管を暖房配管の下面に配置すると限定しているのに対し、先行発明1の対応構成は明細書や図面に空気配管と暖房ホースの位置関係に関する説明や限定事項がない点で両発明の対応構成は互いに差がある。

差異に関する検討

以下のような理由で、前述の差は、課題解決のための具体的手段において周知慣用技術の付加・削除・変更等に過ぎないとか、新たな効果が発生しない程度の微細な差ということはできない。したがって、本件特許発明と先行発明1は同一であるといえない。

本件特許発明は、外部給気部と連結される内部給気配管が建築物の床面に設置される暖房配管の排熱を熱交換用に回収・利用できるように暖房配管の下面に配置されていることを核心の技術的特徴とする。
ところが、先行発明1の明細書には、空気配管が室内床と壁体を通じて埋設されるという内容とともに、冬期に外部の冷たい空気がエアヒータを通じて一次的に予熱され、それに続いて暖房ホースの暖房熱がコンクリートを通じて空気配管に伝達されるので十分に加熱された空気が室内に供給されるという内容が記載されており、またその図面には空気配管が、暖房ホースがある室内床に埋設されている構成のみ示されているだけで、本件特許発明のように給気配管を暖房配管の下面に配置した事項が示されていない。
さらに、給気配管と暖房配管を共に建築物の床に埋設する時に暖房配管の排熱を活用するように給気配管を暖房配管の下面に配置する構成が本件特許発明の出願当時の技術常識であるとか周知慣用技術に該当するといえるような資料がない。
その上、暖房配管により床暖房をする時には概ね暖房配管の下部に熱損失が起こるところ、本件特許発明は給気配管を暖房配管の下面に配置することによって、暖房配管の下部に放出されて損失する熱を給気配管を通じて室内に供給される空気を温めるのに活用できるので、その分だけ熱損失を減らすことができる。このように本件特許発明は、先行発明1との技術的構成の差によって新たな効果を奏する。

検討結果の整理

以上の検討結果をまとめれば、本件特許発明と先行発明1の技術的構成の差が課題解決のための具体的手段において周知慣用技術の付加・削除・変更等に過ぎないとか、新たな効果が発生しない程度の微細な差があるだけであるとはいえないので、両発明は実質的に同一であるといえない。

専門家からのアドバイス

特許出願した発明がそれより先に出願された他の発明の特許出願の願書に最初に添付された明細書に記載された特許請求の範囲や発明の説明または図面の内容と同一性が認められる場合には、先に出願された発明が後に公開された場合にも特許を受けることができない。これを拡大された先願というが、特許法院はこうした拡大先願の趣旨について、以下のように判示している(特許法院1999年5月5日言渡98ホ7110判決)。

「同法第36条の所定の先願主義は特許請求の範囲に記載された発明のみを基準にして先後願の同一性を判断するので、先願の特許請求の範囲には記載されていないが発明の詳細な説明や図面には記載された技術内容に対して何らの発明的寄与もない第三者が、後願により特許を受けることができる場合が生じ得る。この場合、そうした部分を誰でも自由に実施できる公共の領域に置こうとする先願の意思に反していてそれは不当であり、かつ出願公開期間が長くなることで発明的業績のない者が特許を受けることとなる不公平をもたらすおそれもあることから、先願の範囲を拡大して、先願が出願公開または出願公告された場合、最初の明細書及び図面に記載された発明内容の全てに照らして同一性があると判断されれば特許を受けられないようにしたものである。」

韓国法院の判例および韓国特許庁の審査基準によれば、発明の新規性の判断だけでなく拡大先願の規定に違反するか否かの判断においても、両発明が実質的に同一かどうかを詳察する。かかる実質的同一性の判断に関する韓国法院の代表的な判例は、本判決の「関連法理」に摘示されたとおりである。すなわち、両発明の技術的構成に差があってもその差が課題解決のための具体的手段において周知慣用技術の付加・削除・変更等に過ぎず、新たな効果が発生しない程度の微細な差があるだけであれば両発明は互いに実質的に同一であるといえる。
本件では、特許発明が給気配管を室内床の暖房配管の下面に設置する構成を特徴とするのに対し、先行発明は室内床の暖房配管の暖房熱を利用して給気配管の空気を温かくするという点では特許発明と共通するが、給気配管を暖房配管の下面に配置するという点は開示していない点に差がある。ところが、特許法院は「本件特許発明と先行発明1の技術的構成の差が、当業者が通常採用できる微細な変更に過ぎず、それによる効果の差もないなどの理由により両発明が実質的に同一である。」と判断し、大法院は特許法院の当該判決を破棄差し戻しした(大法院2021年9月16日言渡2017フ2369、2376(併合)判決)。差し戻された後、特許法院は給気配管を暖房配管の下面に配置することがこの技術分野で周知慣用技術に該当するといえるような資料がなく、また暖房配管の下部に熱損失が多い点を考慮して下部に給気配管を設置することによって熱損失を減らすことができる新たな効果があるので、(進歩性があるかの判断は別として)実質的に同一であるといえないと判断した。
本件は、実質的同一性の判断において参酌される「新たな効果」は、発明の進歩性の判断において参酌される効果とはその程度が異なるという点につき、実際の事案により明示的に判断した例として、類似の事例において参考にできる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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