知財判例データベース 出願商標は日本でゲームに使用された先使用商標との関係で商標法第34条第1項第13号に該当するため、商標登録を受けることができないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 特許庁長
事件番号
2021ホ2588
言い渡し日
2021年10月07日
事件の経過
確定(2021年10月27日)

概要

特許法院は、本件出願商標がその出願当時、日本の需要者または取引者等に特定人の商品を表示するものであると知られた先使用商標と類似の商標で、不当な利益を得、または先使用商標の権利者に損害を負わせようとする等の不正の目的で使用された商標であるため商標法第34条第1項第13号に該当し、商標登録を受けることができないと判断した。

事実関係

本件出願商標と先使用商標は、下表のとおりである。

区分 本件出願商標 先使用商標
標章 放置少女のハングル 放置少女
指定商品/使用商品 商品類区分第41類 ゲームサービス業、モバイルアプリを通したゲーム提供業、オンラインゲームサービス業等 モバイルゲームソフトウェア、オンラインゲーム提供業等

本件出願商標は出願公告された後、先使用商標の使用者であるB社の異議申立によって商標法第34条第1項第13号に該当するという理由で拒絶決定された。
原告A社が請求した拒絶決定不服審判でも、特許審判院は、本件出願商標はその出願当時に需要者間に特定人の商標であると認識されていた先使用商標と同一または類似の商標であって、先使用商標の名声と信用に便乗し不当な利益を得ようとする等の不正の目的を持って出願された商標といえるため商標法第34条第1項第13号に該当すると判断した。

判決内容

関連法理

商標法第34条第1項第13号は、国内または外国の需要者の間に特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(以下「模倣対象商標」という)が国内に登録されていないことに乗じて第三者がこれを模倣した商標を登録して使用することにより、模倣対象商標に化体された営業上の信用等に便乗して不当な利益を得ようとし、または模倣対象商標の価値を毀損しもしくは模倣対象商標の権利者の国内営業を妨害する等の方法で模倣対象商標の権利者に損害を負わせようとする目的で使用する商標は登録を認めない趣旨である。したがって、登録商標が商標法第34条第1項第13号の規定に該当するためには、模倣対象商標が国内または外国の需要者に特定人の商標と認識されていなければならず、登録商標の出願人が模倣対象商標と同一または類似の商標を、不正の目的を持って使用しなければならないが、①模倣対象商標が国内または外国の需要者の間に特定人の商標として認識されているかは、その商標の使用期間、方法、態様および利用範囲等と、取引実情または社会通念上、客観的に相当程度知られているか等を基準として判断しなければならず、②不正の目的があるかを判断するときは、模倣対象商標の認知度または創作の程度、登録商標と模倣対象商標の同一・類似の程度、登録商標の出願人と模倣対象商標の権利者との間での商標をめぐる交渉の有無、交渉の内容、その他両当事者の関係、登録商標の出願人が登録商標を利用した事業を具体的に準備していたかどうか、登録商標と模倣対象商標の指定商品間の同一・類似性ないし経済的牽連性の有無、取引実情等を総合的に考慮するべきであり、③上記のような判断は登録商標の出願時を基準としなければならない。

本件出願商標が商標法第34条第1項第13号に該当するか否か

  1. 先使用商標の知られた程度
    上記先使用商標は、後述するように、本件出願商標の出願日当時、日本において需要者に広く知られていたと認めるのが妥当である。
    B社は2018年5月14日、中国で「放置少女(注1)の商標登録を、商品類区分第41類の娯楽業、第42類のコンピュータプログラム編集業等について受けた。一方、B社の子会社であるC社は、日本で下表のとおり商標登録をそれぞれ受けた。
    標章 放置少女の標章 放置少女の標章 放置少女の標章(文字だけ)
    指定商品 第41類 オンライン上ゲーム提供業等 第38類 コンピュータターミナルによる通信業等 第38類 コンピュータターミナルによる通信業等
    登録日 2017年7月21日 2018年8月10日 2018年8月10日
    C社は2017年3月頃、日本で三国志に登場する武将をモチーフにした少女キャラクターを戦闘等を通して育成していく携帯電話およびPC用ゲームを、先使用商標を用いてリリースして以降、現在まで上記ゲーム(以下「先使用商標ゲーム」という)に関するサービスを提供している。
    C社は2018年3月頃、日本の人気アイドルグループのメンバーが出演するTVCMを通じて先使用商標ゲームを積極的に広報し、その費用として約4億円を支出した。また、2018年5月31日を基準として、先使用商標ゲームの公式ユーチューブチャンネルで2ヶ月前にアップロードされた動画の再生数は約150万回、1年前にアップロードされた動画の再生数は約110万回、7ヶ月前にアップロードされた動画の再生数は約560万回をそれぞれ記録した。
    日本の携帯電話用ゲームアプリ評価ウェブサイトである「D」は、2017年12月30日頃、先使用商標ゲームを「2017年に最も注目された新作ゲームTOP 30」のうちの一つとして紹介した。また、日本のゲーム専門ブログである「Eブログ」は2018年4月6日、先使用商標ゲームについて「2018年3月からはリリース1周年記念でTVCMも開始し、ダウンロードランキングも上昇を続けている。セールスランキングは発売以降着実に順位を上げて2018年4月5日基準で最高販売17位を記録した。」と紹介している。
    先使用商標ゲームは2018年3月1日から2019年1月31日まで、Fアプリストアでダウンロード数495万回、関連売上5,560万ドルをそれぞれ達成し、2017年3月頃から2019年2月頃までグーグルアプリストアで関連売上50億円以上を達成した。
  2. 本件出願商標と先使用商標の類否
    本件出願商標は、ハングルで表記された単語である黒字の「放置」および「少女」が、特段の図形の付加なしに単純に結合されている文字標章である。
    先使用商標は少女が弓を引いている図形を背景に、それに重なるように毛筆書体の「放置少女」が中央に配置されているが、これを全体的にみるとその要部は「放置少女」の部分であるといえる。
    本件出願商標と先使用商標は、書体や文字の種類、図形の有無等によりその外観が相違するものの、韓国における漢字普及水準や教育の程度に照らしてみるとき、先使用商標は要部(放置少女)により呼称・観念され、本件出願商標の称呼・観念と同一である。したがって、本件出願商標と先使用商標は全体的に非常に類似すると認めるのが妥当である。
  3. 不正の目的の有無
    本件出願商標は、その出願日当時、日本で需要者に広く知られていた先使用商標の要部に該当する「放置少女」をハングル音訳で表示したものに過ぎず、先使用商標と非常に類似する。
    また、本件出願商標が使用されたゲームは、日本の戦国時代を背景に少女キャラクターを戦闘等を通して育成していく放置型ゲームとして、その時代背景が異なるという点を除いては全体的に先使用商標ゲームとその形式や内容面で非常に類似する。
    原告は、本件出願商標の出願前である2018年5月10日頃、日本のモバイル市場分析サービスを提供する「アップエイプ(App Ape)」との間で「モバイルアプリ市場情報共有活性化のための業務協約(MOU)」を締結したこともあるが、本件出願商標は先使用商標ゲームが発売された2017年3月頃から約1年6ヶ月が経過した2018年10月22日に出願され、その当時、先使用商標ゲームはすでに日本で需要者に広く知られていた。

以上の点等を総合してみると、原告は本件出願商標の出願日当時、日本のモバイルゲーム市場に関する多くの情報を簡単に取得することができたものとみられ、それに基づき、本件出願商標の出願過程で先使用商標を模倣したとみるのが経験則により符合する。

原告は先使用商標を模倣することにより、先使用商標に化体された営業上の信用等に便乗して不当な利益を得る等の不正の目的があったと認めるのが妥当である。

結論

本件出願商標はその出願当時、日本の需要者や取引者等に特定人の商品を表示するものであると知られた先使用商標と類似の商標で、不当な利益を得、または先使用商標の権利者に損害を負わせようとする等の不正の目的で使用された商標であるため、商標法第34条第1項第13号に該当して商標登録を受けることはできない。

専門家からのアドバイス

不正の目的で出願された商標については、韓国の旧商標法(法律第5355号、1997年8月22日改正、1998年3月1日施行)第7条第1項第12号により、不登録理由として追加されている。当初、この条項の規定内容は「国内または外国の需要者間に特定人の商品を表示するものであると顕著に認識されている商標と同一または類似の商標であって、不当な利益を得ようとし、またはその特定人に損害を加えようとする等、不正の目的をもって使用する商標」であったが、2007年の商標法改正によって、模倣対象商標の周知性の程度が「特定人の商品を表示するものであると認識されている商標」に緩和され、現在までこの内容で維持されている。
一方、日本の商標法では1996年の法改正により第4条第1項第19号で不正目的商標の登録を排除しているが、模倣対象商標が需要者間に広く認識された周知商標であることを要件としているという点が現行の韓国商標法とは異なっている。
このように、日本と韓国のどちらも先出願主義の原則を採択しながらも、その補完策として模倣対象商標を保護する上記のような制度を運用しているにも関わらず、国外で成功を収めた商品・サービス等に対する模倣は頻繁に発生し、その方法も日増しに巧妙化しているため、対策が容易ではない場合もある。こうした模倣商標による時間的・経済的損失を最小化するためには、事業の立ち上げ前に、海外事業の進出が予想される国家すべてにおいて先出願を行っておくことが最も望ましく、事業開始の後であってもパリ条約に基づく優先権主張出願(注2)を活用して先出願を確保することが望ましい。それにもかかわらず、もし不正の目的で出願された他者の商標によって先出願を確保できなったときは、昨今の韓国では模倣対象商標保護制度の要件が緩和されているという点を参考にして、そうした制度を利用した積極的な対応を検討してみる必要があると考えられる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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