知財判例データベース 商標権者の実使用商標は対象商標との関係で一般需要者に出所の混同を生じさせるおそれがないだけでなく不正使用の故意もないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2021ホ1646
言い渡し日
2021年08月19日
事件の経過
確定(2021年9月4日)

概要

特許法院は、被告が本件審判請求日前3年以内に本件登録商標・サービスマーク(以下「本件登録商標」という)「本件登録商標・サービスマーク」と同一性の範囲内にある実使用商標「本件登録商標・サービスマークと同一性の範囲内にある実使用商標」を使用したものであるため、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第3号(注1)による不使用取消事由に該当するとは認められないと判断した。 また、特許法院は、被告の実使用商標は対象商標との関係で一般需要者に商品の出所を誤認させる混同を生じさせたとはいえないだけでなく、被告が原告から、対象商標が付された原告の真正品の国内流通・販売の許諾を受けて、その営業を営む過程で実使用商標を使用したものである以上、被告に本件登録商標をその使用権の範囲を超えて不正に使用する故意があったとも認められないので、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第2号(注2)による不正使用取消事由にも該当しないと判断した。

事実関係

原告は被告を相手取り、特許審判院に、被告の本件登録商標が旧商標法第73条第1項第2号および第3号に該当すると主張して本件登録商標に対する登録取消審判を請求した。これに対し特許審判院は、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第2号および第3号に該当しないという理由で原告の審判請求を棄却した。
本件登録商標および実使用商標と対象商標は、下表のとおりである。

判決内容

関連法理

旧商標法第73条第1項第3号によれば、商標権者・専用使用権者または通常使用権者のいずれもが正当な理由がないのに登録商標をその指定商品に対して取消審判請求日前に継続して3年以上国内において使用していない場合には、審判によってその商標登録が取消されるべきである。このとき、登録商標の使用とは登録商標と同一の商標の使用を意味し、同一の商標には登録商標自体だけでなく、取引社会の通念上それと同一と認めることができる形態の商標も含まれるが、類似商品は含まれない。ここで取引社会の通念上登録商標と同一と認めることができる形態の商標の使用には、取引社会の通念上、識別標識として商標の同一性を害しない範囲内で色や書体を変更し、または商標の構成のうち要部ではない記号や付記的部分を変更して使用することも含まれる。
登録商標が旧商標法第73条第1項第2号の規定に該当するためには、①商標権者が登録商標の指定商品についてその登録商標と同一の商標ではない類似の商標を使用し、またはその指定商品と同一の商品ではない類似の商品について登録商標またはそれと類似の商標を使用しなければならず、②その結果、需要者に商品の品質に関する誤認、または他人の業務に関連した商品との混同が生じるおそれがなければならず、③以上のような登録商標の不正使用が商標権者の故意によることが認められなければならない。

本件登録商標が旧商標法第73条第1項第3号に該当するか否か

  1. 認定事実
    1. 原告および原告の対象商標について
      1. 原告は1971年頃にブラジルで設立された法人であり、いわゆる「ジェリーシューズ(JELLYSHOES)」を生産販売している。「melissa」商標は1979年頃に原告によってブラジルで使用され始め、上記商標による「ジェリーシューズ」は2011年6月頃まで約5千万足以上生産され、そのうち約2千万足がアメリカ、スペイン、イギリスなど、約80か国に輸出された。
      2. 原告は「melissa」シューズの販売のためにブラジル、アメリカ、イギリス、フランス、日本、中国、タイなどに店舗を維持しており、「melissa」商標は1986年頃ブラジルで登録されて以来、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ商標庁、イスラエル、ニュージーランド、香港、日本など、世界の様々な国で多数登録された。
    2. 本件登録商標および原告との紛争について
      1. 訴外C社(以下「C」という)は1972年2月頃「MELLISSA」という女性服ブランドをスタートして以降、1988年頃から「衣類、カバン」などの商品に「訴外C社が972年2月頃「MELLISSA」という女性服ブランドをスタートして以降、1988年頃から「衣類、カバン」などの商品に使用していた商標。」などの商標登録をし、1998年頃にその使用を一時中断した後、2004年頃から「訴外C社が972年2月頃「MELLISSA」という女性服ブランドをスタートして以降、1988年頃から「衣類、カバン」などの商品に使用していた商標。」が表示された衣類、カバンなどの商品を生産・販売した。Cは2007年9月7日、商品類区分第25類の革靴、短靴などの靴類が指定商品に含まれた分割前の登録商標・サービスマーク「本件登録商標・サービスマーク」(以下「分割前の本件登録商標」という)を再び出願し、2009年1月15日にその登録を完了した。
      2. 原告は2004年頃に、Cから靴類に関する「melissa」商標を譲り受けるために交渉を試みたが決裂した。原告は2009年4月7日、Cを相手取り、特許審判院に「分割前の本件登録商標は不正の目的で出願・登録されたものであるので、指定商品のうち革靴、靴卸売業などはその登録が無効にされるべきである」と主張して商標登録一部無効審判を請求したが却され、審決取消訴訟でも特許法院は原告の請求を棄却する判決を言い渡し、上記の判決は確定した。一方、Cは2013年11月15日、分割前の本件登録商標に関する権利の全部をD株式会社(以下「D」という)に移転登録した。
    3. 被告の本件登録商標に関する権利取得および原告との契約関係などについて
      1. 被告は靴類と関連する輸入および流通業などを目的として2013年にその設立登記を完了した法人であって、2014年1月2日にCとの間で本件登録商標の使用および分割移転と関連した契約(「本件分割移転契約」という)を締結したところ、その主な内容は「分割移転取引の終結前まではCが被告に商標を使用する独占的権利を付与し、分割移転に関する売買代金は250万米ドルとする」などであった。
      2. 被告は2017年8月28日頃、原告との間で、「被告が契約締結日から5年間、大韓民国の国内で原告の「MELISSA」、「MINI MELISSA」などのブランド商品を独占的に流通・販売することができる権限を保有する」という内容を含む総販売契約(以下「本件総販売契約」という)を締結した。
      3. 被告は2018年10月31日、Dから分割前の本件登録商標のうち革靴、靴卸売業などに関して分割移転登録を受けた(これにより分割移転された部分が本件登録商標である)。
      4. 被告は本件総販売契約の締結以降、原告から実使用商標が付された靴類製品を輸入してこれを国内で流通・販売している。原告と被告との間の本件総販売契約に基づく契約関係は、本件弁論終結日である2021年6月15日現在も解消または終了していない。
  2. 具体的判断
    1. 被告が、本件審判請求日前3年以内に原告から実使用商標が表示もしくは付された原告の真正品(靴類)を輸入してこれを流通・販売し、または実使用商標を使用して国内で上記の商品に関する販促イベントなどを行った事実は、当事者間で特段争いがない。上記のような被告の行為は商標法で定める「商標の使用」に該当する。したがって、被告は本件審判請求日前3年以内に上記の実使用商標を本件登録商標の指定商品・役務に対して使用したといえる。
    2. 本件登録商標と実使用商標「本件登録商標・サービスマークと同一性の範囲内にある実使用商標」は、いずれも英語アルファベットからなる文字標章として、小文字と大文字の相違、書体、色において多少の違いはあるものの、いずれも同じ英語アルファベットからなる文字標章という点でその外観が非常に類似し、本件登録商標と上記の実使用商標はいずれも3音節の「멜리사(メリッサ)」または「멀리사(モリッサ)」と呼称されるといえるので、両標章はその呼称において同一で、「melissa」は通常英語からなるありふれた女性の名前を表すものとして、同じ英語アルファベットからなる両標章は上記のような観念を同一に呼び起こすといえる。
    3. 上記実使用商標は本件登録商標と比較してその呼称と観念が同一で、外観も非常に類似するうえに、英語の大文字/小文字、書体および色において一部認められる外観上の相違は取引社会の通念上、識別標識として商標の同一性を害しない範囲内で本件登録商標を一部変更したものに過ぎないと認めるのが妥当である。したがって上記の実使用商標は取引社会の通念上本件登録商標と同一性の範囲内にあるといえる。
  3. 検討結果
    被告が本件審判請求日前3年以内に本件登録商標と同一性の範囲内にある上記実使用商標を使用したといえるため、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第3号に該当すると認めることはできない。

本件登録商標が旧商標法第73条第1項第2号に該当するか否か

  1. 具体的判断
    1. 実使用商標と対象商標との間に出所の混同が生じるおそれがあるか否か
      被告が本件登録商標の使用権者として実使用商標を使用した期間に、原告は、本件総販売契約により自らが生産して対象商標を付した靴類製品を国内で被告を通じて流通させ、被告は原告から供給された靴類製品についての流通・販売・広告などを目的として対象商標と同一または極めて類似の実使用商標を使用した。とすれば、被告は原告から対象商標が付された原告の真正品の国内流通・販売の許諾を受け、その営業を営む過程で実使用商標を使用したもので、一般需要者は実使用商標が使用された製品に対し原告が製作した製品であって、国内で原告または原告から流通許諾を受けた流通業者によって流通するものと認識するはずである。このような一般需要者の認識は、実際の取引の態様、すなわち実使用商標が使用された製品が原告により製作され原告の許諾を受けて国内で流通するということと変わりないので、被告の実使用商標の使用によって一般需要者に商品の出所を誤認させる混同が生じたとはいえない。
    2. 被告に不正使用の故意があるか否か
      被告は本件総販売契約により原告から対象商標が付された原告の真正品の国内流通・販売の許諾を受け、その営業を営む過程で実使用商標を使用した以上、被告に本件登録商標をその使用権の範囲を超えて不正に使用する故意があったと認めることもできない。
    3. 検討結果
      被告の実使用商標の使用によって、一般需要者に商品の品質や出所表示に関して誤認ないし混同が生じたと認めることができず、被告に不正使用の故意もなかったといえるため、本件登録商標は旧商標法第73条第1項第2号に該当すると認めることはできない。

専門家からのアドバイス

商標の同一性は、商標法の目的と各条文の趣旨により異なって解釈される相対的概念といえる。本件の場合は、本件登録商標が旧商標法第73条第1項第2号および第3号(現行商標法第119条第1項第1号および第3号)に該当するか否かが問題となったところ、それに関する法理(本文中に上述)は既存の大法院判決に従ったものであった。
このうち旧商標法第73条第1項第2号(現行商標法第119条第1項第1号)において「登録商標と類似の商標の使用」とは、登録商標と実使用商標との間の関係をいうもので、登録商標は混同の対象となる他人の商標、すなわち「対象商標」とは必ずしも類似する必要はない。一方、旧商標法第73条第1項第2号を適用するにあたっての両者の同一性の判断は、「対象商標」との出所の混同を防止して一般需要者の利益を保護しようとする公益的趣旨に基づいて解釈すべきであることを考慮すれば、旧商標法第73条第1項第3号(現行商標法第119条第1項第3号)における同一性の判断よりも厳格な適用が求められる。
一方、本件とは異なり、特許法院2020年12月10日言渡2020ホ1779判決(本判例データベースに収録済み)では、旧商標法第73条第1項第2号に該当する旨の判断を下している。この判決では、実使用商標が対象商標と同一または類似に見えるように登録商標を変形したものであったため、その使用は対象商標との関係で登録商標をそのまま使用した場合よりも、需要者が商品の出所を誤認・混同するおそれがより高まった事情に該当するとして、その実使用商標の使用を登録商標の同一性の範囲を超えた類似の商標の使用とみなすことができ、不正使用の故意もまた推定されると判断している。
これに対し本件判決は、実使用商標の使用によって商品の出所に関して誤認させる混同が生じたとはいえず、不正使用の故意もなかったと判断した事例であって、両判決の内容の違いを比較してみることは実務上の参考になるであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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