知財判例データベース デザイン侵害行為による損害額を、旧デザイン保護法による弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいて算定した事例
基本情報
- 区分
- 意匠
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 個人A vs 被告 個人B外3名
- 事件番号
- 2020ナ1537
- 言い渡し日
- 2021年08月19日
- 事件の経過
- 確定(2021年9月4日)
概要
特許法院は、被告製品の販売行為は原告の本件各登録デザイン権の侵害に該当し、被告の侵害行為に過失があると推定されるので、被告は原告に対し侵害行為による損害を賠償する責任があると認めた。損害額の算定においては、その損害額を証明するために必要な事実を明らかにすることが事実の性質上極めて困難な場合に該当するとして、旧デザイン保護法第115条第6項[1]により弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいて原告の損害額を490万ウォンと算定した。
事実関係
原告は、自動車部品・用品などの輸出入販売業を営んできた者として、本件第1デザイン乃至第3デザインの登録権利者である。被告は、2017年から2018年の間に下表記載の各製品を販売した。
被告は2018年5月31日、韓国特許庁特許審判院に、被告製品は本件第1デザイン及び第2デザインの権利範囲に属さないという消極的権利範囲確認審判を請求したが、いずれも棄却された。
判決内容
関連法理
デザイン保護法第116条第1項は、他人のデザイン権又は専用実施権を侵害した者はその侵害行為に対して過失があると推定すると定めている。その趣旨は、デザイン権などの登録事実や内容はデザイン公報や登録原簿などにより公知とされて公衆に広く知られている可能性があり、業としてデザインを実施する者に対し当該デザイン分野におけるデザイン権の侵害に対する注意義務を課すことが正当であるということにある。上記規定にもかかわらず、他人の登録デザインを許諾なしに実施した者について過失がないと言うためには、デザイン権の存在を認知することができなかったという点を正当化できる事情があるか、又は自身が実施するデザインが登録デザインの権利範囲に属さないと信じたという点を正当化できるだけの事情があったということを主張・証明しなければならない。
損害賠償責任の発生
- 損害賠償責任の発生の有無
- 本件第1, 3登録デザインと第1, 3被告製品はいずれも自動車用傘保管器具に関するものでその物品が同一であり、本件第1登録デザインと第1被告製品、本件第3登録デザインと第3被告製品はその支配的な特徴と全体的な審美感が非常に類似する(この部分につき当事者間で争いがない)。
- 本件第2デザインと被告製品第2の物品及びデザインの類否
本件第2デザインと第2被告製品の各デザインを対比するにおいて、各構成要素の名称は便宜上右の図面の記載のとおりに呼ぶ。 - 両デザインは①クリップ部の形状において、正面は縦型の長方形をなし、背面は正面のパネルが後方までつながり重なった形状である点(以下「共通点①」といい、残りの共通点も同様に表記する)、②傘収納部において、横方向の円筒形からなり、その上部の一辺が開口した形状からなる点、③収納ガイド片において、半円形形状に形成されクリップ部とほぼ直角をなしている点、④傘収納部の下部と雑巾乾燥棒結合ホルダーとが、その中心部に縦に結合した支持具で連結されている点で共通する。(④:本件第2デザイン「」、第2被告製品「」)
- 一方、①正面からみたとき、本件第2デザインではその上部(a)及び下部(b)は縦型及び横型の長方形をなし、支持具(c)は左右側が内側にくぼんだ形状であるが、第2被告製品では上部(d)は縦型の長方形をなし、下部(e)は逆台形の形状である点(以下「相違点①」といい、残りの相違点も同様に表記する)、
本件第2デザイン 第2被告製品
本件第2デザイン 第2被告製品 - ところで、本件第2デザインにおいて看者の審美感を引き起こす支配的な形態的要素は、よく目立って見えるだけでなくデザインの創作性が発揮されたものとみられる、クリップ部の正面及び背面の形状、収納ガイド片の半円形形状に形成されクリップ部とほぼ直角をなしている形状、傘収納部の下部と雑巾乾燥棒結合ホルダーとがその中心部に縦に結合した支持具で連結されている形状(共通点①、③、④)であるといえる。一方、両デザインの相違点は、くぼんだ形態の支持具を逆台形の形状に転用し(相違点①)、クリップ部から雑巾乾燥棒結合ホルダーまでの形状、収納ガイド片の角度などを一部調整し(相違点②)、雑巾乾燥棒結合ホルダーの下部の円筒状形状を鉤状に変形した点であるが、これらは本件第2デザインのうち一部分を傘保管器具関連分野の物品においてありふれて用いられるデザインに単に置換するなど、ありふれた創作手法や表現方法を適用したものに過ぎず、全体デザインの美感に及ぼす影響は大きくない。
- 従って、第2被告製品は、本件第2デザインとその外観を全体的に対比観察してみるときその支配的な特徴が類似するので、細部的な点で多少違いがあるとしても、看者をして類似する審美感を感じさせると認めるべきである。
- 小結論
被告が本件各登録デザインと類似の被告製品を生産・販売した行為は原告の本件各登録デザイン権の侵害に該当し、デザイン保護法第116条により被告の侵害行為に過失があると推定されるため、被告は特別な事情がない限り、原告に上記侵害行為による損害を賠償する責任がある。
損害賠償の範囲
- 原告は、主位的に旧デザイン保護法第115条第6項に基づいて弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいた相当な損害額の支払いを、予備的に旧デザイン保護法第115条第1項[2]に基づいた金額に慰謝料を加えた金額に相当する損害額の支払いを求めている。
- しかし、旧デザイン保護法第115条第6項による損害額の認定は、旧デザイン保護法第115条第1項に基づいた損害額の算定が困難な場合に限って可能であるといえる。従って、旧デザイン保護法第115条第1項による損害賠償額の算定が可能か否かについてまず詳察する。原告が提出した証拠[3]は、原告が主張する生産原価及びその細部内訳を整理した表に過ぎず、実際の生産原価を確認することができる客観的な資料であるとは認め難く、その他に上記各実施品の生産原価を確認することができる資料が提出されていないので、旧デザイン保護法第115条第1項を適用して損害額を算定することは可能ではない。
- 主位的請求に対する判断 ‐ 旧デザイン保護法第115条第6項による損害額算定
本件は原告と競業関係にある被告のデザイン権侵害行為により原告に損害が発生したことは認められるが、その損害額を証明するために必要な事実を明らかにすることが事実の性質上極めて困難な場合に該当するので、法院が旧デザイン保護法第115条第6項によって弁論全体の趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認めざるをえない - 小結論
被告が被告製品を譲渡した数量、譲渡価額、それによって被告が得た売上高、被告製品の販売によって発生した各種費用(手数料、広告料等)、被告が原告の実施品販売額に比べて顕著に低い価格で被告製品を販売し、原告が事実上正常な営業をできなかったものとみられる事情など諸般の事情を考慮すると、被告のデザイン権侵害行為による原告の損害額は被告Bの場合2,000,000ウォン、被告Cの場合400,000ウォン、被告Dの場合1,200,000ウォン、被告Eの場合1,300,000ウォンと定めるのが相当である。
専門家からのアドバイス
本件は意匠の類似判断に加え損害額の判断に関する内容も含まれており、今回、損害額の判断について韓国での具体的な法院判断を紹介した。
これに関連して過失の推定については、日本意匠法でも第40条で「他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する」と規定しており、韓国もこれと同じである。一方、韓国のデザイン保護法のうち本件で扱われた損害額の算定に関する規定(旧第115条第1項)は、2020年の改正により2021年6月23日から改正法が施行されている。これは、特許法と同じ損害額の算定方式に改正する趣旨であり、さらなる権利者の保護が図られている。また、韓国では故意侵害の場合には、損害額の最大3倍まで賠償を認める懲罰的損害賠償制度が2020年10月20日施行のデザイン保護法改正法により既に導入されている
注記
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旧デザイン保護法第115条第6項「法院は、デザイン権又は専用実施権の侵害に関する訴訟において損害が発生したことは認められるものの、その損害額を証明するために必要な事実を明らかにすることが事実の性質上極めて困難な場合には、弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づいて相当な損害額を認めることができる。」
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旧デザイン保護法第115条第1項「デザイン権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己のデザイン権又は専用実施権を侵害した者に対して、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合、その権利を侵害した者がその侵害行為を組成した物を譲渡したときは、その物の譲渡数量にデザイン権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たり利益額を乗じた金額をデザイン権者又は専用実施権者が受けた損害額とすることができる。」
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原告は、証拠として甲第11号証及び甲第14号証の1乃至3を提出した。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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