知財判例データベース 秘密維持約定の事実に基づき、特許発明について「発明者の意思に反した公知」を主張したが、新規性喪失の例外の適用が認められずに新規性が否定された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2020ホ4990登録無効(特)
言い渡し日
2021年08月20日
事件の経過
請求棄却、審決確定

概要

原告は、訴外D社(以下、「D」という)と金型の製作契約時に秘密維持約定を締結したが、その後の試作品納品時には別途の約定をしない状態で試作品を納品し、納品を受領した者およびそこから試作品を受け取った者がインターネットを通じて試作品の写真または動画を掲載し、原告は新規性喪失の例外の主張をせずに特許出願をして特許登録まで受けた後に無効審判が請求された。原告は「発明者の意思に反した公知」のため新規性が否定されないと主張したが、認められずに新規性が否定された。

事実関係

原告の特許発明(出願日:2016年10月25日)は、「自動車ナンバープレート装着用プレート」に関するものである。原告は、Dから上記プレートに対する金型開発の依頼を受け、Dとの間に秘密維持約定を締結した。Dは、金型により製作される製品に対する市場の反応を見るために原告に対して700個の試作品の提供を要請し、原告はこれを提供した。Dは原告から提供を受けた試作品を、Dの社員、知人、複数のインターネットカフェの運営者に提供した。この提供を受けたDの社員Eは、上記試作品の動画をユーチューブに掲示し、インターネットカフェの運営者はインターネットブログに上記試作品の写真などを掲示した。一方、原告は、新規性喪失の例外の主張をせずに特許出願をして特許登録までした。
被告(無効審判請求人)は、特許出願前にインターネットを通じて公開された上記動画、写真などにより新規性が喪失して無効であると主張した。これについて原告は、上記公知行為は発明者である原告の意思に反した公知なので新規性喪失の例外に該当して新規性が喪失していないと主張した(インターネットを通じた公知行為により新規性が喪失したということ自体には両当事者間に争いはない)。

判決内容

事実関係

  1. 原告は、2016年6月8日に、本件特許発明を実施したM車両のナンバープレート装着用プレートおよびフロントグリルに対するそれぞれの金型を製作して2016年7月30日までにDに納品するという契約(以下、上記金型および契約をそれぞれ「本件金型」、「本件金型製作契約」という)をDと締結した。
  2. 本件金型製作契約書の第15条は、下記のような規定(以下、「秘密維持約定」という)を含んでいる。
    第15条[知識財産権] 開発した金型と金型により生産された製品に対する全ての知識財産権は、開発者である「乙」(原告)にあり、「甲」(D)は無償の通常実施権を有し、「乙」が知識財産権の出願を終えるまで「甲」は開発した金型と金型により生産された製品に関する内容を第三者に公開しない。
  3. 原告は、Dに本件金型製作契約によって製作する製品の木型(Mockup)1つないし2つを供給した。
  4. Dは、上記のような木型を受け取った後、金型によって製作される製品を代理店などに提供して市場の反応(フィードバック)を見るために原告をはじめとする4つの企業から約1,000個のサンプル製品の射出の見積りを受け取り、結局、原告に金型によって製作される製品の射出も任せることにした。
  5. これにより、原告は、2016年7月中旬頃、Dに本件金型で製作したナンバープレート装着用プレート(以下、「本件試作品」という)700個を「検収用」の名目で提供し、当時M車両用フロントグリルもそれと類似の数量を供給した。
  6. Dは、原告から提供を受けた本件試作品を社員およびその知人の車両に装着してみるとともに、「クラブМ(CLUB MALIBY)」というK自動車関連クラブの長としてネイバーカフェを開設して運営しているLの共同購入の要請に応じてLに販売した。
  7. LはDから買った製品をクラブの会員に販売し、ネイバーブログにその装着の様子が掲示された。
  8. 本件特許発明が特許登録になった後、原告はDに金型により生産した製品を本格的に納品し始めた。

原告の意思に反して公知となったものか否か

  1. 関連法理
    特許法第30条第1項第2号の「特許を受けることができる権利を有する者の意思に反してその発明が第29条第1項各号のいずれかに該当するに至った場合」とは、特許を受けることができる権利を有する者の発明内容が使用人または代理人の故意または過失で漏洩し、または他人がこれを盗用することによって一般に公表された場合を指すことなので、上記規定によって新規性を主張する者は、上記のように自らの意思に反して漏洩または盗用された事実を証明する責任がある(大法院1985.10.8.言渡85フ15判決など参照)。
  2. 判断
    上記認定事実と先に挙げた証拠に弁論全体の趣旨を加えて認められる下記のような事情を総合してみると、先に検討したとおり、本件金型製作契約当時、秘密維持約定が含まれていたとしても、原告としては、本件試作品700個の提供当時、少なくとも本件試作品がDの代理店、総販売などを通じて市場の反応を見るために秘密維持約定の当事者であるD以外の者、即ち社員ら、代理店、総販売、自動車関連クラブに配布、装着されることを知っており、これを容認していたものと判断するのが相当である。したがって、本件試作品700個のうち一部である各先行発明の公知が原告の意思に反したものであるとは認め難く、他にこれを認める証拠がない。また、特許発明の新規性を喪失させる「公知」は必ずしも有償販売によるものであることを要しないので、たとえ原告の主張のとおり原告がDに700個の試作品を提供した当時、市場に「販売」しないことを要請しており、その具体的販売時点や流通経路については原告がDから通知を受けることができなかったのだとしても、Dが原告の容認したところに従ってその試作品を配布して公知となった以上、上記結論を変えることはできない。
    1. 本件金型製作契約書に秘密維持約定が含まれているが、当初の契約内容は、原告がDに「金型」を製作し納品することだけを目的としていて、本件秘密維持約定が出願前製品の販売禁止約定までも含んでいたとは認めることはできず、原告はDに本件試作品700個を提供した当時、その販売を明示的に禁止する別途の約定を締結することもしなかった。
    2. 本件特許発明の実施製品は車両外部に装着するものであり、その構造も比較的単調で車両に装着された外観だけでもその発明の内容を直観的に理解することができるという点から、その公開に一層特別な注意と努力が必要なものと判断されるにもかかわらず、原告がDに700個の試作品を納品するとともに秘密維持のための別途の措置をとらず、むしろ本件特許発明の出願直後に出願事実をDに告知もしなかった。
    3. Dは、原告から本件金型完成前に「木型」を受け取って木型に別段異常がないことを確認し、金型完成後に製品の射出目的で複数の企業に接触し、結局、原告に射出を任せることにした。特に一般製品の射出とは異なり、本件試作品のような場合、通常、代理店に装着をしてみた後、その反応を確認して本格的な製品の量産に使われるが、本件試作品の納品もそのように代理店などの反応を見るために、Dが原告に700個という少なからぬ数量の試作品の納品を要請して受け取った。
    4. 原告は、複数の代理店と総販売店を運営するDと既存の取引関係があって、上記700個の試作品をDに納品しつつ、それと一緒に交換装着が必要となるグリルもほぼ同じ数量供給しており、原告が提供した数量および総納品単価自体が単に製品が金型によりきちんと射出されたかを確認する目的に必要とされる数量をはるかに超えていた点などに照らし、原告としても700個の試作品が単なる「金型検収用」の目的だけでなく、自動車に装着されて市場の反応を見るための目的としても用いられることを認識していたものと判断される。
    5. Dは、本件金型製作契約において納品期限の遵守を特に強調し、その後15日を金型検収期間として予定しておいて、本件試作品を原告から受け取った後、ただちにインターネットなどを通じて広報活動をし、自動車同好会を通じた販売に入るなど、本件金型で生産する製品の市場投入、広報、販売を急いで進めた。これにつき、本件試作品が自動車の特定モデルに限り使用される製品であって、原告が本製品の射出契約まで締結した点に照らすと、原告としても本件試作品の広報や市場投入に対してDに積極的に協力する十分な動機があったものと判断される。

したがって、本件特許発明の公知が原告の意思に反した公知として新規性喪失の例外に該当するという原告の主張は理由がない。

専門家からのアドバイス

本件で法院は、原告の特許発明について「発明者の意思に反した公知」には該当しないものとして新規性喪失の例外には該当しない旨の判断をしたが、これは、原告が試作品を秘密維持約定の当事者以外の者にも配布されることを知っていながら、これを容認していたという事実に基づく判断であった。
原告は試作品納品先であるDとの間で、「『乙』(原告)が知識財産権の出願を終えるときまで『甲』(D)は開発した金型と金型により生産された製品に関する内容を第三者に公開しない」という秘密維持約定を締結していた。ところが、原告が金型で製作した試作品をDに提供するにあたって、その試作品に対する市場の反応を見るためにDが秘密維持約定の当事者以外の者にも試作品を配布することを原告は知っていた点、あるいは容易に知り得たにもかかわらず別途の約定なしに試作品をDに提供したという点が、原告の弱点となったのである。
韓国特許法第30条(新規性喪失の例外)によれば、特許出願前に特許を受ける権利を有する者によって発明が公知になった場合、特許出願時、特許出願後における補正期間、または特許決定後に登録料を納付する前までに新規性喪失の例外を主張しなければならないとされている。一方、特許を受ける権利を有する者の意思に反して公知になった場合は、登録料を納付した後であっても、無効審判でこれを証明すれば、新規性喪失の例外の適用を受けることができる。本件で原告は後者の場合に該当する旨を主張したが、認められなかった。
本件の具体的事案に鑑みると、仮に秘密維持約定をしていたとしても、その約定の適用範囲は十分精査する必要があり、もし秘密維持約定の当事者以外の者に技術内容が公開されることが予想されるのであれば、特許出願を急ぐか、または少なくとも特許登録料を納付する前までには新規性喪失の例外の主張をしておくことが必要と言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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