知財判例データベース 特許発明の構成要素の有機的結合の困難性と特有の作用効果を考慮して進歩性が認められた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(審判請求人) vs 被告(特許権者)
事件番号
2020ホ5337登録無効(特)
言い渡し日
2021年06月09日
事件の経過
請求棄却、審決確定

概要

特許発明が先行発明と全体的には相当類似の装置の構成を備えながらも、その移送および積層対象物の支持構造において一部差異があった事案において、特許発明の支持構造を成す構成要素を有機的に結合した全体としての構成の困難性と特有の作用効果を考慮した上で進歩性が認められた。

事実関係

特許発明は「リフト型ドラム積層装置」であって、設置面積を減らすためにドラムを昇降させて多数のドラムを垂直方向に積層して収容する装置に関するものである。争点になった請求項3の発明(すなわち「特許発明」)による装置の作動方式は、下記図面のとおりである。まず、ドラム(1)が移送ユニット(10)により水平方向に移送されて収容ユニット(30)の下部に位置するようになると(図5a)、昇降ユニット(20)が上昇してドラム(1)を上昇させ(図6a)、続いて上昇するドラム(1)が既に積層されているドラムの最下段を押すようになり(図7a)、このとき、最下段ドラムの上部突出端(1a)を支えていたホールディングアーム(422)が回転するようになって支持が解除されつつドラムが上昇し続け、ホールディングユニット(40)の位置に新たな最下段ドラムが位置するようになると、ホールディングアーム(422)が逆回転して新たな最下段ドラムを支えるようになる(図9a)。

リフト型ドラム積層装置の図面5aと6a

リフト型ドラム積層装置の図面7aと9a

先行発明は「型枠パネルの自動積載装置」に関するもので、下記図面のとおり、型枠パネル(100)を昇降プレート(30)に積載して上昇させ、垂直方向に多数積層させる装置を開示している。先行発明においては、ローラ(51)とカム部材(52)とを備える支持部材(50)が積層された型枠パネルの最下面を支持し、新たな型枠パネルが上昇するようになると、下記図11a~図11dの作動過程を通じて新たな型枠パネルの下面を支持するようになる。

装置の側面図と回動手段の側面図、図11a~d

特許発明と先行発明は、積層された積載対象物のうち最下段のものに対する固定および解除をする点においてはその機能や構造が同一である。しかし、特許発明は、ホールディングユニット(40)を収容ユニット(30)に設け、ドラムの上部突出端を支持することによってドラムを追加で積載するとき、積層されたドラムの下面と上昇するドラムの上面が直接当接することができるようになっている一方、先行発明の対応する構成は、支持部材(50)を回動させる駆動源であるクランクホイール(49)やクランクアーム(44)が昇降プレート(30)の下部に設けられており、支持部材(50)が型枠パネルの下面を支持することによって型枠パネルを追加で積載するとき、上昇する型枠パネルの上面が、まず支持部材(50)のカム部材(52)に当接し、カム部材(52)を押し出しつつ上昇した後、積層された最下段の型枠パネルの下面と当接するようになる点において差異(以下「差異2」と言う)がある。

原告は、上記差異2は単に積載対象物のどの部分を支持するか程度に過ぎず、進歩性がないと主張した。

判決内容

(1)判断基準

特許発明の請求の範囲に記載された請求項が複数の構成要素からなっている場合には、各構成要素が有機的に結合した全体としての技術思想が進歩性判断の対象になるのであって、各構成要素が独立して進歩性判断の対象になるものではないため、その特許発明の進歩性を判断するときは、請求項に記載された複数の構成を分解した後、それぞれ分解された個別構成要素が公知となっているものか否かのみを判断してはならず、特有の課題解決原理に基づいて有機的に結合した全体としての構成の困難性を判断すべきであり、このとき、結合した構成全体としての発明が有する特有の効果も共に考慮すべきである(大法院2021年4月8日言渡2019フ11756判決、大法院2007年9月6日言渡2005フ3284判決など参照)。

(2)差異2に関連した特許発明と先行発明の作動方式の差異

先行発明の作動方式によると、カム部材(52)に関連した支持構造は、支持部材により支持され得る部分が下面しかない直方体形状の型枠パネルを支持する先行発明においては必須なものである。
一方、特許発明は、ドラムの「上部突出部を支持」するように構成することにより、既に積層されているドラムと新たに積層されるべきドラムとの間に何ら構成要素が介在しないようにしたものである。これを通じて下部から上昇しつつ新たに積層されるべきドラムの上面と、既に積層されているドラムのうち最下段に位置しているドラムの下面が直接当接することができるようにし、新たに上昇するドラムが既に積層されているドラムを支持できるようになり、ドラムを支持するホールディングユニット(40)を広げたり閉じたりする動作のみによりドラムの支持および解除が可能に構成されている。
したがって、特許発明は、先行発明のカム部材(52)のような追加の構成がなくてもドラムを支持するホールディングユニット(40)を回動させる動作のみによりドラムの支持および解除が可能に作動するようになるところ、特許発明と先行発明は作動方式が大きく異なる。

(3)特許発明特有の作用効果の有無

特許発明は、先行発明のカム部材(52)のような追加の構成がなくてもドラムを支持するホールディングユニット(40)を広げたり閉じたりする動作のみにより新たなドラムの進入および積層を可能にする特有の効果を奏するようになるものであり、これはホールディングアームを広げたり閉じたりする以外にもカム(52)が新たに積載されるパネル(100d)との接触により回動されてこそ新たな型枠パネルの進入および積層が可能な、先行発明とは差別化された効果を奏する。
支持部材により支持され得る部分が下面しかない直方体形状の型枠パネルを支持する先行発明に接した通常の技術者が、上部に突出部が形成されるドラムの構造的特徴を用いて、その上部突出部を支持することによって発揮される特許発明特有の作用効果を直ちに類推できるとは言い難い。

(4)特許発明の有機的に結合した全体としての構成の困難性の有無

特許発明は、ホールディングユニットを収容ユニットに設ける構造的特徴が有機的に結合してホールディングユニットの長さを減らせるようになることにより、ホールディングユニットの耐久性に問題を招くことなくドラムの上部突出部を支持できるようになるものである。
仮に先行発明の回動部材(40)を特許発明のように収容ユニットに該当するフレーム(200)側に設けるためには、全面的な構成の変更が必要であるが、通常の技術者が特許発明の内容を知っている状態において事後的に先行発明の構造を変更しない以上、このように全面的に構成を変更することを企図するとは言い難い。

専門家からのアドバイス

本件は、発明の進歩性判断として典型的といえる特許法院の判断手法に則った事例であって、特許発明の構成を先行発明と対比して共通点と差異点を分析した後、差異点に該当する構成を出願時の技術水準を勘案して通常の技術者が容易に導き出すことができるかによって進歩性を判断している。 具体的には、本件特許発明は対象物の積層装置の構造に関するもので、積層された積載対象物のうち最下段のものに対して固定および解除をする構造を提示している点において先行発明と共通する構成を有している。その一方、特許発明は積層の作動過程において積載対象物の上端突出部を支持する構造であるのに対し、先行発明は積載対象物の下面を支持する構造であるという点において差異がある。この程度の両者構成の差異である場合、その進歩性の判断は、積載対象物の性質に応じて通常の技術者が適宜選択できる程度に過ぎないと見ることも可能である。これについて本件での特許法院の判断は、積載対象物の性質に連関して支持構造を成す構成要素を有機的に結合した全体としての構成の困難性と特有の作用効果を把握した上で、結果として、本件特許発明の進歩性を認めた。
本件は、特に機械装置に関する発明の進歩性が争われた事案として、その判決文中に説示された判断手順と判断要素(有機的に結合した全体としての構成の困難性、特有の作用効果)、そしてその具体的判断がなされた事例の内容は、特許の実務者として参考にする価値があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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