知財判例データベース 審判長の証拠調べに職権審理に係る手続違反があったという原告の主張を排斥した上で、登録デザインは先行デザインから容易に創作することができると判断した事例

基本情報

区分
意匠
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 B社
事件番号
2020ホ5696
言い渡し日
2021年05月27日
事件の経過
確定(2021年6月12日)

概要

特許法院は「特許審判院が本件審決において職権で調査した証拠に基づいて職権審理をしながらも、それに対して意見陳述の機会を与えなかったため手続的違法理由がある」という原告の主張について、実質的に原告に意見陳述の機会が提供されたと認めるのが妥当であるため手続違反の違法はないものとして、本件登録デザインは通常のデザイナーが先行デザインから容易に創作することができるためその登録が無効にされるべきであると判断した。

事実関係

被告は、本件登録デザインは先行デザインと類似または容易に創作できるデザインであるのでデザイン保護法第33条第1項第3号(公知デザインと類似するデザイン)および第2項(容易創作)によってその登録が無効にされるべきであると主張して登録無効審判を請求し、これに対して特許審判院は、本件登録デザインは先行デザインから容易に創作できるデザインであるのでその登録が無効にされるべきであると判断した。

判決内容

(1) 関連法理

特許審判院の審判手続において職権で証拠調べをした結果に対して当事者らに意見陳述の機会を与えることを定めたデザイン保護法第145条第5項(注1)の規定は、審判の適正を期し審判制度の信用を維持するために遵守しなければならないという公益上の要求に起因するいわゆる強行規定であるため、特許審判院が職権で審理した証拠調べの結果に対し当事者らに意見陳述の機会を与えないまま出された審決は原則的に違法であり維持することができないが、形式的にはこのような意見陳述の機会が与えられなかったとしても、実質的にこのような機会が与えられたものと認められるだけの特別な事情がある場合には、審判手続において職権審理に関する手続違反の違法がないと認めなければならない。

デザイン保護法第33条第2項の趣旨は、公知デザインの形状・模様・色彩またはこれらの結合(以下「公知形態」という)や、韓国国内で広く知られた形状・模様・色彩またはこれらの結合(以下「周知形態」という)をほぼそのまま模倣もしくは転用し、またはこれを部分的に変形しながらも全体的に見るとき他の美感的価値が認められない商業的・機能的変形に過ぎず、またはそのデザイン分野でありふれた創作手法や表現方法により変更・組み合わせもしくは転用したものに過ぎないデザインなどのように、創作水準が低いデザインは、通常のデザイナーが容易に創作できるものであるためデザイン登録を受けることができないというところにある。また、公知形態や周知形態を互いに結合し、またはその結合された形態を上記のように変形・変更もしくは転用した場合にも創作水準が低いデザインに該当し得るが、その創作水準を判断するときはその公知デザインの対象物品や周知形態の知られた分野、その公知デザインや周知形態の外観的特徴の関連性、該当デザイン分野の一般的傾向などに照らして、通常のデザイナーが容易にそのような結合に達することができるかを共に検討しなければならない。

(2) 本件審決の違法の有無

  1. 原告の手続的違法主張に関する判断

    本件審判手続において、被告は、アイスクリーム容器のデザインにおける星型の吐出口の形状や容器本体ならびに蓋のリブの存在および形状が公知デザインまたは周知形態である旨を主張したが、特許審判院の審判長は上記主張について原告に意見陳述の機会を与えた事実があり、特許審判院は本件審決において本件登録デザインがデザイン保護法第33条第2項に該当して無効であると判断する過程で、アイスクリーム容器のうち星型の吐出口や容器本体と蓋のリブに関連するデザインが公知デザインまたは周知慣用デザインであることを認めながら、被告が提出した証拠をその例示として挙げたにすぎない事実が認められる。以上の認定事実を上記の法理に照らしてみると、特許審判院が公知デザインまたは周知形態に関する被告の上記主張に対し原告に意見陳述の機会を与えた以上、公知デザインまたは周知慣用デザインの例示として挙げた被告提出証拠に対しても実質的に原告に意見陳述の機会が提供されたと認めるのが妥当である。
    したがって、本件審判手続には、職権で審理あるいは証拠調べをしながら意見陳述の機会を与えなかった手続違反の違法はないといえる。

  2. デザイン保護法第33条第2項の当否に関する判断

    1)物品の対比

    本件登録デザインと先行デザインの対象物品は、いずれもアイスクリーム容器(アイスクリーム器)に関するもので、その用途と機能が同じ物品に該当する。

    2)デザインの対比

    (イ)図面の対比

    区分 本件登録デザイン 先行デザイン
    登録番号
    (登録日)
    デザイン登録第839426号
    (2016. 2. 5.)
    2015. 4. 8. 中国国家知識財産権局登録
    デザイン公報に公告されたデザイン
    物品の名称 アイスクリーム容器 アイスクリーム器
    底面
    斜視図
    アイスクリーム容器本体の中蓋・補強リブ・段差・アイスクリーム吐出口 アイスクリーム器本体の中蓋・補強リブ・段差・アイスクリーム吐出口
    正面図 本件登録デザインの正面図 先行デザインの正面図

    (ロ)本件登録デザインと先行デザインの共通点

    本件登録デザインと先行デザインは、1)容器本体が「中間部分に段差があるU字型形状」のように中間部分に段差があるU字型形状である点、2)蓋が「帽子のつばが上方に曲がった中折帽(フェドラ、fedora)の形状」のように帽子のつばが上方に曲がった中折帽(フェドラ、fedora)の形状からなる点、3)容器本体の底にアイスクリームが押し出される吐出口が形成されている点、4)容器本体の上段部にリブが一定間隔で形成されている点で共通する。

    (ハ)本件登録デザインと先行デザインの相違点

    1)吐出口の形状において、本件登録デザインは「外側に突出した7個の二等辺三角形」のように外側に突出した7個の二等辺三角形で、外側の角と隣り合う他の二等辺三角形との間の角が丸みを帯びて連結されている星形状と類似の形状である反面、先行デザインは「5個の三角形の外側の角と隣り合う他の三角形との間の角が角張って連結されている一般的な星形状」のように5個の三角形の外側の角と隣り合う他の三角形との間の角が角張って連結されている一般的な星形状である点、

    2)容器本体の2段形状において、本件登録デザインは「上段と下段の外部輪郭が同じ傾斜角を成す形状」のように上段と下段の外部輪郭が同じ傾斜角を成す形状である反面、先行デザインは「上段は傾斜しているものの下段は垂直となって相違する傾斜角を成す形状」のように上段は傾斜しているものの下段は垂直となって相違する傾斜角を成す形状である点、

    3)容器本体のリブにおいて、本件登録デザインは「6本のリブが60度の間隔で形成」のように6本のリブが60度の間隔で形成されている反面、先行デザインは「16本のリブが22.5度の間隔で細かく形成」のように16本のリブが22.5度の間隔で細かく形成されている点、

    4)蓋のリブにおいて、本件登録デザインは「蓋の内周面に8本のリブが45度の間隔で形成」のように蓋の内周面に8本のリブが45度の間隔で形成されている反面、先行デザインではリブを確認することができない点で相違する。

    (ニ)検討

    相違点1)と関連し、本件登録デザインの出願前にアイスクリーム分配容器(アイスクリーム分配装置)のうち吐出口に関するデザインが「真ん中に六角形の星の形状1」、「真ん中に六角形の星の形状2」のように公知となっており、ここに先行デザインの吐出口形状までを加えてみれば、アイスクリーム容器の吐出口形状と関連して先行デザインのような一般的な星型あるいは上記公知デザインのような星型は当該デザイン分野で広く使われている周知形状と認めるのが妥当である。

    相違点2)は、容器本体のうち下段の外部輪郭が上段のそれと同一に傾いているかという違いに過ぎない上に、本件登録デザインと先行デザインの容器下段の傾きの違いが大きいともいえないため、これによって特別な審美感が感じられるとも認めがたい。

    相違点3)および4)は、単にリブの本数と間隔を異にするなどであり、特別な創作的努力が必要とも認められないため、通常のデザイナーが特別に困難なく変形することができるものと認められる。

    (ホ)検討結果の整理

    本件登録デザインは、通常のデザイナーが先行デザインから容易に創作することができ、デザイン保護法第33条第2項に該当するため、その登録が無効にされるべきである。

(3) 結論

本件審決は適法であり、その取消しを求める原告の請求には理由がないため棄却する。

専門家からのアドバイス

本件は、アイスクリーム容器の登録デザインについて、無効とされた審決と同様に、特許法院でも無効と判断したものである。デザインの登録要件に係る実体的判断については、その構成要素のうちに公知の形状部分があるとしても、それが特別な審美感を呼び起こす要素になり得ないものでない限り、それまでを含んで全体として観察し感じられる装飾的審美感により判断しなければならないという既存の判例を再確認した上で、本件登録デザインは容易創作に該当して無効にされるべきであると判断した事例であった。

一方、本件では、審判長の職権審理に手続的違法があったか否かについても争われ、手続的違法はなかったものと判示されている。すなわち、特許法院は、審判段階で被告が提出した証拠に対して実質的に原告に意見陳述の手続の機会が提供されたものと認めたのであるが、こうしたケースは、無効審判において審判請求人が無効理由または証拠を後から追加することが認められる韓国の実務では発生しやすいと言える。

こうした韓国の無効審判の実務について、関連する韓国の法規定を日本の法規定と対比しながら、以下、簡略に紹介する。

日本意匠法第52条(特許法第153条2項準用)と韓国デザイン保護法第145条第5項では、それぞれ審判長の職権審理に関連して当事者に意見陳述の機会を与えるよう規定している点で共通する。ただし、職権審理の対象となる審判請求理由の要旨を変更することができるかについて、日本意匠法は第52条(特許法第131条の2準用)により無効審判に対して請求理由の要旨を変更することを認めていないことから、審判請求時に審判請求書に記載された無効理由に対してのみ審理をし、審判請求後は無効理由を追加することができないものとされている。一方、韓国デザイン保護法は第126条第2項により無効審判においても請求の理由を補正することを認めているため、審判請求後であっても無効理由を追加することができる。このような相違点は、韓国の無効審判の実務をするにおいては念頭に入れておく必要があるといえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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