知財判例データベース 旧特許法下において、国際特許出願である原出願の翻訳文にはなかった配列目録の電子ファイルを添付した分割出願は不適法であるとされた事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A社 vs 被告 特許庁長
- 事件番号
- 2020ホ5238拒絶決定(特)
- 言い渡し日
- 2021年04月22日
- 事件の経過
- 確定
概要
2014年6月11日付特許法改正(2015年1月1日施行)前に配列目録の電子ファイルを添付して外国語で国際特許出願されたが、その翻訳文には配列目録の電子ファイルが添付されていなかった。 原告は、この国際特許出願を基礎として分割出願をすると共に国際特許出願の願書の配列目録の電子ファイルを添付したものの、特許法院は、分割出願の基礎となる原出願の範囲は翻訳文の範囲であるとし、分割出願に配列目録の電子ファイルを添付したことは分割出願の許容範囲を逸脱したものであるため、分割出願は不適法であると判断した。
事実関係
原告は、2013年12月6日に「1グループのグリコシル転移酵素およびその応用」を名称とする発明を外国語(中国語)により国際特許出願をすると共に、その願書に配列目録の電子ファイルを添付した。また、2015年7月3日付で上記国際出願日に提出した明細書等の韓国語翻訳文を特許庁長に提出したが(以下「原出願」と言う)、配列目録の電子ファイルは添付しなかった。その後、2017年12月28日付で原出願に対する分割出願発明を出願し(以下「分割出願」と言う)、配列目録の電子ファイルを添付した。原告の分割出願の請求項は下記のとおりである。
[請求項1]
グリコシル転移酵素(glycosyltransferase)の存在下において、グリコシル基供与体のグリコシル基(glycosyl group)をテトラサイクリックトリテルペノイド(tetracyclic triterpenoid)化合物のC-20部位およびC-6部位上に転移させる段階、
グリコシル化されたテトラサイクリックトリテルペノイド系化合物を形成する段階を含み、
上記グリコシル転移酵素は、SEQ ID NOs:2, 16, 18または20で表されるグリコシル転移酵素からなる群より選択されることを特徴とする、体外グリコシル化方法。
特許庁の審査官は、2019年2月7日付で分割出願発明の配列目録に記載されている配列番号は原出願の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲に該当しないため、分割出願の要件を規定した特許法第52条第1項に違反することを理由として拒絶決定をした。これに対して原告は2019年10月22日付で拒絶決定不服審判を請求したが、特許審判院は2019年12月24日付で「アミノ酸または核酸の配列目録は明細書に該当し、旧特許法第201条第6項によると、分割出願発明は『国際特許出願の明細書・請求の範囲・図面および要約書の出願翻訳文』に記載されている事項の範囲内においてなされなければならないにもかかわらず、原出願当時に提出された韓国語翻訳文にはアミノ酸または核酸が配列番号として記載されているだけで、配列番号1~70がいかなるアミノ酸または核酸を有するか全く開示されていないため、本件分割出願発明は分割出願の要件に違反する」とし、棄却審決をした。
上記審決について原告は審決取消訴訟を提起すると共に、旧特許法第201条第6項、第202条第2項、第208条第3項と旧特許協力条約規則第49.5項の各規定の内容、英字記号などの言語中立的な表現からなる配列目録の特性、米国、EU、日本など主要国家において国際特許出願文を基準として分割出願を許容している事情などを考慮すれば、国内段階に移行した国際特許出願の分割出願を判断するにおいて基準となる旧特許法第52条第1項で定めた「出願時に最初に添付した明細書(注1)または図面」というのは、国内段階移行時に①翻訳文の提出が必要な明細書、請求の範囲、図面中の説明部分は韓国語翻訳文を基準として、②翻訳文の提出が必要でない図面(説明部分は除く)と配列目録ないし配列目録の電子ファイルは国際特許出願文を基準として判断するのが相当であり、審決が韓国語翻訳文である原出願の出願書に配列目録ないし配列目録の電子ファイルが記載されていないことを理由として分割出願が違法であると判断したことは不当であると主張した。
判決内容
特許法院は、まず関連法理として下記を提示した。
「特許出願人は、2以上の発明を1の特許出願とした場合には、その特許出願の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲において、次の各号のいずれかに該当する期間にその一部を1以上の特許出願に分割することができる(旧特許法第52条第1項)。さらに、特許法第47条第2項は、補正が可能な範囲について「明細書または図面の補正は、特許出願書に最初に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲においてしなければならない」と規定しており、ここで最初に添付した明細書または図面に記載された事項とは、最初の明細書等に明示的に記載されている事項であるか、または明示的な記載がなくても通常の技術者であれば出願時の技術常識に鑑みて分割出願された発明に記載されている事項が最初の明細書等に記載されているのも同様であると理解できる事項でなければならない(大法院2007年2月8日付言渡2005フ3130判決など参照)」
続いて、分割出願の範囲の基準となる「出願時に最初に添付した明細書または図面」は、国際特許出願の場合、韓国語翻訳文を言うとするのが妥当であると判断した上で、配列目録も上記韓国語翻訳文に含まれるため、韓国語翻訳文である原出願に添付されていない配列目録を含む分割出願は、原出願の最初の明細書に記載されている事項の範囲内に該当せず、適法な分割出願と言えないと判断した。特許法院の具体的な判断根拠は、下記のとおりである。
(1)旧特許法によると、外国語の国際特許出願はその韓国語翻訳文が最初の明細書とみなされる。
旧特許法第201条第6項は「国際特許出願の明細書・請求の範囲・図面および要約書の出願の翻訳文(韓国語で出願された国際特許出願の場合には、国際出願日に提出された明細書・請求の範囲・図面および要約書)は、第42条第2項の規定により提出された明細書・図面および要約書とみなす」と規定し、外国語で出願された国際特許出願は、国際出願書ではなく、その韓国語翻訳文を明細書とみなす。これは特許法が2014年6月11日付で一部改正されることにより、第200条の2の第2項において上記内容とは異なって「国際特許出願の国際出願日までに提出された発明の説明、請求の範囲および図面は、第42条第2項による特許出願書に最初に添付した明細書および図面とみなす」とし、附則第8条において、改正法施行前に出願された特許出願、特許出願に対する審査および審判については、従前の規定によるとしている点に鑑みても明確である。
原告が主張の根拠として挙げている規定である旧特許法第202条第2項と旧特許法第208条第3項は、外国語の国際特許出願において拡大された先願規定の適用および補正が可能な範囲について韓国語翻訳文が提出されなければならない部分は韓国語翻訳文を基準として、翻訳文が提出されなくてもよい部分は国際特許出願を基準として区分しているものであるが、このような特例規定によって国際特許出願を基礎とした原出願に対する分割出願の範囲に関する基準である「最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内」の解釈が変更されると言うことはできない。
(2)配列目録は翻訳文が必要な明細書の一部である。
配列目録自体が明細書の一部に該当することは当事者間において争いがなく、配列目録の明細書の記載に関連する規定である特許協力条約規則第5条第2項には、アミノ酸または核酸配列目録の記載に関連して「配列目録は、その基準に従い明細書中の別途部分としなければならない」と規定されている点などに鑑みれば、配列目録は明細書の一部に該当する。
旧特許法施行規則の「核酸塩基配列目録またはアミノ酸配列目録作成基準」によると、「明細書の配列目録部分が自由テキストを含む場合、全ての自由テキストを明細書の該当部分において該当言語により再度記載しなければならない」と記載している。配列目録は翻訳することができる自由テキスト項目を含んでいる点において、翻訳が必要ない図面(説明部分は除く)とは異なると言える。
原告は、旧特許協力条約規則第49.5項は「指定官庁は、配列目録部分が規則第12.1項(d)の要件を満たし、かつ明細書が規則第5.2項(b)の要件を満たす場合、明細書の配列目録部分に含まれているある文言に対して翻訳文の提出を出願人に要求してはならない」との規定に基づき、配列目録は翻訳文が提出されなくてもよい部分に該当すると主張している。しかし、上記規定は、自由テキストが韓国語ではなく外国語により記載されている場合には翻訳が必要であることを前提として言語中立的表現に対して翻訳を要求してはならない趣旨に過ぎず、これによって国内段階移行時に配列目録に関する翻訳文の提出を要求してはならない義務が指定官庁に対して課されるものではない。
(3)配列目録が公開されており、自明であるとの原告の主張は理由がない。
原告は、配列目録が原出願以前に既にWIPOのサイトを通じて公開されているため、通常の技術者が分割出願の配列目録を、国際特許出願に記載されていることから自明に理解することができると主張している。しかし、出願人が外国語の国際特許出願をした後、国内移行段階において出願翻訳文を提出した時またはそれ以後に発明の内容を同一性が認められる範囲内において補正または変更できる点などに鑑みれば、外国語の国際特許出願において提出された配列目録が国内段階移行時の配列目録と必ずしも同一であるとは言えないため、通常の技術者が国際特許出願から分割出願の配列目録を自明に理解できると言うことはできない。
専門家からのアドバイス
本件は上記改正特許法の施行前に出願された特許出願に対する法改正前の事例に該当し、その分割出願の可能な範囲は原出願の最初の明細書である国際特許出願の翻訳文の範囲と判断され、配列目録もその翻訳文に含まれるものと判断された。このため、国際特許出願には添付されながらも原出願には添付されなかった配列目録を、分割出願において追加したことは、分割出願の許容範囲を逸脱するものと判示された。配列目録は、バイオ発明などの特定分野の発明の明細書にのみ挿入されるもので、別途のファイルとして作成された後に明細書に添付するなどの追加の手続が必要ため、実務上注意を要する。実際に、配列目録の誤記や欠落などのミスが実務上生じやすい。
なお、2014年6月11日付特許法改正(2015年1月1日施行)により、国際特許出願において、国際出願日に提出された明細書および図面が最初の明細書および図面とみなされるものとして変更された。これにより、韓国語翻訳文が最初の明細書とみなされていた従来の翻訳文主義から原文主義に修正され、韓国も国際的趨勢に従うようになった。
注記
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韓国の特許法上、「明細書」は「請求の範囲」を含む。
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