知財判例データベース 宿泊サービスを提供するプラットフォーム営業方法の発明に対して産業上の利用可能性は認められたが、出願前に自ら発表した広告記事等により進歩性が否定された事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人)
事件番号
2020ホ2314登録無効(特)
言い渡し日
2021年06月17日
事件の経過
請求棄却、審決確定

概要

宿泊業者と利用者とを仲介するプラットフォーム営業方法の特許発明に対して競合他社が無効審判を請求し、産業上の利用可能性の欠如、進歩性の欠如などによる特許無効を主張した事案において、当該特許発明は、ソフトウェアによる一連の情報処理過程がハードウェアと結合して具体的に実現されている場合に該当するため、産業上の利用可能性はあるが、特許権者が出願前に発表した広報用広告記事の内容などにより公知となった技術から容易に発明することができるため、進歩性が否定されると判断された。

事実関係

原告の特許発明は、宿泊サービス提供方法およびシステムに関する発明である。対象特許の明細書の記載によると(下図参照)、「宿泊業者」は慢性的な空室を「宿泊サービス」システムに賃貸し、「宿泊サービス」システムは賃貸した客室を「マイルーム」として特化して広報し(注1)、「利用者」が「マイルーム」に宿泊すると、その収益は「宿泊サービス」システム業者が取得するとともに「利用者」に割引クーポンを付与し、「利用者」が当該宿泊業者の一般ルームに宿泊する際に割引クーポンを利用することができるようにするとともに「宿泊サービス」システムは一般ルームの本来の宿泊料金を精算して「宿泊業者」に支払う方式の営業方法を開発したものである。これによると、「宿泊業者」は広報効果が得られ、「宿泊サービス」システム業者は賃貸料なしに「マイルーム」を通じて収益を収めることができ、「利用者」は割引された価格で一般ルームを利用することができるので、三者いずれも利益になるというものである。

利用者がマイルーム宿泊料を出してマイルーム宿泊契約をすると一般ルーム50%クーポンをもらうことができる。利用者が一般ルーム50%クーポンを出して一般ルーム宿泊契約をすると一般ルーム宿泊料の100%は宿泊業者に渡される。

対象特許の代表的な請求項13は次の通りである(注2)


【請求項13】宿泊業者端末および利用者端末とネットワークで連結されたサービスサーバで行われる宿泊サービス提供方法であって(「構成要素1」)、
前記宿泊業者端末から賃貸希望客室に関する情報を受信する段階(「構成要素2」)、
前記賃貸希望客室のうち1つ以上の特定の客室を顧客に宿泊サービスを提供するためのマイルーム(MY ROOM)として選定する段階(「構成要素3」)、
前記利用者端末からのルーム情報表示要請に応答し、宿泊業者目録、マイルーム目録および一般ルーム目録を提供する段階(「構成要素4」)、
前記マイルームの宿泊契約を締結し、顧客に請求するマイルーム宿泊料を算定し、前記宿泊契約を締結した顧客が後日一般ルーム宿泊時に使用可能な割引クーポンを発行する段階(「構成要素5」)、
前記宿泊契約を締結した顧客が後日一般ルームの宿泊契約を締結する場合、前記顧客に請求する一般ルーム宿泊料を前記割引クーポンを適用して算定する段階(「構成要素6」)、
前記一般ルームの宿泊契約に対する予め設定された宿泊料を宿泊業者に支払うことを決定する段階(「構成要素7」)、を含む宿泊サービス提供方法


被告は、対象特許において特定の客室をマイルームとして選定する段階は人の行為を意味するので産業上の利用可能性がなく(すなわち、発明の適格性がなく)、原告が出願前に発表した広報用広告記事の内容などにより公知となった技術から容易に発明することができるので進歩性がないと主張した。

これに対して、原告は、産業上の利用可能性があると反論するとともに、対象特許において宿泊サービスの提供者は宿泊業者にマイルームに対する賃貸料を支払わずに、三者(宿泊業者、宿泊サービス提供者、利用者)のいずれも利益を得る営業方法を提供するものとして、無償の賃貸は容易に想到できないので、構成の困難性があると主張した。

判決内容

(1)産業上利用可能な発明か否か

本件請求項1の特許発明は、サービスサーバが「宿泊業者の客室のうち一部の客室を賃借し、賃借した客室をマイルーム(MY ROOM)として選定する」と明示的に記載しており、上記機能が人の行為ではなくサービスサーバの機能であることが分かり、「賃借」および「マイルームとして選定する機能/段階」はサービスサーバと宿泊業者端末で遂行可能なものとしてコンピュータのソフトウェアなどを通じて構成することができるものであり、本件特許発明出願当時の技術水準などに照らし、そのように構成するのに技術的困難性があるとは認め難いので、サービスサーバと宿泊業者端末により具現されると考えるのが相当である。
したがって、本件請求項1および13の特許発明の「賃借」、「マイルーム選定」に関する機能/段階は、ソフトウェアによる一連の情報処理過程がサービスサーバと宿泊業者端末というハードウェアと結合して具体的に実現されている場合といえるので、人の行為として産業上利用可能な発明ではないという被告の主張は受け入れられない。

(2)本件特許発明の進歩性が認められるか否か

先行発明1は、原告が本件特許発明の出願日前にマイルームサービスに関して公開した内容が掲載された記事である。
原告は、本件特許発明において、サービス提供者は宿泊業者にマイルームに対する賃貸料を支払わないので、先行発明1とはマイルームに対する賃貸料支払いの有無について差があると主張しているが、先に挙げた証拠および弁論全体の趣旨によって把握される次のような事情などを総合してみれば、本件特許発明の請求の範囲に記載された「マイルーム(MY ROOM)」がサービス提供者が宿泊業者から賃貸料を支払わないで賃借した客室のみを意味すると見ることは難しいので、この部分につき原告の主張は理由がない。

  1. 本件特許発明の独立請求項である請求項1、13において「マイルーム(MY ROOM)」について記載した部分を見ると、「宿泊業者から賃借した客室を利用して顧客に宿泊サービスを提供するシステムとして、宿泊業者の客室のうち一部の客室を賃借し、賃借した客室をマイルーム(MY ROOM)として選定して顧客に宿泊サービスを提供」し(請求項1)、「宿泊サービス提供方法において」、「前記賃貸希望客室中の1つ以上の特定の客室を顧客に宿泊サービスを提供するためのマイルーム(MY ROOM)として選定」する(本件請求項13の特許発明)とされている。
    上記のような請求の範囲の記載によると、マイルームは「顧客に宿泊サービスを提供するためにサービスサーバまたは宿泊サービス提供システムが宿泊業者の賃貸希望客室のうちから選定して賃借した客室」を意味する。一方、本件特許発明の明細書では「賃貸」の意味について別途に定義しておらず、本件請求項1、13の特許発明の請求項にもマイルームの賃貸料については何ら記載をしていないので、上記請求の範囲でいう賃貸の意味に関しても文言の一般的な意味内容に基づいて発明の説明や図面等を参酌して客観的・合理的にこれを解釈すべきである。ところが、一般に賃貸とは、当事者一方が相手方に目的物を使用受益させることを約定し、相手方がこれに対して借賃を支払うこと(民法第618条参照)をいうので、原則的に借賃が支給される有償の賃貸借契約を言うといえるが、日常生活では無償の借賃という用語が通用するなど、民法上の使用貸借(民法第609条参照)まで含む意味に解釈される余地もある。したがって、本件特許発明の賃貸の意味を解釈するにおいても特別な事情がない限り、有償の賃貸借契約は、その文言の意味上当然含まれると見るのが相当である。
  2. 原告は、本件特許発明の明細書にマイルームを「賃貸」すると記載したとしても、本件特許発明の明細書全体の記載を詳察すると、マイルームはサービス提供者が宿泊業者から賃貸料を支払わないで賃借する客室という意味で一貫して統一して用いられているので、そのような意味に制限解釈されるべきであると主張する。本件特許発明の明細書に原告の主張のようにサービス提供者がマイルームに対する賃貸料を支払わないという記載がある事実は認められる(段落番号[0007]、[0038]など参照)。しかし、上記記載に下記のような本件特許発明の明細書の記載を加えてみれば、原告がマイルームを賃貸料が支給されない無償の使用貸借を意味することと一貫して統一して用いたとは認めにくい。むしろ、本件特許発明は、その明細書で「マイルームを一定の手数料を支払って宿泊業者から借りた客室」と明示的に記載しているだけでなく、具体的な実施例として「サービス提供者がマイルームに関する別途の賃借料を支払わないものと決定することができる。」として賃借料を支払うことを原則的な実施例として想定している。したがって、本件特許発明の保護範囲をマイルームに関して賃借料を支払わないことと限定すべきであるという原告の主張は理由がない。

専門家からのアドバイス

本件は、宿泊サービスのプラットフォーム営業として知名度の高い競合企業同士が繰り広げた特許訴訟であったことから、韓国において関心を集めた事件であった。本件の争点のうち特許実務の観点から注目すべき部分は、①営業方法の発明の産業上の利用可能性(発明の適格性)について判断した部分と、②広報用広告記事の内容が先行発明として認められて進歩性を否定した部分であるといえる。 本件において法院は、①の部分について、対象特許の請求項の記載と共に明細書の記載を総合的に詳察した上で、「ソフトウェアによる一連の情報処理過程がハードウェアと結合して具体的に実現されている場合」に該当するかにより産業上の利用可能性を判断した。この点は、営業方法などのビジネスモデルに関する特許を出願しようとする場合に参考にする価値があるといえよう。 一方、本件では②の部分について、原告は、宿泊業者からマイルームを賃借するとき無償の賃借をするという点を公知となった先行発明(広告記事)との差異点として主張したが、対象特許の請求項にはそのような限定がないだけでなく、明細書にも有償と無償が混在していたため、先行発明との差異点としては認められなかった。このため、本件の進歩性主張において請求の範囲の作成が重要であったであろうことは言うまでもないが、それ以上に、出願前において学術論文や広報記事などにより自己の発明内容が公開されることは避けるべきであった点を如実に示した事案だったと言えよう。 出願人にとって、仮にビジネスの上で発明内容の発表や広報が必要であったとしても、それによって特許の取得の妨害にならないように注意したい。一方で、自己の発明内容がやむを得ず出願前に公開された場合には、出願手続で新規性喪失の例外規定(韓国特許法第30条)の適用を主張することも検討したい(特許権の設定登録がなされた後では、新規性喪失の例外を主張できないことにも留意する必要がある)。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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