知財判例データベース 英語からなる本件登録商標は日本語カタカナからなる先登録商標と類似しその登録が無効にされるべきであると判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 日本企業B社
事件番号
2020ホ5979
言い渡し日
2021年05月11日
事件の経過
確定(2021年5月27日)

概要

本件登録商標と先登録商標は外観は類似するとはいえないものの、称呼と観念が互いに類似し、ここに両商品の指定商品をめぐる具体的な取引実情を考え合わせると、同一・類似の指定商品に共に使われる場合、需要者や取引者に商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがある類似の標章に該当する。

事実関係

被告は「Air Fitの英語商標」(出願番号第40-2017-39069)という商標を出願したが、本件登録商標と標章および指定商品が同一・類似であるという理由で意見提出通知書が送達された。
これに対し被告は、本件登録商標は先登録商標と標章および指定商品が同一・類似で商標法第34条第1項第7号に該当し、その出願当時に国内外で特定人の商品出所表示として認識されていた先登録商標を不正の目的で模倣して出願した商標であるので商標法第34条第1項第13号に該当するという理由で登録無効審判を請求した。
これについて特許審判院は、本件登録商標は商標法第34条第1項第7号に該当してその登録が無効にされるべきであると審決した。本件登録商標と先登録商標は下表のとおりである。

判決内容

1.関連法理

商標の類似判断において、外国語からなる商標の称呼は韓国の取引者や需要者の大部分がその外国語を見て特別な困難なく自然にする発音に基づいて定められるのが原則で、韓国の取引者や需要者がその外国語商標を特定の韓国語で表記しているなどの具体的な使用実態が認められる場合には、そのような具体的な使用実態を考慮して外国語商標の称呼を定めなければならない。
商標の構成部分が要部であるか否かは、その部分が周知・著名であり、または一般需要者に強い印象を与える部分であるか、全体商標において高い比重を占める部分であるかなどの要素を判断し、その上で、他の構成の部分と比較した相対的な識別力水準やそれとの結合状態およびその程度、指定商品との関係、取引実情などまでを総合的に考慮して判断しなければならない。

2.具体的検討

  1. 標章の類否
    1. 外観
      本件登録商標は、上段に小さな文字で英文「Ultra」と「slim」が横書きに配置されており、下段に英文「Air」と「Fit」がハイフン(-)で連結されて2段で結合された標章である反面、先登録商標は赤色で彩色された日本語を中心として、9個の星図形を含む赤色および青色の輪郭線の翼形状が結びついた標章で、両商標は構成文字が英文・日本語で相違し、図形の有無、書体の違いなどによって外観は互いに類似しない。
    2. 称呼および観念
      1. 本件登録商標の「Air-fit」部分は比較的大きく表示されており、よく目立つ文字で図案化されている反面、「Ultra slim」部分は上段に比較的小さな文字で表示されているだけでなく、辞書的には「非常に薄い」の意味であるため、指定商品である「おむつ」と関連して品質・効能などを表す性質表示に該当する。したがって本件登録商標の要部は「Air-fit」部分で、韓国の自然な英語発音傾向により「エアフィット」と呼称されるものと認められる。
      2. 弁論全体の趣旨により認められる以下のような事情を考慮すれば、先登録商標は韓国の需要者および取引者等にその文字部分によって「エアフィット」と呼称・観念されるものと認められる。
        • 先登録商標の文字部分は日本語のカタカナからなり、日本においてカタカナは外来語などを表示する文字である。情報検索機能の発達、韓国における日本語の普及水準、カタカナが外来語を表示する文字である点、インターネットショッピングモールや被告ホームページの英文サイトでも「エアフィット」と音訳されて取引されており、需要者がインターネットショッピングモールで「エアフィット おむつ」で検索すると先登録商標が表示された製品が検索される点などを考慮するとき、韓国の需要者および取引者等は当該文字を英単語「Air」の日本語音訳である「エア」と英単語「fit」の日本語音訳である「フィット」との結合と認識するものとみられる。
        • さらに、先登録商標と本件登録商標の指定商品である「おむつ」等の需要者は、商標および商品情報に対する認識力が高く、オンラインを通した購入方式に親しみがあり当該製品の品質・性能にも比較的敏感であるはずとみられるため、先登録商標を「エアフィット」と認識するのに困難は少ないと判断される。
        • 原告は、先登録商標は「ムーニーマン・Moonyの商標」標章と結合して必ず「ムーニーマン・Moony・エアフィットの商標」のように使用される以上(注1) 、消費者も先登録商標を全体的に観察して「ムーニーマン (注2) エアフィット」と認識するだけであるので、両商標は誤認・混同の余地が存在しない旨も主張する。しかし、上述のとおり先登録商標が「エアフィット」と認識され、インターネットショッピングモール、被告ホームページの英文サイトでも「エアフィット」と音訳されて取引され、需要者がインターネットショッピングモールで「エアフィット おむつ」で検索すると先登録商標が表示された製品が検索される点などを考慮すれば、原告が提出した証拠だけでは先登録商標が全体的に「ムーニーマンエアフィット」と結合された形でのみ認識されるとは認めがたい。
      3. このように本件登録商標の要部である「Air-fit」部分および先登録商標はどちらも「エアフィット」と呼称されその称呼が同一である。そして本件登録商標の要部または先登録商標はどちらも英文「air」と「fit」とを合成した造語である「Air-fit」または「Airfit」で構成され、その観念が同一・類似であるといわなければならない。
    3. 対比結果
      本件登録商標と先登録商標は外観は類似するとはいえないものの、称呼と観念が互いに類似し、ここに両商品の指定商品をめぐる具体的な取引実情を考え合わせると、同一・類似の指定商品に共に使われる場合、需要者や取引者に商品の出所に関して誤認・混同を生じさせるおそれがある類似の標章に該当する。
  2. 指定商品の類否
    本件登録商標の指定商品は「おむつ」または「おむつ用部材」等であって、先登録商標の指定商品である乳児用紙製おむつ等とその品質と用途、生産および販売部門、取引者および需要者の範囲などが一致して同一・類似の商品に該当する。

3.結論

本件登録商標は先登録商標とその標章が類似し、指定商品も類似するため、商標法第34条第1項第7号に該当する。

専門家からのアドバイス

商標登録を試みるにあたって、その文字をカタカナ(ひらがなも同様)または英語のどちらで表記するかを選択する場面では、その商標により保護され得る類似の範囲や、カタカナと英語のうちどちらをより多く使用するのかなどについての検討を経てから、表記の選択をすることになると考えられる。特に日本国内ではなく外国で商標登録を行うに際しては、この選択にはより多くの検討が必要になろう。

本事件において、被告(先登録商標権者)は、英文字からなる商標登録出願をしようとしたところ、同じく英文字からなる本件登録商標の存在が問題となった事案である。この本件登録商標は、称呼と観念が同じカタカナのみからなる先登録商標の存在があったにもかかわらず登録されたものであった。この本件登録商標の審査過程では、審査官が先登録商標を検索できなかった可能性や、あるいは検索はできたものの本件登録商標とは全体的に非類似と判断して登録を認めた可能性があったものと考えられるが、両者が互いに異なる言語であったという点を考慮すると、今後もこうした登録事例が発生する可能性は排除できない。

本事件は、上述したとおり、被告(先登録商標権者)は本件登録商標を無効にするために、特許法院の訴訟段階まで進むこととなった。結果的に本件登録商標を無効にできたものの、仮にカタカナと英語の両方について初めから商標登録していた場合に必要となった費用よりも、より多くの費用と時間を投じて英語の商標についての登録を受けたことになったと言える。このような本事件における被告の商標登録の経緯とその内容は、海外で商標出願をする場合における該当商標の言語構成と関連して実務的に参考にできる事例といえる。加えて、本判決には、特許法院が韓国の一般需要者や取引者等における日本語の認識方法や水準について説示した内容も含まれており、これも参考にできよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195