知財判例データベース 特許共有契約における法律行為の解釈に基づき、共同出願の違反に該当せず、秘密維持義務の存在により新規性も喪失しないとされた事案

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社等
事件番号
2020ホ1847登録無効(特)
言い渡し日
2021年01月07日
事件の経過
確定

概要

原告と被告は特許共有契約を締結したが、その後、被告が原告を相手取って債務不履行などを理由に契約の解約に関する民事訴訟を提起した。民事訴訟の進行中に原告が出願して登録された特許に対して、被告は共同出願の違反および新規性喪失などを理由として無効審判を請求し、特許審判院は共同出願の違反の無効事由を認めて無効審決した。この審決取消訴訟において特許法院は、(1)特許共有契約には特許共有の意味を共同出願による共有に制限して解釈できるような規定が存在しないなどの理由で共同出願の違反の無効事由がなく、(2)被告らには秘密維持義務が存在するので新規性喪失の無効事由もないと判決した。

事実関係

原告は、医療機器部品製造業を営む会社であり、発明の名称が「注射器用フィルタ製造金型」である発明について2018年10月12日付で出願し、2019年3月7日付で登録を受けた。被告は、医療機器卸小売業を営む会社であり、2019年5月3日に特許審判院に、当該特許発明が特許法第44条の共同出願規定に違背し、出願日前に第三者により公知または公然実施とされた先行発明と同一であるため新規性が否定され、進歩性も否定されるという趣旨により無効審判を請求した。

ここで、原告と被告間の特許共有契約は、原告と訴外Iが2014年7月21日付で締結した契約を被告が2016年8月20日付で承継したものであって、その主要内容は次のとおりである。

Iと原告代表B、M、Jは、原告が登録した、または登録予定である形式的、実質的特許に対して共有するものとし、これを根拠として特許および特許品に関連した一切の権利を共同で行使するために次のとおり契約を締結する。

第1条(目的)
本契約は、原告のフィルタ注射器、安全注射器およびそれぞれの一体型タイプ、交換型タイプなど、注射器関連の登録された特許と特許品、登録予定の特許と特許品(第3条)についてIと原告が共同所有することを原則とし、原告がIに特許共同所有権と特許品販売権を付与する条件としてIは原告に特許品の生産に要される費用を支払う。また、これと連係した特許品の製造、供給、販売に関する全般的な権利、義務事項の規律を目的とする。

第3条(特許および特許品)
本契約書上、特許とは、第1条に関連して出願された全ての金型の特許および製品の特許とし、同時に下記の各号の出願番号に該当する特許を含む。
1)~4)出願番号など記載省略
5)上記1)、2)、3)、4)以外のフィルタ注射器、安全注射器およびそれぞれの一体型タイプ、交換型タイプに対する現在および未来に対する一切の特許。

第4条(特許共有)
1.フィルタ注射器、安全注射器を含む、一体型タイプ、交換型タイプなどに関連した一切の金型特許を共有する。

(中略)

第12条(知的財産権)
1.本契約に関連した特許品に対して特許権など諸般の知的財産権の一切は、別途の合意がない限り、Iと原告が共同で保有することを原則とする。
2.Iと原告は、特許品に関する資料、技術情報などの情報を本契約による使用以外に一切外部に流出してはならない。ただし、双方が合意する場合には、例外とする。

被告は、2017年11月29日に原告を相手取って、特許共有義務の不履行、注射器に発生した瑕疵、約定と異なる用途の資金執行などの債務不履行があることを理由として特許共有契約を解約し、契約代金の返還および損害賠償を求める本訴を提起した。この民事事件第1審において法院は、2020年7月23日、被告の本訴請求について原告の債務不履行があったことを認めた上で、契約解約の旨が記載された訴状の副本が送達されて1カ月が過ぎた頃に契約が解約されたことを理由として本訴を一部認容する判決をし、当該判決の控訴審が係属中である。

一方、原告の代理人は、金型特許である特許発明が登録された後、2019年11月29日、被告に特許共有契約に従って特許発明を共有するために委任状と譲渡証の捺印を要請する旨の内容証明郵便を送り、被告に到達した。

新規性喪失の無効事由において、先行発明は、(1)被告の社員Eが2015年12月頃、F(G)にE-Mailを通じて伝達した図面と、(2)被告の依頼によりF(G)が2016年6月15日に上記図面に従って製作し、株式会社Hが2017年1月10日頃から保管していた金型について、特許発明と技術的構成において同一であるという点は当事者間で争いがない。

特許審判院は、2019年12月20日、特許発明は特許を受ける権利が共有であるにもかかわらず、共有者全員が特許出願しないまま登録されたものであるため、特許法第44条の共同出願の規定に違反した無効事由があるという理由で審判請求を認容した。

上記審決について原告は審決取消訴訟を提起し、以下のとおり主張した。

  1. 原告と被告間の特許共有契約第4条は「金型特許を共有する。」と規定しているが、これは必ず共同で出願しなければならないことを意味するものでなく、後に持分を移転して共有するようになる場合も含まれ、原告は単独で特許発明を出願した後、被告に共有の意思を伝達した。従って、特許発明には特許法第44条で定めた違法事由がない。
  2. 特許共有契約第12条第2号には秘密維持義務が規定されているが、秘密維持義務は内容および趣旨に照らしてみると契約解約後も負担しなければならず、被告と相互取引関係にある者にも適用されると見なければならない。したがって、先行発明は、本件特許発明の出願前に公知または公然実施とされたとはいえない。

これに関する被告の主張は、以下のとおりであった。

判決内容

特許法院は、(1)特許発明が特許法第44条の共同出願規定に違反して登録されたといえず、(2)新規性も喪失していないと判断した。
  1. 特許法第44条の違反事由がないという特許法院の判示内容
    特許法院は、関連法理として下記を提示した。
    『特許を受ける権利が共有の場合には、共有者全員が共同で特許出願をしなければならず(特許法第44条)、このような共同出願規定に違反して共有者のうち1人が単独出願をして登録を受けることは、特許法第133条第1項第2号の登録無効事由に該当する。
    一方、特許を受ける権利は、発明の完成と同時に発明者に原始的に帰属するが、これは財産権として譲渡性を有するので、契約または相続などを通じて全部または一部の持分を移転することができ(特許法第37条第1項)、その権利を移転するようにする契約は明示的にはもちろん黙示的にもなされ得、そのような契約によって特許登録を共同出願した場合には、出願人が発明者ではなくても登録された特許権の共有持分を有する(大法院2012年12月27日付言渡2011ダ67705、67712判決など参照)。
    法律行為の解釈は、当事者が表示行為に付与した客観的な意味を明確に確定するものであって、契約文書に示された当事者の意思の解釈が問題になる場合には、文言の内容、約定がなされた動機と経緯、約定により達成しようとする目的、当事者の真正な意思などを総合的に考察して論理および経験則によって合理的に解釈しなければならない(大法院2017年6月22日付言渡2014ダ225809全員合議体判決などを参照)』
    上記のような判断法理に従って、特許法院は原告に特許発明を被告と共同で出願すべき義務があると認めるのは難しいと判断したところ、その判断の根拠は、以下のとおりである。
    1. 特許共有契約第1条(目的)によると、原告と被告間の特許共有の対象は原則的に特許共有契約第3条に記載されているものを意味する。ところで、特許共有契約第3条には、金型特許に関連して「出願された」全ての金型の特許に限定しており、第3条5項の現在および未来の一切の特許には金型特許が明示されていない。特許発明の金型特許は特許共有契約の締結日から4年後に出願されたものである。
    2. 特許共有契約には特許共有の意味を共同出願による共有に制限して解釈できるような規定が存在しない。
    3. 特許共有契約第4条には「一切の金型特許を共有する。」と記載されてはいるが、特許を共有する方式には共同出願による登録以外にも特許登録後の持分譲渡など権利の一部移転による共有方式も含まれるものであり、実際に原告が本件特許発明を出願、登録した後、これを共有するために被告に委任状と譲渡証の捺印を要請する内容証明郵便を発送した点に照らしてみれば、原告が特許法第44条の共同出願義務に違反して特許発明を出願したと断定するのは難しい。
  2. 新規性が否定されないという特許法院の判示内容
    特許法院は、以下を理由に特許発明が先行発明により新規性が否定されないと判断した。
    1. 特許共有契約第12条第2項によると、原告と被告間には秘密維持義務が存在する。被告から本件金型の製作の依頼を受けて製作を担当したFと、Fから本件金型の保管の依頼を受けた株式会社Hも被告に対する関係で商慣習上の秘密維持義務を負う。
    2. 結局、被告、F、Hはいずれも特許共有契約または商慣習上の秘密維持義務を負う主体に該当するので、被告の社員であるEが所持していた図面をFにE-Mailを通じて伝達したとか、Fが上記のように図面の伝達を受けて金型の製作を完了し、Hに金型の保管を任せたという事実だけでは先行発明が特許発明の出願前に不特定多数の者が認識できる状態に置かれたと認めるのは難しい。
    3. 被告は特許共有契約が原告の債務不履行によって解約されることにより被告およびF、Hはいかなる秘密維持義務も負担しなくなったと主張しているが、秘密維持義務が訴状の副本送達によりその当時直ちに消滅したと断定するのは難しいだけでなく、仮に上記のような秘密維持義務が上記訴状副本送達により消滅したと認めるとしても、これは原告の自発的な意思に反してなされた場合に該当するものであるため、それから12カ月以内である2018年10月12日に原告が本件特許発明を出願した以上、特許法第30条第1項第2号によって新規性喪失の例外事由に該当する。

専門家からのアドバイス

本事件は、原告と被告の特許共有契約の締結と解約の間で、原告が単独で出願をし登録を受けた特許について、共同出願違反と新規性喪失について争われた。この2つの争点のうち、審決では共同出願の違反を認めたが、この判断を特許法院が覆した事案となった。

これに関連し、特許法院が判示した法律行為の解釈に関する法理は、大法院の判決を通じて既に確立されたもので新たなものではない。かかる法理に則り、特許法院は、本件特許共有契約の文言などについて具体的に解釈した上で、対象発明について特許共有の約定があったとしても共同出願の義務まで認められるものではない旨を判示している。

実務的に技術共同開発の契約や特許共有契約書の作成をする場面においては、当事者として共同出願義務まで明確に付与したい場合があり得る。そうしたとき、本判決は、契約上、関連する内容を慎重かつ明確に作成する必要性があることを示している。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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