知財判例データベース プロダクトバイプロセスクレームの権利範囲を製造方法の記載により特定される構造と性質を有する物と解釈し、他の方法で製造される物に対して特許侵害を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 上告人(特許権者) vs 被告 被上告人(侵害被疑者)
事件番号
2020フ11059権利範囲確認(特)
言い渡し日
2021年01月28日
事件の経過
上告棄却(確定)

概要

物の発明の出願審査過程で出願人が特許請求の範囲に製造方法の記載を追加する補正をして特許が登録された後、製造方法の記載を除いた他の構成は同一であるが、製造方法が異なる物に権利範囲が及ぶかが争点になった事案において、法院は特許発明に対して侵害の疑いがある物は、製造方法の記載により特定される物としての構造および性質に差があるとして文言侵害および均等侵害をいずれも否定した。

事実関係

本件の対象特許は原告の「ポラプレジンクを含有する安定した錠剤剤形」に関するもので、請求項1は「有効成分として、粒度累積分布で最大粒度に対して90%に該当する粒度(d90)が500μm以下であるポラプレジンクを含むことを特徴とする、直打法で製造された錠剤(tablet)」である。原告は対象特許の出願の審査過程で特許庁から進歩性欠如の拒絶理由の通知を受けた後、請求項1に「直打法で製造された」という製造方法の記載を追加した経緯がある。

被告は、「湿式法で製造されたポラプレジンク含有錠剤」に関する確認対象発明が対象特許の権利範囲に属さない旨の確認を求める消極的権利範囲確認審判を請求した。被告は、「確認対象発明は本件特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであって、確認対象発明は先行技術と周知慣用技術の組合せから容易に実施できる自由実施技術に該当し、直打法により製造された錠剤と湿式法により製造された錠剤は内部構成、物性に差があるため、確認対象発明は本件特許発明の権利範囲に属さない」と主張した。特許審判院は、「確認対象発明は本件第1項の発明の権利範囲に属さない」と判断し、被告の請求を認容する審決をした。これに対して原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。

原審判決(侵害否定)

(1) 本件第1項の発明の解釈

本件第1項の発明は、「有効成分として、粒度累積分布で最大粒度に対して90%に該当する粒度(d90)が500μm以下であるポラプレジンクを含むことを特徴とする、直打法で製造された錠剤(tablet)」である。このように本件第1項の発明は、特許請求の範囲が全体的に「錠剤」という物として記載されていながら、その製造方法である「直打法」に関する記載を含んでいるので、「製造方法が記載された物の発明」に該当する。

ところが、錠剤を製造するにおいて、製造方法により流動性、圧縮性、錠剤の硬度などが異なることがあって(乙第11号証、第113頁~114頁参照)、これにより錠剤の安定性および溶出率などに差があることがあり、本件特許発明の明細書における「本発明によるポラプレジンク錠剤を構成する成分を直打して錠剤を製造する場合、混合不均一や流動性不良のような問題が発生せず、約10,000錠(望ましくは50,000錠、さらに望ましくは100,000錠)の錠剤を製造する間にスティッキング(sticking)などの大量生産の問題が発生しない」(識別番号[0019])といった記載を考慮すると、本件第1項の発明は「有効成分として、粒度累積分布で最大粒度に対して90%に該当する粒度(d90)が500μm以下であるポラプレジンクを含み、直打法で製造されることによって特定される構造や性質などを有する錠剤」と解釈することが妥当である。

(2) 確認対象発明が本件第1項の発明の権利範囲に属するかどうか

本件第1項の発明は直打法で製造されることによって特定される構造や性質などを有する錠剤であるのに対し、確認対象発明は湿式法で製造されることによって特定される構造や性質などを有する錠剤であるという点で差がある(以下「差異」とする)。したがって、確認対象発明は文言的に本件第1項の発明の権利範囲に属さないので、以下では確認対象発明が本件第1項の発明と均等関係にあるか詳察する。

(3) 本件第1項の発明と確認対象発明が均等関係にあるかどうか

本件特許発明の発明の説明の記載と特許請求の範囲、出願経過、出願当時の公知技術に照らしてみると、本件特許発明の前に、公知となったポラプレジンク含有剤形である顆粒剤と口腔崩解剤の短所を克服するための過程で錠剤形態に製造しようとする試みがなされたところ、貯蔵安定性、大量生産性、溶出率、生体利用率などで問題が顕出して、本件特許発明はかかる問題を有効成分であるポラプレジンクの粒度累積分布(d90)を500μm以下に調節して直打法で錠剤を製造することによって克服しようとしたものであることが分かる。

このような点を総合してみれば、本件特許発明に特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心は、「有効成分であるポラプレジンクの粒度累積分布(d90)を500μm以下に調節して直打法で製造することによって錠剤の貯蔵安定性などを向上させる」ことにあると見るのが妥当である。

これに対し、確認対象発明は、活性成分であるポラプレジンクを「粒度累積分布で最大粒度に対して90%に該当する粒度(d90)500μm以下」に限定し、これを「湿式法によって製造することによって錠剤の貯蔵安定性などを向上させる」ことに技術思想の核心がある発明であって、直打法を前提として粒度調節を通じて錠剤の貯蔵安定性などを向上させようとする本件特許発明の技術思想の核心が含まれているといえない。したがって、本件第1項の発明と確認対象発明はそれぞれ特有の解決手段が基礎とする技術思想の核心が異なるので、課題解決原理が異なる(均等侵害も否定)。

これに対して、原告は上告を提起した。

判決内容

(1) 法理

特許法第2条第3号は、発明を「物の発明」、「方法の発明」、「物を生産する方法の発明」に区分しており、特許請求の範囲が全体的に物として記載されていながらその製造方法の記載を含んでいる発明(以下、「製造方法が記載された物の発明」という)である場合、方法が記載されているとしても発明の対象はその製造方法ではなく、最終的に得られる物自体なので上記のような発明の類型のうち「物の発明」に該当する。物の発明に関する特許請求の範囲は、発明の対象である物の構成を特定する方式で記載されなければならないので、物の発明の特許請求の範囲に記載された製造方法は最終生産物である物の構造や性質などを特定する1つの手段としてその意味を有するだけである。したがって、製造方法が記載された物の発明の権利範囲に属するかどうかを判断するにおいて、その技術的構成を製造方法自体に限定して把握するのでなく、製造方法の記載を含んで特許請求の範囲の全ての記載により特定される構造や性質などを有する物として把握し、確認対象発明と対比しなければならない(大法院2015年1月22日言渡2011フ927全員合議体判決など参照)。

(2) 判断

イ.原審は、本件第1項の発明と確認対象発明は粒子径を限定したポラプレジンクを有効成分として含んでいるという点では同一であるが、本件第1項の発明は直打法で製造されることによって特定される構造と性質を有する錠剤であるのに対し、確認対象発明は湿式法で製造されることによって特定される構造と性質などを有する錠剤なので、確認対象発明は文言的に本件第1項の発明の権利範囲に属さないという旨の判断をした。

原審の判決理由を先に述べた法理と記録に照らして詳察すると、原審の判断に製造方法が記載された物の発明の特許請求の範囲の解釈と権利範囲の属否に関する法理を誤解するとか、必要な審理を尽くさずに判決に影響を及ぼしたといった誤りはない。

ロ.原審は、その判示したような理由により、確認対象発明に本件特許発明特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心が含まれているとはいえず、本件第1項の発明の直打法と確認対象発明の湿式法は実質的な作用効果が同一であると認め難いので、確認対象発明は本件第1項の発明と均等関係にあるとはいえないと判断した。

原審の判決理由を関連法理と記録に照らして詳察すると、原審の判断に特許の均等関係における課題解決原理および作用効果の同一性に関する法理を誤解するとか、必要な審理を尽くさずに判決に影響を及ぼしたといった誤りはない。

専門家からのアドバイス

大法院が本件判決で説示した「請求の範囲に製造方法が記載された物の発明」(いわゆる、PBP請求項)についての権利範囲の判断の法理は、過去に大法院が2015年1月22日言渡2011フ927全員合議体判決で判示した法理にそのまま従ったものであって、従前の法理を変更するものではない。本件判決で説示されたのは、PBP請求項の権利範囲は、製造方法の記載を含む請求項の全ての記載により特定される構造と性質を有する物として解釈されるということであった。さらに、従前の上記全員合議体判決の判示によれば、新規性および進歩性などの特許要件を判断する場合にも同一の請求の範囲の解釈方法が適用される。

こうした法理に基づくと、PBP請求項において製造方法の記載が物自体の構造と性質に何らの影響も及ぼさない場合には、その製造方法の記載は権利範囲の広狭に影響を及ぼさないことになると同時に、新規性および進歩性の特許要件の判断にも何らの影響を及ぼさないことになる(すなわち、無意味な限定だと言える)。その一方で、PBP請求項において製造方法の記載が物自体の構造と性質に影響を及ぼす場合には、それとは異なる別の製造方法で製造される物には権利範囲が及ばないという点に留意すべきである。

こうした韓国におけるPBP請求項の権利範囲の解釈(発明の要旨認定も含む)の法理は、いわゆる「物同一説」として日本と共通するものと思われる。

その一方で、PBP請求項の特許要件としては、日本では「不可能・非実際的事情(注1) 」が認められることを記載の明確性要件として必要とする。しかし韓国では、物の発明に方法的記載があるとしても、その記載により物の構成が全体として明瞭であれば記載要件に違反するものではないというのが判例および審査基準の立場であり、日本に比べて記載要件は問題にならない場合が多い。

以上により、韓国でPBP請求項について権利化を図る上では、新規性・進歩性の判断や権利行使時の権利範囲の解釈において「物同一説」立場による上述の影響を及ぼすことから、韓国出願またはその審査過程で物の発明の請求項に製造方法の記載を追加する補正をしようとする場合などには、本判決が説示した法理を参考にすることが望ましいであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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