知財判例データベース 訂正請求があった無効審判の審決取消判決が確定した場合において、その確定した審決取消判決の拘束力の範囲について判示した大法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社
事件番号
2017フ1830登録無効(特)
言い渡し日
2021年01月14日
事件の経過
確定

概要

無効審判手続で訂正請求があり、特許審判院は訂正請求を認容しながら審判対象の請求項全体、即ち、請求項1、3~5が有効である旨の審決をした。その審決取消訴訟で特許法院は、審決のうち請求項1に係る部分は違法であると判断した一方、請求項3~5に係る部分は違法ではないとしながらも訂正請求は一体として取り扱われなければならないので、訂正請求を認容した審決を全て取り消す判決をした。その後、大法院が上告を棄却し、上記審決取消判決は確定した。

その後、再び行われた同事件の手続きにおいて確定した取消判決の拘束力が及ぶ範囲が問題となったところ、大法院は「拘束力は取消しの理由になった審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生するため、取消判決において請求項3~5の訂正発明に係る部分まで含めて審決を全て取り消しはしたが、取消しの基本となった理由は、請求項1の訂正発明に係る審決の違法性の部分といえ、従って、確定した取消判決の拘束力は請求項1の訂正発明に係る審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生する」と判決した。

事実関係

「金属板材の切開溝離隔装置」に係る被告の特許発明についての無効審判請求事件が本大法院判決にまで至った経緯は、次のとおりである。

(1) 原告は「請求項1及び3の特許発明の進歩性が否定される」との理由により無効審判を請求した後、続いて「請求項4及び5の特許発明の進歩性が否定される」との理由により無効審判を別途に請求した(請求項3~5は請求項1の従属項である)。被告は無効審判手続において請求項1の特許発明について訂正を請求し、特許審判院は両事件を併合審理とした後、訂正請求を認容しながら「請求項1、3~5の訂正発明は先行発明1~4により進歩性が否定されない」との理由で原告の審判請求を棄却した(以下「原審決」とする)。

(2) 原告は原審決を不服として審決取消訴訟を提起し、先行発明5を追加で提出した。特許法院は、請求項1の訂正発明は先行発明5により新規性が否定されるが、請求項3~5の訂正発明は先行発明4、5によって進歩性が否定されないと判断した。また、特許法院は「特許の無効可否は請求項別に判断するとしても、特許無効審判手続における訂正請求は特別な事情がない限り不可分の関係にあるため一体として許否を判断しなければならないとする大法院2009年1月15日言渡2007フ1053判決などに従って、本件訂正請求は請求項1を対象としたものではあるが、請求項3~5が従属項である以上、訂正請求が請求項1、3~5の全てに係るものであるため、請求項3~5の訂正発明の特許無効可否も別途に確定しないまま訂正請求に係る部分と共に取り消されるべきなので審決が全て取り消されるべきである」と判断した。

(3) 被告は上記審決取消判決を不服として上告を提起したが、上告審理不続行棄却により上記審決取消判決はそのまま確定した。

(4) 上記審決取消判決が確定することにより特許審判院は再度審理し、「取消判決が確定した後、両当事者から新たな主張及び証拠の提出がなかったので、取消判決の基本理由と同じく訂正請求を認容するところ、請求項1の訂正発明は先行発明5により新規性が否定されるが、請求項3の訂正発明は先行発明4、5により進歩性が否定されない」との審決をした。

(5) 原告は、請求項3の訂正発明は先行発明5、7又は先行発明6、7により進歩性が否定されるという理由により上記審決の不当性を主張し、審決取消訴訟を提起した。特許法院は、請求項3の訂正発明は各先行発明により進歩性が否定されないと判断しながら、「確定した取消判決の拘束力によって請求項3の訂正発明に対して進歩性が否定されないと判断した審決は適法である」と判示した。

(6) 原告は上記特許法院の判決を不服として、大法院に上告を提起した。

判決内容

大法院は、確定した取消判決の拘束力は請求項1に係る部分であるため、請求項3に対して拘束力により審決が適法であると判断した原審の理由説示に不適切な部分はあるものの、請求項3の進歩性が否定されないという原審の判断には請求の範囲の解釈及び進歩性の判断に関する法理を誤解するとか先行発明の内容に関する事実を誤認して必要な審理を尽くさなかったなどによって判決に影響を及ぼした誤りがないと判示し、上告を棄却した。

具体的には、大法院の確定した取消判決の拘束力が及ぶ範囲について、その判断法理として「審決を取り消す判決が確定した場合、その取消しの基本となった理由はその事件について特許審判院を拘束するもので、この場合の拘束力は取消しの理由になった審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生する(大法院2002年1月11日言渡99フ2860判決、大法院2002年12月26日言渡2001フ96判決など参照)」と判示した上で、上記法理に照らして、本件で確定した取消判決の拘束力が及ぶ範囲は請求項1の訂正発明に係るものであると判断した。即ち、大法院は「確定した取消判決は、訂正請求が請求項1の訂正発明だけでなく請求項3~5の訂正発明にも全て係っているとの理由により請求項3~5の訂正発明に係る部分まで含めて原審決を全て取り消しはしたものの、取消しの基本となった理由は請求項1の訂正発明に関する原審決の違法性部分といえる。従って、確定した取消判決の拘束力は請求項1の訂正発明に関する原審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生する」と判断した。

専門家からのアドバイス

特許等の審決取消訴訟において法院が審決を取り消す判決を言い渡した場合、その取消判決において取消しの基本となった理由は、その事件について特許審判院を拘束する(特許法第189条)。これは一般行政訴訟における取消判決の拘束力(行政訴訟法第30条)に対する特別規定であるとされている。通常、行政訴訟法上における拘束力は、取消判決などの実効性を図るために認められた効力であるため「判決の主文及びその前提になった要件事実の認定と効力の判断」に及び、判決の結論と直接関係がない部分には及ばないと解されている。 特許等の確定した審決取消判決の拘束力の範囲もこれに異ならないところ、大法院の一貫した見解は「拘束力は取消しの理由になった審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生」するものであり、取消しの基本となった理由以外の部分に拘束力が及ぶわけではない。

これに関連し、本件は特許無効審判手続で訂正請求があった場合において、その確定した審決取消判決の拘束力が争点の一つになった。特許無効審判手続で訂正請求があった場合には、その訂正の許否が無効審判手続の中で共に審理されるため、訂正審判請求の場合に訂正のみが独立して確定するのとは異なり、無効審判の審決が確定した時に訂正も共に確定する。こうした無効審判での訂正請求の性質上、その審決で訂正請求が認められた後に、法院で一部の請求項が無効であると判断されるようになれば、訂正請求については特別な事情がない限り不可分の関係にあるものとして一体として許否を判断しなければならないため、訂正を含めた審決全てが取り消されるようになる。

本件は、特許法院は拘束力の範囲について多少誤った判示をしたといえ、これに対し大法院は従来の大法院判決と同様に、審決が全て取り消された場合にも審決取消判決の拘束力が及ぶ範囲は審決の事実上及び法律上の判断が正当でないと判断された部分にのみであると判示を訂正したものであった。  その一方で大法院は、確定した審決取消判決の結論を覆せるような新たな証拠が提出された場合には、それを特段の事情として認めて拘束力が及ばないこともあり得ることを次のとおり判示しており、これについても併せて参考とされたい。

「審決を取り消す判決が確定した場合、その取消しの基本となった理由はその事件について特許審判院を拘束するものであり、この場合の拘束力は取消しの理由になった審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点において発生するものなので、取消し後の審理過程で新たな証拠が提出されて拘束的判断の基礎となった証拠関係に変動が生じる等の特段の事情がない限り、特許審判院は上記確定した取消判決において違法であると判断された理由と同一の理由により従前の審決と同一の結論の審決をすることができず(大法院2002年6月14日言渡2000フ3364判決など参照)、ここで新たな証拠というのは、少なくとも取り消された審決が行われた審判手続、ないしはその審決の取消訴訟で採択、調査されなかったものであって、審決取消判決の結論を覆すのに十分な証明力を有する証拠と見るべきである (大法院2002年12月26日言渡2001フ96判決)。」

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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