知財判例データベース 有名化粧品ブランド「SK-2」とともに使われた化粧品の成分名称「PITERA」に対して商標としての周知性を認め、これと類似のサービスマークの登録を無効にした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社(無効審判請求人) vs 被告 個人B
事件番号
2020ホ3843
言い渡し日
2020年11月13日
事件の経過
確定(2020年12月3日)

概要

特許法院は、本件登録サービスマークの登録決定日において、当時、先使用商標は韓国国内の一般需要者の間で原告を表示するものとして認識されており、かつ、本件登録サービスマークと先使用商標は標章が類似で、本件登録サービスマークの指定役務と先使用商標の使用商品とは経済的牽連性があると判断した上で、本件登録サービスマークは、出所の誤認・混同を生じさせ需要者を欺瞞するおそれがあるため旧商標法第7条第1項第11号(注1)に該当し、その出願当時に需要者間に特定人の商品を表示するものと認識されていた先使用商標と類似の商標であって不正の目的をもって使用される商標に該当することから旧商標法第7条第1項第12号(注2)にも該当するので、その登録は無効にされるべきであると判断した。

事実関係

本件登録サービスマークと先登録商標および先使用商標は、下表のとおりである。

先登録商標と先使用商標

原告は特許審判院に、本件登録サービスマークは旧商標法第7条第1項第7号、第11号、第12号にそれぞれ該当するという理由で商標登録無効審判を請求した。

特許審判院は、本件登録サービスマークは先登録商標と類似し、その指定役務のうち「皮膚科業など」 は先登録商標の指定商品と類似するため旧商標法第7条第1項第7号に該当してその登録が無効にされるべきであるが、先使用商標が国内または国外の一般需要者や取引者に特定人の商品を表示する商標であると認識されているとは認め難く、かつ本件登録サービスマークの残りの指定商品 は先登録商標の指定商品と経済的牽連性があるとも認められないため、旧商標法第7条第1項第11号、第12号に該当しないと判断した。

これに対し原告は、上記の特許審判院の審決のうち商標登録無効が認められなかった部分(旧商標法第7条第1項第11号、第12号部分)に対する審決取消訴訟を特許法院に提起した。

判決内容

1.関連法理

登録商標が旧商標法第7条第1項第11号で規定している需要者を欺瞞するおそれがある商標に該当するためには、対比される先使用商標や使用商品が国内の需要者や取引者にその商標や商品といえばただちに特定人の商標や商品であると認識されることができる程度に知られていればよく、その先使用商標と同一・類似の商標がその使用商品と同一・類似の商品に使用されているか、またはある商標が先使用商標と同一・類似で、先使用商標の具体的な使用実態や両商標が使用される商品間の経済的な牽連の程度、その他一般的な取引実情などに照らし、その商標が先使用商標の使用商品と同一・類似の商品に使用された場合に劣らぬ程度に先使用商標の権利者によって使用されていると誤認されるほどの特別な事情があれば、需要者をして出所の誤認・混同を生じさせ需要者を欺瞞するおそれがあると言うべきである。

登録商標が旧商標法第7条第1項第12号に該当するためには、模倣対象商標が国内または外国の需要者に特定人の商標と認識されていなければならず、登録商標の出願人が模倣対象商標と同一または類似の商標を不正の目的をもって使用しなければならず、その判断は登録商標の出願当時を基準としなければならない。

2.本件登録サービスマークが旧商標法第7条第1項第11号に該当するか否か

イ.本件登録サービスマークの登録決定日において、当時、先使用商標は次の認定事実等から国内の一般需要者の間で原告を表示するものと認識されていたと認めることができる。

1)原告は、皮膚改善に効果があるとする酵母抽出液を発見してこれを「PITERA(ピテラ)」と命名し「SK-Ⅱ」「PITERA」という商標を使用して化粧品を売り出したC社を買収し、前記化粧品に関する商標権と営業をともに譲り受け、大韓民国を含む国際市場においてその事業を展開した。

2)原告の2005年から2014年までの9年間における、世界および国内市場での各売上額と国内売上の割合、ならびに世界および国内市場で支出した各広告費と国内広告費の割合は下表のとおりである。

売上額と広告費

3)原告は、SK-Ⅱ製品の発売初期から、製品を広報するにおいて「ピテラTM発酵成分はスキンケアに関する効能があり、これはSK-Ⅱ化粧品に含まれている」旨を含む広報をし、SK-Ⅱ製品ラインには47種の製品が属しているが、「ピテラ」が直接関連する製品はそのうち21種ほどであった。

4)原告のSK-Ⅱ製品は、本件登録サービスマークの登録決定日の以前までに国内の新聞、雑誌等のマスコミで「ピテラ」成分とともに言及され、ブローシャ、カタログ、雑誌広告、テレビ広告や、G Market、Auction、Interpark などの多様な広告媒体を通じて広く広告・広報されてきただけでなく、2001年から国内で良く知られた芸能人を商品モデルに抜てきし、世界的に知られた芸能人を起用して多様な広告・広報を行ってきた。

5)先使用商標は「SK-Ⅱ PITERA」、「SK-Ⅱ ピテラ」のようにほとんどの場合「SK-Ⅱ」とともに使用されまたは製品に表示されたが、「SK-Ⅱ」と、「PITERA」「ピテラ」は外観上明確に対比されるという点を考慮すれば、このような商標使用の事実も先使用商標の知られた程度を把握する資料として活用することができる。

ロ.本件登録サービスマークと先使用商標の標章の類否

1)本件登録サービスマークの構成のうち「レーザー」は、「光、光線」などの意味をもつ英単語「laser」のハングル音訳であると容易に直感されるため、その指定役務の性質表示に該当して識別力がないかまたは微弱であるといえる。反面、「ピテラ」は辞書に収録されていない造語で本質的な識別力があるため、独立して商品の出所表示機能を遂行する要部に該当するといえる。

2)本件登録サービスマークがその要部によって「ピテラ」と呼称される場合、その外観が先使用商標1と同一で、呼称が各先使用商標といずれも同一であるので、結局、各先使用商標とその標章が類似するというべきである。

ハ.本件指定役務と先使用商標の使用商品との経済的な牽連の程度

商品である化粧品と類似の役務に該当する皮膚科業などは、性質上、上位概念である医療業などに含まれる。医療業と化粧品はどちらも人の身体に直接作用してなんらかの改善効果をもたらすという点で用途が類似し、医療業などは自然人の誰もがその需要者に該当するため、化粧品などの一般需要者である美容に関心がある人々は医療業などの一般需要者にも該当し、一部の医院などでは美容目的の診療をし、またはその診療に付随して化粧品と類似の方法で人体に適用する軟膏等の医薬外品を製造・販売するとみられる点などを考慮すれば、本件登録サービスマークの残りの指定役務である医療業なども化粧品と経済的牽連性があるものと認められる。

ニ.小括

本件登録サービスマークは、先使用商標の需要者に出所の誤認・混同を生じさせ需要者を欺瞞するおそれがあるので、旧商標法第7条第1項第11号に該当する。

3.本件登録サービスマークが旧商標法第7条第1項第12号に該当するか否か

イ.先使用商標は、本件登録サービスマークの出願日を基準として国内の需要者に原告を表示するものと知られていたと認めることができ、本件登録サービスマークと先使用商標は互いに類似の商標に該当する。

ロ.被告は本件登録サービスマークの「ピテラ」がどのような経緯で創作されたかに関して何らの主張・証明も提出しておらず、先使用商標の知られた程度および本件登録サービスマークとの同一類似性の程度を考え合わせると、被告は先使用商標に存在する営業上の信用などにフリーライドして不当な利益を得、先使用商標の価値に損傷を与え、または原告の国内営業を妨害するなどの方法で原告に損害を及ぼそうとする不正の目的を有していたものと認めることができる。

ハ.小括

本件登録サービスマークは、その出願当時、国内で需要者間に特定人の商品を表示するものと認識されていた先使用商標と類似の商標として不正の目的をもって使用する商標に該当するため、旧商標法第7条第1項第12号に該当する。

専門家からのアドバイス

本件は、「PITERA(ピテラ)」という化粧品の成分名称が、無効対象とされた登録サービスマークや先登録・先使用商標の名称に含まれていた事例であった。 本件での特許法院の判決は、化粧品の容器や包装箱などに記載され、または広告等を通して表示もしくは使用されてきた成分名称の造語商標に対しても周知性を認めたという点が有意味であり、その周知性の判断については、その成分名称の商標が単独で使用されていないとしても、その成分名称と共に使用された商標に関連する商品の売上額、広告額、マスコミ報道内訳、テレビ広告や雑誌広告を含む多様な媒体での広報実績などを成分名称の商標に対する周知性判断資料として援用可能であることを認めた点、および、化粧品と医療業の経済的牽連関係を幅広く認めた点などにおいても注目されるものであると言える。

本件で示された判示事項は、化粧品だけでなく、薬剤や洗剤といった関連商品分野においても、成分名称の商標の権利化の検討に際し参考にできよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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