知財判例データベース 改正法の施行日前の原出願時に公知例外主張をしていなければ、その施行日以後の分割出願に対しても公知例外主張をすることはできない

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(出願人) vs 被告(特許庁長)
事件番号
2020ホ3072拒絶決定(特)
言い渡し日
2020年09月17日
事件の経過
請求棄却/上告審進行中

概要

出願時に公知例外(日本特許法第30条における「新規性喪失の例外」に相当)主張をしなかったとしても出願後に公知例外主張をすることができる機会を付与する改正特許法は、2015年7月29日以後に出願した特許出願から適用される。したがって、改正法施行日である2015年7月29日前に原出願をしたときに公知例外主張をしていなければ、その分割出願が改正法施行日(2015年7月29日)以後になされたとしても分割出願に対して公知例外主張をすることはできない。

事実関係

原告は、2014年8月に修士学位論文を通じて発明内容を公開した後に、2014年12月23日に発明の名称を「シーケンス制御回路の配線方法」とする原出願をしたが、原出願当時は特許法第30条第1項(日本特許法第30条第2項に該当)で定めた公知例外主張をしなかった。

特許庁審査官は、2016年8月22日に原出願発明は原告の修士学位論文に記載された先行発明により新規性及び進歩性が否定される旨の拒絶理由を通知した。

これに対し原告は、原出願から分割出願をしながら「分割出願の内容が記載された修士学位論文は原告が作成した論文であるため、公知ではない発明と認めるべきである」旨の公知例外主張をし、原出願は取り下げた。

特許庁審査官は分割出願について、「原出願時に公知例外主張をしていない場合には、分割出願時に公知例外主張は認められない」旨の公知例外主張無効処分通知をする一方、先行発明(上記原告の修士学位論文)により新規性及び進歩性が否定される旨の拒絶理由を通知し、その後、拒絶決定となった。 原告は、これを不服として特許審判院に審判請求をしたが棄却され、特許法院に本件審決取消訴訟を提起して次のような主張をした。

原告主張の要旨

特許法は、分割出願が適法に出願され、定められた期間内に公知例外主張をすれば、分割出願に対しても公知例外主張を認めるとの規定のみを置いているだけで、原出願で公知例外主張をしていない場合には分割出願に対しても公知例外主張が認められないとする何らの規定もない。改正特許法の立法趣旨に照らしてみると、出願後に公知例外主張をすることができる機会を付与する規定は、改正特許法の施行日(2015年7月29日)以後に分割出願されたものに対しても適用されるべきである。

判決内容

  • 特許法第52条第2項によると、分割出願がある場合、その分割出願は原出願の特許出願した時に出願したものとみなすが、その分割出願について特許法第30条第2項(公知例外主張は出願時にしなければならないとする規定、日本特許法第30条第3項に該当)を適用する場合には当該分割出願をした時に出願したものとみなす、とされている。分割出願は原出願とは別個のものであるため、原出願についてなされた手続上の効力が分割出願にも当然承継されるものではない。原出願で公知例外主張の手続をしたとても、分割出願がその効力を享受するためには、再度手続をしなければならない。ところで、分割出願に対して、公知例外主張をすべき時点を分割出願の一般的な効果に従って原出願日まで遡及して適用するようになれば、実際に分割出願する時に公知例外主張の手続をすることができなくなる問題が生じる。このような問題を解決するために、特許法第52条第2項は、実際の分割出願日から公知例外主張の手続をすることができるようにしたものである。即ち、特許法第52条第2項の立法趣旨は、原出願で公知例外主張をしたとしても分割出願時に公知例外主張をできない問題を解決するためのものと判断されるだけであり、原出願時に公知例外主張をせず、その効果が発生していない場合まで、これを回避するための手段として分割出願を利用させようとするものではない。
  • 出願時に公知例外主張をしなかったとしても出願後に公知例外主張をすることができる機会を付与する、改正特許法第30条第3項が新設されるよりも前の判例では、公知例外適用の主張は出願とは別個の手続であるため、特許出願書にその旨の記載がなければ、その主張がない通常の出願に該当し、したがって、その主張に関する手続自体が存在しないので出願後にそれに関する補正は許容されない点等に照らしてみれば、公知例外の規定に該当する旨が特許出願書に記載されないまま出願された場合には公知例外の規定の効果を受けることができないものなのであって、公知例外主張の手続を初めから履行しなかったにもかかわらず、その手続の補正によって公知例外の適用を受けることはできないといえる(大法院2011年6月9日言渡2010フ2353判決参照)と解釈している。このため、分割出願を通じて上記のような特許法の規定を迂回できるようにするならば、原出願時に公知例外主張をしなくても分割出願を通じて実質的に補正と同一の効果をもたらすようになるので、特許法第30条第2項の規定が形骸化することになり得る。
  • 一方、改正特許法の改正条項は、施行日(2015年7月29日)後に出願した特許出願から適用すると規定している。本件出願は2016年8月30日に分割出願し、その出願日は、特許法第52条第2項によって原出願の出願日である2014年12月23日に遡及する。結局、本件出願は改正特許法施行日前に出願されたものとみなすべきなので、改正特許法第30条第3項は適用されない。
  • 特許法で定めた公知例外の規定は、特許出願手続において、法令上必ず要求されるものではなく、出願人の利益のために原則に対する例外として存在する制度であって、既に新規性が喪失したものの法で定める手続的・実体的要件を全て備えている場合に限って公知となっていないとみなす制度なので、出願人としては、このような利益を享有するためには法で定める要件を満たさなければならない。ただし、改正特許法第30条第3項は、改正前の公知例外の規定の場合、出願人の単純な誤りで出願時に公知例外主張が欠落した場合に、これを補完できない問題があるので、明細書または図面を補正できる期間等までこれを補正する機会を与えるところ、これを遡及して適用する場合、法的安定性を阻害するおそれがあるので、その附則で施行日後に出願した特許出願から適用するようにしたものである。したがって、特許法第30条第3項の立法趣旨を考慮しても、上記特許法第30条第3項の施行日以降に分割出願された全ての発明に対して、原出願で公知例外主張をしたか否かを問わず、特許法第30条第1項の公知例外の規定を適用することができるという趣旨として解釈することはできない。
  • 結局、上記のような特許法の規定の趣旨と関連法理に照らしてみると、分割出願が適用を受けることができる公知例外の効果は、原出願時に当該手続を正当にした場合にのみ、分割出願でその手続を有効に再びすることで承継することができるということに過ぎず、原出願時に公知例外主張の手続が欠落していたのであれば、分割出願でそうした手続をしたとしても、公知例外の効果を主張することができないと判断するのが妥当である。

専門家からのアドバイス

公知例外の規定(韓国特許法第30条、日本特許法第30条)は、発明者等、特許を受けることができる権利を有する者が出願前に論文等を通じて発明内容を公開したとしても、1年以内に特許出願をすれば、特許要件の判断時に自ら公開した内容によって新規性及び進歩性が否定されないという新規性喪失の例外を定めた規定である。これに関連し、韓国では2015年7月29日に施行された改正法(現行韓国特許法)により、出願時に公知例外主張が欠落していても、補完手数料を納付した場合には、一定の期間(出願に対して補正することができる期間又は特許決定謄本の送達を受けた日から3カ月以内の期間)に公知例外主張をすることができるようになっている。

上記改正法は施行日である2015年7月29日より前に出願された特許出願には適用されないわけであるが、本事例において原告(出願人)は、上記改正法が施行される前に原出願が公知例外主張なしになされたとしても、分割出願が改正法の施行日後になされたのであれば、改正法の趣旨に照らして分割出願での公知例外が適用されるべきであると主張した。これに対し特許法院は、特許法の関連規定の趣旨および遡及適用時の法的安定性阻害のおそれなどを考慮し、原告(出願人)の主張を排斥した。

本件のような分割出願における公知例外主張の時期的要件が問題となるケースは、今後、数年間は生じ得ることから、その際の参考のため本事例を紹介した。なお本件は原告により上告が提起されているため、大法院の最終的判断を待つ必要がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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